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新・三国志
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二十日後。歴代の皇帝・后妃の陵墓の修復が完了した。元通りとまではいかないが、土をかぶせて、王朝の陵墓らしく整えることはできた。
有職故実にくわしい関羽が、陵寝の宮をつくり、漢王朝の歴代の皇帝・后妃の鎮魂の祭礼をとりおこなった。
祭礼の儀式が終わると、劉備は平原へ帰る決断を下した。もはや、糧食がとぼしく、洛陽に居続けることは不可能だった。
初平二年・三月二十八日。
劉備四姉弟と麾下一千騎は平原にむけて進発した。
関羽と張飛が軍馬に跨がると、劉備は的盧に、紫音は黒翠に騎乗した。
「さあ、出発しましょう」
劉備が号令すると、兵士たちが一糸乱れぬ動きで行軍を開始した。
空はすでに春の色合いにかわっていた。気が遠くなるほどに澄んだ青空には、雲一つない。
「紫音、見て」
劉備が、微笑とともに指さす方向に紫音が顔をむける。
平原一面に、青い花が咲き誇っている。咲き乱れた花々が発する鮮やかな色彩と匂いが、紫音たちを包み込む。
「綺麗だね」
「ええ、とっても」
紫音と劉備の頬がゆるんだ。
(花に目を向けるなんて、随分久しぶりだ……)
紫音は、咲き乱れる花の絨毯を、染みいるように見つめた。
関羽が劉備に、進言した。
「殿。平原に行く前に、故郷の楼桑村に帰郷し、ご母堂にお会いになられてはいかがですか? 県令として政務を開始すれば、いつまたご母堂に会える日が来るか分かりませんし」
「そうね。そうしましょう」
劉備は弾むような声で答え、紫音の隣に馬をならべた。
「紫音、帰りましょう。お母さんの所に」
「うん」
紫音は頷くと同時に、春風が舞い降りて、劉備の銀髪をゆらした。長い髪が銀光を発して風に流れる。
紫音は、劉備の美貌を瞳に映し込みながら思った。
(僕のいた世界では、劉備玄徳は漢王朝再興と天下平定の夢を果たせないままに死ぬ)
劉備玄徳は、史実では西暦二百二十三年に、六十二歳で病没している。
蜀漢を創設し、初代皇帝として即位するが、その晩年は失意と苦しみに満ちたものだった。
義兄弟の関羽は、劉備が病死する三年前の西暦二百二十年に呉の孫権との戦争に敗れて、捕虜となり斬首された。
関羽の仇を討とうと劉備は、蜀漢帝国の総力をあげて、呉国への戦争を決意する。が、西暦二百二十一年に張飛が部下の裏切りにあい、殺害されてしまう。
劉備は晩年に関羽、張飛という己の分身ともいうべき二人の義弟を亡くしてしまうのだ。
そして、劉備は復讐のため呉に侵攻するが、大敗北を喫して、多くの配下を失う。その悔恨に苛まれながら、白帝城で崩御する。
(だが、この世界は違う)
紫音は、拳を強く握りしめた。
もはや歴史は変わった。史実では董卓が、僕に右腕を斬り飛ばされることなどなかった。
あの瞬間に確信した。この世界の運命は変えることが出来る。
自らの力と意志で、運命を切り開き、違う未来へ突き進むことが可能なのだ。
必ず変えてみせる。僕が姉さんを天下の主にしてみせる。そして、漢王朝を再興し、泰平の世を築き上げる。
それが僕の生まれてきた意味だ。
これから先は、この空と同じだ。
どこまでも青く澄み渡り、果てのない無限の可能性が広がる世界。
僕が、新しい三国志を創り上げる。
了
有職故実にくわしい関羽が、陵寝の宮をつくり、漢王朝の歴代の皇帝・后妃の鎮魂の祭礼をとりおこなった。
祭礼の儀式が終わると、劉備は平原へ帰る決断を下した。もはや、糧食がとぼしく、洛陽に居続けることは不可能だった。
初平二年・三月二十八日。
劉備四姉弟と麾下一千騎は平原にむけて進発した。
関羽と張飛が軍馬に跨がると、劉備は的盧に、紫音は黒翠に騎乗した。
「さあ、出発しましょう」
劉備が号令すると、兵士たちが一糸乱れぬ動きで行軍を開始した。
空はすでに春の色合いにかわっていた。気が遠くなるほどに澄んだ青空には、雲一つない。
「紫音、見て」
劉備が、微笑とともに指さす方向に紫音が顔をむける。
平原一面に、青い花が咲き誇っている。咲き乱れた花々が発する鮮やかな色彩と匂いが、紫音たちを包み込む。
「綺麗だね」
「ええ、とっても」
紫音と劉備の頬がゆるんだ。
(花に目を向けるなんて、随分久しぶりだ……)
紫音は、咲き乱れる花の絨毯を、染みいるように見つめた。
関羽が劉備に、進言した。
「殿。平原に行く前に、故郷の楼桑村に帰郷し、ご母堂にお会いになられてはいかがですか? 県令として政務を開始すれば、いつまたご母堂に会える日が来るか分かりませんし」
「そうね。そうしましょう」
劉備は弾むような声で答え、紫音の隣に馬をならべた。
「紫音、帰りましょう。お母さんの所に」
「うん」
紫音は頷くと同時に、春風が舞い降りて、劉備の銀髪をゆらした。長い髪が銀光を発して風に流れる。
紫音は、劉備の美貌を瞳に映し込みながら思った。
(僕のいた世界では、劉備玄徳は漢王朝再興と天下平定の夢を果たせないままに死ぬ)
劉備玄徳は、史実では西暦二百二十三年に、六十二歳で病没している。
蜀漢を創設し、初代皇帝として即位するが、その晩年は失意と苦しみに満ちたものだった。
義兄弟の関羽は、劉備が病死する三年前の西暦二百二十年に呉の孫権との戦争に敗れて、捕虜となり斬首された。
関羽の仇を討とうと劉備は、蜀漢帝国の総力をあげて、呉国への戦争を決意する。が、西暦二百二十一年に張飛が部下の裏切りにあい、殺害されてしまう。
劉備は晩年に関羽、張飛という己の分身ともいうべき二人の義弟を亡くしてしまうのだ。
そして、劉備は復讐のため呉に侵攻するが、大敗北を喫して、多くの配下を失う。その悔恨に苛まれながら、白帝城で崩御する。
(だが、この世界は違う)
紫音は、拳を強く握りしめた。
もはや歴史は変わった。史実では董卓が、僕に右腕を斬り飛ばされることなどなかった。
あの瞬間に確信した。この世界の運命は変えることが出来る。
自らの力と意志で、運命を切り開き、違う未来へ突き進むことが可能なのだ。
必ず変えてみせる。僕が姉さんを天下の主にしてみせる。そして、漢王朝を再興し、泰平の世を築き上げる。
それが僕の生まれてきた意味だ。
これから先は、この空と同じだ。
どこまでも青く澄み渡り、果てのない無限の可能性が広がる世界。
僕が、新しい三国志を創り上げる。
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