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~ 第三章 反撃の狼煙 ~
捻じれまくった迷路の先で⑦
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玲旺は判決を待つような面持ちで、祈るように顔の前で指を組んだ。
もったいぶらずにさっさと結果を教えてくれと逸る気持ちと、このままずっと結果なんて知らせなくて良いという臆病な気持ちがせめぎ合う。
勝てば天国、負ければ地獄。
電光掲示板の数字を直視出来ず、しかし目を逸らすことも出来ず、玲旺は片目を瞑ってモニターを見つめる。
『3……2……1! ハイっ。ここで締め切らせていただきます!』
司会者が手のひらを前に突き出して、投票の終了を告げた。人々の視線がカウントの止まった電光掲示板に集中する。
【FROZEN RAIN】
302,065
【CLEAR DAY】
300,460
一瞬の静寂の後、敗北を悟る悲鳴と勝利の歓喜がぶつかり合い、会場内は爆発したような熱気と歓声に包まれた。
どっちの数が大きいんだっけと、玲旺は馬鹿みたいにただ掲示板を眺める。舞い上がり過ぎて、数字の羅列が頭に入ってこない。
「やった! 勝った!」
自分のすぐ後ろから喜びの声が上がり、ドンとぶつかるように背中に誰かが抱き付いた。
「やったよ、桐ケ谷さん。勝った!」
深影と黛が泣きじゃくりながら玲旺に縋り付く。呆然とする玲旺の頭を、隣にいた久我が髪がくしゃくしゃになるほど撫でた。
「勝ったの……?」
「ああ。俺たちの勝ちだ」
まだ実感のない玲旺に、久我が興奮を抑えながらうなずいた。その姿を見て、玲旺もじわじわと現実を理解する。
「よ……良かったぁぁ」
膝の力が抜けて、思わず玲旺はその場にしゃがみ込んだ。驚いた久我が手を差し伸べて玲旺を支える。
もしクリアデイに勝ったら、「ざまぁみろ」と言わんばかりに大喜びするようなイメージでいたが、実際は喜びより安堵の方が大きかったらしい。
父親からのプレッシャーやフォーチュンまで巻き込んでしまった負い目は、思っていた以上に自分に重く圧し掛かっていたようだ。
ステージの上では、舞台俳優がカーテンコールをするように、氷雨が胸に手を当てて端正なお辞儀をした。
絵になる所作だが、きっと内心は玲旺と同じように、その場に座り込みたいほどホッとしているに違いない。
快晴は残念そうにしているものの、どこか吹っ切れたような表情で氷雨に拍手を送っていた。
『ついに決着がつきました! 快晴さん、残念でしたがリベンジは考えていますか?』
敗北を喫して早々にマイクを向けられる。残酷な世界だと思いながらも、玲旺は快晴の答えに耳を傾けた。
快晴も緊張の糸が切れたのか、少し疲れたような笑みを浮かべている。
『今回が既にリベンジみたいなもんだったからなぁ。やっぱり俺は、ゼロからイチを生み出すよりも、イチ足すイチを百にする方が得意みたい。デザイナー業はすっぱり諦めて、これからはスタイリストとしての腕をもっと磨くことにするよ』
『えっ!? ではクリアデイはどうなちゃうんですか』
司会者の男性は、素で驚いたように一歩足を引いて上半身をのけ反らせた。
快晴はさも悲し気に眉を寄せ、「実は」と司会者と観客に訴える。
『ジョリーの御曹司に、この対決に負けたらクビだって言われちゃって。だから、今回の作品でクリアデイは幕を閉じます。みんな、今までありがとう。応援してくれて嬉しかった』
快晴が深々とお辞儀をすると、会場中がどよめいた。司会者が信じられないと言うように首を振る。
『そんな重大なことなら、先に知らせて下さいよ!』
『うーん。同情票を集めても仕方ないかなと思って。純粋に氷雨と戦いたかったから』
そう言って快晴は、殊勝な態度で寂しそうに氷雨を見た。
もったいぶらずにさっさと結果を教えてくれと逸る気持ちと、このままずっと結果なんて知らせなくて良いという臆病な気持ちがせめぎ合う。
勝てば天国、負ければ地獄。
電光掲示板の数字を直視出来ず、しかし目を逸らすことも出来ず、玲旺は片目を瞑ってモニターを見つめる。
『3……2……1! ハイっ。ここで締め切らせていただきます!』
司会者が手のひらを前に突き出して、投票の終了を告げた。人々の視線がカウントの止まった電光掲示板に集中する。
【FROZEN RAIN】
302,065
【CLEAR DAY】
300,460
一瞬の静寂の後、敗北を悟る悲鳴と勝利の歓喜がぶつかり合い、会場内は爆発したような熱気と歓声に包まれた。
どっちの数が大きいんだっけと、玲旺は馬鹿みたいにただ掲示板を眺める。舞い上がり過ぎて、数字の羅列が頭に入ってこない。
「やった! 勝った!」
自分のすぐ後ろから喜びの声が上がり、ドンとぶつかるように背中に誰かが抱き付いた。
「やったよ、桐ケ谷さん。勝った!」
深影と黛が泣きじゃくりながら玲旺に縋り付く。呆然とする玲旺の頭を、隣にいた久我が髪がくしゃくしゃになるほど撫でた。
「勝ったの……?」
「ああ。俺たちの勝ちだ」
まだ実感のない玲旺に、久我が興奮を抑えながらうなずいた。その姿を見て、玲旺もじわじわと現実を理解する。
「よ……良かったぁぁ」
膝の力が抜けて、思わず玲旺はその場にしゃがみ込んだ。驚いた久我が手を差し伸べて玲旺を支える。
もしクリアデイに勝ったら、「ざまぁみろ」と言わんばかりに大喜びするようなイメージでいたが、実際は喜びより安堵の方が大きかったらしい。
父親からのプレッシャーやフォーチュンまで巻き込んでしまった負い目は、思っていた以上に自分に重く圧し掛かっていたようだ。
ステージの上では、舞台俳優がカーテンコールをするように、氷雨が胸に手を当てて端正なお辞儀をした。
絵になる所作だが、きっと内心は玲旺と同じように、その場に座り込みたいほどホッとしているに違いない。
快晴は残念そうにしているものの、どこか吹っ切れたような表情で氷雨に拍手を送っていた。
『ついに決着がつきました! 快晴さん、残念でしたがリベンジは考えていますか?』
敗北を喫して早々にマイクを向けられる。残酷な世界だと思いながらも、玲旺は快晴の答えに耳を傾けた。
快晴も緊張の糸が切れたのか、少し疲れたような笑みを浮かべている。
『今回が既にリベンジみたいなもんだったからなぁ。やっぱり俺は、ゼロからイチを生み出すよりも、イチ足すイチを百にする方が得意みたい。デザイナー業はすっぱり諦めて、これからはスタイリストとしての腕をもっと磨くことにするよ』
『えっ!? ではクリアデイはどうなちゃうんですか』
司会者の男性は、素で驚いたように一歩足を引いて上半身をのけ反らせた。
快晴はさも悲し気に眉を寄せ、「実は」と司会者と観客に訴える。
『ジョリーの御曹司に、この対決に負けたらクビだって言われちゃって。だから、今回の作品でクリアデイは幕を閉じます。みんな、今までありがとう。応援してくれて嬉しかった』
快晴が深々とお辞儀をすると、会場中がどよめいた。司会者が信じられないと言うように首を振る。
『そんな重大なことなら、先に知らせて下さいよ!』
『うーん。同情票を集めても仕方ないかなと思って。純粋に氷雨と戦いたかったから』
そう言って快晴は、殊勝な態度で寂しそうに氷雨を見た。
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