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~ 第一章 売られた喧嘩 ~
If⑥
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「その顔、俺以外の前ではしないでね。藤井にも氷雨さんにも見せちゃダメだよ」
「どんな顔してた?」
「ナイショ」
玲旺が笑いながら、サンドイッチの最後の一口を食べきった。久我は玲旺の口の端に付いたマヨネーズをぺろりと舐め取る。
――今日の夜、会えないかな。
そんなことを考えながら見つめ合っていると、ショールームのドアが開く音がした。
玲旺は慌てて立ち上がり、机の上の食べ終えたゴミを片付けながら、自然と久我から離れる。入口から「ただいまー」と吉田の声が聞こえてきた。
「おかえり。ミーティングは捗った?」
「ええ、おかげ様で」
満ち足りた笑みを浮かべる吉田に、久我が「あ、そっか」と思い出したように言う。
「ミーティング、鈴木とだっけ」
「あー。だから何か嬉しそうに出かけて行ったのか」
玲旺が納得したように、ポンと手を打った。その後、自然と目が吉田の左手の薬指に行く。控えめに輝くシルバーリングと同じものが、鈴木の薬指にもはめられているのは誰もが知っていた。
「え。俺、嬉しそうでした?」
照れくさそうに頭を掻く吉田に、玲旺は微笑ましく思いながら頷く。
「うん、そわそわしてた。恋人と職場が一緒って良いよね。顔を見る機会も多くて」
「そうなんですよ、職場が十倍楽しくなります。おススメですよ」
嬉しそうに玲旺に同意した吉田の背後から、「やだぁ、吉田さん」と、甘ったるい声がした。誰だと思って声のした方に目をやると、グレージュのワンピースを着た若い女性が衣装ラックの影から姿を見せる。
「桐ケ谷さんのお相手はきっとどこかのご令嬢でしょうから、社内恋愛なんかしませんよぉ」
落ち着いたレースがあしらわれた上品なワンピースに、ダブルフリルの袖口が華やかで大人っぽい。緩くカールした胸まで届く髪を耳にかけながら、「こんにちは」と媚びるように玲旺に微笑んだ。
「『ジェネス』のスタイリストをしておりました、塩野崎と申します。一階のエレベーターホールで吉田さんにお会いしたので、ご一緒させて頂きました」
「あぁ、ジェネスさん。その節はどうも」
クリアデイの特集を優先しフローズンレインを一着も使用しなかった、あの廃刊寸前の雑誌か、と玲旺は心の中で思いきり顔をしかめる。
それでもスッと背筋を伸ばし、警戒する素振りは一切見せず、玲旺は無害そうな顔でニッコリ笑った。
「どんな顔してた?」
「ナイショ」
玲旺が笑いながら、サンドイッチの最後の一口を食べきった。久我は玲旺の口の端に付いたマヨネーズをぺろりと舐め取る。
――今日の夜、会えないかな。
そんなことを考えながら見つめ合っていると、ショールームのドアが開く音がした。
玲旺は慌てて立ち上がり、机の上の食べ終えたゴミを片付けながら、自然と久我から離れる。入口から「ただいまー」と吉田の声が聞こえてきた。
「おかえり。ミーティングは捗った?」
「ええ、おかげ様で」
満ち足りた笑みを浮かべる吉田に、久我が「あ、そっか」と思い出したように言う。
「ミーティング、鈴木とだっけ」
「あー。だから何か嬉しそうに出かけて行ったのか」
玲旺が納得したように、ポンと手を打った。その後、自然と目が吉田の左手の薬指に行く。控えめに輝くシルバーリングと同じものが、鈴木の薬指にもはめられているのは誰もが知っていた。
「え。俺、嬉しそうでした?」
照れくさそうに頭を掻く吉田に、玲旺は微笑ましく思いながら頷く。
「うん、そわそわしてた。恋人と職場が一緒って良いよね。顔を見る機会も多くて」
「そうなんですよ、職場が十倍楽しくなります。おススメですよ」
嬉しそうに玲旺に同意した吉田の背後から、「やだぁ、吉田さん」と、甘ったるい声がした。誰だと思って声のした方に目をやると、グレージュのワンピースを着た若い女性が衣装ラックの影から姿を見せる。
「桐ケ谷さんのお相手はきっとどこかのご令嬢でしょうから、社内恋愛なんかしませんよぉ」
落ち着いたレースがあしらわれた上品なワンピースに、ダブルフリルの袖口が華やかで大人っぽい。緩くカールした胸まで届く髪を耳にかけながら、「こんにちは」と媚びるように玲旺に微笑んだ。
「『ジェネス』のスタイリストをしておりました、塩野崎と申します。一階のエレベーターホールで吉田さんにお会いしたので、ご一緒させて頂きました」
「あぁ、ジェネスさん。その節はどうも」
クリアデイの特集を優先しフローズンレインを一着も使用しなかった、あの廃刊寸前の雑誌か、と玲旺は心の中で思いきり顔をしかめる。
それでもスッと背筋を伸ばし、警戒する素振りは一切見せず、玲旺は無害そうな顔でニッコリ笑った。
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