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拾った責任は持ちましょう
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夜が明けて、朝。酒のせいだけではない頭痛を感じながら起床。寝室と1枚ドアを隔てた先はリビングだ。…昨日の情景を思い出して、1日が始まったばかりだというのに気が重くなる。このまま現実逃避して2度寝したいが、今日の予定を考えればそうもいかない。何より、きなこと大福が腹を空かせて待っている。…あの子猫はどうなっただろうか。
意を決してリビングに入ると、子猫のケージの前に毛布の塊が…!
「うわ…ってあんたか。何してんすか、そんなとこで。」
「あ、黒沢さん。おはようございます。」
「…うっす…。」
「この子の名前考えてたんです。三毛猫だから、みーちゃん?さんちゃん?」
「悪いけど、そいつ引き取ってもらうんで。」
「え?」
「あと、そんなに引っ付いてたら気が休まらないだろ。初めの内は無理に関わらない。ちょっかいかけないで、ゆっくりさせてやった方がいい。」
「そ、そっか。ごめんなさい…。」
「…いや。」
沈黙が痛い。俺が起きてきたことに気がついたきなこと大福が、足元に寄ってきて朝飯を催促している。お前たちの存在が、本当にありがたいよ。
いつものキャットフードを皿に出してやると、あとはもう用済みとばかりに飯にまっしぐら。薄情だなお前ら。子猫の様子も確認すると遠目ながらこちらを見ているのが分かる。警戒しているな、当然だけど。キャットフードと水をそっと入れてやるも、口に入れる様子はない。そうだよな、夜のうちに準備した方がよかったかな…。
「…あの、この子引き取ってもらうって…。」
「本当は、何か病気があるかもしれないから、飼われている猫と一緒にしない方が良かったのかもしれないけど…。緊急事態だったから。本来はしかるべき検査をしないと。」
「で、でも黒沢さんが連れて行ってくれれば…。」
「うちはもう新しく猫飼う余裕はないっす。」
「…そっか…。」
「…だから、お世話になってるところに託します。」
「お世話になっているところ?」
俺の今日の予定。この連休何をしようか、前々から計画立てていたのだが、子猫を拾ったのがその前日だったのは幸いだった。今日はこの後俺がお世話になっている、猫の保護活動を行っている「虹の国」でボランティアをする予定だ。虹の国さんは野良猫の保護活動から譲渡会の開催まで、幅広く行っている団体さんだ。
「飯食ったら、そこに連絡してみないと…。坂本さん、朝飯どうします?」
「あ、お構いなく。私あまり朝食べない性質で。」
「…。」
台所に入ってトースターにパンを2枚セットする。焼きあがる前にリビングのテーブルにジャムやバター、マーガリンを並べる。
「…好きなの選んで。」
「え?いえ、私は…。」
「俺たちが飯食ってる間、待ってるだけなんて暇だろ。パン1枚ぐらいなら食えるでしょ。」
「…。」
「人間朝食わないと体持たないっすよ。」
「…ありがとう。」
チン、と少し気の抜けた音を聞いて台所へ。すると俺の少し後から坂本さんがついてくる。
「あの…何か手伝えること、ありますか?」
「大したもんじゃないし、特には…。」
「何でもいいんです。お世話になりっぱなしだから。」
「…じゃあ、この皿にパン乗せて向こうに持ってって。」
「はい!」
嬉しそうに皿を受け取ってトースターからパンを取り出す。何でそれだけの事なのにそんなにウキウキなの。
トーストをテーブルに並べ、思い思いのトッピングをする。俺はマーガリンを塗ってそれからいちごジャムを重ねて塗る。坂本さんは、王道のバターか。昨日と変わり映えのしないスポーツドリンクをコップに注ぎ、準備ができたら両手を合わせて。
「「いただきます。」」
黙々とパンにかぶりつく。うん、この甘みの中にあるしょっぱさ、絶妙。だけど噛むたびにバターが染み出てくる坂本さんの選択もまた捨てがたい。
「「ごちそうさまでした。」」
食べ始めた時と同様に、両手を合わせて食事を終える。正直腹にはまだ余裕があるが、今日は軽めでいいだろう。トースターが一気に焼けるのは2枚までなんだ。
「…あの、今日の予定って…。」
「あぁ、さっき言ったお世話になっているとこにこいつを預けに行く。その前に電話しとかないとな…。」
残ったスポーツドリンクを飲みながらスマホを操作する。まだ少し早い時間だが、電話に出てくれるだろうか。
「その用事、私もついて行っていいですか!?」
「ンぐへぇ!」
坂本さんに発言に、思わず液体を気管に送り込んでしまった。おおよそ人間が発してはいけない音がした気がする。しかもそのはずみで目的の人物への通話を発信してしまった。既にコールは鳴っている。頼むから出ないでくれ、この瞬間だけでいいから。
『…もしもし?』
液体を押し戻そうと必死に咳き込んで、若干酸欠気味になりながらの祈りは届かなかったようだ。
意を決してリビングに入ると、子猫のケージの前に毛布の塊が…!
「うわ…ってあんたか。何してんすか、そんなとこで。」
「あ、黒沢さん。おはようございます。」
「…うっす…。」
「この子の名前考えてたんです。三毛猫だから、みーちゃん?さんちゃん?」
「悪いけど、そいつ引き取ってもらうんで。」
「え?」
「あと、そんなに引っ付いてたら気が休まらないだろ。初めの内は無理に関わらない。ちょっかいかけないで、ゆっくりさせてやった方がいい。」
「そ、そっか。ごめんなさい…。」
「…いや。」
沈黙が痛い。俺が起きてきたことに気がついたきなこと大福が、足元に寄ってきて朝飯を催促している。お前たちの存在が、本当にありがたいよ。
いつものキャットフードを皿に出してやると、あとはもう用済みとばかりに飯にまっしぐら。薄情だなお前ら。子猫の様子も確認すると遠目ながらこちらを見ているのが分かる。警戒しているな、当然だけど。キャットフードと水をそっと入れてやるも、口に入れる様子はない。そうだよな、夜のうちに準備した方がよかったかな…。
「…あの、この子引き取ってもらうって…。」
「本当は、何か病気があるかもしれないから、飼われている猫と一緒にしない方が良かったのかもしれないけど…。緊急事態だったから。本来はしかるべき検査をしないと。」
「で、でも黒沢さんが連れて行ってくれれば…。」
「うちはもう新しく猫飼う余裕はないっす。」
「…そっか…。」
「…だから、お世話になってるところに託します。」
「お世話になっているところ?」
俺の今日の予定。この連休何をしようか、前々から計画立てていたのだが、子猫を拾ったのがその前日だったのは幸いだった。今日はこの後俺がお世話になっている、猫の保護活動を行っている「虹の国」でボランティアをする予定だ。虹の国さんは野良猫の保護活動から譲渡会の開催まで、幅広く行っている団体さんだ。
「飯食ったら、そこに連絡してみないと…。坂本さん、朝飯どうします?」
「あ、お構いなく。私あまり朝食べない性質で。」
「…。」
台所に入ってトースターにパンを2枚セットする。焼きあがる前にリビングのテーブルにジャムやバター、マーガリンを並べる。
「…好きなの選んで。」
「え?いえ、私は…。」
「俺たちが飯食ってる間、待ってるだけなんて暇だろ。パン1枚ぐらいなら食えるでしょ。」
「…。」
「人間朝食わないと体持たないっすよ。」
「…ありがとう。」
チン、と少し気の抜けた音を聞いて台所へ。すると俺の少し後から坂本さんがついてくる。
「あの…何か手伝えること、ありますか?」
「大したもんじゃないし、特には…。」
「何でもいいんです。お世話になりっぱなしだから。」
「…じゃあ、この皿にパン乗せて向こうに持ってって。」
「はい!」
嬉しそうに皿を受け取ってトースターからパンを取り出す。何でそれだけの事なのにそんなにウキウキなの。
トーストをテーブルに並べ、思い思いのトッピングをする。俺はマーガリンを塗ってそれからいちごジャムを重ねて塗る。坂本さんは、王道のバターか。昨日と変わり映えのしないスポーツドリンクをコップに注ぎ、準備ができたら両手を合わせて。
「「いただきます。」」
黙々とパンにかぶりつく。うん、この甘みの中にあるしょっぱさ、絶妙。だけど噛むたびにバターが染み出てくる坂本さんの選択もまた捨てがたい。
「「ごちそうさまでした。」」
食べ始めた時と同様に、両手を合わせて食事を終える。正直腹にはまだ余裕があるが、今日は軽めでいいだろう。トースターが一気に焼けるのは2枚までなんだ。
「…あの、今日の予定って…。」
「あぁ、さっき言ったお世話になっているとこにこいつを預けに行く。その前に電話しとかないとな…。」
残ったスポーツドリンクを飲みながらスマホを操作する。まだ少し早い時間だが、電話に出てくれるだろうか。
「その用事、私もついて行っていいですか!?」
「ンぐへぇ!」
坂本さんに発言に、思わず液体を気管に送り込んでしまった。おおよそ人間が発してはいけない音がした気がする。しかもそのはずみで目的の人物への通話を発信してしまった。既にコールは鳴っている。頼むから出ないでくれ、この瞬間だけでいいから。
『…もしもし?』
液体を押し戻そうと必死に咳き込んで、若干酸欠気味になりながらの祈りは届かなかったようだ。
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