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出会いはご縁ですから⑤
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「うーん、何かいい案はないものか…。」
「…福沢さんが考える事って碌なもんなさそう。」
「何ですって、リョウ君?もう1回言ってごらんなさい?」
「うーごめんなさい坂本さん。なかなかいい方法思いつかなくて…。」
「いえそんな。皆さんの相談できるだけでもかなり心強いです!」
「坂本さん…!うん、今すぐじゃなくってもこれからいい考えが浮かぶかも!ということで、連絡先交換しましょう?」
「そうだね!…リョウ君もだからね。」
「はいはい…。」
これといった考えも思いつかず、一旦連絡先の交換を先に済ませることにした俺たち。代わる代わるスマホを差し出すが、坂本さんが操作にもたついていたので結局代わりに俺が操作した。SNSこれしか使ってないって言ってたのに、この操作すらできなかったら生活に支障出るだろ…!
「ありがとうございました!」
「何かあったら、すぐに連絡してくださいね!」
「気軽に連絡ちょうだーい。」
「…っす。」
「嬉しいです。これで猫友ってやつですかね?」
「そうだそうだ!アタシたち、猫友!」
「「猫友ー!!」」
何か知らんが一致団結したところで全員しっかり交換できていることを確認し、再び話し合いへと戻る。
「結局、できるだけお安い宿でしのぎつつできるだけ早く新しい部屋に入居する、ってのが現実的なのかなぁ。」
「そうなりますかね…。アタシが力になれればよかったんですけど…すみません!」
「とんでもない、急にお話しているのはこっちですから。」
「…俺の部屋、坂本さんさえよければ、貸します。」
「「…へ?」」
「い、いいんです?」
「…坂本さんさえよければ。」
遂に言ってしまった。自ら面倒事に突っ込んでしまったという自覚がはっきりとある。福沢さんとアヤカさんも、目を見開いてこっちを見ている。
「えっと、リョウ君?最初に焚きつけておいてなんだけど、ホントに大丈夫?」
「俺の寝室を坂本さんに貸します。俺はリビングで寝起きしたっていいし。…でも何より、坂本さんがいいなら、ですけど。」
「…そう言ってるけど、どう?坂本さん。」
緊張の一瞬。提案したものの、当然採用するかは坂本さんに委ねられる。正直、そこまで俺の部屋のこだわる理由はないと思うし…。
「…できるだけ短い期間で済むよう頑張りますので、またよろしくお願いします。」
「おー!」
「さ、坂本さん。大丈夫ですか?こう見えて、一応リョウ君男の子だよ?」
「一応って何だよ。どっからどう見ても男だろ。」
「だってさぁ!普通襲われないかって心配するもんじゃないの!?」
「「そんなことしねーわ!(しません!)」」
「えー、リョウ君が否定するのは分かるけど坂本さんまでー?」
「福沢さん、黒沢さんは本当に良い方です!あの日見ず知らずの私を拾ってくださった恩人なんです!そんなことするはずありません!!自分で言うのもなんですが、あんな怪しい人物警察に突き出しても文句は言えない状況でした。それなのに私を部屋に上げてくださって、一文無しの私に食事まで用意して下さって…。こんなに優しい方、今までお会いしたことありません。昔からの付き合いのある福沢さんもご存じだと思いますが…。」
「坂本さん坂本さん、そこまでにしておいてあげて。黒沢さん机にめり込んじゃうから。」
福沢さんに向かって、俺がどれだけ優しい人なのかを語って見せる坂本さんを前にさすがに顔を上げていられなくなる。よくまぁそんなに言葉が出てくるもんだ。福沢さん引いてるじゃん。どこまでも続く誉め言葉に耐えられなくなり机に突っ伏したところで、審判よろしくアヤカさんが止めに入ってくれた。ありがとうアヤカさん、すでに俺はノックアウト寸前です。アヤカさんに話しかけられて正気に戻ったのか、坂本さんはわざとらしく咳払いをして上げかけていた腰を下ろす。
「し、失礼しました…。とにかく、私が心配しているのは黒沢さんのご迷惑にならないのかって部分だけです。」
「その点は問題ないっす。…多少不便になるかもしんないっすけど。」
「問題ありません!」
「…まぁ2人がいいって言うなら、オレからは何も言えないよ。」
「えー坂本さん、本当に大丈夫ですか?男はみんな狼なんですよ?」
「おい。」
「あはは、アヤカさんは私より若いのによくそのワード知ってますね。」
「ん?そういえば、坂本さんっておいくつ…あ、言いたくなかったらいいんですけど!」
「あぁそうでした!そのことについてもお話があったんでした。…改めまして、私の身元を証明しようかと。」
ゴソゴソとバッグを漁ると、坂本さんは小さなカードを差し出してきた。3人でのぞき込むと、それは見慣れた運転免許証。顔写真と共に個人情報が記載されている。
坂本明里…28歳。
「「「28!?」」」
「身元がよく分からないというのもどうかと思いまして、遅くなってしまいましたが。」
「いや28!?本当にアタシより年上!?…見えないわぁ。」
「落ちついてるけどねぇ…。言動の問題かな?」
「俺に言われても…。」
「…何だか失礼なこと言われている気がするのですが?」
「いやいや若く見えるってことだよぉ。羨ましいなぁ!」
「…福沢さんが一番年上っすね。」
「何が言いたいの?」
「黒沢さん、この年頃の女性はセンシティブだよ!責任重大だよ!?」
「何がっすか!?」
「…っふふ、あははは!」
「「「?」」」
年齢1つでぎゃいぎゃいと騒ぎ始めた俺たちを見て、坂本さんは1人で笑い始めた。まずい、俺たちのあまりの失言の多さにキレてしまったのかもしれない。普段大人しい人間ほど、怒った時に怖いというのはよく聞く話だ。
「いえ、すみません…!ふふ、こういうのっていいなぁって。大人になって、こんなに楽しい人たちとお友達になれるなんて思っていませんでしたから。猫友、最高です。」
「…そうだ、オレたち猫友は最高なんだ!」
「猫友サイコー!」
「「サイコー!!」」
「もう勝手に言っててくれ…。」
その後記念写真だ何だとまた1つ2つ盛り上がり、今日のところは解散となった。坂本さんが俺の部屋に来ることになったとはいえ、互いに準備が必要とのことで1週間後に共同生活を開始することで話は落ち着いた。今日もまた、俺の車で坂本さんをアパートまで送って行く。
「…本当に良いんですか?お邪魔することになってしまって。」
「何回言うんすかそれ。…いいんす、自分で言ったことだし。」
「黒沢さん、アヤカさんも言っていましたけど自分で抱え込みがちっていうの、何となく分かる気がします。あの場を収めるために名乗り出てくれたんじゃないかって…。」
「そんなんじゃないっす。…俺が坂本さんに声をかけたのが始まりだし、その責任もあるって思ってるのもそうだけど…。」
アパートに着いて、坂本さんが切り出してきた。いや、ここに来るまでにも何回も繰り返した内容だ。俺が嫌々ながら話を受けているのではないかと、心配しているとのことだったが…。今となっては、そんな風に感じていない。そんな自分に自分自身も少し驚いている。
「こういうの、縁って言うんすよね。」
「…はい!こんな形ですが、これも何かのご縁だと私も思います!」
「だったら、それに乗っかってみるのもいいんじゃないかなって。…もちろんお互いが納得し合える程度で。」
「はい!これからよろしくお願いします!」
「…うす。」
アパートの前で手を振って見送ってくれる坂本さんを確認し、車を発進させる。昨日と同じく静かな帰路となったが、打って変わって柄にもなくぽかぽかした気持ちでハンドルを切るのだった。
「…福沢さんが考える事って碌なもんなさそう。」
「何ですって、リョウ君?もう1回言ってごらんなさい?」
「うーごめんなさい坂本さん。なかなかいい方法思いつかなくて…。」
「いえそんな。皆さんの相談できるだけでもかなり心強いです!」
「坂本さん…!うん、今すぐじゃなくってもこれからいい考えが浮かぶかも!ということで、連絡先交換しましょう?」
「そうだね!…リョウ君もだからね。」
「はいはい…。」
これといった考えも思いつかず、一旦連絡先の交換を先に済ませることにした俺たち。代わる代わるスマホを差し出すが、坂本さんが操作にもたついていたので結局代わりに俺が操作した。SNSこれしか使ってないって言ってたのに、この操作すらできなかったら生活に支障出るだろ…!
「ありがとうございました!」
「何かあったら、すぐに連絡してくださいね!」
「気軽に連絡ちょうだーい。」
「…っす。」
「嬉しいです。これで猫友ってやつですかね?」
「そうだそうだ!アタシたち、猫友!」
「「猫友ー!!」」
何か知らんが一致団結したところで全員しっかり交換できていることを確認し、再び話し合いへと戻る。
「結局、できるだけお安い宿でしのぎつつできるだけ早く新しい部屋に入居する、ってのが現実的なのかなぁ。」
「そうなりますかね…。アタシが力になれればよかったんですけど…すみません!」
「とんでもない、急にお話しているのはこっちですから。」
「…俺の部屋、坂本さんさえよければ、貸します。」
「「…へ?」」
「い、いいんです?」
「…坂本さんさえよければ。」
遂に言ってしまった。自ら面倒事に突っ込んでしまったという自覚がはっきりとある。福沢さんとアヤカさんも、目を見開いてこっちを見ている。
「えっと、リョウ君?最初に焚きつけておいてなんだけど、ホントに大丈夫?」
「俺の寝室を坂本さんに貸します。俺はリビングで寝起きしたっていいし。…でも何より、坂本さんがいいなら、ですけど。」
「…そう言ってるけど、どう?坂本さん。」
緊張の一瞬。提案したものの、当然採用するかは坂本さんに委ねられる。正直、そこまで俺の部屋のこだわる理由はないと思うし…。
「…できるだけ短い期間で済むよう頑張りますので、またよろしくお願いします。」
「おー!」
「さ、坂本さん。大丈夫ですか?こう見えて、一応リョウ君男の子だよ?」
「一応って何だよ。どっからどう見ても男だろ。」
「だってさぁ!普通襲われないかって心配するもんじゃないの!?」
「「そんなことしねーわ!(しません!)」」
「えー、リョウ君が否定するのは分かるけど坂本さんまでー?」
「福沢さん、黒沢さんは本当に良い方です!あの日見ず知らずの私を拾ってくださった恩人なんです!そんなことするはずありません!!自分で言うのもなんですが、あんな怪しい人物警察に突き出しても文句は言えない状況でした。それなのに私を部屋に上げてくださって、一文無しの私に食事まで用意して下さって…。こんなに優しい方、今までお会いしたことありません。昔からの付き合いのある福沢さんもご存じだと思いますが…。」
「坂本さん坂本さん、そこまでにしておいてあげて。黒沢さん机にめり込んじゃうから。」
福沢さんに向かって、俺がどれだけ優しい人なのかを語って見せる坂本さんを前にさすがに顔を上げていられなくなる。よくまぁそんなに言葉が出てくるもんだ。福沢さん引いてるじゃん。どこまでも続く誉め言葉に耐えられなくなり机に突っ伏したところで、審判よろしくアヤカさんが止めに入ってくれた。ありがとうアヤカさん、すでに俺はノックアウト寸前です。アヤカさんに話しかけられて正気に戻ったのか、坂本さんはわざとらしく咳払いをして上げかけていた腰を下ろす。
「し、失礼しました…。とにかく、私が心配しているのは黒沢さんのご迷惑にならないのかって部分だけです。」
「その点は問題ないっす。…多少不便になるかもしんないっすけど。」
「問題ありません!」
「…まぁ2人がいいって言うなら、オレからは何も言えないよ。」
「えー坂本さん、本当に大丈夫ですか?男はみんな狼なんですよ?」
「おい。」
「あはは、アヤカさんは私より若いのによくそのワード知ってますね。」
「ん?そういえば、坂本さんっておいくつ…あ、言いたくなかったらいいんですけど!」
「あぁそうでした!そのことについてもお話があったんでした。…改めまして、私の身元を証明しようかと。」
ゴソゴソとバッグを漁ると、坂本さんは小さなカードを差し出してきた。3人でのぞき込むと、それは見慣れた運転免許証。顔写真と共に個人情報が記載されている。
坂本明里…28歳。
「「「28!?」」」
「身元がよく分からないというのもどうかと思いまして、遅くなってしまいましたが。」
「いや28!?本当にアタシより年上!?…見えないわぁ。」
「落ちついてるけどねぇ…。言動の問題かな?」
「俺に言われても…。」
「…何だか失礼なこと言われている気がするのですが?」
「いやいや若く見えるってことだよぉ。羨ましいなぁ!」
「…福沢さんが一番年上っすね。」
「何が言いたいの?」
「黒沢さん、この年頃の女性はセンシティブだよ!責任重大だよ!?」
「何がっすか!?」
「…っふふ、あははは!」
「「「?」」」
年齢1つでぎゃいぎゃいと騒ぎ始めた俺たちを見て、坂本さんは1人で笑い始めた。まずい、俺たちのあまりの失言の多さにキレてしまったのかもしれない。普段大人しい人間ほど、怒った時に怖いというのはよく聞く話だ。
「いえ、すみません…!ふふ、こういうのっていいなぁって。大人になって、こんなに楽しい人たちとお友達になれるなんて思っていませんでしたから。猫友、最高です。」
「…そうだ、オレたち猫友は最高なんだ!」
「猫友サイコー!」
「「サイコー!!」」
「もう勝手に言っててくれ…。」
その後記念写真だ何だとまた1つ2つ盛り上がり、今日のところは解散となった。坂本さんが俺の部屋に来ることになったとはいえ、互いに準備が必要とのことで1週間後に共同生活を開始することで話は落ち着いた。今日もまた、俺の車で坂本さんをアパートまで送って行く。
「…本当に良いんですか?お邪魔することになってしまって。」
「何回言うんすかそれ。…いいんす、自分で言ったことだし。」
「黒沢さん、アヤカさんも言っていましたけど自分で抱え込みがちっていうの、何となく分かる気がします。あの場を収めるために名乗り出てくれたんじゃないかって…。」
「そんなんじゃないっす。…俺が坂本さんに声をかけたのが始まりだし、その責任もあるって思ってるのもそうだけど…。」
アパートに着いて、坂本さんが切り出してきた。いや、ここに来るまでにも何回も繰り返した内容だ。俺が嫌々ながら話を受けているのではないかと、心配しているとのことだったが…。今となっては、そんな風に感じていない。そんな自分に自分自身も少し驚いている。
「こういうの、縁って言うんすよね。」
「…はい!こんな形ですが、これも何かのご縁だと私も思います!」
「だったら、それに乗っかってみるのもいいんじゃないかなって。…もちろんお互いが納得し合える程度で。」
「はい!これからよろしくお願いします!」
「…うす。」
アパートの前で手を振って見送ってくれる坂本さんを確認し、車を発進させる。昨日と同じく静かな帰路となったが、打って変わって柄にもなくぽかぽかした気持ちでハンドルを切るのだった。
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