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~ 第二章 賽は投げられた ~
金のなる木④
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いつまでも玲旺が名刺を受け取らないので、原田は焦れたように名刺をひらひらさせて主張する。
「受け取ってくれないんですか? 名刺交換しましょうよ。桐ケ谷さんの名刺もください」
「申し訳ありませんが、あなたと仕事をする機会は未来永劫ないと思います。その名刺、残念ですが俺には必要ありません」
きっぱりと言い切った玲旺は、余裕ありげな表情でほほ笑んだ。
――舐められてたまるか。どちらが優位なのか判らせてやる。
玲旺が悠然と受け答えをするので、原田は面食らったようだった。
若すぎる玲旺を「どうせただのお飾りのトップ」だと思い、見くびっていたのだろう。軟弱なボンボンは、威圧によって簡単に服従すると高を括っていたのかもしれない。
玲旺はスマートフォンを探すフリをして、肩から斜めにかけたボディバッグに手を入れる。小型のボイスレコーダーを探り当て、こっそり録音ボタンを押した。原田の狙いが全く分からないので、念のために会話を記録しておこうと考えたのだ。
ライジングネットに突撃取材された件を機に、心配性の藤井がお守り代わりに持たせてくれたものだったが、まさか本当に使う日が来るとは思わなかった。
内心の焦りを表には一切出さず、涼しい顔で玲旺はスマートフォンを操作する。素早くトークアプリを開き、久我に『原田がはせべに来た』とだけ送信した。久我がすぐにメッセージに気づいてくれれば、十分程度でこの場に駆け付けるはずだ。
ソーシャルゲームに興じている風を装い、玲旺は原田を視界の隅に追いやる。暫く放置していると、観念したように原田が口を開いた。
「桐ケ谷さん。プライベートなお時間なのに、突然お邪魔してすみませんでした。でも、少し仕事の話をしませんか」
先ほどより心なしか下手に出た原田は、玲旺の目の前に立つことを止め、隣の椅子に腰かける。
「うちの店はローマでちょっと名の知れた、ハイブランドのセレクトショップでしてね。有名なスタイリストやモデルなんかが利用してくれるんで、結構注目度が高いんです」
玲旺は相槌すら打たなかったが、原田は勝手につらつらと会話を進めていく。
「ローマの本店が順調なもんで、東京にも支店を出そうって話が出たわけですよ。そこで、昔のよしみで桐ケ谷さんからちょっとお力をお借りしたいなぁと思いまして」
ずいぶんと図々しいことを言う。
相手をせずに沈黙を決め込んでいると、原田は思いもよらない言葉を口にした。
「本当に久我から何も聞いてませんか? アイツをヘッドハンティングしたんです。東京の店を任せようと思って」
「受け取ってくれないんですか? 名刺交換しましょうよ。桐ケ谷さんの名刺もください」
「申し訳ありませんが、あなたと仕事をする機会は未来永劫ないと思います。その名刺、残念ですが俺には必要ありません」
きっぱりと言い切った玲旺は、余裕ありげな表情でほほ笑んだ。
――舐められてたまるか。どちらが優位なのか判らせてやる。
玲旺が悠然と受け答えをするので、原田は面食らったようだった。
若すぎる玲旺を「どうせただのお飾りのトップ」だと思い、見くびっていたのだろう。軟弱なボンボンは、威圧によって簡単に服従すると高を括っていたのかもしれない。
玲旺はスマートフォンを探すフリをして、肩から斜めにかけたボディバッグに手を入れる。小型のボイスレコーダーを探り当て、こっそり録音ボタンを押した。原田の狙いが全く分からないので、念のために会話を記録しておこうと考えたのだ。
ライジングネットに突撃取材された件を機に、心配性の藤井がお守り代わりに持たせてくれたものだったが、まさか本当に使う日が来るとは思わなかった。
内心の焦りを表には一切出さず、涼しい顔で玲旺はスマートフォンを操作する。素早くトークアプリを開き、久我に『原田がはせべに来た』とだけ送信した。久我がすぐにメッセージに気づいてくれれば、十分程度でこの場に駆け付けるはずだ。
ソーシャルゲームに興じている風を装い、玲旺は原田を視界の隅に追いやる。暫く放置していると、観念したように原田が口を開いた。
「桐ケ谷さん。プライベートなお時間なのに、突然お邪魔してすみませんでした。でも、少し仕事の話をしませんか」
先ほどより心なしか下手に出た原田は、玲旺の目の前に立つことを止め、隣の椅子に腰かける。
「うちの店はローマでちょっと名の知れた、ハイブランドのセレクトショップでしてね。有名なスタイリストやモデルなんかが利用してくれるんで、結構注目度が高いんです」
玲旺は相槌すら打たなかったが、原田は勝手につらつらと会話を進めていく。
「ローマの本店が順調なもんで、東京にも支店を出そうって話が出たわけですよ。そこで、昔のよしみで桐ケ谷さんからちょっとお力をお借りしたいなぁと思いまして」
ずいぶんと図々しいことを言う。
相手をせずに沈黙を決め込んでいると、原田は思いもよらない言葉を口にした。
「本当に久我から何も聞いてませんか? アイツをヘッドハンティングしたんです。東京の店を任せようと思って」
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