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~ 第三章 反撃の狼煙 ~
肉を切らせて骨を断つ⑫
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湯月は氷雨に目も心も奪われ、恍惚とした表情を浮かべる。
「氷雨くんは何を着ても似合うけど、今までで一番カッコいいかもしれない」
氷雨はいつもの髪型とは違い、腰にまで届く長い白髪を左側だけ編み込みにしていた。
フリルの立衿ブラウスにクラシカルなピンストライプのケープを羽織り、中には同素材のベストを合わせている。首元の黒いベロア生地のリボンは、西洋の貴族を連想させた。
ケープとベストにあしらわれた艶消しの銀ボタンが、上品な黒い生地によく映える。片側にフラップが付いたアンシンメトリーのワイドパンツとエナメルの編み上げブーツも良く似合っていた。
氷雨が黒を基調としたコーディネートに対し、湯月はボルドーカラーの色違いの衣装を身にまとっている。首元のリボンは深紅で、ミルクティー色の長髪を一つに束ね肩に流し、編み込みは右側に施されている。
全てが氷雨と対になっていた。
「やっぱり僕の思った通りだ。永遠の透明感は少しも衰えてない。それどころか色気が増して、悪魔的な魅力も身に付けたのね。永遠の目に吸い込まれそう」
思い描いた以上の仕上がりに、氷雨は興奮気味に湯月の頬を両手で包む。
傍から見ていると、二人は魔法がかかった高級な球体関節人形のようだった。
氷雨は湯月を「悪魔的な魅力」と表現したが、氷雨自身も恐ろしい程人間離れした魔性を放っている。氷雨と湯月が並んでランウェイを歩く姿を想像したら、ゾクゾクと身震いしてしまった。
そんな二人の姿に見惚れていた玲旺の耳に、少しの雑音と共にインカムを通じて連絡が入る。同じく知らせを受けた久我は、すぐさま「了解」と返答した。
「そろそろ時間だな。控室で待機していたモデルたちは、もうステージ裏へ向かったそうだ。二人とも準備はいいか?」
インカムを付けていない氷雨たちに久我が情報を伝えると、二人は同時に頷いた。
「うん。いいよ、僕らも行こう」
先ほどまで逃げ出したいと言っていた人物とはまるで別人のように、氷雨が力強くメイクルームの扉を開け、一歩踏み出す。
いよいよ始まるのかと思うと、身が引き締まった。
静かだった廊下は、ステージに近づくにつれ人の気配と熱気が増していく。観客たちの入場も順調に進んでいるようで、客席がある方向からは嵐のようなうねりを感じた。
「玲旺様」
ステージ裏に続く通路を歩く玲旺に、藤井が駆け寄り隣に並ぶ。
「来賓席に桐ケ谷社長がお見えですが、ご挨拶なさいますか」
「いや、今は手が離せないから後にするよ。他の招待客の対応も藤井に任せていいかな」
「ええ、もちろんです。では、私は戻りますが……」
そこで言葉を区切った藤井は、氷雨と湯月に畏敬の念を込めた視線を向けた。
「ご健闘をお祈り申し上げます」
「藤井クンらしい激励の言葉ね。ありがとう。蹴散らしてくるわ」
氷雨が風格のある悠然とした笑みを浮かべ、肩にかかる長い髪を払った。藤井はその場で足を止め、ステージ裏へ向かう玲旺たちに深々と頭を下げて見送る。
そのまま歩みを進め、舞台裏に氷雨と湯月が並んで姿を現した瞬間、スタッフやモデルたちからどよめきが起きた。
「ねぇ、氷雨さんの隣にいるのって、もしかして……」
「えっ、まさかあれって永遠? 復帰したんだ」
あちこちから聞こえてくる囁き声にも動じることなく、氷雨と湯月は真っ直ぐにフローズンレイン陣営と向かう。南野が目を細めながら、出迎えるように手を叩いた。
「うちの最終秘密兵器のお出ましね。あんた達、二人並んだ時の無敵感はスゴイわ」
桜華高の生徒や氷雨の後輩たちも、大将の登場に目を輝かせる。
ガーネットのような深い赤色の唇に微笑を浮かべ、氷雨は「まぁね」と余裕を漂わせた。それだけで、味方に与える安心感は絶大だ。
それを苦々しく睨む双眸に気付いて、玲旺はそっとクリアデイ陣営の様子を伺う。
玲旺の視線の先には、悔しさを隠そうともせずに歯噛みする快晴の姿があった。
「氷雨くんは何を着ても似合うけど、今までで一番カッコいいかもしれない」
氷雨はいつもの髪型とは違い、腰にまで届く長い白髪を左側だけ編み込みにしていた。
フリルの立衿ブラウスにクラシカルなピンストライプのケープを羽織り、中には同素材のベストを合わせている。首元の黒いベロア生地のリボンは、西洋の貴族を連想させた。
ケープとベストにあしらわれた艶消しの銀ボタンが、上品な黒い生地によく映える。片側にフラップが付いたアンシンメトリーのワイドパンツとエナメルの編み上げブーツも良く似合っていた。
氷雨が黒を基調としたコーディネートに対し、湯月はボルドーカラーの色違いの衣装を身にまとっている。首元のリボンは深紅で、ミルクティー色の長髪を一つに束ね肩に流し、編み込みは右側に施されている。
全てが氷雨と対になっていた。
「やっぱり僕の思った通りだ。永遠の透明感は少しも衰えてない。それどころか色気が増して、悪魔的な魅力も身に付けたのね。永遠の目に吸い込まれそう」
思い描いた以上の仕上がりに、氷雨は興奮気味に湯月の頬を両手で包む。
傍から見ていると、二人は魔法がかかった高級な球体関節人形のようだった。
氷雨は湯月を「悪魔的な魅力」と表現したが、氷雨自身も恐ろしい程人間離れした魔性を放っている。氷雨と湯月が並んでランウェイを歩く姿を想像したら、ゾクゾクと身震いしてしまった。
そんな二人の姿に見惚れていた玲旺の耳に、少しの雑音と共にインカムを通じて連絡が入る。同じく知らせを受けた久我は、すぐさま「了解」と返答した。
「そろそろ時間だな。控室で待機していたモデルたちは、もうステージ裏へ向かったそうだ。二人とも準備はいいか?」
インカムを付けていない氷雨たちに久我が情報を伝えると、二人は同時に頷いた。
「うん。いいよ、僕らも行こう」
先ほどまで逃げ出したいと言っていた人物とはまるで別人のように、氷雨が力強くメイクルームの扉を開け、一歩踏み出す。
いよいよ始まるのかと思うと、身が引き締まった。
静かだった廊下は、ステージに近づくにつれ人の気配と熱気が増していく。観客たちの入場も順調に進んでいるようで、客席がある方向からは嵐のようなうねりを感じた。
「玲旺様」
ステージ裏に続く通路を歩く玲旺に、藤井が駆け寄り隣に並ぶ。
「来賓席に桐ケ谷社長がお見えですが、ご挨拶なさいますか」
「いや、今は手が離せないから後にするよ。他の招待客の対応も藤井に任せていいかな」
「ええ、もちろんです。では、私は戻りますが……」
そこで言葉を区切った藤井は、氷雨と湯月に畏敬の念を込めた視線を向けた。
「ご健闘をお祈り申し上げます」
「藤井クンらしい激励の言葉ね。ありがとう。蹴散らしてくるわ」
氷雨が風格のある悠然とした笑みを浮かべ、肩にかかる長い髪を払った。藤井はその場で足を止め、ステージ裏へ向かう玲旺たちに深々と頭を下げて見送る。
そのまま歩みを進め、舞台裏に氷雨と湯月が並んで姿を現した瞬間、スタッフやモデルたちからどよめきが起きた。
「ねぇ、氷雨さんの隣にいるのって、もしかして……」
「えっ、まさかあれって永遠? 復帰したんだ」
あちこちから聞こえてくる囁き声にも動じることなく、氷雨と湯月は真っ直ぐにフローズンレイン陣営と向かう。南野が目を細めながら、出迎えるように手を叩いた。
「うちの最終秘密兵器のお出ましね。あんた達、二人並んだ時の無敵感はスゴイわ」
桜華高の生徒や氷雨の後輩たちも、大将の登場に目を輝かせる。
ガーネットのような深い赤色の唇に微笑を浮かべ、氷雨は「まぁね」と余裕を漂わせた。それだけで、味方に与える安心感は絶大だ。
それを苦々しく睨む双眸に気付いて、玲旺はそっとクリアデイ陣営の様子を伺う。
玲旺の視線の先には、悔しさを隠そうともせずに歯噛みする快晴の姿があった。
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