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~ 第三章 反撃の狼煙 ~
船頭多くして船山に上る⑤
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「私の素性を知ってるメイクさんって聞いてたから、ブレイバーの初期メンバーだろうとは予想してたけど。まさか真由ちゃんだったとは思わなかったな。氷雨くんも『会ってからのお楽しみ』なんて内緒にしてないで、教えてくれればいいのに」
湯月が自分の頬を押さえ、興奮気味にまくしたてる。それからふと玲旺に視線を向け、しまったと言わんばかりに「あっ」と声を上げた。
「すみません、ほったらかしにしちゃって。こちら、大友真由さん。ファッション業界の第一線で活躍しているメイクアップアーティストです。私や氷雨くんは、デビュー当時からお世話になってるんですよ。ローマ字表記でMAYUって言った方が、もしかしたら解るかな」
「ああ! 存じております。雑誌を見ていて素敵だなって思うスタイリングは、大体MAYUさんのお名前が表記されていますから。フローズンレインの桐ケ谷です。今回のイベントにご協力くださり、ありがとうございます」
握手を求め、玲旺がにこやかに右手を差し出す。真由は桐ケ谷と言う苗字を聞き、目を丸くした。
「えっ、桐ケ谷さんって、あの桐ケ谷さんですか? と言うことは、フォーチュンの後継者? あらやだ、華やかなオーラがあるから、てっきりモデルさんだと思ってました。ご挨拶が遅れてごめんなさい、大友と申します。今日はよろしくお願いしますね」
あの、と言われるほど凄いものではないんだけどな、と玲旺は恐縮したように苦笑いした。
「後継者と言ってもまだまだ修行中の身でして。今日はしっかり見学して勉強しようかと」
「そんな謙遜しないでください。スタッフの動きを見れば、トップの器は何となく計れるものですよ。ここのチームはスタッフが優秀なのはもちろん、雰囲気がとても良いですね。一丸となっているのが伝わってきます。それがきっと、桐ケ谷さんのカラーなのでしょうね」
自分を褒められるよりも、チームとして評価されたことが心底嬉しかった。
どうせ何をやったって無駄で、誰にも認めて貰えないと不貞腐れていた、昔の自分に教えてやりたい。
「そう言って頂けると……。ありがとうございます」
胸がいっぱいになって、少し言葉に詰まってしまう。しんみりした空気にならないように、玲旺は笑顔を保ちつつ湯月に目を向ける。
「湯月さんは本番にサプライズで登場するので、リハーサルには参加しないんですよね。メイクは当初の予定通りの時間から始めますか」
玲旺の問いかけに、湯月は表情を引き締めた。
「そうですね。リハーサル中は記者として取材したいので、メイクはリハが終ってからこっそりと。イベントの後半には舞台袖で待機していますから、何かあったらすぐ対応します」
「了解です。まだリハーサルまで少し時間がありますけど、どうします?」
湯月はカメラを軽く持ち上げ、真由をチラリと見る。
「せっかくなので、真由ちゃんに独占取材させてもらおうかなって。真由ちゃん、いい? 謝礼はちゃんとお支払いするから」
「もちろんいいわよ。それにしても、雑誌の編集になるって夢を本当に叶えたのね。凄いわ」
まるで母親のような慈愛に満ちた表情で、真由が湯月の肩にそっと触れた。湯月も誇らしそうに胸を張る。
「では、私は別の所に顔を出してきますね。また後ほどよろしくお願いします」
微笑ましい気持ちで、玲旺はそっと控室の扉を閉めた。さて次は何処へ行こう。高校生たちを励ました方が良いのかな。そんな事を考えながら廊下を歩いていたら、胸ポケットでスマートフォンが震えた。
「あれっ、久我さん。インカムじゃなくて電話? 何かあったの」
『いや、リハが始まる前に少し休憩を取ろうと思って。今、どこにいる?』
湯月が自分の頬を押さえ、興奮気味にまくしたてる。それからふと玲旺に視線を向け、しまったと言わんばかりに「あっ」と声を上げた。
「すみません、ほったらかしにしちゃって。こちら、大友真由さん。ファッション業界の第一線で活躍しているメイクアップアーティストです。私や氷雨くんは、デビュー当時からお世話になってるんですよ。ローマ字表記でMAYUって言った方が、もしかしたら解るかな」
「ああ! 存じております。雑誌を見ていて素敵だなって思うスタイリングは、大体MAYUさんのお名前が表記されていますから。フローズンレインの桐ケ谷です。今回のイベントにご協力くださり、ありがとうございます」
握手を求め、玲旺がにこやかに右手を差し出す。真由は桐ケ谷と言う苗字を聞き、目を丸くした。
「えっ、桐ケ谷さんって、あの桐ケ谷さんですか? と言うことは、フォーチュンの後継者? あらやだ、華やかなオーラがあるから、てっきりモデルさんだと思ってました。ご挨拶が遅れてごめんなさい、大友と申します。今日はよろしくお願いしますね」
あの、と言われるほど凄いものではないんだけどな、と玲旺は恐縮したように苦笑いした。
「後継者と言ってもまだまだ修行中の身でして。今日はしっかり見学して勉強しようかと」
「そんな謙遜しないでください。スタッフの動きを見れば、トップの器は何となく計れるものですよ。ここのチームはスタッフが優秀なのはもちろん、雰囲気がとても良いですね。一丸となっているのが伝わってきます。それがきっと、桐ケ谷さんのカラーなのでしょうね」
自分を褒められるよりも、チームとして評価されたことが心底嬉しかった。
どうせ何をやったって無駄で、誰にも認めて貰えないと不貞腐れていた、昔の自分に教えてやりたい。
「そう言って頂けると……。ありがとうございます」
胸がいっぱいになって、少し言葉に詰まってしまう。しんみりした空気にならないように、玲旺は笑顔を保ちつつ湯月に目を向ける。
「湯月さんは本番にサプライズで登場するので、リハーサルには参加しないんですよね。メイクは当初の予定通りの時間から始めますか」
玲旺の問いかけに、湯月は表情を引き締めた。
「そうですね。リハーサル中は記者として取材したいので、メイクはリハが終ってからこっそりと。イベントの後半には舞台袖で待機していますから、何かあったらすぐ対応します」
「了解です。まだリハーサルまで少し時間がありますけど、どうします?」
湯月はカメラを軽く持ち上げ、真由をチラリと見る。
「せっかくなので、真由ちゃんに独占取材させてもらおうかなって。真由ちゃん、いい? 謝礼はちゃんとお支払いするから」
「もちろんいいわよ。それにしても、雑誌の編集になるって夢を本当に叶えたのね。凄いわ」
まるで母親のような慈愛に満ちた表情で、真由が湯月の肩にそっと触れた。湯月も誇らしそうに胸を張る。
「では、私は別の所に顔を出してきますね。また後ほどよろしくお願いします」
微笑ましい気持ちで、玲旺はそっと控室の扉を閉めた。さて次は何処へ行こう。高校生たちを励ました方が良いのかな。そんな事を考えながら廊下を歩いていたら、胸ポケットでスマートフォンが震えた。
「あれっ、久我さん。インカムじゃなくて電話? 何かあったの」
『いや、リハが始まる前に少し休憩を取ろうと思って。今、どこにいる?』
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