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~ 第二章 賽は投げられた ~
gemstone⑥
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「一年生と二年生の合同授業なの。何人か仕事で休んでいるけど、ほとんどの子は出席してるわ。梅田君から事情を話しても良いと許可をもらっていたので、クリアデイとの対決に備えて桐ケ谷さんがモデルを探しているという説明はもうしてある。だから生徒たちは、選ばれることを意識しながら授業を受けているはずよ」
突然授業を見学すると聞かされた生徒たちは、さぞ緊張しているだろうなぁと、玲旺は申し訳ない気持ちになる。その隣で氷雨が、「せんせぇ」と慌てたように緑川の腕をぺしぺし叩いた。
「もー。また本名言っちゃってるよぉ。生徒の前で、絶対間違えないでね」
「あらヤダ。私いま、梅田君って言ってた? ごめんなさいね、つい昔のクセで。気を付けるわ」
コクコクと氷雨が頷き、緑川もあたふたしながら口元を押さえる。それを微笑ましそうに見ていた玲旺の背後から、久我が一歩前に進み出た。
「氷雨。レッスン室に入る前に、認識を共有させてくれ。お前は今日、この場で依頼するモデルを決定するつもりなのか、それともある程度人数を絞るだけで、また後日改めてオーディションを開催する予定なのか。それによって、合格ラインが違ってくると思うんだが」
玲旺はその問いに意表を突かれ、息をのんだ。ただ漠然と「ステージ映えする子がいないか」とは考えていたが、後日のオーディションや合格ラインなどには、全く思い至らなかった。
思慮深い久我を見上げ、尊敬と焦燥が入り混じった複雑な感情が湧く。久我が今日ここに居てくれて良かったと思うと同時に、久我が居なくてもそれをカバーできるだけの力を得なければと強く思った。
久我を導けるようになる日は、まだまだ遠い。
「僕たちがここに来たのは、あくまでも見学って設定だけどね。時間もないし、今日中に決めるつもり。桜華高の生徒だから身元も素行もしっかりしてるだろうし、面接は要らないかな。でも、妥協する気はないよ。ウォーキングを見てピンと来た子に声をかけようと思う。『ちょっと歩いてみて』って言われて十秒くらいで終わっちゃうオーディションなんて珍しくないし、きっと生徒も解ってるわ。久我クンも桐ケ谷クンも、いいなと思った子はチェックしておいてね。あとで意見出し合いましょ」
氷雨の言葉に納得したように久我が頷く。話がまとまったことを確認した緑川が、「それじゃあ、入るわよ」と、扉のレバーハンドルに手をかけた。
音漏れ防止用の鋼板の扉が、重たそうな音を立てて開く。その瞬間、まさにウォーキングの授業中だった生徒たちの目が、一斉に玲旺に注がれた。
突然授業を見学すると聞かされた生徒たちは、さぞ緊張しているだろうなぁと、玲旺は申し訳ない気持ちになる。その隣で氷雨が、「せんせぇ」と慌てたように緑川の腕をぺしぺし叩いた。
「もー。また本名言っちゃってるよぉ。生徒の前で、絶対間違えないでね」
「あらヤダ。私いま、梅田君って言ってた? ごめんなさいね、つい昔のクセで。気を付けるわ」
コクコクと氷雨が頷き、緑川もあたふたしながら口元を押さえる。それを微笑ましそうに見ていた玲旺の背後から、久我が一歩前に進み出た。
「氷雨。レッスン室に入る前に、認識を共有させてくれ。お前は今日、この場で依頼するモデルを決定するつもりなのか、それともある程度人数を絞るだけで、また後日改めてオーディションを開催する予定なのか。それによって、合格ラインが違ってくると思うんだが」
玲旺はその問いに意表を突かれ、息をのんだ。ただ漠然と「ステージ映えする子がいないか」とは考えていたが、後日のオーディションや合格ラインなどには、全く思い至らなかった。
思慮深い久我を見上げ、尊敬と焦燥が入り混じった複雑な感情が湧く。久我が今日ここに居てくれて良かったと思うと同時に、久我が居なくてもそれをカバーできるだけの力を得なければと強く思った。
久我を導けるようになる日は、まだまだ遠い。
「僕たちがここに来たのは、あくまでも見学って設定だけどね。時間もないし、今日中に決めるつもり。桜華高の生徒だから身元も素行もしっかりしてるだろうし、面接は要らないかな。でも、妥協する気はないよ。ウォーキングを見てピンと来た子に声をかけようと思う。『ちょっと歩いてみて』って言われて十秒くらいで終わっちゃうオーディションなんて珍しくないし、きっと生徒も解ってるわ。久我クンも桐ケ谷クンも、いいなと思った子はチェックしておいてね。あとで意見出し合いましょ」
氷雨の言葉に納得したように久我が頷く。話がまとまったことを確認した緑川が、「それじゃあ、入るわよ」と、扉のレバーハンドルに手をかけた。
音漏れ防止用の鋼板の扉が、重たそうな音を立てて開く。その瞬間、まさにウォーキングの授業中だった生徒たちの目が、一斉に玲旺に注がれた。
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