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~ 第二章 賽は投げられた ~
braver⑧
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「フローズンレインにプラスになる助言をありがとう。本当に助かった。でも、これ以上こっちの味方してたら、快晴に怒られちゃうよ。快晴の作った服を着て、当日はランウェイ歩くんでしょ? ちょっと悔しいけど、仕方ないよね。今日でもう、キミに会うのは最後にする」
湯月がその場に凍り付いて立ち尽くす。あと少し、ほんの軽い衝撃を与えただけでも、簡単に粉々になってしまいそうだ。
玲旺は驚きながら氷雨を凝視する。あれほど執心していた湯月をあっさり手放すなど、考えられなかった。
もしかして、このままでは埒が明かないと判断し、敢えて押すのを止めて引いたのだろうか。実際、突き放された湯月はとてつもないダメージを負っているように見える。
ただ、氷雨の笑顔も作り物めいていて、湯月と同じくらい痛々しかった。何とかしなければと、放心する湯月の代わりに玲旺は氷雨の顔を覗き込んで問いかける。
「なんでそんな結論に達したの? まだ一番お願いしたいこと言えてないよ。氷雨さんが一人で勝手に答えだしちゃ、駄目なんじゃないの」
氷雨は首を振りながら、「もう諦めるよ」と弱々しく笑う。玲旺は焦ったように、今度は湯月の肩に手を置いた。
「あのっ、氷雨さんはこんなこと言ってるけど、本心じゃないんです」
「いえ……。いいんです、もう。氷雨くんが出した答えなら、私はそれに従います」
玲旺はその場で地団駄を踏みたくなった。
二人はまるで背中合わせのようだ。
少し手を伸ばせばすぐ触れられる位置にいるのに、向いている方向が違うせいで相手の姿が見えず、遠くにいると思い込んでいる。
振り返れば、抱きしめられる距離なのに。
「もうさぁ」
歯痒さに耐えきれず、玲旺が乱暴に頭を掻きむしる。
「なんでお互いの気持ちを確認しないんだよ。過去に何があったか知んないけど、六年前もそうやって遠慮し合って、結局離れ離れになったんじゃねぇの? また同じこと繰り返すつもりかよ」
今まで温和な玲旺しか見たことのなかった湯月が、ギョッとして目を丸くした。玲旺はそれでも構わず話しを続ける。
「二人の問題に首ツッコむのは野暮かなって今まで黙ってたけど、さすがに見て見ぬフリできないよ。だって、このままじゃ本当にもう二度と会わなくなっちゃうだろ。そんなの、俺も責任感じちゃうじゃん。『あの時、ちゃんと話合わせておけば良かった』って後悔したくないよ」
一気にまくしたてると、湯月が信じられないと言う表情で玲旺を見た。
「え……。桐ケ谷さんは、私と氷雨くんがもう会わないことを喜んだりしないんですか? だって二人は付き合ってるんでしょう?」
あまりにも想定外過ぎて、玲旺と氷雨が呆気に取られる。
「だ、誰と誰が付き合ってるって?」
「だから、桐ケ谷さんと氷雨くんが」
それを聞いた氷雨が、慄いたように身をのけ反らせた。玲旺は氷雨の背中をバンバン叩きながら、叫ぶように言い放つ。
「ほらな。ちゃんと話さないと、こんなに認識ズレてんだよ。ダメもとでいいから、湯月さんにオファーしろって!」
湯月がその場に凍り付いて立ち尽くす。あと少し、ほんの軽い衝撃を与えただけでも、簡単に粉々になってしまいそうだ。
玲旺は驚きながら氷雨を凝視する。あれほど執心していた湯月をあっさり手放すなど、考えられなかった。
もしかして、このままでは埒が明かないと判断し、敢えて押すのを止めて引いたのだろうか。実際、突き放された湯月はとてつもないダメージを負っているように見える。
ただ、氷雨の笑顔も作り物めいていて、湯月と同じくらい痛々しかった。何とかしなければと、放心する湯月の代わりに玲旺は氷雨の顔を覗き込んで問いかける。
「なんでそんな結論に達したの? まだ一番お願いしたいこと言えてないよ。氷雨さんが一人で勝手に答えだしちゃ、駄目なんじゃないの」
氷雨は首を振りながら、「もう諦めるよ」と弱々しく笑う。玲旺は焦ったように、今度は湯月の肩に手を置いた。
「あのっ、氷雨さんはこんなこと言ってるけど、本心じゃないんです」
「いえ……。いいんです、もう。氷雨くんが出した答えなら、私はそれに従います」
玲旺はその場で地団駄を踏みたくなった。
二人はまるで背中合わせのようだ。
少し手を伸ばせばすぐ触れられる位置にいるのに、向いている方向が違うせいで相手の姿が見えず、遠くにいると思い込んでいる。
振り返れば、抱きしめられる距離なのに。
「もうさぁ」
歯痒さに耐えきれず、玲旺が乱暴に頭を掻きむしる。
「なんでお互いの気持ちを確認しないんだよ。過去に何があったか知んないけど、六年前もそうやって遠慮し合って、結局離れ離れになったんじゃねぇの? また同じこと繰り返すつもりかよ」
今まで温和な玲旺しか見たことのなかった湯月が、ギョッとして目を丸くした。玲旺はそれでも構わず話しを続ける。
「二人の問題に首ツッコむのは野暮かなって今まで黙ってたけど、さすがに見て見ぬフリできないよ。だって、このままじゃ本当にもう二度と会わなくなっちゃうだろ。そんなの、俺も責任感じちゃうじゃん。『あの時、ちゃんと話合わせておけば良かった』って後悔したくないよ」
一気にまくしたてると、湯月が信じられないと言う表情で玲旺を見た。
「え……。桐ケ谷さんは、私と氷雨くんがもう会わないことを喜んだりしないんですか? だって二人は付き合ってるんでしょう?」
あまりにも想定外過ぎて、玲旺と氷雨が呆気に取られる。
「だ、誰と誰が付き合ってるって?」
「だから、桐ケ谷さんと氷雨くんが」
それを聞いた氷雨が、慄いたように身をのけ反らせた。玲旺は氷雨の背中をバンバン叩きながら、叫ぶように言い放つ。
「ほらな。ちゃんと話さないと、こんなに認識ズレてんだよ。ダメもとでいいから、湯月さんにオファーしろって!」
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