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Ex.それからの事とこれからの事
幸せ太り
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今日は久しぶりに虹の国に2人そろってボランティアに行く日。最近坂本さんは忙しくて、なかなか参加できていなかったからな。この前多頭飼育崩壊の現場からヘルプ要請が来て、結構な数の新入りが来て人手が欲しかったから、福沢さんも喜んでた。いつも通り支度をしていると、坂本さんは何度も姿見で服装を確認していた。
「…どうかしたんすか?」
「え、あぁ、ううん!何でもない、何でもないよ!」
「はぁ…。」
「…その、変じゃない?」
「…どこが?」
「…じゃあいいんだけど…。」
何となく歯切れが悪い。変かどうか聞かれても…ボランティアの時に着ている動きやすそうな服装はいつも通りだし、顔色とかも悪くなさそうだ。…俺には分からないが、何か変化でもあったのだろうか。
「坂本さーん!お久しぶりー!あ、リョウ君お疲れ。」
「福沢さん、なかなか来れなくてすみません。」
仲良く話すのはいいが…。扱いに差が出ているんですがねぇ、福沢さん。
「あ、坂本さん!お疲れ様ですー。何だか久しぶりって感じ…って何々?」
「あ、アヤカさん、お久しぶりです…!ちょっとこちらに…!」
今日はアヤカさんも来ていたのか。何となくテンションが高めの福沢さんに納得。しかしなぜか福沢さんがアヤカさんに食いつくよりも先に、坂本さんがアヤカさんを連れて人気のない奥に引っ込んでしまった。福沢さんが伸ばした手が虚しく空中に残されている。
「…何?坂本さん、何かあったの?」
「いや、よくは…。家出る前に変なとこないかって、聞かれはしましたけど。」
「ふーん…。」
「俺には何か変わっているようには見えなかったすけど…。」
「女性同士でなら何か分かるのかも…って?まぁオレにも何か変わったようには見えなかったなぁ。」
「はぁ…。」
男どもには、女の人の小さな変化には気がつけないってことなのだろうか…。
「坂本さんったら、そこまで気にすることないって!大丈夫ですよぉ!」
「そ、そうかな…。」
「あ、帰って来た。アヤちゃーん!どうかしたのー?」
「福沢さん、乙女の話の内容を聞き出そうなんて野暮ですよ。乙女の秘密ですよ、ねー?」
「ね、ねー。」
「えー、何か寂しい…。」
「福沢さんが女の子だって言うなら。混ぜてあげてもいいですけどね!」
「アヤカさん、おっさん相手に何言ってんすか。冗談きついっす。」
「おっさんじゃないよ、お兄さんだよ!まだ若いんですぅ!」
その日は結局「何歳からおじさん、おばさんに区分されるのか」ということを話し合いながら作業をすることになってしまった。最終的に「年齢で分けられるべきものではなく、その人の精神や心のありようによって判断されるべきである」ということになった。…これ結論出なかったってことだよな。何だよ心のありようって。
そろそろ帰ろうかという時間、車を回してこようと坂本さんに断って先に出る。その時、アヤカさんがこっそりと俺を手招きして呼んでいた。
「…どうしたんすか?」
「さっきの坂本さんの話、一応伝えておこうかと思って。」
「…俺乙女じゃないすんすけど。」
「んなことわかっとるわ。…坂本さんね、最近体重増えたって気にしてたみたいなんだよね。」
「…はぁ。」
「世の中には『幸せ太り』なんて言ったりもするし、今が満ち足りてて幸せだからじゃないですか?って言ってはみたんだけどね。というか、坂本さん別に太ってない。あれは元が細かっただけ。今が普通の体系なだけ。」
「そっすか…。」
「まぁあんま気にしないでほしいからさ、うまいことフォローしてよ。」
「俺がっすか。いやそれは…。」
「一緒に住んでんだからそれくらい何とかしてよ。『いつも通り可愛いです』とかなんとか言ってさぁ。」
「そんなの言ったことないっすよ。」
「まぁ気にしてたらでいいからさ!よろしくー。」
情況があまり飲み込めないまま、アヤカさんは言うだけ言って中に戻って行ってしまった。追いかけようにも入れ違うように坂本さんが出てきてしまったので、帰路に就くことに。何をどうすればいいんだよ。
「久しぶりで新しい子がたくさんいましたねー。」
「この間の多頭飼育崩壊の現場、まだ途中でこれからまた増えるかもしれないって、福沢さんが。」
「そ、そうなんですか。難しい問題ですしね…。」
今回の現場には複数の団体が協力しているそうだが、なかなか数が多くて一気に進められず、徐々に保護した猫たちを振り分けている状態なのだそうだ。いくらでも受け入れられるわけじゃないし、猫たちの健康状態も見ながら慎重に行っているとのこと。
慎重に行いたいのはこちらの件もそうなのだが。何だよ幸せ太りって。むしろ毎日が忙しくて不愛想な同居人がいて、坂本さんにとってはストレス過多な状態なのではなかろうか。…まさかそれが原因で、知らず知らず暴飲暴食をしてしまっていた、とか?そうだとしたら大変申し訳ないことに…。
「…あ、黒沢さん!今日帰りに寄りたいところがあるんですが、いいでしょうか。」
「もちろんいいっす…。」
「ありがとうございます!この際の信号を曲がってもらって…この通りをさらに左です。そしたら、左側にあるはず…ありました!あれです!」
「…『お菓子工房 ひまわり』…?」
「はい!最近できたお菓子屋さんなんです。ここのクッキーが話題で…。すぐ戻ってきます!」
早口にそう告げると、お菓子が売っているであろう店内にダッシュで向かっていってしまった。車と共に駐車スペースに残された俺は、少しぼんやりと店の外観を眺める。そう大きくはない店だが、綺麗な店だと思う。暖かそうな色味の店内には、ガラスケースに入ったお菓子が見える。…女性客が多いな。坂本さんが言うように、話題になっているってのは本当なんだろうな。
少しして、会計が済んだであろう坂本さんが戻って来た。…抱えている袋、ちょっと大きくないか。
「お待たせしました!これ、黒沢さんに。」
「え、ども…。これって…。」
坂本さんが袋から取り出して俺に渡してきたのは、可愛らしくラッピングされたクッキーだった。これが例の話題のやつ、なんだろうか。というか、この形は…。
「可愛いですよね!猫ちゃんの形なんですよ!あのお店はいろんな動物のクッキーがあって、『うちの子に似てる!』ってお客さんが多いんだそうです。やっと念願叶いました…!」
「はぁ…。んで、その袋って、まさか…。」
「クッキー以外にも可愛くておいしそうなものがたくさん並んでいたので!あ、肉球の形のもありますよ!」
あれもこれもと楽し気に戦利品を紹介する坂本さんを見て、これが幸せ太りってやつか、と納得した。
「…どうかしたんすか?」
「え、あぁ、ううん!何でもない、何でもないよ!」
「はぁ…。」
「…その、変じゃない?」
「…どこが?」
「…じゃあいいんだけど…。」
何となく歯切れが悪い。変かどうか聞かれても…ボランティアの時に着ている動きやすそうな服装はいつも通りだし、顔色とかも悪くなさそうだ。…俺には分からないが、何か変化でもあったのだろうか。
「坂本さーん!お久しぶりー!あ、リョウ君お疲れ。」
「福沢さん、なかなか来れなくてすみません。」
仲良く話すのはいいが…。扱いに差が出ているんですがねぇ、福沢さん。
「あ、坂本さん!お疲れ様ですー。何だか久しぶりって感じ…って何々?」
「あ、アヤカさん、お久しぶりです…!ちょっとこちらに…!」
今日はアヤカさんも来ていたのか。何となくテンションが高めの福沢さんに納得。しかしなぜか福沢さんがアヤカさんに食いつくよりも先に、坂本さんがアヤカさんを連れて人気のない奥に引っ込んでしまった。福沢さんが伸ばした手が虚しく空中に残されている。
「…何?坂本さん、何かあったの?」
「いや、よくは…。家出る前に変なとこないかって、聞かれはしましたけど。」
「ふーん…。」
「俺には何か変わっているようには見えなかったすけど…。」
「女性同士でなら何か分かるのかも…って?まぁオレにも何か変わったようには見えなかったなぁ。」
「はぁ…。」
男どもには、女の人の小さな変化には気がつけないってことなのだろうか…。
「坂本さんったら、そこまで気にすることないって!大丈夫ですよぉ!」
「そ、そうかな…。」
「あ、帰って来た。アヤちゃーん!どうかしたのー?」
「福沢さん、乙女の話の内容を聞き出そうなんて野暮ですよ。乙女の秘密ですよ、ねー?」
「ね、ねー。」
「えー、何か寂しい…。」
「福沢さんが女の子だって言うなら。混ぜてあげてもいいですけどね!」
「アヤカさん、おっさん相手に何言ってんすか。冗談きついっす。」
「おっさんじゃないよ、お兄さんだよ!まだ若いんですぅ!」
その日は結局「何歳からおじさん、おばさんに区分されるのか」ということを話し合いながら作業をすることになってしまった。最終的に「年齢で分けられるべきものではなく、その人の精神や心のありようによって判断されるべきである」ということになった。…これ結論出なかったってことだよな。何だよ心のありようって。
そろそろ帰ろうかという時間、車を回してこようと坂本さんに断って先に出る。その時、アヤカさんがこっそりと俺を手招きして呼んでいた。
「…どうしたんすか?」
「さっきの坂本さんの話、一応伝えておこうかと思って。」
「…俺乙女じゃないすんすけど。」
「んなことわかっとるわ。…坂本さんね、最近体重増えたって気にしてたみたいなんだよね。」
「…はぁ。」
「世の中には『幸せ太り』なんて言ったりもするし、今が満ち足りてて幸せだからじゃないですか?って言ってはみたんだけどね。というか、坂本さん別に太ってない。あれは元が細かっただけ。今が普通の体系なだけ。」
「そっすか…。」
「まぁあんま気にしないでほしいからさ、うまいことフォローしてよ。」
「俺がっすか。いやそれは…。」
「一緒に住んでんだからそれくらい何とかしてよ。『いつも通り可愛いです』とかなんとか言ってさぁ。」
「そんなの言ったことないっすよ。」
「まぁ気にしてたらでいいからさ!よろしくー。」
情況があまり飲み込めないまま、アヤカさんは言うだけ言って中に戻って行ってしまった。追いかけようにも入れ違うように坂本さんが出てきてしまったので、帰路に就くことに。何をどうすればいいんだよ。
「久しぶりで新しい子がたくさんいましたねー。」
「この間の多頭飼育崩壊の現場、まだ途中でこれからまた増えるかもしれないって、福沢さんが。」
「そ、そうなんですか。難しい問題ですしね…。」
今回の現場には複数の団体が協力しているそうだが、なかなか数が多くて一気に進められず、徐々に保護した猫たちを振り分けている状態なのだそうだ。いくらでも受け入れられるわけじゃないし、猫たちの健康状態も見ながら慎重に行っているとのこと。
慎重に行いたいのはこちらの件もそうなのだが。何だよ幸せ太りって。むしろ毎日が忙しくて不愛想な同居人がいて、坂本さんにとってはストレス過多な状態なのではなかろうか。…まさかそれが原因で、知らず知らず暴飲暴食をしてしまっていた、とか?そうだとしたら大変申し訳ないことに…。
「…あ、黒沢さん!今日帰りに寄りたいところがあるんですが、いいでしょうか。」
「もちろんいいっす…。」
「ありがとうございます!この際の信号を曲がってもらって…この通りをさらに左です。そしたら、左側にあるはず…ありました!あれです!」
「…『お菓子工房 ひまわり』…?」
「はい!最近できたお菓子屋さんなんです。ここのクッキーが話題で…。すぐ戻ってきます!」
早口にそう告げると、お菓子が売っているであろう店内にダッシュで向かっていってしまった。車と共に駐車スペースに残された俺は、少しぼんやりと店の外観を眺める。そう大きくはない店だが、綺麗な店だと思う。暖かそうな色味の店内には、ガラスケースに入ったお菓子が見える。…女性客が多いな。坂本さんが言うように、話題になっているってのは本当なんだろうな。
少しして、会計が済んだであろう坂本さんが戻って来た。…抱えている袋、ちょっと大きくないか。
「お待たせしました!これ、黒沢さんに。」
「え、ども…。これって…。」
坂本さんが袋から取り出して俺に渡してきたのは、可愛らしくラッピングされたクッキーだった。これが例の話題のやつ、なんだろうか。というか、この形は…。
「可愛いですよね!猫ちゃんの形なんですよ!あのお店はいろんな動物のクッキーがあって、『うちの子に似てる!』ってお客さんが多いんだそうです。やっと念願叶いました…!」
「はぁ…。んで、その袋って、まさか…。」
「クッキー以外にも可愛くておいしそうなものがたくさん並んでいたので!あ、肉球の形のもありますよ!」
あれもこれもと楽し気に戦利品を紹介する坂本さんを見て、これが幸せ太りってやつか、と納得した。
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