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~ 第三章 反撃の狼煙 ~
捻じれまくった迷路の先で⑧
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凋落の一途をたどっていたジョリーにとって、快晴はまさに救済の神だったろう。そんな有り難い金の生る木を、勝負に負けたからと言ってそう簡単に手離すとは思えなかった。
紅林が怒りに任せて「クビだ」と言い放っただけで、本気で辞めさせるつもりなど微塵もないはずだ。
しかし言われた快晴の方はたまったものではない。誠心誠意の謝罪があったとしても、信頼関係も築けないこんな間柄では、この先続けていく選択肢などありえない。
どのような条件で契約を結んでいるのか解らないが、「今回の作品で幕を閉じる」とあえて公の場で宣言することで、紅林が話しをうやむやにしてしまうのを阻止しようとしたのではないか。
そんな風に思えてならなかった。
氷雨もその意図を察したようで、快晴からの視線を受けて肯定するようにうなずく。
『そうね。準備期間中は色々あったけど、今日は快晴とフェアに勝負が出来て良かったと思ってるわ。それに、クビの話はついさっきステージ裏で言われたばかりだし、みんなに知らせる間もなかったものね』
氷雨が暴露を重ねると、司会者はさらに驚いてみせた。
『えっ、先ほど? ステージ裏で? そんなことがあるんですか』
『ホント酷いわよねぇ。作り手を何だと思っているのかしら。僕だったらその場で契約破棄しちゃう。……というワケで、フローズンレインとクリアデイの対決は、残念ながら今日が最初で最後なの』
観客に向かって「最初で最後」を強調し、氷雨が微笑んだ。どうやら暗に、快晴にもう二度と巻き込むなと釘を刺しているようだ。
快晴は氷雨からの隠れたメッセージに気付きながらも、ふふふと軽やかに笑う。
『ありがとう氷雨、俺のこと心配してくれて。クリアデイはこれで幕を閉じるけど、氷雨とはまた一緒に何か出来たら良いなと思ってるよ。だからみんなも楽しみにしててね』
マイクに声は拾われなかったが、明らかに氷雨が「は?」と言う顔をした。
司会者はいい話を聞かせてもらったとばかりに、拍手をしながらうんうんと首肯する。
『お二人の友情は変わらないと言うことですね。素晴らしい! では勝者の氷雨さん、一言お願いします』
頭が痛そうにこめかみを押さえながら、氷雨が一歩前に出た。否定したいことは多々あるが、ひとまず気持ちを切り替えるように息を吸い、丁寧にお辞儀をする。
『フローズンレインに投票してくれて本当にありがとう。結果的に僕らは勝てたけど、クリアデイの服とモデルは凄く素敵だった』
氷雨はクリアデイを称えつつ、「紅林は駄目だけれど」と含みを持たせた言い方をした。
『ここに立たせてもらっていると、何だかまるで僕だけの手柄みたいで申し訳ないな。だってフローズンレインは僕一人のブランドじゃなくて、たくさんの人で支え合ってるから。だから、みんなで掴んだ勝利なんだよね』
そう言って氷雨は、少しだけ体の向きを変えて玲旺たちのいるバックステージを振り返った。ありがとうと感謝の気持ちを示すように目を細め、再び前を向く。
『少し前の僕なら、考えられない事の連続だった。人生って面白いわね。ホント何が起きるかわからない。今はただ、出会いと再会に感謝してる。対決を挑まれた時は正直ふざけんなと思ったけど、何だかんだで楽しかったわ』
モニター越しに氷雨を見守る湯月の頬が濡れていたが、玲旺は見ないふりをした。
紅林が怒りに任せて「クビだ」と言い放っただけで、本気で辞めさせるつもりなど微塵もないはずだ。
しかし言われた快晴の方はたまったものではない。誠心誠意の謝罪があったとしても、信頼関係も築けないこんな間柄では、この先続けていく選択肢などありえない。
どのような条件で契約を結んでいるのか解らないが、「今回の作品で幕を閉じる」とあえて公の場で宣言することで、紅林が話しをうやむやにしてしまうのを阻止しようとしたのではないか。
そんな風に思えてならなかった。
氷雨もその意図を察したようで、快晴からの視線を受けて肯定するようにうなずく。
『そうね。準備期間中は色々あったけど、今日は快晴とフェアに勝負が出来て良かったと思ってるわ。それに、クビの話はついさっきステージ裏で言われたばかりだし、みんなに知らせる間もなかったものね』
氷雨が暴露を重ねると、司会者はさらに驚いてみせた。
『えっ、先ほど? ステージ裏で? そんなことがあるんですか』
『ホント酷いわよねぇ。作り手を何だと思っているのかしら。僕だったらその場で契約破棄しちゃう。……というワケで、フローズンレインとクリアデイの対決は、残念ながら今日が最初で最後なの』
観客に向かって「最初で最後」を強調し、氷雨が微笑んだ。どうやら暗に、快晴にもう二度と巻き込むなと釘を刺しているようだ。
快晴は氷雨からの隠れたメッセージに気付きながらも、ふふふと軽やかに笑う。
『ありがとう氷雨、俺のこと心配してくれて。クリアデイはこれで幕を閉じるけど、氷雨とはまた一緒に何か出来たら良いなと思ってるよ。だからみんなも楽しみにしててね』
マイクに声は拾われなかったが、明らかに氷雨が「は?」と言う顔をした。
司会者はいい話を聞かせてもらったとばかりに、拍手をしながらうんうんと首肯する。
『お二人の友情は変わらないと言うことですね。素晴らしい! では勝者の氷雨さん、一言お願いします』
頭が痛そうにこめかみを押さえながら、氷雨が一歩前に出た。否定したいことは多々あるが、ひとまず気持ちを切り替えるように息を吸い、丁寧にお辞儀をする。
『フローズンレインに投票してくれて本当にありがとう。結果的に僕らは勝てたけど、クリアデイの服とモデルは凄く素敵だった』
氷雨はクリアデイを称えつつ、「紅林は駄目だけれど」と含みを持たせた言い方をした。
『ここに立たせてもらっていると、何だかまるで僕だけの手柄みたいで申し訳ないな。だってフローズンレインは僕一人のブランドじゃなくて、たくさんの人で支え合ってるから。だから、みんなで掴んだ勝利なんだよね』
そう言って氷雨は、少しだけ体の向きを変えて玲旺たちのいるバックステージを振り返った。ありがとうと感謝の気持ちを示すように目を細め、再び前を向く。
『少し前の僕なら、考えられない事の連続だった。人生って面白いわね。ホント何が起きるかわからない。今はただ、出会いと再会に感謝してる。対決を挑まれた時は正直ふざけんなと思ったけど、何だかんだで楽しかったわ』
モニター越しに氷雨を見守る湯月の頬が濡れていたが、玲旺は見ないふりをした。
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