25 / 302
~ 第一章 売られた喧嘩 ~
油断大敵⑨
しおりを挟む
「暗い部屋を手探りで歩くの、家具にぶつかりそうでちょっと怖かったから」
涙声を隠す為に、ついついぶっきらぼうな物言いになってしまう。
少しの棘を感じ取ったのか、久我が座り込んでいる玲旺の横にひざまずき、寄り添った。
「ごめん。一人で心細かった?」
「そんな訳ないだろ。馬鹿にすんなよ」
暗闇が怖かったわけじゃない。ただ、二人の未来に少しだけ不安を感じてしまっただけだ。しかしそんなことを久我に言う訳にもいかず、玲旺は口を引き結んで黙り込む。
ゆらりと目の前の影が揺れた。
暗さに慣れた玲旺の目が、自分に向かって両手を伸ばす久我の輪郭をとらえる。久我の腕の中へ引き寄せられ、優しい声色が玲旺の耳をくすぐった。
「もしかして責任感じてる? さっきも言ったろ、玲旺は気にしなくていいんだって。それよりさ、インタビューの動画観たけど、凄く堂々としていて頼もしかった。『俺たちのトップはこんなに素晴らしいんだぞ』って、誇らしかったよ」
嬉しそうな久我の声を聞き、玲旺も強張った体から少しだけ力を抜いた。
「久我さんたちに、恥をかかせるわけにはいかないからね」
背に回された久我の腕がピクリと動く。久我は笑ったのか溜め息なのか解らないような、曖昧な息を吐いた。
「ねぇ玲旺。そろそろ二人の時は、要って呼んでくれないかな」
今度は玲旺の体がピクリと跳ねる。
恐らくそう呼んだ方が良いのだろうとは思っていたが、なんとなく名前で呼ぶのは抵抗があった。
それは「照れ臭い」とかいう理由ではなく、まだ自分が久我を呼び捨てにできるほど、対等な立場ではないと考えているから。
ちっぽけなプライドだとは自覚していた。それでも、今の状態で久我を要と呼んでしまえば、益々甘えてしまいそうで怖かった。
自分自身の足で地に立てていないうちは、名前で呼びたくない。
「でも……そう呼んじゃうと、うっかり会社でも言っちゃいそうじゃん」
「その時は俺が上手く誤魔化すよ」
久我は玲旺の首に指を這わせ、ワイシャツの下に隠すように身に着けているネックレスを引っ張り出した。ペンダントトップの代わりに、久我と揃いのリングがチェーンに通されている。
リングに唇を寄せた久我の仕草があまりにも色っぽくて、玲旺の心臓がぎゅっと痛んだ。静かに顔を上げた久我と玲旺の視線が交わる。
暗がりでも至近距離にいる久我の表情は良く見えた。と、言うことは、久我からも玲旺の表情を確認することは容易いのだろう。
「なんで泣きそうな顔してるの?」
心配そうに瞳を覗き込まれ、玲旺の心臓はますます跳ねて痛み出す。
「だって、久我さんのことが好き過ぎて」
涙声を隠す為に、ついついぶっきらぼうな物言いになってしまう。
少しの棘を感じ取ったのか、久我が座り込んでいる玲旺の横にひざまずき、寄り添った。
「ごめん。一人で心細かった?」
「そんな訳ないだろ。馬鹿にすんなよ」
暗闇が怖かったわけじゃない。ただ、二人の未来に少しだけ不安を感じてしまっただけだ。しかしそんなことを久我に言う訳にもいかず、玲旺は口を引き結んで黙り込む。
ゆらりと目の前の影が揺れた。
暗さに慣れた玲旺の目が、自分に向かって両手を伸ばす久我の輪郭をとらえる。久我の腕の中へ引き寄せられ、優しい声色が玲旺の耳をくすぐった。
「もしかして責任感じてる? さっきも言ったろ、玲旺は気にしなくていいんだって。それよりさ、インタビューの動画観たけど、凄く堂々としていて頼もしかった。『俺たちのトップはこんなに素晴らしいんだぞ』って、誇らしかったよ」
嬉しそうな久我の声を聞き、玲旺も強張った体から少しだけ力を抜いた。
「久我さんたちに、恥をかかせるわけにはいかないからね」
背に回された久我の腕がピクリと動く。久我は笑ったのか溜め息なのか解らないような、曖昧な息を吐いた。
「ねぇ玲旺。そろそろ二人の時は、要って呼んでくれないかな」
今度は玲旺の体がピクリと跳ねる。
恐らくそう呼んだ方が良いのだろうとは思っていたが、なんとなく名前で呼ぶのは抵抗があった。
それは「照れ臭い」とかいう理由ではなく、まだ自分が久我を呼び捨てにできるほど、対等な立場ではないと考えているから。
ちっぽけなプライドだとは自覚していた。それでも、今の状態で久我を要と呼んでしまえば、益々甘えてしまいそうで怖かった。
自分自身の足で地に立てていないうちは、名前で呼びたくない。
「でも……そう呼んじゃうと、うっかり会社でも言っちゃいそうじゃん」
「その時は俺が上手く誤魔化すよ」
久我は玲旺の首に指を這わせ、ワイシャツの下に隠すように身に着けているネックレスを引っ張り出した。ペンダントトップの代わりに、久我と揃いのリングがチェーンに通されている。
リングに唇を寄せた久我の仕草があまりにも色っぽくて、玲旺の心臓がぎゅっと痛んだ。静かに顔を上げた久我と玲旺の視線が交わる。
暗がりでも至近距離にいる久我の表情は良く見えた。と、言うことは、久我からも玲旺の表情を確認することは容易いのだろう。
「なんで泣きそうな顔してるの?」
心配そうに瞳を覗き込まれ、玲旺の心臓はますます跳ねて痛み出す。
「だって、久我さんのことが好き過ぎて」
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
『田中のおじさま♡』~今夜も愛しのおじさまと濃厚ラブえっち♡♡♡
そらも
BL
過去にとある出逢いを経て知り合った『本名さえもちゃんとわかってない』自分よりも三十二歳も年上のバツイチ絶倫変態スケベおじさまとの濃厚セックスに毎夜明け暮れている、自称平凡普通大学生くんの夜のお話♡
おじさまは大学生くんにぞっこんラブだし、大学生くんもハジメテを捧げたおじさまが大大大っだ~いすきでとってもラブラブな二人でございますぞ♪
久しぶりの年上×年下の歳の差モノ♡ 全体的に変態ちっくですのでどうぞご注意を!
※ R-18エロもので、♡(ハート)喘ぎ満載です。
※ 素敵な表紙は、pixiv小説用フリー素材にて、『やまなし』様からお借りしました。ありがとうございます!
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~
焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。
美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。
スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。
これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語…
※DLsite様でCG集販売の予定あり
専業種夫
カタナカナタ
BL
精力旺盛な彼氏の性処理を完璧にこなす「専業種夫」。彼の徹底された性行為のおかげで、彼氏は外ではハイクラスに働き、帰宅するとまた彼を激しく犯す。そんなゲイカップルの日々のルーティーンを描く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる