28歳、曲がり角

ふくまめ

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日本人お得意のあれで乗り切れ

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職場での説明以上に、神経を使ったのは実は家族への説明であったことを、ここに残しておく。

「今日の病院どうだった?説明聞いてきたんでしょ?」
「うん…。」

病院に通っている以上、常々検査の状況を伝えていたので、『今日聞いた検査結果どうだった?』と最近では当たり前の日常会話となっていた。なっていたのだが、今回に関してはその説明をするのが気が重い。

「…どうかした?」
「…うーん、なんというか…。ちょっと説明が難しくってさ。まぁ簡単に言うと、私の心臓は、生まれつき形がちょっと普通と違うんだってさ。」
「…え?」

想像していなかったであろう、私の返事に母さんが固まる。…まぁそうなるよな。

「それがこの間の意識消失の原因って言いきれないみたいなんだけど、もう少し詳しく検査してみたいんだって。それでさ…。」
「待って待って待って。…普通じゃないって、何?どういうこと?」
「…うちの心臓、血液が逆流しないように付いている弁が、普通の人と位置が違うんだって。それが原因で、心臓に負担かけているってことは、あるみたい。」
「…。」

できるだけ何でもないように説明したつもりだけど、母さんは呆然としてしまっていた。…そんな風になってほしくなかったんだけどな。何を想像しているのか、なんとなくわかってしまう。

「…ま、なんにせよもう少し病院通いは続くみたいだからさ。気長に行こーって感じ。」
「…そっか。」

へらへら笑って、手を洗ってくると洗面所へと向かう。もう夕方だ。晩御飯の準備、手伝わないと。
洗面台の鏡を見ると、そこに映っているのはいつも通り、平々凡々のだらしない顔。面倒なことは、適当に笑ってごまかすに限る。考えなしのバカなふりして生きていた方が、楽に過ごせるってもん。
視線は自分の左胸にスライド。この中に、あの心臓が。白黒の画像がよみがえる。
何で、よりによって心臓なのだろうか。
せめて別の臓器だったら、母さんは…。
いや、やめよう。

「なんかさぁ、こないだの検査の時も思ったけど、エコー検査中に自分の心臓が見れるんだと思ってわくわくしてたのにさぁ…。結局検査中ずっと壁しか見てなかったわ、がっかり。」
「…検査楽しんでるなぁ。」
「だってつまんないんだもん、基本的に黙って寝転がってるだけだし。あーあ、ドラマみたいの想像してたのになぁ。」
「また検査するんでしょ?」
「うん。だから今後に期待。」
「なにそれ。」

わざとらしくぶすくれてみせると、母さんの雰囲気が柔らかくなる。
大丈夫だよ、うちの体調なんて何でもない。
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