会いたいが情、見たいが病

雪華

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◆第三幕 同窓会◆

合縁奇縁②

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「なんで佐伯くんが道案内なんですか?」
「知らなかった? 茶益園って、佐伯くんのご実家だよ」
「ええっ!」

 狭い車内で佐々木は身をよじって陸を見た。陸は気まずそうに目を逸らし、運転手に住所を告げる。

「佐伯くん、なんで今まで黙ってたの」
「別に隠してた訳じゃないよ。聞かれてもないのに、自分から言うのも変でしょ」

 茶葉の売り場に併設したカフェはその後も順調に知名度を上げ、観光ガイドでは定番のグルメスポットとして紹介されるほどになっていた。成海が趣向を凝らして創る和スイーツは、味はもちろん見栄えもいいので、若い女性には特に人気が高い。

「浅草に住んでるって凄いね。実家が観光地だなんて、ちょっと憧れちゃうなぁ」
「大袈裟だよ」
「いやいや、凄いって。いつでも茶益園のスイーツ食べられるなんて、羨まし過ぎるよ」

 佐々木がスマホでメニューを検索し、「何を食べようかな」と悩みだす。羨ましいと言われて悪い気はしない陸は、照れくささを隠すように外を眺めた。窓に映る自分の顔は何だか少しニヤケていて、慌てて口元を引き締める。
 日が傾き始め、夕日に照らされた街並みはどこか慌ただしく見えた。あと三十分も経てば完全に日は落ち、夜の匂いが濃くなるのだろう。

「予約してないけど、大丈夫かな」

 店の前でタクシーを降りると急に不安になったのか、佐々木が陸の袖を引いた。

「うちは甘味しか置いてないから、食事時は逆に空いてるよ」
「ああ、良かった。ここまで来たのに混んでて入れないとか、ショックで立ち直れないもん」

 佐々木が肩まである栗色の髪を耳にかけ、ホッとしたように息を吐いた。深澤は笑いながら、老舗らしい風格のある暖簾をくぐる。きっと彼は店の情報を把握したうえで、今から行こうと提案したのだろう。そんなことを考えつつ、陸も深澤の後に続いた。

「いらっしゃいませ!」

 元気よく挨拶をしたアルバイトの女の子は、深澤の背後にいた陸を見て「おや?」と言うような顔をした。

「陸さん、おかえりなさい」
「ただいま。カフェに三名って入れます?」
「大丈夫ですよ。ご友人と一緒なんて珍しいですね。女将さんお呼びしますか?」
「いい、いい。呼ばないで」

 ぶんぶん首を振る陸に、アルバイトの子は可笑しそうに「はぁい」と返事をする。案内された席に着き、深澤が開いたメニューから顔を上げた。

「佐伯くんのおすすめは?」
「甘いのが苦手でなければ新作ですかね。生茶のゼリーは定番なので、こちらもおすすめですよ」
「じゃあ俺は定番メニューにしようかな」
「私は新作で!」

 オーダーを済ませて今日の成果を話している最中も、陸は何だか落ち着かなかった。
 調理場から出来上がったスイーツを両手に持ち、満面の笑みでこちらに向かってくる成海の姿が見えて、陸は気恥ずかしさに顔を覆いたくなる。ふと、授業参観や三者面談を思い出してしまった。

「弟がいつもお世話になっております」

 成海が笑顔で頭を下げる。陸は成海の運んで来たものの配膳を手伝いながら、「兄の成海です」と深澤と佐々木に紹介をした。
 深澤は直ぐに立ち上がり、名刺を差し出す。

「こちらこそ、佐伯くんにはいつもお世話になっております。今日は市場調査も兼ねてお邪魔させて頂きました。もし茶益園さんの抹茶ソース、商品化などお考えでしたら、その時は是非お手伝いさせてください」

 こういう時でも抜け目ないなと、陸は感心してしまう。

「商品化は今のところ考えておりませんが、もし機会があればよろしくお願いしますね」

 可能性を残しつつ、やんわり深澤の申し出を辞退する成海の答え方も、商売人らしいなと陸は思った。 

「では、ごゆっくり」

 調理場へ下がる成海の背中を見ながら、「佐伯くんとお兄さん、似てるね」と佐々木に言われ、陸はくすぐったいような顔をする。

「これ、甘過ぎなくて美味いなぁ。それにしても、久しぶりに浅草に来たよ。少し観光して帰ろうかな」

 生茶のゼリーを口に運びながら、深澤が楽しそうに笑う。深澤の言葉に佐々木も頷いた。

「パフェも絶品ですよ。あっ、私も観光したいです」
「じゃあ、俺が案内しましょうか」
「いいの? 地元の人に案内して貰えるなんて有難いよ」

 構いませんよ、と陸は笑顔で答える。浅草に興味を持ってもらえるのは、素直に嬉しい。
 店を出た後、二人の要望で浅草寺と仲見世を案内した陸は、「他に行きたいところは?」と尋ねた。

「私、花やしきも見てみたい。外からチラッと眺めるだけで良いから。昔ながらの建物好きなんだよね」
「うん、いいよ」

 浅草寺の横を通り抜けようとした陸は、いつもの癖で大衆劇場に向かってしまった。ハッと気づいて角を曲がろうとした時、佐々木が「あの花と提灯に囲まれた建物はなぁに」と指さす。

「あれは、大衆劇場。芝居小屋だよ」
「へぇ、大衆劇場」

 深澤も興味を持ったようで、劇場の前に立つ看板を見上げた。

「物凄く綺麗な役者さんがいるなぁ。お。今、舞台の真っ最中じゃん」
「えっ、お芝居観れるんですか。行きましょうよ! 凄く浅草っぽい」

 佐々木まで乗り気になってしまい、陸は慌てて二人を引き留める。
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