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~ 第一章 売られた喧嘩 ~
深根固柢③
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「そうです。例えば販売スタッフ不足とか、結構深刻ですよ。まぁ、これはうちだけの問題じゃなくてアパレル全体に言える悩みですが。応募率は高いのになかなか定着しないんですよね。意識の高いスタッフを多く集めるにはどうすればいいのか、課題をひとつひとつ解決するのも大切かもしれません」
言われてなるほどと唸る。
アパレルショップ店員の離職率の高さは、飲食店と並んで度々問題視されていた。
華やかなイメージに強い憧れを抱いて職に就いたものの、実際に働いてみると地味な作業も多く、勤務中は立ちっぱなしなど、体力的にも辛い。「思い描いていた理想と違う」と、早々に退職されてしまうのだ。しかし、理由は本当にそれだけなのだろうか。
玲旺は緊張した面持ちで腕を組んだ。
「何がきっかけで辞めてしまうのか、一度しっかり原因を洗い出さないといけませんね」
次から次へと問題は起きるもんだなと、凝り固まった首を解すように回した。ボキッと音がして、やれやれと思う。
深く息を吐きだした後、玲旺は竹原に頼みたいことがあったことを思い出した。
「竹原さんにお願いがあるんですけど、スタッフで『このコーデいいな』って思うような服装の子がいたら、写真を送ってもらえませんか。ホームページに着こなしの参考として載せたくて」
へぇっ、と感心したように、竹原が目を丸くする。
「着こなしの参考例ですか、面白いですね。ホームページに取り上げてもらえたら、スタッフのモチベもアップしそう」
「里中さんにも同じこと言って貰えました。俺自身も勉強になるし、色んなコーデ見れたら楽しいし、最近フローズンレイン用のSNSアカウント作ったんで、そこにも投稿しようかなと思って。あっ、いま作ったマネキンのコーデ、早速投稿してもいいですか?」
玲旺がスマートフォンを取り出し撮影モードに画面を切り替えると、竹原は「ぜひぜひ」と笑いながら手を叩いた。
「このマネキン二体に着せた服は在庫もたっぷりありますから、宣伝してジャンジャン売りましょう!」
竹原に綺麗に見える写真の撮り方のアドバイスを貰い、『はじめてのマネキンコーデ』とハッシュタグを付けて投稿する。
コメントやいいねが増えていくのを眺めていたら、その中に知っている名前を見つけた。
『頑張ってるじゃん。俺も負けないようにしないと』
MakotoTsukishimaというローマ字表記のフルネームを見て、玲旺はクスリと笑う。
「眞、フォローしてくれてたんだな」
目の前の竹原が「お友達ですか?」と首を傾げたので、玲旺は「はい」とにっこり微笑んで答えた。
「俺がロンドン支店に勤務していた頃に知り合った友人です。イギリス料理の店を日本で出すのが目標で、今もロンドンのレストランで修行してるんですよ」
「イギリス料理ってちゃんと食べたことないけど、美味しいんですか?」
「ええ。誤解されがちですが、けっこう美味いです。眞の料理は特に。俺、試食係やってたんで味は保証します」
月島が勤めるレストランの休業日には、そこの厨房を借りてよく料理を振舞ってくれた。味見と称して昼からワインを開け、お互いの夢を語っては、また明日から頑張ろうと励まし合う。
日本から遠く離れた異国の地で、日本語で話せる戦友のような存在は有難かった。普段ピンと張り詰めた糸が、眞といる時だけ少し緩む。
自分では友人としての距離を保っていたつもりだったが、出張のついでにロンドンに寄ってくれた氷雨に危なっかしいと注意され、「流されないように」と釘を刺されたことを思い出し、懐かしくなって目を細めた。
そのタイミングで丁度よく氷雨からのいいねが飛んできて、玲旺は思わず吹き出してしまう。しかし、いつもなら真っ先に来る久我からの反応がまだないことに気付き、「やっぱり、さっきの電話で怒らせたのかも」と、チクッとした小さな痛みが胸に走った。
言われてなるほどと唸る。
アパレルショップ店員の離職率の高さは、飲食店と並んで度々問題視されていた。
華やかなイメージに強い憧れを抱いて職に就いたものの、実際に働いてみると地味な作業も多く、勤務中は立ちっぱなしなど、体力的にも辛い。「思い描いていた理想と違う」と、早々に退職されてしまうのだ。しかし、理由は本当にそれだけなのだろうか。
玲旺は緊張した面持ちで腕を組んだ。
「何がきっかけで辞めてしまうのか、一度しっかり原因を洗い出さないといけませんね」
次から次へと問題は起きるもんだなと、凝り固まった首を解すように回した。ボキッと音がして、やれやれと思う。
深く息を吐きだした後、玲旺は竹原に頼みたいことがあったことを思い出した。
「竹原さんにお願いがあるんですけど、スタッフで『このコーデいいな』って思うような服装の子がいたら、写真を送ってもらえませんか。ホームページに着こなしの参考として載せたくて」
へぇっ、と感心したように、竹原が目を丸くする。
「着こなしの参考例ですか、面白いですね。ホームページに取り上げてもらえたら、スタッフのモチベもアップしそう」
「里中さんにも同じこと言って貰えました。俺自身も勉強になるし、色んなコーデ見れたら楽しいし、最近フローズンレイン用のSNSアカウント作ったんで、そこにも投稿しようかなと思って。あっ、いま作ったマネキンのコーデ、早速投稿してもいいですか?」
玲旺がスマートフォンを取り出し撮影モードに画面を切り替えると、竹原は「ぜひぜひ」と笑いながら手を叩いた。
「このマネキン二体に着せた服は在庫もたっぷりありますから、宣伝してジャンジャン売りましょう!」
竹原に綺麗に見える写真の撮り方のアドバイスを貰い、『はじめてのマネキンコーデ』とハッシュタグを付けて投稿する。
コメントやいいねが増えていくのを眺めていたら、その中に知っている名前を見つけた。
『頑張ってるじゃん。俺も負けないようにしないと』
MakotoTsukishimaというローマ字表記のフルネームを見て、玲旺はクスリと笑う。
「眞、フォローしてくれてたんだな」
目の前の竹原が「お友達ですか?」と首を傾げたので、玲旺は「はい」とにっこり微笑んで答えた。
「俺がロンドン支店に勤務していた頃に知り合った友人です。イギリス料理の店を日本で出すのが目標で、今もロンドンのレストランで修行してるんですよ」
「イギリス料理ってちゃんと食べたことないけど、美味しいんですか?」
「ええ。誤解されがちですが、けっこう美味いです。眞の料理は特に。俺、試食係やってたんで味は保証します」
月島が勤めるレストランの休業日には、そこの厨房を借りてよく料理を振舞ってくれた。味見と称して昼からワインを開け、お互いの夢を語っては、また明日から頑張ろうと励まし合う。
日本から遠く離れた異国の地で、日本語で話せる戦友のような存在は有難かった。普段ピンと張り詰めた糸が、眞といる時だけ少し緩む。
自分では友人としての距離を保っていたつもりだったが、出張のついでにロンドンに寄ってくれた氷雨に危なっかしいと注意され、「流されないように」と釘を刺されたことを思い出し、懐かしくなって目を細めた。
そのタイミングで丁度よく氷雨からのいいねが飛んできて、玲旺は思わず吹き出してしまう。しかし、いつもなら真っ先に来る久我からの反応がまだないことに気付き、「やっぱり、さっきの電話で怒らせたのかも」と、チクッとした小さな痛みが胸に走った。
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