されど御曹司は愛を誓う

雪華

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~ 第三章 反撃の狼煙 ~

練習は本番のように。本番は練習のように。⑦

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 舞台上ではショーの合間の演目として、チケットが入手困難で有名な、人気男性アーティストのミニライブが行われていた。
 氷雨と快晴どちらとも親交があるらしく、二人の応援として自らイベントの出演を申し出てくれたらしい。
 そうでなければ、とても幕間の余興のためだけに呼べる人物ではなかった。
 世間を席巻している人気曲を歌いあげると、颯爽と舞台から去っていく。彼のステージが終れば、もう後はファイナルまでノンストップだ。

 中間の投票結果は、予想通りクリアデイが優勢。
 クリアデイ側のモデルたちはアイドルや俳優、スチールモデルがほとんどで、舞台で映えるウオーキングではない。それでもやはり売れっ子たちは、自分の見せ方をよく解っていた。ランウェイで自身の魅力を最大限に発揮し、票をもぎ取っていく。

 しかしフローズンレインもかなり健闘していると言えた。
 世間の予想では、この段階で既に挽回できないくらい引き離され、大敗を喫すると思われていたが、実際にはまだ逆転も充分に狙える得点差だ。
 何しろ終盤には、悪魔的な魅力の氷雨をはじめ、久しぶりのステージ復帰が注目されている南野と、カリスマモデルの永遠のサプライズ登場が控えている。あとは黛と深影がどこまで実力を出し切れるかにかかっていた。

 黛たちの出番が刻々と近づいてくる。

 祈るような気持で「どうか無事に終わりますように」と舞台を見守っている最中、小さなアクシデントが起きた。
 それは本当に些細なことで、何度かショーに出演していれば、一度は目にするようなミスなのかもしれない。

 クリアデイの女性モデルがランウェイの先端でポージングを決めた際、うっかり自分の頭にティアラが乗っていることを忘れ、髪をかき上げてしまったのだ。
 指先に固い感触があったのだろう。「しまった」と言う顔をしたが、もう遅い。髪飾りを固定していたピンが緩み、髪はぐしゃっと乱れ、ティアラが不格好に垂れ下がる。
 頭が真っ白になってしまったであろう彼女は、気の毒なほど引きつった笑顔でその場に立ち尽くした。

 もしも彼女がショーの始まる前に、氷雨の「不具合なんて何とでもなる」と言うアドバイスを聞けていたら。
 きっと、見るも無残にズレたティアラは思い切って取り外し、手櫛で髪を整えて元気よく再び歩き出せただろうに。

 今にも泣き出しそうな彼女は懸命に笑顔を保ち、何とか踵を返してバックステージに戻って来た。ぶらぶらと宙吊りになったティアラが痛々しい。
 本当にショーにはトラブルが付き物なんだなと噛みしめながら、玲旺が彼女を目で追っていた時だった。

「オマエ、何やってんだよ!」

 突然の怒声に玲旺は目を見開く。
 舞台で醜態を晒しただでさえ消え入りそうになっている彼女に、紅林が容赦なく怒りを爆発させ、近くにあったパイプ椅子を蹴り飛ばした。

「あんなみっともない格好で歩きやがって、これで票が減ったらどうしてくれんだよ。負けたらオマエのせいだからな」

 どれだけ言っても気がすまないのか、ネチネチ責め続ける紅林に耐えきれず、とうとう彼女は両手で顔を覆って泣き出してしまった。
 そんな様子に「失敗はしたけど、立派に歩き切ったじゃないか」と腹を立てた玲旺は、何か言ってやろうと一歩足を踏み出す。
 しかし氷雨が腕を伸ばし、行く道を塞いで止めた。

「気持ちはわかるけど、キミが行ったら余計にこじれるよ」
「でも、あれじゃあんまりだろ」

 他のモデルたちも、庇いたくても自分たちに火の粉が飛んで事態が悪化することを恐れ、ただ見守るしか出来ないようだった。
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