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~ 第二章 賽は投げられた ~
始動⑥
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こんなに盛り上がってしまって今日の練習に支障をきたさないか不安になり、玲旺は宮木を申し訳なさそうに振り返る。
しかしここにいる誰よりも、宮木は高揚したように力いっぱい拍手していた。
「凄いですね、感激してしまいました! この子たちの実績不足は否めないので、きっと前評判は良くないだろうと私も予想していたんです。だから正式発表後にもしもあれこれ言われたら、SNSでこの子たちのウオーキングを見せつけて、黙らせるつもりでした。でも桐ケ谷さんは更にその上を行く戦略を用意していて、本当にお見事です!」
きっと生徒らのコーチを買って出てくれたのも、前評判を少しでも覆してやろうと言う熱い想いがあったからかもしれない。
「賛同してくださってありがとうございます。宮木さんに引き受けて頂けて本当に良かった。一丸となって、クリアデイを迎え撃ちましょうね」
「ええ。私も今回ご一緒出来て、とても光栄です。しかも南野も参加するんでしょう? 現役時代を思い出して、久しぶりにゾクゾクしてるんです」
まだ公式発表前なので南野の名前の部分だけ声を落とし、宮木はふふっと笑った。それから視線を生徒たちに戻し、空気を変えるように一際大きく手を打ち鳴らす。
「ハイ、それじゃあ勝つために練習するわよ。深影さん、いつものように準備運動を始めてください」
深影に生徒たちを仕切るよう指示を出した宮木は、再び玲旺と久我の方へ体を向けた。そのタイミングで、久我は手にしていた資料を宮木に差し出す。
「まだ確定ではありませんが、参考までにクリアデイからの提案と、演出プランの草案をお持ちしました。今後、全部ひっくり返る可能性もありますが、目を通しておいて損はないかと」
宮木は久我から受け取った書類をパラパラめくり、講堂内のランウェイと見比べた。
「会場のランウェイは、ここよりもう少し距離があると思って練習した方が良さそうですね。何しろ時間が限られていますから、より実戦的なレッスンにしようと思っていたので、本番をイメージするのに助かります」
あんな資料を激務の合間に作成していたのかと、玲旺は驚く。久我が睡眠時間をきちんと確保できているのか、心配になってしまった。
久我は更に具体的な説明をするために宮木と共にステージに歩み寄り、当日の動きを想定しながら意見を交わす。最後に久我が、言い難そうに小声で申し出た。
「黛くんの件なのですが、あまりにも彼が負担に感じているようでしたら教えて頂けますか。無理はさせたくないので」
「ええ、彼のことは聞いています。もちろん、何かありましたらすぐにご報告しますね。……でも、彼は伸びしろだらけです。今はまだ心と身体の使い方が上手く出来ないだけで、なにかきっかけがあれば大化けすると思うんです。それより心配なのは、何でもそつなくこなしちゃうタイプの子ですかね。自分自身でも気付かないうちに、プレッシャーやストレスで、急にスランプになってしまうこともありますから」
宮木が少し離れた場所で体を動かしている生徒たちを見たので、玲旺もつられてそちらに顔を向ける。無意識のうちに、宮原に視線が行ってしまった。
実は彼のようなタイプこそ、急なスランプに悩まされてしまうのではないかと一抹の不安を覚えた。
しかしここにいる誰よりも、宮木は高揚したように力いっぱい拍手していた。
「凄いですね、感激してしまいました! この子たちの実績不足は否めないので、きっと前評判は良くないだろうと私も予想していたんです。だから正式発表後にもしもあれこれ言われたら、SNSでこの子たちのウオーキングを見せつけて、黙らせるつもりでした。でも桐ケ谷さんは更にその上を行く戦略を用意していて、本当にお見事です!」
きっと生徒らのコーチを買って出てくれたのも、前評判を少しでも覆してやろうと言う熱い想いがあったからかもしれない。
「賛同してくださってありがとうございます。宮木さんに引き受けて頂けて本当に良かった。一丸となって、クリアデイを迎え撃ちましょうね」
「ええ。私も今回ご一緒出来て、とても光栄です。しかも南野も参加するんでしょう? 現役時代を思い出して、久しぶりにゾクゾクしてるんです」
まだ公式発表前なので南野の名前の部分だけ声を落とし、宮木はふふっと笑った。それから視線を生徒たちに戻し、空気を変えるように一際大きく手を打ち鳴らす。
「ハイ、それじゃあ勝つために練習するわよ。深影さん、いつものように準備運動を始めてください」
深影に生徒たちを仕切るよう指示を出した宮木は、再び玲旺と久我の方へ体を向けた。そのタイミングで、久我は手にしていた資料を宮木に差し出す。
「まだ確定ではありませんが、参考までにクリアデイからの提案と、演出プランの草案をお持ちしました。今後、全部ひっくり返る可能性もありますが、目を通しておいて損はないかと」
宮木は久我から受け取った書類をパラパラめくり、講堂内のランウェイと見比べた。
「会場のランウェイは、ここよりもう少し距離があると思って練習した方が良さそうですね。何しろ時間が限られていますから、より実戦的なレッスンにしようと思っていたので、本番をイメージするのに助かります」
あんな資料を激務の合間に作成していたのかと、玲旺は驚く。久我が睡眠時間をきちんと確保できているのか、心配になってしまった。
久我は更に具体的な説明をするために宮木と共にステージに歩み寄り、当日の動きを想定しながら意見を交わす。最後に久我が、言い難そうに小声で申し出た。
「黛くんの件なのですが、あまりにも彼が負担に感じているようでしたら教えて頂けますか。無理はさせたくないので」
「ええ、彼のことは聞いています。もちろん、何かありましたらすぐにご報告しますね。……でも、彼は伸びしろだらけです。今はまだ心と身体の使い方が上手く出来ないだけで、なにかきっかけがあれば大化けすると思うんです。それより心配なのは、何でもそつなくこなしちゃうタイプの子ですかね。自分自身でも気付かないうちに、プレッシャーやストレスで、急にスランプになってしまうこともありますから」
宮木が少し離れた場所で体を動かしている生徒たちを見たので、玲旺もつられてそちらに顔を向ける。無意識のうちに、宮原に視線が行ってしまった。
実は彼のようなタイプこそ、急なスランプに悩まされてしまうのではないかと一抹の不安を覚えた。
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