255 / 302
~ 第三章 反撃の狼煙 ~
捻じれまくった迷路の先で③
しおりを挟む
突発的な音響トラブルに見舞われたものの、それを観客に悟られずに上手く対処した南野が、戦場のようなステージから帰還する。
戻って来て早々、彼女は開口一番「音は直った?」と氷雨に尋ねた。
「ちょっと時間がかかりそうだから、僕たちも無音で歩くよ。エンディングには、何とか間に合わせてもらう」
「そっか。ごめん。もう少し時間が稼げれば良かったんだけど」
「何言ってんの、充分だよ。咄嗟にあんな対応、姐さんじゃなきゃ無理だった。ありがとう」
かしこまったように礼を述べる氷雨に、南野は笑みを返して励ますように肩を叩いた。それから感慨深そうに、氷雨たち三人を順に見る。
「なんだか懐かしいな。あの頃を思い出す。やっと三人揃ったんだね」
その言葉に、快晴も湯月も一瞬だけ視線を足元に落とした。何かしら理由があったにせよ、氷雨を一人残していなくなったことに、申し訳なさと後ろめたさを感じているのかもしれない。
小さく微笑んだ氷雨は、「まぁね」とうなずいた。
「昔、永遠が言ったんだ。『いつか大人になった時、ねじれまくった迷路を進んだ先で、また三人で会えたら良いね』って。あの時は、大人になってもまだ迷路の途中にいるなんて思わなかったな」
追憶に浸るように呟いた後、氷雨がすーっと息を吸い込む。
「さぁ、行こう」
その一言とともに強い風が吹き抜けたような気がした。
同じタイミングで、舞台袖からランウェイへ向かう氷雨たちの背中に「Break a leg!」と声が掛けられる。
声の主は黛で、余程勇気を出して言葉を発したのか、これからステージに上がる氷雨たちより何倍も緊張した面持ちだった。黛の隣にいた宮原も、感極まったように同じ言葉を口にする。
自分よりも遥か先を行く先輩には、必要のない激励かもしれない。それをわかっていながらも、その言葉を贈らずにはいられなかったのだろう。
ほんの僅かでも力になりたいと願う、祈りにも似た後輩たちの声援は、氷雨にどのように届いたのか。
ステージに出る直前、氷雨の唇が「Thanks」と動いたのを玲旺は見逃さなかった。
華やかなでありながらもBGMが鳴らない会場は、酷く奇妙でどこか現実離れしていた。それが一種異様な高揚感を誘い、静けさに反して人々の期待と熱気が高まっていく。
大御所の南野が既に登場したことで、今回のイベントで残すは氷雨と快晴だと観客たちも予想がついているのだろう。
照明が一段暗くなると、いよいよかとステージに視線が集中する。
暗転の後にスポットライトの光の筋が差し、ステージに立つ三人の姿を浮かび上がらせた。
氷雨と快晴、しかしもう一人は一体誰だと観客たちが目を凝らし、それが永遠だと気づいた瞬間、会場が揺れるほどの歓声に包まれる。
まるでその悲鳴が合図だったかのように、三人が同時に足を踏み出し歩き始めた。
暗い会場内で、スポットライトが氷雨たちを追うように照らす。
横並びで一糸乱れぬ三人のウオーキングは圧巻だった。音楽がないことによって厳かな雰囲気が増し、何かの儀式かのような神聖さがある。
初めは黄色い声援で埋め尽くされていた場内から、次第に波が引くように歓声が消えていった。
誰もが食い入るようにステージを見つめ、あまりの迫力と美しさに恐れ慄き、声を出すどころか呼吸さえひそめてしまう。
まっすぐ前を向く氷雨の瞳には、どんな景色が映っているのだろう。
ランウェイの先端で立ち止まった三人を見ながら、玲旺は込み上げるものを感じていた。
戻って来て早々、彼女は開口一番「音は直った?」と氷雨に尋ねた。
「ちょっと時間がかかりそうだから、僕たちも無音で歩くよ。エンディングには、何とか間に合わせてもらう」
「そっか。ごめん。もう少し時間が稼げれば良かったんだけど」
「何言ってんの、充分だよ。咄嗟にあんな対応、姐さんじゃなきゃ無理だった。ありがとう」
かしこまったように礼を述べる氷雨に、南野は笑みを返して励ますように肩を叩いた。それから感慨深そうに、氷雨たち三人を順に見る。
「なんだか懐かしいな。あの頃を思い出す。やっと三人揃ったんだね」
その言葉に、快晴も湯月も一瞬だけ視線を足元に落とした。何かしら理由があったにせよ、氷雨を一人残していなくなったことに、申し訳なさと後ろめたさを感じているのかもしれない。
小さく微笑んだ氷雨は、「まぁね」とうなずいた。
「昔、永遠が言ったんだ。『いつか大人になった時、ねじれまくった迷路を進んだ先で、また三人で会えたら良いね』って。あの時は、大人になってもまだ迷路の途中にいるなんて思わなかったな」
追憶に浸るように呟いた後、氷雨がすーっと息を吸い込む。
「さぁ、行こう」
その一言とともに強い風が吹き抜けたような気がした。
同じタイミングで、舞台袖からランウェイへ向かう氷雨たちの背中に「Break a leg!」と声が掛けられる。
声の主は黛で、余程勇気を出して言葉を発したのか、これからステージに上がる氷雨たちより何倍も緊張した面持ちだった。黛の隣にいた宮原も、感極まったように同じ言葉を口にする。
自分よりも遥か先を行く先輩には、必要のない激励かもしれない。それをわかっていながらも、その言葉を贈らずにはいられなかったのだろう。
ほんの僅かでも力になりたいと願う、祈りにも似た後輩たちの声援は、氷雨にどのように届いたのか。
ステージに出る直前、氷雨の唇が「Thanks」と動いたのを玲旺は見逃さなかった。
華やかなでありながらもBGMが鳴らない会場は、酷く奇妙でどこか現実離れしていた。それが一種異様な高揚感を誘い、静けさに反して人々の期待と熱気が高まっていく。
大御所の南野が既に登場したことで、今回のイベントで残すは氷雨と快晴だと観客たちも予想がついているのだろう。
照明が一段暗くなると、いよいよかとステージに視線が集中する。
暗転の後にスポットライトの光の筋が差し、ステージに立つ三人の姿を浮かび上がらせた。
氷雨と快晴、しかしもう一人は一体誰だと観客たちが目を凝らし、それが永遠だと気づいた瞬間、会場が揺れるほどの歓声に包まれる。
まるでその悲鳴が合図だったかのように、三人が同時に足を踏み出し歩き始めた。
暗い会場内で、スポットライトが氷雨たちを追うように照らす。
横並びで一糸乱れぬ三人のウオーキングは圧巻だった。音楽がないことによって厳かな雰囲気が増し、何かの儀式かのような神聖さがある。
初めは黄色い声援で埋め尽くされていた場内から、次第に波が引くように歓声が消えていった。
誰もが食い入るようにステージを見つめ、あまりの迫力と美しさに恐れ慄き、声を出すどころか呼吸さえひそめてしまう。
まっすぐ前を向く氷雨の瞳には、どんな景色が映っているのだろう。
ランウェイの先端で立ち止まった三人を見ながら、玲旺は込み上げるものを感じていた。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
『田中のおじさま♡』~今夜も愛しのおじさまと濃厚ラブえっち♡♡♡
そらも
BL
過去にとある出逢いを経て知り合った『本名さえもちゃんとわかってない』自分よりも三十二歳も年上のバツイチ絶倫変態スケベおじさまとの濃厚セックスに毎夜明け暮れている、自称平凡普通大学生くんの夜のお話♡
おじさまは大学生くんにぞっこんラブだし、大学生くんもハジメテを捧げたおじさまが大大大っだ~いすきでとってもラブラブな二人でございますぞ♪
久しぶりの年上×年下の歳の差モノ♡ 全体的に変態ちっくですのでどうぞご注意を!
※ R-18エロもので、♡(ハート)喘ぎ満載です。
※ 素敵な表紙は、pixiv小説用フリー素材にて、『やまなし』様からお借りしました。ありがとうございます!
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~
焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。
美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。
スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。
これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語…
※DLsite様でCG集販売の予定あり
専業種夫
カタナカナタ
BL
精力旺盛な彼氏の性処理を完璧にこなす「専業種夫」。彼の徹底された性行為のおかげで、彼氏は外ではハイクラスに働き、帰宅するとまた彼を激しく犯す。そんなゲイカップルの日々のルーティーンを描く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる