121 / 302
~ 第二章 賽は投げられた ~
新しい提案⑥
しおりを挟む
「少しの間でも、手をつないでたい。本当は息が出来ないくらい抱きしめたいしキスしたいけど、今はそれで我慢する」
もどかしそうに唇を噛んだ久我を見ていたら、大型犬が健気にご主人様の「マテ」を守っているような、そんなイメージが湧いてしまった。
玲旺は久我の手を握り返しながら、わざと誘うような視線を送る。
「我慢してるのは、抱き締めたりキスすることだけ?」
上目遣いで見つめると、頬を赤くさせた久我が参ったと言わんばかりに右手で目を覆った。
「煽るなよ、結構限界来てるんだから。それなのに、もうしばらくは注目され続けるだろうから、思うように会えないなんて。頭がおかしくなりそうだ」
握られた手に力がこもる。指を絡めながら、まるで愛撫のように久我の親指が玲旺のきめ細かい肌を撫でた。
艶めかしく動く久我の指先を目で追いながら、最後にキスをしたのはいつだっけと記憶を辿る。
確か湯月がプレスルームに訪れた日、昼食をとりながら隠れるようにしたキスが最後だ。あれから久我に、ほとんど触れられていない。
しかもその前日には、久我は原田との約束を優先させて、玲旺の誘いを断っていた。
あちらとの約束が先なのだから仕方がないと頭では解っていても、腹立たしい気持ちがふつふつと沸いてしまう。
「だから、会える時に会っておけばよかったのに」
意地悪な言い方をしてしまったが、久我が「そうだね」と少しでも共感してくれれば、それで良かった。
「会える時なんかなかっただろう。お互い忙しくてタイミングも合わなかったし、マスコミの目もあったし」
そう言い切られてしまい、玲旺の胸がぐしゃりと音を立てて潰れる。
会える時なんかなかった? 本当に? あの日断ったこと、少しも残念だと思わないの?
次から次へと聞き返したくなり、玲旺はそれを必死に抑える。
原田と自分を天秤にかけられたわけじゃない。こんなのただの嫉妬で、これは醜い感情だ。だから消さなければと思うほど、内臓を食い破って外に出ようとしてしまう。
久我の手を握っていた玲旺の指から、思わず力が抜けた。
何だか酷く惨めな気分だったが、それは久我のせいでないことぐらい解っている。
「玲旺、疲れた? 元気ないな」
さすがに露骨に落ち込み過ぎたと反省し、「そんなことないよ」と伏せていた顔を上げて玲旺は笑う。
「ただ、ちょっと寂しい」
含みを持った言い方だったが、久我は言葉通りに受け取ったようだった。
「もう少しの辛抱だよ。合間を縫って会える時間を見つけるし……そうだ、クリアデイとの合同コレクションが終ったら、視察がてら二人で旅行にでも行こうか」
慰めるような、機嫌を取るような、そんなトーンの声を聞き、嬉しいと思うと同時に重りのようなものがズシリと腹の中に落ちたような気がした。
「あはは。それって旅行じゃなくて出張って言うんじゃないの。でもいいね、温泉が付いてる部屋がいいな」
腹に巣食ったこの塊は何だろうと思いながら、久我のトーンに合わせて無邪気に喜んで見せる。
信号が青に変わって、つないだ手を離した。
旅行に行ける頃には、この胸の重りも消え、靄も晴れているだろうか。
そうなればいいなと願いながら、玲旺は陽が傾いて輪郭が曖昧になった街並を、ぼんやりと眺めた。
もどかしそうに唇を噛んだ久我を見ていたら、大型犬が健気にご主人様の「マテ」を守っているような、そんなイメージが湧いてしまった。
玲旺は久我の手を握り返しながら、わざと誘うような視線を送る。
「我慢してるのは、抱き締めたりキスすることだけ?」
上目遣いで見つめると、頬を赤くさせた久我が参ったと言わんばかりに右手で目を覆った。
「煽るなよ、結構限界来てるんだから。それなのに、もうしばらくは注目され続けるだろうから、思うように会えないなんて。頭がおかしくなりそうだ」
握られた手に力がこもる。指を絡めながら、まるで愛撫のように久我の親指が玲旺のきめ細かい肌を撫でた。
艶めかしく動く久我の指先を目で追いながら、最後にキスをしたのはいつだっけと記憶を辿る。
確か湯月がプレスルームに訪れた日、昼食をとりながら隠れるようにしたキスが最後だ。あれから久我に、ほとんど触れられていない。
しかもその前日には、久我は原田との約束を優先させて、玲旺の誘いを断っていた。
あちらとの約束が先なのだから仕方がないと頭では解っていても、腹立たしい気持ちがふつふつと沸いてしまう。
「だから、会える時に会っておけばよかったのに」
意地悪な言い方をしてしまったが、久我が「そうだね」と少しでも共感してくれれば、それで良かった。
「会える時なんかなかっただろう。お互い忙しくてタイミングも合わなかったし、マスコミの目もあったし」
そう言い切られてしまい、玲旺の胸がぐしゃりと音を立てて潰れる。
会える時なんかなかった? 本当に? あの日断ったこと、少しも残念だと思わないの?
次から次へと聞き返したくなり、玲旺はそれを必死に抑える。
原田と自分を天秤にかけられたわけじゃない。こんなのただの嫉妬で、これは醜い感情だ。だから消さなければと思うほど、内臓を食い破って外に出ようとしてしまう。
久我の手を握っていた玲旺の指から、思わず力が抜けた。
何だか酷く惨めな気分だったが、それは久我のせいでないことぐらい解っている。
「玲旺、疲れた? 元気ないな」
さすがに露骨に落ち込み過ぎたと反省し、「そんなことないよ」と伏せていた顔を上げて玲旺は笑う。
「ただ、ちょっと寂しい」
含みを持った言い方だったが、久我は言葉通りに受け取ったようだった。
「もう少しの辛抱だよ。合間を縫って会える時間を見つけるし……そうだ、クリアデイとの合同コレクションが終ったら、視察がてら二人で旅行にでも行こうか」
慰めるような、機嫌を取るような、そんなトーンの声を聞き、嬉しいと思うと同時に重りのようなものがズシリと腹の中に落ちたような気がした。
「あはは。それって旅行じゃなくて出張って言うんじゃないの。でもいいね、温泉が付いてる部屋がいいな」
腹に巣食ったこの塊は何だろうと思いながら、久我のトーンに合わせて無邪気に喜んで見せる。
信号が青に変わって、つないだ手を離した。
旅行に行ける頃には、この胸の重りも消え、靄も晴れているだろうか。
そうなればいいなと願いながら、玲旺は陽が傾いて輪郭が曖昧になった街並を、ぼんやりと眺めた。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
『田中のおじさま♡』~今夜も愛しのおじさまと濃厚ラブえっち♡♡♡
そらも
BL
過去にとある出逢いを経て知り合った『本名さえもちゃんとわかってない』自分よりも三十二歳も年上のバツイチ絶倫変態スケベおじさまとの濃厚セックスに毎夜明け暮れている、自称平凡普通大学生くんの夜のお話♡
おじさまは大学生くんにぞっこんラブだし、大学生くんもハジメテを捧げたおじさまが大大大っだ~いすきでとってもラブラブな二人でございますぞ♪
久しぶりの年上×年下の歳の差モノ♡ 全体的に変態ちっくですのでどうぞご注意を!
※ R-18エロもので、♡(ハート)喘ぎ満載です。
※ 素敵な表紙は、pixiv小説用フリー素材にて、『やまなし』様からお借りしました。ありがとうございます!
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~
焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。
美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。
スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。
これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語…
※DLsite様でCG集販売の予定あり
専業種夫
カタナカナタ
BL
精力旺盛な彼氏の性処理を完璧にこなす「専業種夫」。彼の徹底された性行為のおかげで、彼氏は外ではハイクラスに働き、帰宅するとまた彼を激しく犯す。そんなゲイカップルの日々のルーティーンを描く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる