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~ 第二章 賽は投げられた ~
誰が為に⑧
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女の子は光沢のあるトロンとした白い生地のブラウスを着ていたが、氷雨が気になったのはボタンのようだった。
「それってもしかして、自分で作ったの?」
よくぞ気づいてくれたとばかりに、少女が「はい!」と大きな声で返事をする。
シャツの中央で一列に並んでいるのは、黒とパールの二種類で編んだビーズのボタンだった。よく似たデザインがフローズンレインの商品にもあるので、てっきり既製品だと思っていた玲旺は、手作りだと知って感嘆する。
少女は照れくさそうにボタンに触れた。
「フローズンレインに似てるシャツを見つけたので、自分で作ったボタンと付け替えたんです。本当は、本物が手に入れば一番良いんですけど。でも、初めてフローズンレインの服を買う時は、通販じゃなくてお店で買うって決めていたので、ずっと我慢してました。だから今日やっと表参道に来れたので、もう嬉しくって!」
その言葉通り、彼女の歩調は喜びにあふれ、まるでスキップしているかのようだった。憧れの表参道と、ついに念願が叶って実店舗に行ける嬉しさで、少女は益々饒舌になる。
「氷雨さんのデザインする服って、センスの塊なんですよ。同じシャツでも組み合わせ次第で、カッコよく決めたい時はめちゃめちゃクールになるし、可愛く着こなしたい時は思いっきりガーリーになるんです。私、雑誌を切り抜いたりサイトを見たりしてコーデの研究してるんですけど、勉強すればするほど氷雨さんの凄さを思い知ります!」
まさか本人だと思いもしない少女は、氷雨に向かって氷雨の凄さを熱く説く。フローズンレインの服を着ている玲旺なら理解してくれると思ったのか、少女は「ですよねっ」と同意を求めてきた。
玲旺は声を出せない代わりに大きくうなずき、氷雨を横目でチラリと見る。氷雨は落ち着かなさそうにソワソワしているが、少女の勢いは止まらない。
「これ見てください! 私が作ったスクラップブックです。お兄さん、絶対フローズンレインの服も似合いますよ。ほら、こういうコーデとかどうですか」
女の子が鞄からノートを取り出し、氷雨と久我に熱心に似合いそうな服を勧める。玲旺は「こういうのは釈迦に説法って言うんだっけ?」とハラハラしたが、二人とも興味深そうにノートを覗き込んでいた。
「たくさんコーデを考えたんだね。この組み合わせ凄くいいよ。センスある」
むかし同じように切り抜きをノートに貼っていた久我は、懐かしそうに目を細めた。少女は両手を口元に当て、顔を真っ赤にさせて身をのけ反らせる。
「そんな風に言って貰えたの初めてです。学校の友達は、雑誌を見たり服の話をしたりはするけど、ここまでやってる子はいなくて。このノートを見せても、『雑誌をくり抜いて貼っただけじゃん』なんて言うんですよ」
寂しそうに目を伏せる女の子を見て、氷雨も似たような経験があるのかふふっと笑った。
「大丈夫。このまま続けていれば、そのうち仲間に会えるよ」
「仲間……。フローズンレインに就職できたら、会えるかなぁ」
未来を夢見るような瞳で、スクラップブックを胸に抱く。
「まだ受験は先ですけど、桜華大の社会学科でMDの勉強をしたいんです。あっ、そうだ。フローズンレインは氷雨さんだけじゃなくて、MDの方も凄いんですよ! 戦略とか天才的なんです」
「えっ」
氷雨のことばかりが話題に出ていたので、油断していたのだろう。急に少女がMDのこと言いだしたので、久我はドキリとしたように背筋を伸ばした。
「それってもしかして、自分で作ったの?」
よくぞ気づいてくれたとばかりに、少女が「はい!」と大きな声で返事をする。
シャツの中央で一列に並んでいるのは、黒とパールの二種類で編んだビーズのボタンだった。よく似たデザインがフローズンレインの商品にもあるので、てっきり既製品だと思っていた玲旺は、手作りだと知って感嘆する。
少女は照れくさそうにボタンに触れた。
「フローズンレインに似てるシャツを見つけたので、自分で作ったボタンと付け替えたんです。本当は、本物が手に入れば一番良いんですけど。でも、初めてフローズンレインの服を買う時は、通販じゃなくてお店で買うって決めていたので、ずっと我慢してました。だから今日やっと表参道に来れたので、もう嬉しくって!」
その言葉通り、彼女の歩調は喜びにあふれ、まるでスキップしているかのようだった。憧れの表参道と、ついに念願が叶って実店舗に行ける嬉しさで、少女は益々饒舌になる。
「氷雨さんのデザインする服って、センスの塊なんですよ。同じシャツでも組み合わせ次第で、カッコよく決めたい時はめちゃめちゃクールになるし、可愛く着こなしたい時は思いっきりガーリーになるんです。私、雑誌を切り抜いたりサイトを見たりしてコーデの研究してるんですけど、勉強すればするほど氷雨さんの凄さを思い知ります!」
まさか本人だと思いもしない少女は、氷雨に向かって氷雨の凄さを熱く説く。フローズンレインの服を着ている玲旺なら理解してくれると思ったのか、少女は「ですよねっ」と同意を求めてきた。
玲旺は声を出せない代わりに大きくうなずき、氷雨を横目でチラリと見る。氷雨は落ち着かなさそうにソワソワしているが、少女の勢いは止まらない。
「これ見てください! 私が作ったスクラップブックです。お兄さん、絶対フローズンレインの服も似合いますよ。ほら、こういうコーデとかどうですか」
女の子が鞄からノートを取り出し、氷雨と久我に熱心に似合いそうな服を勧める。玲旺は「こういうのは釈迦に説法って言うんだっけ?」とハラハラしたが、二人とも興味深そうにノートを覗き込んでいた。
「たくさんコーデを考えたんだね。この組み合わせ凄くいいよ。センスある」
むかし同じように切り抜きをノートに貼っていた久我は、懐かしそうに目を細めた。少女は両手を口元に当て、顔を真っ赤にさせて身をのけ反らせる。
「そんな風に言って貰えたの初めてです。学校の友達は、雑誌を見たり服の話をしたりはするけど、ここまでやってる子はいなくて。このノートを見せても、『雑誌をくり抜いて貼っただけじゃん』なんて言うんですよ」
寂しそうに目を伏せる女の子を見て、氷雨も似たような経験があるのかふふっと笑った。
「大丈夫。このまま続けていれば、そのうち仲間に会えるよ」
「仲間……。フローズンレインに就職できたら、会えるかなぁ」
未来を夢見るような瞳で、スクラップブックを胸に抱く。
「まだ受験は先ですけど、桜華大の社会学科でMDの勉強をしたいんです。あっ、そうだ。フローズンレインは氷雨さんだけじゃなくて、MDの方も凄いんですよ! 戦略とか天才的なんです」
「えっ」
氷雨のことばかりが話題に出ていたので、油断していたのだろう。急に少女がMDのこと言いだしたので、久我はドキリとしたように背筋を伸ばした。
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