されど御曹司は愛を誓う

雪華

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~ 第三章 反撃の狼煙 ~

練習は本番のように。本番は練習のように。⑥

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 今が旬の超人気若手女優と相対しても、クオリティの高いパフォーマンスでインパクト勝負に競り勝った宮原。
 彼がトップバッターの大役を果たしてくれたおかげで、今のところ生徒たちも委縮することなくランウェイを歩くことが出来ている。

『桜華生、みんな堂々としてて初舞台とは思えないね。知らない子ばっかりだけど、モデルの卵なのかな。人気出そうな子が多い』

『フローズンレインは統一感あるよね。でも、推しが出てるからクリアデイに五票全部入れちゃうけど』

『クリアデイはあんま服の印象残らないな。欲しいと思うのはフローズンレインの服ばっか』

『クリアデイは出演者豪華なんだよなぁ。フローズンレインの目玉って、氷雨と南野だけなの?』

 ショーの完成度ではこちらに軍配が上がっているものの、やはり生徒たちの知名度の低さは投票という条件において不利だった。
 シリウス所属のモデルや氷雨と南野で手堅く票を取り、サプライズ登場する湯月でどこまで追い上げられるだろうか。
 そうなると、勝敗を分けるのは黛と深影のコンビかもしれない。彼らが二人揃って歩けば、宮原のインパクトすら上回る。

 玲旺は、起死回生の鍵を握る黛の様子をこっそり窺った。練習では再び歩けるようになっていたが、本番でどうなるかわからない。
 敢えて態度や口には出さないが、誰しもが黛のコンディションをおもんばかっていた。
 そしておそらく、誰よりも黛本人が全力を出し切りたいと願っているだろう。彼は食い入るように舞台裏モニターを見つめ、集中しながら何とか心を落ち着かせようとしていた。

 異なるブランドが交互に新作を発表する、異色のショーは順調に進行していく。
 SNSのトレンドワードはフローズンレインやクリアデイ、出演者の名前などショー関連の単語が占め、注目度の高さがうかがえた。
 ショーの様子をパソコン画面で確認しながら唸る玲旺の横で、氷雨も同じように真剣に見入っている。

「ネガティブなコメントもあるよ。今は見ない方がいいんじゃないの」
「前に言ったでしょ、僕はタフだって。こんなことぐらいで影響されないわよ。それより、やっぱり視聴者を素人だって侮っちゃダメね。結構核心を突いたコメント多いじゃない」

 画面の右横に流れるコメントを見ながら氷雨がニヤッと笑う。

「桜華生を正当に評価してるし、クリアデイ側の技術不足も見抜いてる。でも、技術を補う魅力もちゃんと感じてるから、クリアデイに票を入れちゃうのねぇ。なんだかリアルな反応で面白いわ」
「だけど、票の移動はラストまで可能だからね。今日の氷雨さんは最強だから、永遠さんと一緒にクリアデイに流れた票を奪い返してよ」
「今日最強でしょ。票を奪い返すつもりだけどさ、服の好みもあるから、こればっかりは読めないよね」

 氷雨と快晴は趣向が似ている部分も多いが、発表した服のテイストは真逆だった。

 ハロウィンを意識したフローズンレインの新作は、氷雨の真骨頂と言っても過言ではない。そもそもフローズンレインのブランドコンセプトは『日常に少しの毒を』だ。

 齧りかけの林檎のような、髑髏の空洞のような、調律の狂ったピアノのような、割れた砂時計のような。
 不安定で不完全な美から目が離せなくなる。
 黒や紫、赤を基調としたモード系の服は、ピリッと痺れる甘い刺激を惜しげもなく捧げてくれた。

 対するクリアデイのブランドコンセプトは、『ひっくり返したおもちゃ箱』
 新作はどれも今年らしいチェック柄を使用し、可愛らしくてポップなデザインだった。刺激とは程遠く攻撃性は皆無で、秋ならではのレジャーやインテリジェンスなイベントに出かけるのにピッタリな、元気の出る色合いが目にも楽しい。

 似て非なる二人の対比が鮮明となる。
 まるで毒と薬だが、それも表裏一体だ。
 毒は薬になることもあるし、薬は毒になることもあるだろう。
 玲旺は二匹の蛇が輪になって、互いの尻尾を食む姿を連想する。
 
 氷雨と快晴が、ウロボロスのように思えて仕方なかった。
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