されど御曹司は愛を誓う

雪華

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~ 第二章 賽は投げられた ~

braver③

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 日本に戻って少しの間は、華やかな世界から敢えて距離を取るように、意図的に芸能活動をセーブしていたように感じられた。
 それでもやはり氷雨には、天賦の才があるのだろう。
 動向を先読みすることに長け、マーケティング力と演出力にも優れているので、セレクトショップに仕入れる服やアイテムは次々と世間から注目を浴びた。
 氷雨目当てに来店する客も多く、人気商品と共に幾度となく話題になり、必然的にメディアに露出する機会は増えていく。

 世間は氷雨が裏方に回るのを拒むかのように、再び表舞台に引っ張り上げた。

 モデルとして雑誌やCMに頻繁に登場し、コラムの連載を持つなど、結果的に渡英する前よりも広く知られるようになっていた。本人が望む望まないにかかわらず、インフルエンサーとして不動の地位を得たと言う訳だ。
 何も知らない状態で氷雨の経歴だけを見れば、デザイナーになる為の下準備を順調に進め今に至っているので、まさに順風満帆と言った印象を受けるだろう。
 ただ、本人について知れば知るほど、茨の道を辿って来たのではないかと思えてくる。

――憶測の域を出ないけど。

 玲旺は心の中でこっそりと呟く。
 結局、氷雨たち三人の間に何があったのかは、ネットの情報ではあやふや過ぎてわからなかった。
 
 玲旺は、車窓を眺めながら物思いに耽っている氷雨の横顔を盗み見る。これから湯月に会うからだろうか、心なしか表情が強張っているような気がした。

「氷雨さんてさ、ロンドンにいた時期があったんでしょ。俺もその頃ロンドンの大学に通ってたから、もしかしたらどこかですれ違ってたかもしれないね」

 スタジオが近づくにつれ玲旺も落ち着かなくなり、気を紛らわせるために雑談を振る。氷雨は一瞬キョトンとしたが、すぐに微笑んだ。

「えー? 何、急に。随分唐突な話題だね。でも、そっかぁ。あの頃、桐ケ谷クンもあの街にいたのねぇ……そう考えると、縁って不思議だなぁ」

 しみじみと言った氷雨は、どこか寂しそうに見えた。もしかすると、本人にとっては辛い時期だったのかもしれない。
 玲旺は少し考えた後、「これくらいなら聞いても構わないかな」と、以前から気になっていた疑問を氷雨に尋ねた。

「なんで他の国じゃなく、ロンドンで勉強しようと思ったの?」

 ロンドンも世界四大ファッションコレクションが開催される都市ではあるが、パリやミラノの方が規模は大きい。パリコレの名称などは、日本でも馴染み深いだろう。
 敢えてロンドンを選んだ理由を知りたがる玲旺に、氷雨はクスクス笑いながら「だってさぁ」と楽しそうに答える。

「スーツ発祥の地で紳士や貴族の文化があるのに、ロックやパンクも発展した国って、面白過ぎるでしょ。それに、ロンドンコレクションはストリートファッションとか新進気鋭のデザイナーが多いからさ、色々学べそうだなぁと思って」

 玲旺は「なるほど」と、これ以上ないくらいに納得した。

「そう言われると、ロンドンは凄く氷雨さんぽいね」

 ニューヨークも似合いそうだけど、と玲旺は言いかけて止めた。快晴の留学先は、真っ先に候補から外したに違いない。
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