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~ 第二章 賽は投げられた ~
gemstone③
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今まで比較的行儀よくしていた氷雨が、ようやくいつもの調子で毒づいた。玲旺もつられたように、悪い顔をして口の端を上げる。
「当然。俺たちに喧嘩売ったこと、死ぬほど後悔させてやらなきゃ。二度と歯向かう気が起きないくらいね」
悪戯を企む子どものように、顔を見合わせ同時に吹き出した。
ちょうどそのタイミングで扉の向こう側から車のエンジン音が聞こえ、玲旺はそわそわしながら外へ出る。久我の車を見た瞬間、「あ」と思い付いたように氷雨を振り返った。
「助手席には俺が座るからね」
「はいはい、どうぞ。好きな場所に座りなよ」
適当にあしらいながら、氷雨は後部座席へさっさと乗り込んだ。玲旺は助手席のドアを開け、久我の横顔を見て思わずにんまりしてしまう。
いけない、いけないと気持ちを切り替えながら、玲旺はシートベルトをかちりと締めた。
狭い道なのであまりスピードが出せず、車はをノロノロと進んでいく。表参道の路地裏を歩く買い物客たちがもし車内を覗いたら、氷雨に気付いてしまいそうでハラハラした。
ようやく大通りに出てしばらく走っていると、氷雨の手の中にあったスマートホンが鳴りだし、着信を知らせる。
「あ、南野さんからだ」
「南野さん……って、まさか、あの?」
運転中の久我が驚きながら尋ねるので、氷雨は「そう。あの南野さん」とニコニコしながら応答の文字をスライドさせた。
『アンタ、凄い面白そうなことになってんじゃん!』
スピーカーモードにはしてないはずだが、南野の豪快な声は車内に良く響き、玲旺にまで届いた。予想外の爆音に、氷雨は片目をつぶって顔をしかめ、思わず電話を耳から遠ざける。
「ねー、開口一番がソレ? 他人事だと思って楽しまないでくれる」
『他人事なんて思ってないよ。だって私も仲間に入れてくれるんでしょ』
それまで不貞腐れたように後部座席のシートに浅く座っていた氷雨が、南野の言葉を聞いて勢いよく体を起こした。
「え。姐さん引き受けてくれるの? ありがとう!」
『うん、いいよ。可愛い後輩の頼みだしね。それに、こんなに露骨でバチバチなバトルって中々ないじゃん。血が騒ぐって言うかさ』
南野が放った「後輩」という単語を聞き、そう言えば彼女も桜華大の卒業生だったことを玲旺は思い出す。
「依頼を受けて貰ったのに申し訳ないんだけど、まだ何にも決まってなくてさぁ、詳しい話は後日でもいい? あ、だからって後になって『やっぱヤメタ』ってのはナシだからね」
『当たり前でしょ、アタシを誰だと思ってんの。二言はないから安心して。ところで、オファーが来たことはまだ内緒にしといた方が良いの?』
「そうね。ウチが正式にクリアデイからの申し出を受けるって発表するまで、この話は伏せて欲しいかな」
南野の「オッケー」と言う明るい声で、エネルギッシュな会話は終了した。
「当然。俺たちに喧嘩売ったこと、死ぬほど後悔させてやらなきゃ。二度と歯向かう気が起きないくらいね」
悪戯を企む子どものように、顔を見合わせ同時に吹き出した。
ちょうどそのタイミングで扉の向こう側から車のエンジン音が聞こえ、玲旺はそわそわしながら外へ出る。久我の車を見た瞬間、「あ」と思い付いたように氷雨を振り返った。
「助手席には俺が座るからね」
「はいはい、どうぞ。好きな場所に座りなよ」
適当にあしらいながら、氷雨は後部座席へさっさと乗り込んだ。玲旺は助手席のドアを開け、久我の横顔を見て思わずにんまりしてしまう。
いけない、いけないと気持ちを切り替えながら、玲旺はシートベルトをかちりと締めた。
狭い道なのであまりスピードが出せず、車はをノロノロと進んでいく。表参道の路地裏を歩く買い物客たちがもし車内を覗いたら、氷雨に気付いてしまいそうでハラハラした。
ようやく大通りに出てしばらく走っていると、氷雨の手の中にあったスマートホンが鳴りだし、着信を知らせる。
「あ、南野さんからだ」
「南野さん……って、まさか、あの?」
運転中の久我が驚きながら尋ねるので、氷雨は「そう。あの南野さん」とニコニコしながら応答の文字をスライドさせた。
『アンタ、凄い面白そうなことになってんじゃん!』
スピーカーモードにはしてないはずだが、南野の豪快な声は車内に良く響き、玲旺にまで届いた。予想外の爆音に、氷雨は片目をつぶって顔をしかめ、思わず電話を耳から遠ざける。
「ねー、開口一番がソレ? 他人事だと思って楽しまないでくれる」
『他人事なんて思ってないよ。だって私も仲間に入れてくれるんでしょ』
それまで不貞腐れたように後部座席のシートに浅く座っていた氷雨が、南野の言葉を聞いて勢いよく体を起こした。
「え。姐さん引き受けてくれるの? ありがとう!」
『うん、いいよ。可愛い後輩の頼みだしね。それに、こんなに露骨でバチバチなバトルって中々ないじゃん。血が騒ぐって言うかさ』
南野が放った「後輩」という単語を聞き、そう言えば彼女も桜華大の卒業生だったことを玲旺は思い出す。
「依頼を受けて貰ったのに申し訳ないんだけど、まだ何にも決まってなくてさぁ、詳しい話は後日でもいい? あ、だからって後になって『やっぱヤメタ』ってのはナシだからね」
『当たり前でしょ、アタシを誰だと思ってんの。二言はないから安心して。ところで、オファーが来たことはまだ内緒にしといた方が良いの?』
「そうね。ウチが正式にクリアデイからの申し出を受けるって発表するまで、この話は伏せて欲しいかな」
南野の「オッケー」と言う明るい声で、エネルギッシュな会話は終了した。
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