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~ 第三章 反撃の狼煙 ~
肉を切らせて骨を断つ⑤
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ステージ裏はバタバタとスタッフが慌ただしく動き回り、フローズンレインとクリアデイのモデルたちは、パーテーションで隔たれている状態だった。
しかし隔たれていると言っても壁がキッチリ並んでいるわけではなく、境界線を示す程度に間隔を空けて設置されているだけだ。
ランウェイの入り口を間違えないための導線であって、目隠しが目的ではないので互いの様子は隙間から丸見えだった。
クリアデイ陣営がいなければ、パーテーション同士をピッタリくっつけて隙間を埋めたいところだが、もう既にあちら側もモデルたちが集まり始めている。今から動かすのは、さすがに感じが悪いだろう。
仕方ないかと思いながら玲旺が生徒たちに近づこうとした時、パーテーションの向こう側から若い女性の声がした。
「ねぇ見て。高校生たち、素人が精一杯背伸びしてるみたいで可愛いよねー。きっと緊張して足ガクガクなんだろうねぇ」
「そうだよねぇ、こんな大きなステージ初めてだろうし、可哀相だよねぇ。頑張れーって感じ」
言葉の意味だけならば友好的にも思えるが、クスクス嘲笑する声と、どこか小馬鹿にしたようなトーンは、明らかにこちらを見下していた。
玲旺は声がした方へ歩みを進め、パーテーションの間から声の主に遠慮なく視線を向ける。
そこそこ名の知れたアイドルグループの女性二人が意地の悪い顔で生徒たちを見ていたが、玲旺に気付くと、「ヤバ」と言って目を逸らした。ここ最近、ネットや雑誌などで露出が増えたので、顔を見ただけで玲旺が誰だか解ったのかもしれない。
フォーチュン程の大企業ならば、いつ自分が受ける仕事のスポンサーになるかわからない。社長の鶴の一声で「あの子はうちのイメージに合わない」と言えば、余程人気と実力が無い限りは降板させられることもありえる。そのどちらも持ち合わせていなさそうな彼女らは、社長令息である玲旺を敵に回してまで生徒らにマウントを取るつもりはないようだった。
自分より弱そうな相手には優位性をアピールするために悪意のある言葉を投げ、敵わない相手と判断すれば、不利にならないよう逃げるか媚びる。
生き残る術なのかもしれないが、実際にそんな場面に遭遇すると気分がいいものではなかった。
そっちがその気なら、こちらも目だけで威圧してやろうか。そう思った矢先、グンと勢いよく袖を引かれる。
掴まれた腕の先を見ると、赤味を帯びた茶髪をゆるく三つ編みにした女の子がフルフルと首を振っていた。
「駄目ですよ、睨んじゃ。『肉を切らせて骨を断つ』でしょ? 格下認定されたって事は、作戦は成功ってことです」
隣の陣営に聞こえない程度の小声で諭され、玲旺は「そっか」と舌を出す。
「三橋さんゴメン、つい熱くなっちゃった。そうだよね、作戦は成功だね」
玲旺は三橋の隣で少し膝を曲げて背の高さを合わせ、声を潜めた。
「みなさん準備はいいですか? それではリハを始めます!」
スタッフが声を張り上げ宣言したので、生徒らは一斉にピシッと背筋を伸ばす。
「行ってきます」
三橋がきゅっと口を結んで、顔の高さに上げた手のひらを玲旺に向けた。玲旺は「いってらっしゃい」だとか「頑張って」だとか、色々な思いを込めてその手とハイタッチする。
そうすると、俺も私もと、周りから次々に手が伸びてきた。玲旺は自分の気を注ぐように、片っ端から生徒らと手を叩き合う。その中には黛の姿もあって、玲旺は励ますように殊更強くその手を打った。
玲旺に向かってガッツポーズをした宮原が、キリッとした表情をランウェイに向け、眩いスポットライトの下に消えていった。
しかし隔たれていると言っても壁がキッチリ並んでいるわけではなく、境界線を示す程度に間隔を空けて設置されているだけだ。
ランウェイの入り口を間違えないための導線であって、目隠しが目的ではないので互いの様子は隙間から丸見えだった。
クリアデイ陣営がいなければ、パーテーション同士をピッタリくっつけて隙間を埋めたいところだが、もう既にあちら側もモデルたちが集まり始めている。今から動かすのは、さすがに感じが悪いだろう。
仕方ないかと思いながら玲旺が生徒たちに近づこうとした時、パーテーションの向こう側から若い女性の声がした。
「ねぇ見て。高校生たち、素人が精一杯背伸びしてるみたいで可愛いよねー。きっと緊張して足ガクガクなんだろうねぇ」
「そうだよねぇ、こんな大きなステージ初めてだろうし、可哀相だよねぇ。頑張れーって感じ」
言葉の意味だけならば友好的にも思えるが、クスクス嘲笑する声と、どこか小馬鹿にしたようなトーンは、明らかにこちらを見下していた。
玲旺は声がした方へ歩みを進め、パーテーションの間から声の主に遠慮なく視線を向ける。
そこそこ名の知れたアイドルグループの女性二人が意地の悪い顔で生徒たちを見ていたが、玲旺に気付くと、「ヤバ」と言って目を逸らした。ここ最近、ネットや雑誌などで露出が増えたので、顔を見ただけで玲旺が誰だか解ったのかもしれない。
フォーチュン程の大企業ならば、いつ自分が受ける仕事のスポンサーになるかわからない。社長の鶴の一声で「あの子はうちのイメージに合わない」と言えば、余程人気と実力が無い限りは降板させられることもありえる。そのどちらも持ち合わせていなさそうな彼女らは、社長令息である玲旺を敵に回してまで生徒らにマウントを取るつもりはないようだった。
自分より弱そうな相手には優位性をアピールするために悪意のある言葉を投げ、敵わない相手と判断すれば、不利にならないよう逃げるか媚びる。
生き残る術なのかもしれないが、実際にそんな場面に遭遇すると気分がいいものではなかった。
そっちがその気なら、こちらも目だけで威圧してやろうか。そう思った矢先、グンと勢いよく袖を引かれる。
掴まれた腕の先を見ると、赤味を帯びた茶髪をゆるく三つ編みにした女の子がフルフルと首を振っていた。
「駄目ですよ、睨んじゃ。『肉を切らせて骨を断つ』でしょ? 格下認定されたって事は、作戦は成功ってことです」
隣の陣営に聞こえない程度の小声で諭され、玲旺は「そっか」と舌を出す。
「三橋さんゴメン、つい熱くなっちゃった。そうだよね、作戦は成功だね」
玲旺は三橋の隣で少し膝を曲げて背の高さを合わせ、声を潜めた。
「みなさん準備はいいですか? それではリハを始めます!」
スタッフが声を張り上げ宣言したので、生徒らは一斉にピシッと背筋を伸ばす。
「行ってきます」
三橋がきゅっと口を結んで、顔の高さに上げた手のひらを玲旺に向けた。玲旺は「いってらっしゃい」だとか「頑張って」だとか、色々な思いを込めてその手とハイタッチする。
そうすると、俺も私もと、周りから次々に手が伸びてきた。玲旺は自分の気を注ぐように、片っ端から生徒らと手を叩き合う。その中には黛の姿もあって、玲旺は励ますように殊更強くその手を打った。
玲旺に向かってガッツポーズをした宮原が、キリッとした表情をランウェイに向け、眩いスポットライトの下に消えていった。
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