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~ 第一章 売られた喧嘩 ~
深根固柢②
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クリアデイの包囲網に徐々に追い詰められているような気がする。この流れはさっさと断ち切りたい。
「部長、お忙しいのにヘルプに来て頂いて申し訳ないです」
深刻な表情で戻って来た玲旺を、竹原は心配そうに見つめた。竹原に余計な気を使わせてしまったことを悔いながら、玲旺は慌てて笑顔を作る。
「いえ、むしろ何度も仕事の手を止めてしまってすみません。じゃ、早速次のマネキンのコーデもやっちゃいましょうか」
先ほど手掛けたマネキンの隣に玲旺は目を向けた。既に竹原が途中まで進めていたらしく、ラベンダー色のブラウスに白い薄手のニットカーディガンが着せられている。カーディガンの胸元には魚の骨の刺繍が施されていて、甘すぎないアクセントになっていた。
竹原が首を傾げながら、納得いかないといった風に「うーん」と唸る。
「部長の考えたコーデ、凄く良い発想だなと思って。カジュアルが新鮮だったので、こちらもそうしようかと試したんですけど、ボトムを迷ってるんですよねぇ。黒のワイドパンツじゃちょっとモードっぽくなってしまうし、白系じゃおとなし過ぎるし……」
「あー。なるほど」
玲旺も顎に手を添えて、どんなボトムが合うだろうと考えを巡らせた。そんな玲旺のシャツの裾を、竹原がツンと引っ張る。
「ところで、何か問題が起きたんですか」
声を潜めた竹原が、玲旺にだけ聞こえるように尋ねた。玲旺も周囲を見回して、誰もいないことを確認してからうなずいて見せる。
「実は、ジェネスでクリアデイのタイアップ記事が大々的に載っていて。それだけならいいんですけど、うちの衣装が一着も使われていなかったんです。恐らく、クリアデイの指示かと」
それを聞いた竹原は、「うわ」と露骨に顔をしかめた。
「ジェネスは近々廃刊になるって、もっぱらの噂ですよ。その前に少しでも資金回収したかったんでしょうね。それ自体は至極まっとうな考えですけど、クリアデイに言われるままの構成にするなんて馬鹿げてます。昔はそこそこ人気のある雑誌だったのに、見境なくなっちゃって哀しいなぁ」
「フローズンレインも、どこか大手とタイアップした方がいいですかね。ちょっと圧され気味な気がして」
話しながら玲旺は、竹原の作ったコーディネートに合いそうなボトムを見つけようと、ぐるりと店内を見回す。竹原もキョロキョロしつつ、「大丈夫ですよ」と微笑んだ。
「ジェネスより格上のブレイバーが毎月うちの商品を取り上げてくれていますから、今はそれで充分だと思います。あまりクリアデイに振り回されない方が良いですよ」
玲旺は「今は反撃のタイミングではない」と言っていた久我の言葉を思い出した。
「やっぱり、もう少し様子を見た方が良いのかな。でも、何か対策しないと落ち着かなくて……あっ、竹原さん、あのデニムパンツ良くないですか?」
ライトブルーの生地に擦り切れたような加工を施し、更に白いペンキを飛び散らせた模様が入っているデニムパンツを玲旺が手に取る。それをマネキンに当ててみると、思った以上に良く似合っていた。
「春らしい爽やかな感じだけど、デニムの加工と胸元のポイントはちょっと毒気があって、凄くウチのブランドらしいコーデですね」
二体のマネキンのコーディネートを仕上げ、達成感に包まれる。ホッとしながら息を吐くと、竹原と目が合った。竹原は親指を立ててグッドサインを出し、満面の笑みでうなずいてみせる。
「部長、ありがとうございます。今まで立ち寄らなかった層も、このコーデで呼び込めそうです。……雑誌で華々しく宣伝するのも良いですが、私はこういう地道な作業を続けるのも大事だなって思うんですよ。クリアデイの攻撃に対して焦る気持ちも解りますが、フローズンレインも正式にオープンしてからまだ一年です。今はもっと足元を固めないと」
落ち着いた口調で話す竹原の顔を見つめ返しながら、玲旺は「足元を、固める」と繰り返した。
「部長、お忙しいのにヘルプに来て頂いて申し訳ないです」
深刻な表情で戻って来た玲旺を、竹原は心配そうに見つめた。竹原に余計な気を使わせてしまったことを悔いながら、玲旺は慌てて笑顔を作る。
「いえ、むしろ何度も仕事の手を止めてしまってすみません。じゃ、早速次のマネキンのコーデもやっちゃいましょうか」
先ほど手掛けたマネキンの隣に玲旺は目を向けた。既に竹原が途中まで進めていたらしく、ラベンダー色のブラウスに白い薄手のニットカーディガンが着せられている。カーディガンの胸元には魚の骨の刺繍が施されていて、甘すぎないアクセントになっていた。
竹原が首を傾げながら、納得いかないといった風に「うーん」と唸る。
「部長の考えたコーデ、凄く良い発想だなと思って。カジュアルが新鮮だったので、こちらもそうしようかと試したんですけど、ボトムを迷ってるんですよねぇ。黒のワイドパンツじゃちょっとモードっぽくなってしまうし、白系じゃおとなし過ぎるし……」
「あー。なるほど」
玲旺も顎に手を添えて、どんなボトムが合うだろうと考えを巡らせた。そんな玲旺のシャツの裾を、竹原がツンと引っ張る。
「ところで、何か問題が起きたんですか」
声を潜めた竹原が、玲旺にだけ聞こえるように尋ねた。玲旺も周囲を見回して、誰もいないことを確認してからうなずいて見せる。
「実は、ジェネスでクリアデイのタイアップ記事が大々的に載っていて。それだけならいいんですけど、うちの衣装が一着も使われていなかったんです。恐らく、クリアデイの指示かと」
それを聞いた竹原は、「うわ」と露骨に顔をしかめた。
「ジェネスは近々廃刊になるって、もっぱらの噂ですよ。その前に少しでも資金回収したかったんでしょうね。それ自体は至極まっとうな考えですけど、クリアデイに言われるままの構成にするなんて馬鹿げてます。昔はそこそこ人気のある雑誌だったのに、見境なくなっちゃって哀しいなぁ」
「フローズンレインも、どこか大手とタイアップした方がいいですかね。ちょっと圧され気味な気がして」
話しながら玲旺は、竹原の作ったコーディネートに合いそうなボトムを見つけようと、ぐるりと店内を見回す。竹原もキョロキョロしつつ、「大丈夫ですよ」と微笑んだ。
「ジェネスより格上のブレイバーが毎月うちの商品を取り上げてくれていますから、今はそれで充分だと思います。あまりクリアデイに振り回されない方が良いですよ」
玲旺は「今は反撃のタイミングではない」と言っていた久我の言葉を思い出した。
「やっぱり、もう少し様子を見た方が良いのかな。でも、何か対策しないと落ち着かなくて……あっ、竹原さん、あのデニムパンツ良くないですか?」
ライトブルーの生地に擦り切れたような加工を施し、更に白いペンキを飛び散らせた模様が入っているデニムパンツを玲旺が手に取る。それをマネキンに当ててみると、思った以上に良く似合っていた。
「春らしい爽やかな感じだけど、デニムの加工と胸元のポイントはちょっと毒気があって、凄くウチのブランドらしいコーデですね」
二体のマネキンのコーディネートを仕上げ、達成感に包まれる。ホッとしながら息を吐くと、竹原と目が合った。竹原は親指を立ててグッドサインを出し、満面の笑みでうなずいてみせる。
「部長、ありがとうございます。今まで立ち寄らなかった層も、このコーデで呼び込めそうです。……雑誌で華々しく宣伝するのも良いですが、私はこういう地道な作業を続けるのも大事だなって思うんですよ。クリアデイの攻撃に対して焦る気持ちも解りますが、フローズンレインも正式にオープンしてからまだ一年です。今はもっと足元を固めないと」
落ち着いた口調で話す竹原の顔を見つめ返しながら、玲旺は「足元を、固める」と繰り返した。
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