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~ 第二章 賽は投げられた ~
諸刃の剣⑦
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ほぉ。と感嘆の声をあげて、氷雨がソファに深く座り直す。その仕草があまりにも優雅で、目の前にいるのは貴族なんじゃないかと錯覚しそうになる。
「聞かせてよ。その策ってヤツを」
赤い唇を面白そうに歪め、氷雨が独裁的に要求した。「もちろん」と答えつつ、先ほどからずっと氷雨のペースで進められる会話の流れを変えたくて、玲旺はわざと勿体ぶったように咳払いをする。それから前のめりになっていた体を戻し、ソファの背もたれに体重を預けて鷹揚と構えた。
「黛くんはさ、あの酷いウオーキングのせいで『全然ダメ』って印象が強いかもしれないけど、初めのうちは割と良く歩けてたんだよね。でも、俺たちの方を見た瞬間、ガタガタに崩れた」
玲旺に言われて、久我と氷雨は記憶を辿るように斜め上を見る。ランウェイに出る前から黛に注目していた二人なら、容易く思い返すことが出来るだろう。
「言われてみればそうかも。目が合ったあと、急に変な歩き方になったのよね。それってつまり、原因は僕たちってコト?」
氷雨が指で自分の胸を指し示し、不思議そうに首を傾げた。その言葉を聞いた久我は、何かを閃いたように声を上げる。
「なるほど。俺は『こっちを向いたな』って程度の認識だったが、氷雨は彼と目が合っていたんだな。……となると、ウオーキングが崩れた原因は氷雨ってことか」
「え。目が合ったのって僕だけなの」
玲旺と久我が同時にうなずく。「憧れなのか恐れなのか解らないけど」と前置きをして、玲旺は名簿にある黛の名前をトントンと叩いた。
「黛くんは氷雨さんを見た瞬間、緊張が頂点に達しちゃったんだろうね。つまりさぁ、氷雨さんに慣れてプレッシャーを感じなくなれば、もっと良いパフォーマンスが出来るはずなんだ」
そう言い切った玲旺は、丁度会話を終えて受話器を置いた緑川に恐縮しつつ尋ねる。
「先生、すみません。黛くんの普段の印象や評価を、講師の先生などから教えて頂くことは可能でしょうか」
緑川は一瞬考えるような素振りをした後、再び受話器に手を伸ばした。
「そうねぇ。私が答えられたらいいんだけど、さすがに生徒一人一人の評価までは把握してなくて。ごめんなさいね、授業を担当している教師に聞いてみるわ。少し待っててもらえるかしら」
話しながらも既に内線番号を押していたようで、緑川が該当する教師に直ぐにコンタクトを取る。
その様子を眺めながら、氷雨が困惑したように眉を寄せた。
「ねぇ。策があるって、僕に慣れればもっと良いパフォーマンスが出来るってこと? 簡単に言うけど、どうやって慣れてもらうのよ」
想定外の提案に、非難めいた口調で氷雨が問いかける。玲旺は芝居がかった大袈裟な仕草で、申し訳なさそうに手を合わせた。
「聞かせてよ。その策ってヤツを」
赤い唇を面白そうに歪め、氷雨が独裁的に要求した。「もちろん」と答えつつ、先ほどからずっと氷雨のペースで進められる会話の流れを変えたくて、玲旺はわざと勿体ぶったように咳払いをする。それから前のめりになっていた体を戻し、ソファの背もたれに体重を預けて鷹揚と構えた。
「黛くんはさ、あの酷いウオーキングのせいで『全然ダメ』って印象が強いかもしれないけど、初めのうちは割と良く歩けてたんだよね。でも、俺たちの方を見た瞬間、ガタガタに崩れた」
玲旺に言われて、久我と氷雨は記憶を辿るように斜め上を見る。ランウェイに出る前から黛に注目していた二人なら、容易く思い返すことが出来るだろう。
「言われてみればそうかも。目が合ったあと、急に変な歩き方になったのよね。それってつまり、原因は僕たちってコト?」
氷雨が指で自分の胸を指し示し、不思議そうに首を傾げた。その言葉を聞いた久我は、何かを閃いたように声を上げる。
「なるほど。俺は『こっちを向いたな』って程度の認識だったが、氷雨は彼と目が合っていたんだな。……となると、ウオーキングが崩れた原因は氷雨ってことか」
「え。目が合ったのって僕だけなの」
玲旺と久我が同時にうなずく。「憧れなのか恐れなのか解らないけど」と前置きをして、玲旺は名簿にある黛の名前をトントンと叩いた。
「黛くんは氷雨さんを見た瞬間、緊張が頂点に達しちゃったんだろうね。つまりさぁ、氷雨さんに慣れてプレッシャーを感じなくなれば、もっと良いパフォーマンスが出来るはずなんだ」
そう言い切った玲旺は、丁度会話を終えて受話器を置いた緑川に恐縮しつつ尋ねる。
「先生、すみません。黛くんの普段の印象や評価を、講師の先生などから教えて頂くことは可能でしょうか」
緑川は一瞬考えるような素振りをした後、再び受話器に手を伸ばした。
「そうねぇ。私が答えられたらいいんだけど、さすがに生徒一人一人の評価までは把握してなくて。ごめんなさいね、授業を担当している教師に聞いてみるわ。少し待っててもらえるかしら」
話しながらも既に内線番号を押していたようで、緑川が該当する教師に直ぐにコンタクトを取る。
その様子を眺めながら、氷雨が困惑したように眉を寄せた。
「ねぇ。策があるって、僕に慣れればもっと良いパフォーマンスが出来るってこと? 簡単に言うけど、どうやって慣れてもらうのよ」
想定外の提案に、非難めいた口調で氷雨が問いかける。玲旺は芝居がかった大袈裟な仕草で、申し訳なさそうに手を合わせた。
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