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あなたは何タイプ?③
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ここまで三人の描いた絵を見せ合ってきたわけだが…。
遂にこの時が来てしまった。世界の終焉の時が。
「なんだかとっても失礼なことを考えているような顔をしているね?レイ。」
「いやなにも?」
「この中で一番絵を描いている経験があるってことよね?ウィル、早く見せてよ!」
「ゆ、ユイさん…。悪いことは言わないから、その…ちょっと距離を取ってみたほうが…。」
絵を見るのに距離を取る。決して目を労わってのことではない。
労わるのは精神だ。
それぞれの思いを抱え、満を持してウィルの描いた絵が目の前に…。
「「「…。」」」
「どう?何が感じ取れた?」
バーン、と自信満々に掲げられた絵を確認したオレたち。ニコニコと好評を待ちわびているウィルとは対照的に、オレたち三人は一言も発していなかった。
「…おい、大丈夫かユイ。」
「…はっ。」
「い、意識が戻ってきたみたい…。よかった…。」
「本当に失礼だな。」
「こ、これは、一体…。何が描かれているの…!?」
震える手で指をさすユイ。その表情は引き攣っている。
気持ちは察するぞ。少し前までの能天気な自分を殴ってしまいたい気分だろう。
「何って…風景画だけど?」
「私が見ている世界の太陽に、顔なんてついてません!」
そう、なぜかウィルの奴が描く絵に登場するやつは、無機物だろうが関係なく表情が付与されているのだ。しかもそれがニコニコ笑っているものならばいいが、なぜかバキバキに見開いているものがほとんどだ。
お前にはこの世界どう見えてんだよ…。
「太陽はいつも空の上から俺たちを見守ってます、って気持ちを込めて描いているんだけど。」
「このかっ開いた目じゃ見守るというより監視してんだろ。」
「ち、小さい失敗も、絶対に見逃してくれなさそう…。」
「しかも何!?この迫りくる無数の手は!誰か連れ去ろうとでもしてるの、この太陽とやらは!」
「ち、違うよ!これは降り注ぐ日の光を、温かく差し伸べられる手として表現してるだけで…。」
「どう見ても砂糖菓子で子供を誘拐しようとしている不審者の手。」
「な、なんて恐ろしい…!」
「もうレイ、アレックス!お前たち黙っててくれよ!!」
「しかもこの周りの木!全部こっちを見て狂気じみた笑みを浮かべてるんだけど!?」
「えぇ!?これは木々のざわめきが歓声となって俺たちをいつでも歓迎してくれている、って表現なんだけど。」
「どう見ても『生贄が来たぞ』って歓喜しているようにしか見えない。」
「き、気がついたらこいつらに取り囲まれてて、逃げられなさそう…。」
「だから!変こと言うなって!!」
想像していた反応が返ってこないことに、さすがのウィルも焦っているようだ。いや、ユイに本気でドン引きされていることが堪えている、といった方が正しいだろうか。
オレとアレックスには慣れたように返しているが、ユイに対しては必死に説明している。だがなウィル、その必死さが時には狂気的にも見えるもんなんだぜ…。ユイとの物理的な距離を見ろ。
めっちゃ遠い。
「どうして伝わらないかな…。」
「ここにはお前と同じような感性の人間はいないってことだな。…あと少なくとも、『風景画』っていって描いててこんな感じの作品にはならない。」
「そんな…。」
「やぁ四人ともお揃いで!何をしているんです?」
「わぁ!」
まったく相手にされないどころか距離を取られてしまっていることにショックを受け、肩を落としているウィルの背後に、急に人が生えた。
誰がって、王子が。
「うわ出た!」
「カイン王子!」
「声を小さくしてくれますか、目立ちたくないもので。…その反応、人を何だと思っているのでしょうか?」
「いやだって…王子ともあろう人がこんなところにいるなんてよ…。」
「まぁこれにはきちんとした理由があってですね。」
「理由。」
「えぇ。」
王子が言うには。先のハナビが街で大きな話題となってしまい、オレたちが城で説明をする羽目になったんだが…。その時にこの王子がそういった文化があるなら見てみたいと、オヤカタとの橋渡しを持ちかけてきたのだ。もちろんオヤカタに説明したらあの性格だ。快諾してくれて早々に王子との謁見となった。そこへ同席はしなかったのだが、風の噂でオヤカタの技を芸術でと絶賛したとか何とか…。そこから正式に、今後その技術のお披露目を依頼したいといろいろ動き出している、ということなんだそうだ。
「…ということで、突貫とはいえハナビが披露されたこの広場を視察しようというわけです。」
「なるほど、ある意味公務というわけね。…お付きの人は?」
「彼らは忙しいみたいでしたから!」
「置いてきたのか。」
「結局抜け出してるんじゃない!」
城の奴らには同情するぜ。今頃大騒ぎになっているだろう。
「でもこうして、実際にハナビに立ち会った四人に出会えたのは幸運です!いろいろ話を聞きたいですから。」
「オレたちに話せることは、もう十分話したと思うが…。」
「何度聞いても聞き足りません!…ところで、みなさんここで何を?」
「あ、えと…その、やっと涼しくなったから、絵でも描いて、ゆっくりしないかって…。」
「絵。いいですねぇ、芸術です!芸術は心を豊かにしてくれますからね。それぞれ描いていたんですか?ちょっと見せていただけます?」
「え、あ、ちょっと…!」
抵抗する間もなく、王子はオレたちの手に握られていた絵をサッと取り上げてしまった。
これはまずい。
オレたちの気持ちは全く伝わらず、王子はうんうんと頷きながら誰かしらが描いた絵に目を通している。そして、恐れたいたことが…。
「…こ、これは…っ!」
誰かの絵を目にした途端、王子が動きを止める。いや誰の絵なんてわかりきったことだ。
終わった。約一名を除いたオレたちの心が一致した瞬間だった。
遂にこの時が来てしまった。世界の終焉の時が。
「なんだかとっても失礼なことを考えているような顔をしているね?レイ。」
「いやなにも?」
「この中で一番絵を描いている経験があるってことよね?ウィル、早く見せてよ!」
「ゆ、ユイさん…。悪いことは言わないから、その…ちょっと距離を取ってみたほうが…。」
絵を見るのに距離を取る。決して目を労わってのことではない。
労わるのは精神だ。
それぞれの思いを抱え、満を持してウィルの描いた絵が目の前に…。
「「「…。」」」
「どう?何が感じ取れた?」
バーン、と自信満々に掲げられた絵を確認したオレたち。ニコニコと好評を待ちわびているウィルとは対照的に、オレたち三人は一言も発していなかった。
「…おい、大丈夫かユイ。」
「…はっ。」
「い、意識が戻ってきたみたい…。よかった…。」
「本当に失礼だな。」
「こ、これは、一体…。何が描かれているの…!?」
震える手で指をさすユイ。その表情は引き攣っている。
気持ちは察するぞ。少し前までの能天気な自分を殴ってしまいたい気分だろう。
「何って…風景画だけど?」
「私が見ている世界の太陽に、顔なんてついてません!」
そう、なぜかウィルの奴が描く絵に登場するやつは、無機物だろうが関係なく表情が付与されているのだ。しかもそれがニコニコ笑っているものならばいいが、なぜかバキバキに見開いているものがほとんどだ。
お前にはこの世界どう見えてんだよ…。
「太陽はいつも空の上から俺たちを見守ってます、って気持ちを込めて描いているんだけど。」
「このかっ開いた目じゃ見守るというより監視してんだろ。」
「ち、小さい失敗も、絶対に見逃してくれなさそう…。」
「しかも何!?この迫りくる無数の手は!誰か連れ去ろうとでもしてるの、この太陽とやらは!」
「ち、違うよ!これは降り注ぐ日の光を、温かく差し伸べられる手として表現してるだけで…。」
「どう見ても砂糖菓子で子供を誘拐しようとしている不審者の手。」
「な、なんて恐ろしい…!」
「もうレイ、アレックス!お前たち黙っててくれよ!!」
「しかもこの周りの木!全部こっちを見て狂気じみた笑みを浮かべてるんだけど!?」
「えぇ!?これは木々のざわめきが歓声となって俺たちをいつでも歓迎してくれている、って表現なんだけど。」
「どう見ても『生贄が来たぞ』って歓喜しているようにしか見えない。」
「き、気がついたらこいつらに取り囲まれてて、逃げられなさそう…。」
「だから!変こと言うなって!!」
想像していた反応が返ってこないことに、さすがのウィルも焦っているようだ。いや、ユイに本気でドン引きされていることが堪えている、といった方が正しいだろうか。
オレとアレックスには慣れたように返しているが、ユイに対しては必死に説明している。だがなウィル、その必死さが時には狂気的にも見えるもんなんだぜ…。ユイとの物理的な距離を見ろ。
めっちゃ遠い。
「どうして伝わらないかな…。」
「ここにはお前と同じような感性の人間はいないってことだな。…あと少なくとも、『風景画』っていって描いててこんな感じの作品にはならない。」
「そんな…。」
「やぁ四人ともお揃いで!何をしているんです?」
「わぁ!」
まったく相手にされないどころか距離を取られてしまっていることにショックを受け、肩を落としているウィルの背後に、急に人が生えた。
誰がって、王子が。
「うわ出た!」
「カイン王子!」
「声を小さくしてくれますか、目立ちたくないもので。…その反応、人を何だと思っているのでしょうか?」
「いやだって…王子ともあろう人がこんなところにいるなんてよ…。」
「まぁこれにはきちんとした理由があってですね。」
「理由。」
「えぇ。」
王子が言うには。先のハナビが街で大きな話題となってしまい、オレたちが城で説明をする羽目になったんだが…。その時にこの王子がそういった文化があるなら見てみたいと、オヤカタとの橋渡しを持ちかけてきたのだ。もちろんオヤカタに説明したらあの性格だ。快諾してくれて早々に王子との謁見となった。そこへ同席はしなかったのだが、風の噂でオヤカタの技を芸術でと絶賛したとか何とか…。そこから正式に、今後その技術のお披露目を依頼したいといろいろ動き出している、ということなんだそうだ。
「…ということで、突貫とはいえハナビが披露されたこの広場を視察しようというわけです。」
「なるほど、ある意味公務というわけね。…お付きの人は?」
「彼らは忙しいみたいでしたから!」
「置いてきたのか。」
「結局抜け出してるんじゃない!」
城の奴らには同情するぜ。今頃大騒ぎになっているだろう。
「でもこうして、実際にハナビに立ち会った四人に出会えたのは幸運です!いろいろ話を聞きたいですから。」
「オレたちに話せることは、もう十分話したと思うが…。」
「何度聞いても聞き足りません!…ところで、みなさんここで何を?」
「あ、えと…その、やっと涼しくなったから、絵でも描いて、ゆっくりしないかって…。」
「絵。いいですねぇ、芸術です!芸術は心を豊かにしてくれますからね。それぞれ描いていたんですか?ちょっと見せていただけます?」
「え、あ、ちょっと…!」
抵抗する間もなく、王子はオレたちの手に握られていた絵をサッと取り上げてしまった。
これはまずい。
オレたちの気持ちは全く伝わらず、王子はうんうんと頷きながら誰かしらが描いた絵に目を通している。そして、恐れたいたことが…。
「…こ、これは…っ!」
誰かの絵を目にした途端、王子が動きを止める。いや誰の絵なんてわかりきったことだ。
終わった。約一名を除いたオレたちの心が一致した瞬間だった。
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