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~ 第二章 賽は投げられた ~
braver②
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倉持が運転しながら、今日の段取りを簡潔に説明し始める。要約すると「何度か着替えて何枚か写真を撮るだけで、難しい事は何もない」と言うことだったが、そんなに簡単なことだろうかと玲旺は少々不安になった。
「黛くんは見学だけなんですか?」
「はい。大勢のスタッフやスタジオの雰囲気にも慣れてもらおうと思いまして。黛君、緊張しなくて大丈夫ですよ。私の隣にいるだけでいいですから、安心してくださいね」
倉持は玲旺の質問に答えつつ、黛にもフォローの言葉をかける。学校が終わってそのまま合流したのか、制服姿の黛は、か細い声ながらも「頑張ります」とうなずいた。
撮影は博雅出版社の自前のスタジオで行われるらしく、道さえ空いていればここから十五分程度で到着できる。車の流れ具合からして直ぐに着くだろうと思いながら、隣にいる氷雨に聞こえる程度の小声で玲旺は話しかけた。
「今日、本当に湯月さん来てくれるかな」
氷雨の眉がぴくりと動く。
「来るわよ。だって約束したもん」
来ると断言した自信ありげな言葉に反し、どことなくそわそわしたような落ち着かなさを感じた。膝の上で組んだ指をポキポキ鳴らしたり爪をいじったり、あまり余裕が無さそうだ。
玲旺は湯月と出会ってから今日までの数日間、氷雨たちの過去に何があったのかをネット上でコツコツ調べていた。
興味本位というよりは、知らずに地雷を踏み抜いてしまって傷つけたくないという想いと、こんがらがった糸を解くために何か力になれないかと考えたからだ。
大学在学中、一年、二年と氷雨が桜華大名物の学生コンテストで優勝し、快晴は準優勝に甘んじていた。
快晴は雪辱を晴らすのに躍起になっていたようだったが、肝心の氷雨は三年になると学生コンテストではなく、権威のある有名なコンテストに出場し、見事新人賞を受賞したのだ。
氷雨不在の学生コンテストで快晴はようやく優勝を果たしたが、素直に喜べたとはとても思えない。
快晴は四年生に進級する直前の一月に、桜華大に在籍したまま交換留学の形で渡米してしまった。
卒業までの一年間を準備期間とし、氷雨のオリジナルブランドを設立する計画が持ち上がったが、その話が白紙になったと言う噂もちょうどこの頃だ。
それと連動するように、同じ時期に永遠はブレイバーの専属モデルを降りている。元々プライベートを明かしていなかったこともあって、永遠についてはその後の活動どころか消息すらも一切ネット上には書かれていなかった。
二人が離れていった後、一人残された氷雨は何を想っただろう。四年生の学生コンテストでは、氷雨はエントリーすらしていなかった。
卒業後はロンドンで一年間デザイナーの勉強をし、その間にロンドンウィークにモデルとして出演している。帰国してからはモデルかデザイナーの道に当然進むだろうと期待されたが、氷雨が選んだのは渋谷にあるセレクトショップのファッションディレクター兼バイヤーと言う仕事だった。
もしかしたらこの時、氷雨は表舞台から姿を消そうと考えていたのかもしれない。
「黛くんは見学だけなんですか?」
「はい。大勢のスタッフやスタジオの雰囲気にも慣れてもらおうと思いまして。黛君、緊張しなくて大丈夫ですよ。私の隣にいるだけでいいですから、安心してくださいね」
倉持は玲旺の質問に答えつつ、黛にもフォローの言葉をかける。学校が終わってそのまま合流したのか、制服姿の黛は、か細い声ながらも「頑張ります」とうなずいた。
撮影は博雅出版社の自前のスタジオで行われるらしく、道さえ空いていればここから十五分程度で到着できる。車の流れ具合からして直ぐに着くだろうと思いながら、隣にいる氷雨に聞こえる程度の小声で玲旺は話しかけた。
「今日、本当に湯月さん来てくれるかな」
氷雨の眉がぴくりと動く。
「来るわよ。だって約束したもん」
来ると断言した自信ありげな言葉に反し、どことなくそわそわしたような落ち着かなさを感じた。膝の上で組んだ指をポキポキ鳴らしたり爪をいじったり、あまり余裕が無さそうだ。
玲旺は湯月と出会ってから今日までの数日間、氷雨たちの過去に何があったのかをネット上でコツコツ調べていた。
興味本位というよりは、知らずに地雷を踏み抜いてしまって傷つけたくないという想いと、こんがらがった糸を解くために何か力になれないかと考えたからだ。
大学在学中、一年、二年と氷雨が桜華大名物の学生コンテストで優勝し、快晴は準優勝に甘んじていた。
快晴は雪辱を晴らすのに躍起になっていたようだったが、肝心の氷雨は三年になると学生コンテストではなく、権威のある有名なコンテストに出場し、見事新人賞を受賞したのだ。
氷雨不在の学生コンテストで快晴はようやく優勝を果たしたが、素直に喜べたとはとても思えない。
快晴は四年生に進級する直前の一月に、桜華大に在籍したまま交換留学の形で渡米してしまった。
卒業までの一年間を準備期間とし、氷雨のオリジナルブランドを設立する計画が持ち上がったが、その話が白紙になったと言う噂もちょうどこの頃だ。
それと連動するように、同じ時期に永遠はブレイバーの専属モデルを降りている。元々プライベートを明かしていなかったこともあって、永遠についてはその後の活動どころか消息すらも一切ネット上には書かれていなかった。
二人が離れていった後、一人残された氷雨は何を想っただろう。四年生の学生コンテストでは、氷雨はエントリーすらしていなかった。
卒業後はロンドンで一年間デザイナーの勉強をし、その間にロンドンウィークにモデルとして出演している。帰国してからはモデルかデザイナーの道に当然進むだろうと期待されたが、氷雨が選んだのは渋谷にあるセレクトショップのファッションディレクター兼バイヤーと言う仕事だった。
もしかしたらこの時、氷雨は表舞台から姿を消そうと考えていたのかもしれない。
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