77 / 302
~ 第二章 賽は投げられた ~
強引な招待状⑤
しおりを挟む
思いがけず氷雨の本心を垣間見ることの出来た玲旺は、心の中で賛辞を贈りながら何度も文面を読み返した。快晴との対決を安易に受けるべきではないと言った背景には、こんな想いがあったのかと唸る。
それと同時に、これを読んだファンたちが、氷雨の気持ちを汲んで書き込みを止めたことにも納得した。
彼らに届くか届かないかは別にしても、氷雨が綴った言葉の端々には、アンチまでも気遣うような意味が込められているように思える。
「氷雨さんて……かっこいいよね」
「あー、うん。今頃気づいた?」
しみじみと本音を漏らした玲旺が尊敬の眼差しを向けると、氷雨は照れたようにふいっと目を逸らした。
画面の中から、快晴の「あーあ」と言う、がっかりしたような声が聞こえて来る。
『なんかシラケちゃったなぁ』
静かになったコメント欄をつまらなそうに一瞥し、快晴は大袈裟に肩をすくめて見せた。目鼻立ちがハッキリしていて日本人離れした容姿は、芝居がかった仕草でも絵になる。
『とりあえず、詳細はホームページにあるからチェックしてみて。また動きがあったらお知らせしまーす。じゃ、今日はこの辺で配信終了。見てくれてありがとね。バイバイ』
早口で締めの言葉を告げ、配信がぷつりと途絶える。
あっさりエンディング画面に切り替わり、重苦しい空気の部屋に響く楽し気な音楽が、場違い過ぎて笑えてきた。
頬杖をついた久我は一度目を閉じ、眉間を揉みながら疲れたように息を吐く。再び目を開け「さて」と、切り替えるように玲旺と氷雨に向き直った。
「この配信に対する俺たちのリアクションは、氷雨のツイートで充分だろう。というか、この回答は百点満点だな。ところで、二人ともこの対決は受けるつもりある?」
氷雨はソファから立ち上がり、元居た場所のパソコンデスクの前に座り直す。作業を再開させモニターを見たまま、首を横に振った。
「僕は受けるつもりないよ。そもそもフェアじゃないでしょ。向こうは準備万端で声をかけてきてるのに、こちらは今から準備しなきゃいけないんだから。イベントまでたった一ヶ月なんて、時間が無さ過ぎるよ」
「でも、秋物のサンプルはもう出来上がってるでしょ? あとはモデルの手配さえしちゃえば……」
玲旺が遠慮がちに口を開くと、氷雨はぐるんと椅子を回転させ、体ごと玲旺の方へ向けた。不機嫌そうに目を細め、ゆったりとした動作で腕を組む。たったそれだけの仕草でも、充分に玲旺を委縮させた。
「『モデルの手配さえしちゃえば』なんて、随分と簡単に言ってくれるじゃない。ウォーキングが上手くて華があって、そのうえ他のブランドと専属契約を結んでいない、イベント当日までのスケジュールが空いてるモデルを何人も揃えるのは、けっこう大変な作業だと思うけど?」
氷雨は、「反論があるならどうぞ」とばかりに両手を広げる。
それと同時に、これを読んだファンたちが、氷雨の気持ちを汲んで書き込みを止めたことにも納得した。
彼らに届くか届かないかは別にしても、氷雨が綴った言葉の端々には、アンチまでも気遣うような意味が込められているように思える。
「氷雨さんて……かっこいいよね」
「あー、うん。今頃気づいた?」
しみじみと本音を漏らした玲旺が尊敬の眼差しを向けると、氷雨は照れたようにふいっと目を逸らした。
画面の中から、快晴の「あーあ」と言う、がっかりしたような声が聞こえて来る。
『なんかシラケちゃったなぁ』
静かになったコメント欄をつまらなそうに一瞥し、快晴は大袈裟に肩をすくめて見せた。目鼻立ちがハッキリしていて日本人離れした容姿は、芝居がかった仕草でも絵になる。
『とりあえず、詳細はホームページにあるからチェックしてみて。また動きがあったらお知らせしまーす。じゃ、今日はこの辺で配信終了。見てくれてありがとね。バイバイ』
早口で締めの言葉を告げ、配信がぷつりと途絶える。
あっさりエンディング画面に切り替わり、重苦しい空気の部屋に響く楽し気な音楽が、場違い過ぎて笑えてきた。
頬杖をついた久我は一度目を閉じ、眉間を揉みながら疲れたように息を吐く。再び目を開け「さて」と、切り替えるように玲旺と氷雨に向き直った。
「この配信に対する俺たちのリアクションは、氷雨のツイートで充分だろう。というか、この回答は百点満点だな。ところで、二人ともこの対決は受けるつもりある?」
氷雨はソファから立ち上がり、元居た場所のパソコンデスクの前に座り直す。作業を再開させモニターを見たまま、首を横に振った。
「僕は受けるつもりないよ。そもそもフェアじゃないでしょ。向こうは準備万端で声をかけてきてるのに、こちらは今から準備しなきゃいけないんだから。イベントまでたった一ヶ月なんて、時間が無さ過ぎるよ」
「でも、秋物のサンプルはもう出来上がってるでしょ? あとはモデルの手配さえしちゃえば……」
玲旺が遠慮がちに口を開くと、氷雨はぐるんと椅子を回転させ、体ごと玲旺の方へ向けた。不機嫌そうに目を細め、ゆったりとした動作で腕を組む。たったそれだけの仕草でも、充分に玲旺を委縮させた。
「『モデルの手配さえしちゃえば』なんて、随分と簡単に言ってくれるじゃない。ウォーキングが上手くて華があって、そのうえ他のブランドと専属契約を結んでいない、イベント当日までのスケジュールが空いてるモデルを何人も揃えるのは、けっこう大変な作業だと思うけど?」
氷雨は、「反論があるならどうぞ」とばかりに両手を広げる。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
『田中のおじさま♡』~今夜も愛しのおじさまと濃厚ラブえっち♡♡♡
そらも
BL
過去にとある出逢いを経て知り合った『本名さえもちゃんとわかってない』自分よりも三十二歳も年上のバツイチ絶倫変態スケベおじさまとの濃厚セックスに毎夜明け暮れている、自称平凡普通大学生くんの夜のお話♡
おじさまは大学生くんにぞっこんラブだし、大学生くんもハジメテを捧げたおじさまが大大大っだ~いすきでとってもラブラブな二人でございますぞ♪
久しぶりの年上×年下の歳の差モノ♡ 全体的に変態ちっくですのでどうぞご注意を!
※ R-18エロもので、♡(ハート)喘ぎ満載です。
※ 素敵な表紙は、pixiv小説用フリー素材にて、『やまなし』様からお借りしました。ありがとうございます!
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~
焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。
美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。
スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。
これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語…
※DLsite様でCG集販売の予定あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる