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~ 第一章 売られた喧嘩 ~
第八話 針の穴から天を覗く
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気を急かすような電子音で目を覚ました玲旺は、寝ぼけながら枕もとを探る。スマホを見つけ、まだ眠い目を擦りながらアラームを止めた。
ベッドに仰向けの状態で寝ころがり、自室の天井ではないと気づいた辺りから、徐々に思考が覚醒していく。
「そっか、久我さんちに泊ったんだ」
久我の姿は既に寝室には無く、リビングの方から朝食を準備しているような気配がした。一人だけいつまでも寝ている訳にはいかないと、玲旺は慌てて飛び起きる。
「ごめん、手伝うよ」
挨拶もすっ飛ばし、玲旺は急いでエスプレッソマシンにカップをセットした。久我は玲旺の寝癖がついた髪を見て、幸せそうな笑みをこぼす。
「おはよう。まだ寝てても良かったのに。昨日ちょっと無理させちゃったからさ、起こすの申し訳なかったんだよね」
確かに久我のせいで夜更かしをしてしまったが、それでもかなり手加減して貰ったように思う。
「別に、気なんか使わないでいいのに。煽ったの俺なんだし」
「あはは。まぁ、そうだね。可愛かった玲旺のせいでもあるよね。あぁ、珈琲ありがとう。でもこっちの準備は大丈夫だから、シャワー浴びておいで」
そう言いながら久我がフライパンに卵を割り入れると、途端に香ばしい匂いがした。料理のできない自分がやれることは、もう配膳くらいしかないと理解した玲旺は、シャツを脱ぎながらバスルームへ向かう。
「すぐ支度してくる。そのあと手伝うから!」
その言葉通り、五分もかからずシャワーを済ませ身支度を整える。今日は店舗勤務なので、スーツではなく私服を選んだ。
最初は歯ブラシ。次に食器。それから服や生活用品。お気に入りの本。
この半年の間で、久我の部屋には随分と玲旺の持ち物が増えた。
感慨深く思いながら早々にリビングへ戻ると、既に朝食の準備は完了していた。「手伝うって言ったのに」と玲旺は頬を膨らませたが、久我に促されて席に着く。
「洗い物は俺がするからね。あと、次は絶対朝メシ作る」
「うん。じゃあ一緒に作ろうか」
「俺が一人で作るんだってば」
「へぇ」
あまり本気には受け取っていないようで、久我はニヤリと笑って珈琲カップに口を付けた。もう少し期待してくれてもいいのにと思いつつ、いつも通りの久我に戻っていてホッとする。昨日は「名前で呼んで欲しい」と懇願されて戸惑ったが、どうやら引き下がってくれたようだ。
朝食を終えて後片付けをしながら、久我が時計に目をやった。
「そろそろ藤井が迎えに来る頃じゃない?」
「うん。片付け終わったら地下駐車場に向かうよ。ホントは電車で行くって言ったんだけどね。藤井に却下されちゃった」
「そりゃぁね。三号店、俺も夕方にはちょっと顔を出すから。今日は視察も兼ねて一日頑張れよ」
うん。とうなずくと、額にキスが降って来た。玲旺は幸せを噛みしめながら、隣に立つ久我を見上げる。
何があっても失いたくないと思えば思うほど、そのためにはどうすべきなのかと山積みの問題を突き付けられているような気がして胸が痛んだ。
ベッドに仰向けの状態で寝ころがり、自室の天井ではないと気づいた辺りから、徐々に思考が覚醒していく。
「そっか、久我さんちに泊ったんだ」
久我の姿は既に寝室には無く、リビングの方から朝食を準備しているような気配がした。一人だけいつまでも寝ている訳にはいかないと、玲旺は慌てて飛び起きる。
「ごめん、手伝うよ」
挨拶もすっ飛ばし、玲旺は急いでエスプレッソマシンにカップをセットした。久我は玲旺の寝癖がついた髪を見て、幸せそうな笑みをこぼす。
「おはよう。まだ寝てても良かったのに。昨日ちょっと無理させちゃったからさ、起こすの申し訳なかったんだよね」
確かに久我のせいで夜更かしをしてしまったが、それでもかなり手加減して貰ったように思う。
「別に、気なんか使わないでいいのに。煽ったの俺なんだし」
「あはは。まぁ、そうだね。可愛かった玲旺のせいでもあるよね。あぁ、珈琲ありがとう。でもこっちの準備は大丈夫だから、シャワー浴びておいで」
そう言いながら久我がフライパンに卵を割り入れると、途端に香ばしい匂いがした。料理のできない自分がやれることは、もう配膳くらいしかないと理解した玲旺は、シャツを脱ぎながらバスルームへ向かう。
「すぐ支度してくる。そのあと手伝うから!」
その言葉通り、五分もかからずシャワーを済ませ身支度を整える。今日は店舗勤務なので、スーツではなく私服を選んだ。
最初は歯ブラシ。次に食器。それから服や生活用品。お気に入りの本。
この半年の間で、久我の部屋には随分と玲旺の持ち物が増えた。
感慨深く思いながら早々にリビングへ戻ると、既に朝食の準備は完了していた。「手伝うって言ったのに」と玲旺は頬を膨らませたが、久我に促されて席に着く。
「洗い物は俺がするからね。あと、次は絶対朝メシ作る」
「うん。じゃあ一緒に作ろうか」
「俺が一人で作るんだってば」
「へぇ」
あまり本気には受け取っていないようで、久我はニヤリと笑って珈琲カップに口を付けた。もう少し期待してくれてもいいのにと思いつつ、いつも通りの久我に戻っていてホッとする。昨日は「名前で呼んで欲しい」と懇願されて戸惑ったが、どうやら引き下がってくれたようだ。
朝食を終えて後片付けをしながら、久我が時計に目をやった。
「そろそろ藤井が迎えに来る頃じゃない?」
「うん。片付け終わったら地下駐車場に向かうよ。ホントは電車で行くって言ったんだけどね。藤井に却下されちゃった」
「そりゃぁね。三号店、俺も夕方にはちょっと顔を出すから。今日は視察も兼ねて一日頑張れよ」
うん。とうなずくと、額にキスが降って来た。玲旺は幸せを噛みしめながら、隣に立つ久我を見上げる。
何があっても失いたくないと思えば思うほど、そのためにはどうすべきなのかと山積みの問題を突き付けられているような気がして胸が痛んだ。
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