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~ 第三章 反撃の狼煙 ~
懺悔⑥
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「良かった……」
ようやく覚悟を決めてくれた湯月に、玲旺は心の底から安堵した。
湯月は自分自身を過小評価しているので、自分が氷雨にとってどれだけ影響力を持っているのか、まるでわかっていないのだ。
玲旺が「氷雨を殺す気か」と言ったのは、決して大袈裟な表現ではなかった。
やっと再会出来たと喜んだ矢先、ましてや合同コレクションと言う大舞台を共に乗り越えた後で、理由も明かされないまま湯月が再び姿を消してしまったら。
想像しただけでゾッとする。
恐らく氷雨は今まで堪えてきたものが一気に決壊し、精神を病んでしまうだろう。それでも責任感からフローズンレインの業務は滞りなくこなすだろうが、きっとどこかで無理が祟り、身体まで壊すに違いない。
フローズンレインにとって最悪の結末だが、それを抜きにしても大切な友人にそんな辛い思いはさせたくなかった。
何とか危機を回避でき、あまりにもホッとしてその場にしゃがみ込みそうになる。しかしここで崩れるわけにはいかないと、なんとか両足に力を入れて踏みとどまった。
「きっと上手く行きますよ。氷雨さんと湯月さんも、合同コレクションも、全部」
願いを込めて玲旺が口にすると、湯月も同意を示すように「ええ」と相槌を打った。
「必ず勝ちます。そのためなら力は惜しみません」
泣いた後のように眦は赤かったが、決意を新たにした湯月の目には、強い力が宿っていた。
久我と藤井もいつの間にか椅子から立ち上がっていて、見守るような温かい眼差しを向けている。
「何かあったら、いつでも相談に乗りますから」
そう言って久我から差し出された右手を、湯月はしっかりと握り返した。
「……氷雨くんが、あなた達と組もうと思った気持ちがわかりました。不思議ですね。ここにいれば、何があっても大丈夫な気がします。本当に、ありがとうございました」
清々しい笑顔を見せた湯月が、今度は玲旺に視線を移す。
「私、桐ケ谷さんには会う度に叱られてますね。次に会う時は褒めて貰えるように頑張りますから」
ふふっと小さく笑い、申し訳なさそうに首をすくめる。軽口を叩けるまでに立ち直った湯月からは、臆病さはすっかり消えていた。その代わり、先ほどまでは鳴りを潜めていた勝気な眼差しが垣間見える。
薄々感じてはいたが、やはり本来の湯月は負けん気が強いのかもしれない。
「俺、叱ってなんかいませんよ。励ましてるだけですってば。でも、次に会う時は楽しみにしてますね。必ず喝采を送ります」
次に湯月と会う時は、合同コレクションの本番だ。
光に包まれたランウェイを、氷雨と並んで堂々と歩く湯月の姿がありありと瞼に浮かぶ。
「こちらのモデルは高校生がメインなので、クリアデイは油断しきっています。反撃の狼煙は上がっているのに気付きもしない。当日は思う存分、最高のパフォーマンスを魅せつけてください」
玲旺が不敵に口角を上げると、湯月も愉快そうにニンマリ笑った。
「もちろんです。驕ったクリアデイの連中の度肝を抜いてやりましょう」
楽しみですね。と、玲旺と湯月の声が重なった。
ようやく覚悟を決めてくれた湯月に、玲旺は心の底から安堵した。
湯月は自分自身を過小評価しているので、自分が氷雨にとってどれだけ影響力を持っているのか、まるでわかっていないのだ。
玲旺が「氷雨を殺す気か」と言ったのは、決して大袈裟な表現ではなかった。
やっと再会出来たと喜んだ矢先、ましてや合同コレクションと言う大舞台を共に乗り越えた後で、理由も明かされないまま湯月が再び姿を消してしまったら。
想像しただけでゾッとする。
恐らく氷雨は今まで堪えてきたものが一気に決壊し、精神を病んでしまうだろう。それでも責任感からフローズンレインの業務は滞りなくこなすだろうが、きっとどこかで無理が祟り、身体まで壊すに違いない。
フローズンレインにとって最悪の結末だが、それを抜きにしても大切な友人にそんな辛い思いはさせたくなかった。
何とか危機を回避でき、あまりにもホッとしてその場にしゃがみ込みそうになる。しかしここで崩れるわけにはいかないと、なんとか両足に力を入れて踏みとどまった。
「きっと上手く行きますよ。氷雨さんと湯月さんも、合同コレクションも、全部」
願いを込めて玲旺が口にすると、湯月も同意を示すように「ええ」と相槌を打った。
「必ず勝ちます。そのためなら力は惜しみません」
泣いた後のように眦は赤かったが、決意を新たにした湯月の目には、強い力が宿っていた。
久我と藤井もいつの間にか椅子から立ち上がっていて、見守るような温かい眼差しを向けている。
「何かあったら、いつでも相談に乗りますから」
そう言って久我から差し出された右手を、湯月はしっかりと握り返した。
「……氷雨くんが、あなた達と組もうと思った気持ちがわかりました。不思議ですね。ここにいれば、何があっても大丈夫な気がします。本当に、ありがとうございました」
清々しい笑顔を見せた湯月が、今度は玲旺に視線を移す。
「私、桐ケ谷さんには会う度に叱られてますね。次に会う時は褒めて貰えるように頑張りますから」
ふふっと小さく笑い、申し訳なさそうに首をすくめる。軽口を叩けるまでに立ち直った湯月からは、臆病さはすっかり消えていた。その代わり、先ほどまでは鳴りを潜めていた勝気な眼差しが垣間見える。
薄々感じてはいたが、やはり本来の湯月は負けん気が強いのかもしれない。
「俺、叱ってなんかいませんよ。励ましてるだけですってば。でも、次に会う時は楽しみにしてますね。必ず喝采を送ります」
次に湯月と会う時は、合同コレクションの本番だ。
光に包まれたランウェイを、氷雨と並んで堂々と歩く湯月の姿がありありと瞼に浮かぶ。
「こちらのモデルは高校生がメインなので、クリアデイは油断しきっています。反撃の狼煙は上がっているのに気付きもしない。当日は思う存分、最高のパフォーマンスを魅せつけてください」
玲旺が不敵に口角を上げると、湯月も愉快そうにニンマリ笑った。
「もちろんです。驕ったクリアデイの連中の度肝を抜いてやりましょう」
楽しみですね。と、玲旺と湯月の声が重なった。
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