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第十三章 ヘタレ教育制度改革
第三十五話 新商品
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ジークという新しい家族が出来たからか、いつもより騒がしかった食事が終わる。
「義兄上、こんなに美味しくて楽しい食事は初めてでした! 特に食事中に色々なおかずを取りに席を頻繁に立ったり、席を移動して話をしたりと新鮮でした!」
「歩き食いさえしなければ食事中に歩き回るのは許しているからな。じゃないと大皿に盛った料理とか取れないし」
「給仕をしてくれる方がいないので自分で取りましたが、自分の食べたい分だけ好きなものだけを取れるっていうのは良いですね」
「あいつらは肉が好きだけど、なんだかんだ野菜もしっかり食べてるしバランス良く食ってるからな。好きにさせてる」
ジークは瞳をキラキラさせて食事が楽しかったと報告してくる。
王族だとこんな騒がしい食事はしないだろうしな。食事マナーも教えているが、家での食事は常に無礼講状態だ。
「ジーク! 風呂に行こうぜ!」
男子チームを引き連れた一号がジークを風呂に誘ってきた。誤解はしっかり解けている様で良かった。
「アラン義兄上、みんなで入れる浴場があるんですか?」
「おう!」
「へー! 城にも浴場はありますが、あまり広くないんですよね。基本的には個人が介添人と入るだけなので」
「かいぞえにん? 王族もめんどくさいんだな。頭の洗い方とか教えてやるから行こうぜ」
「一号、ジークを頼むな。シャンプーの使い方とかも知らんだろうし」
「任せとけ兄ちゃん。年下の世話は慣れてるからな」
「アラン義兄上とはひとつだけしか変わらないですけどね……」
手のかかる弟扱いが少し気に入らないのか、ぶつぶつ言いながらもジークは一号について行く。
「さて、俺も食器を片付けてさっさと風呂に入るか。クレアも風呂に行っちゃっていいぞ」
「すみません兄さま。よろしくお願いしますね」
エリナひとりでミコトとエマの入浴をサポートするのは大変なので、夕食後の片付けは俺の仕事だ。
ミコトはもう一人でも大丈夫なのだが、クレアに髪を洗ってもらうのが好きなようでいつもせがんでいるのだ。
「閣下」
食器をマジックボックスに収納しながら布巾でテーブルを拭いていると、セーラが大きな箱を抱えてリビングに入ってくる。
クレアの防御結界というかセキュリティが拒否しなかったってことはもう問題ないようだな。
今日は王族もいるから、我が家のセキリュティレベルは最高設定にしてあるとクレアが言ってたし。
「セーラか、どうした? 先日言っていた工作部の新商品か?」
セーラは講師になった日にあちこちの部活訪問をした結果、工作部の副顧問になったという経緯がある。
芸術系の講義をしてもらっている上に、工作部では新商品開発やスライム材を使ったプラモデルの改良案なんかも出してもらってるしで、かなり役立っている人材なのだ。
このままずっと講師として働いてくれればいいんだけど。
「はい。是非閣下に見て頂きたく」
ゴトンと長身のセーラですら抱えるのに一苦労なサイズの箱を置き、梱包を解いて中身を組み立てていくとミニチュアサイズの一軒家が完成する。
更に梱包されていた小さな箱から手のひらサイズの人形を取り出したセーラは、完成したばかりのミニチュアハウスの前に並べていく。
家のサイズはエマくらいはあるだろうか? かなり巨大だ。
「これってままごとの道具?」
「はい! 名付けて『ホーン☆ラビットちゃんハウス』です!」
「……」
リカちゃ〇ハウスとかシルバニ〇ファミリーみたいなものか?
養護施設には女の子もいたけど、あまりこの手の玩具は無かったから詳しくは知らないんだよな。
何より高そうだし。
「この子はアリエルちゃんと言ってですね、実は前世がお姫様で……」
ホーンラビットを模したと思われるウサギ型キャラクターの人形を手に持ってセーラが随分と熱の籠った解説を始める。
アリエルちゃんとやらは異世界転生してやがるし。
というかさ、ホーンラビットってもっと醜悪な顔をしてて怖いんだけどなんでこんなに可愛いキャラになっちゃったんだ?
今までは頸動脈を切って血抜きとかしまくってたけど、もうこのキャラ思い出して血抜きとかできないじゃん。
「なんでホーンラビットなの? 普通のウサギで良いじゃん」
「そしてアリエルちゃんのパパなんですが、日曜大工好きの素敵なパパなんです。でも昔は傭兵で、パパの角が黒いのは敵の血を吸わせたという逸話が……」
「話を聞け。というかパパ怖い」
「アリエルちゃんのママはお料理上手でとっても優しいんです! でも昔はスパイで、危うくパパに見つかりその場で処刑されそうになるのですが、そこでお互いに一目ぼれしてしまって……」
「なんで設定がそんなに深いの。子どもの玩具だよね?」
「アリエルちゃんの弟はとっても元気な子です。そして馬鹿です」
「弟が雑ぅ!」
セーラが人形を次々と取り出して、そのキャラクターの設定を語っていく。
アホすぎるだろ。そんな重い設定はいらん。
弟君くらいの浅めの設定で良いんだぞ。
ライバルキャラのマーリーンちゃんが常にアリエルちゃんの命を狙っているとか誰得だよ……。
「でですね、家具とか内装もこだわりがあって……」
セーラは早口で喋りながら、ガチャガチャとミニチュアサイズのタンスやらテーブルなどを家の中に設置していく。
「なあセーラ」
「このタンスはちゃんと引き出しも稼働するので、中にホーン☆ラビットちゃんたちの衣装をしまうことも……ってすみません閣下。なんでしょうか?」
「やっと止まった。んでこれ値段どれくらいで売るんだ?」
「これは私がフルスクラッチで作った物で、売り物としては考えてないんですよね」
「じゃあ新商品ってのは?」
「こちらです」
そう言ってセーラは、両手で抱えられるサイズの箱を取り出す。
「なるほど、ワンルームか」
5LDKはありそうなミニチュアハウスではなく、ただの箱の内側に窓や家具が描かれたものだ。
たしかにこれなら低価格で作れそうだ。
「はい。内装は絵で描かれたものが基本ですね」
「これならあとは人形を買えばおままごと遊びはできるか」
「家具もすでに内側に絵で描かれているので特に必要は無いのですが、こだわるユーザー向けに金型を使ってスライム材で作った簡易的なものも用意してます」
「なるほど」
廉価版ハウスは箱の内側に絵が描かれただけの簡易な作りな分、かなり安い値段で販売できそうだ。
「部屋同士で連結もできますので、少しずつ大きくしていくこともできます」
取り出したもうひとつの箱型ユニットを合体させる。
ドアなどは開かないが、こっちはキッチンの絵が描かれているため、これでリビングとキッチンがある家のようになる。
「おお、これは良いな」
「あとは家具を別売するので、好きな家具を買って設置してオリジナルの家を作るとかですね」
「好みの家を作り上げるっていうのはウケそうだな」
「お人形の方は一体銅貨百枚から百五十枚ほどで、簡易ハウスの方は内側の絵が色々ありますが、全て銅貨五十枚に統一してます」
「人形二体と簡易ハウスひとつで銅貨二百五十枚、日本円で二千五百円か。ちょっと高い気もするけどそんなもんかな?」
「販売当初は、お人形を二体買うたびに簡易ハウスひとつプレゼントというキャンペーンを考えています」
「それを明日から売るのか」
「はい。家具などはあまり用意できませんでしたが、まずはお人形と簡易ハウスを普及させたいですから、収穫祭というのは良いタイミングだと思います」
「売れるかな? こういうのを欲しがる層は確実にあるだろうけど、女児のいる家庭限定とかにならないか?」
ホーン☆ラビットちゃんハウスと簡易型ハウスについてセーラと話をしていると、がやがやとガキんちょどもの声がしてきた。
どうやらセーラの滅茶苦茶長い説明を聞いているうちにガキんちょどもが風呂から上がってきたようだ。
「あ、セーラさんだ! こんばんは!」
「セーラねーだ!」
「せーらねーこんばんは!」
「エリナさん、ミコトちゃんエマちゃんこんばんは」
「セーラねーそれなーに? すごくかわいい!」
「ホーン☆ラビットちゃんハウスですよ」
「せーらねーさわっていーい?」
「どうそエマちゃん。ミコトちゃんもどうぞ」
「「ありがとー!」」
風呂上りでほこほこ湯気が出ている状態のミコトとエマがホーン☆ラビットちゃんハウスに目をつける。
「すごくかわいい!」
「このこなんておなまえなの?」
「こっちがアリエルちゃんで、こっちが……」
ミコトとエマがセーラに抱き着きながら人形の名前などを聞いていく。
あの怪しいブラックな設定に言及しそうなら止めようかと思ったが、流石にセーラはそのあたりの空気は読めるようで、当たり障りのない設定しか話していない。
常に命を狙うライバルキャラとか敵の血で染め上げたパパの黒角とかを女児に説明するのはヤバいからな。
「あれー? センセ、随分おもろそうな物があるやないですか」
「本当ですね姉さん。トーマさん、これ新商品ですか?」
同じく風呂から上がってきたエルフ姉妹もホーン☆ラビットちゃんハウスに目をつける。
商売になると踏んだんだろう。
こういう細かな細工物とか工芸品なんかはエルフの得意分野だからな。飽きっぽいから量産出来ずに一品物だらけだけど。
「明日から売り出すおままごとセットみたいなもんだな」
「へー、こっちの大きいのもです?」
「こっちはセーラが作った試作品で、実際に明日から売るのはこっちの小さい簡易版のハウスの方な」
「こっちの大きいのも売れますよセンセ!」
「そうですよトーマさん。ここに置かれている小さな家具ってすべて稼働品じゃないですか。好事家はこういう細かな仕事を好むんですよ」
「セーラ、売れるそうだぞ」
ミコトとエマと一緒にお人形遊びを始めたセーラに声をかける。
いつのまにかミコトとエマ以外にも、ちわっこやハンナとニコラ、ミリィも一緒になっておままごと遊びを始めていた。
女子チームにいきなりウケてるな。
たしかに女児向けの玩具ってあまりなかったような気がする。ぬいぐるみや人形はあったけど、ミニチュアハウスを用いたおままごとセットというのはこっちの世界では見たことが無かったし。
「ですが、手間も時間もかかりますからね……。金型を使ってスライム材で作った家具ならひとつ銅貨十枚から販売しますし、子どもの玩具としてはこれくらいの価格じゃないと……」
「販売層は子ども向けだけちゃうでセーラさん!」
「そうですよ。貴族とか富豪の子ども向けでも売れると思いますが、こういう本格的なミニチュア家具を使ったミニチュアハウスならインテリアとして使えますし、高値で売れますよ!」
商魂たくましいマリアとエカテリーナが売れる売れるとアピールする。
ミコトたち女児が人形で遊んでいるのに、金の話をしている大人との対比が悲しい。
「エルフ族ならこういう細かい仕事を好きな奴もいるんじゃないか? どうせ量産品とは違って手の込んだ一点物になるんだし、すべて手作りで同じものがこの世に一つもない『ホーン☆ラビットちゃんハウスデラックス版』として売ればいいじゃないか」
「流石センセ!」
「トーマさん、私もそのように考えておりました」
「じゃああとはパテントの問題だな。セーラは制作者だけど、業務上の制作物だから学園長の婆さんとそのあたりの権利関係は話し合ってくれ」
「おおきにセンセ!」
「セーラもそれでいいか?」
「へ? パテントですか?」
セーラは聞きなれない単語に疑問のようだ。
今までは特許や著作権なんてものはあまり浸透してなかったからな。
「アイデア料とか特許料って感じだな。売り上げに応じて利益を貰うか、一括で権利関係を売るとか。といっても人形と簡易ハウスの方じゃなくて手作り家具を使ったデラックス版のみの部分になると思うけど」
「はあ、よくわかりませんが」
「婆さんに説明してもらうのが早いんだが……」
きょろきょろと婆さんを探すとちょうど風呂から上がってリビングに入ってきたので、セーラに特許料などの話をしてもらうことにする。
このあたりは学園側と折衝してもらう案件だからな。
セーラにしてもこっちで稼げた方がいいだろうし。
婆さんがセーラに説明を始めると、早速エルフ姉妹も話の輪に加わる。
もう商談に入るのか。
引きこもりニートのエルフなのに、流石に商家の生まれだ。利に聡い。
などと関心をしていると、男子チームが風呂から上がってきたようだ。
「流石ジーク! 王族ってすげーんだな!」
「やめてくださいよアラン義兄上! 普通ですよ普通!」
「でも本当にお兄さんだったんだね!」
「カルル、僕はお兄さんだって最初から言ってたじゃないか」
一号は随分とジークを気に入ったようだ。
話の内容はなんとなく察しは付くけど、きっと髪質とかの話だろう。多分。
昼に発生した太巻き事件とは無関係なはずだきっと。
あと何気にカルルも懐いている。なんか悔しい。
「……王族?」
商談をしていたセーラが一号の王族という単語に反応する。
こんなところに王族がわざわざ来るって思わないだろうな普通は。
ちわっこが前回来た時はまだセーラが赴任する前だったし。
といっても一応この家は伯爵が住んでる家なんだが。
「ジーク君は王太子だし、お姉ちゃんのシャルちゃんは王女なんやで!」
「随分と高貴なお方がいらっしゃるのですね……」
セーラがジークを気にしているようなので、婆さんたちの輪に近づいて声をかける。
「セーラ、気になるなら紹介するか?」
「い、いえ、私みたいな平民には雲の上のお方ですので……」
「そうか。まあその内紹介する機会があるかもしれないから今日はやめておくか。ジークもちわっこもなんだか盛り上がってるしな」
「はい、その時はよろしくお願いします閣下」
「ああ」
リビングの隅に移動して部屋を見渡してみる。
女子チームは髪や尻尾を乾かすのに時間がかかったサクラも加わってホーン☆ラビットちゃんハウスで遊んでいるし、男子チームは新入りのジークを中心に盛り上がっている。
そして婆さんやセーラ、エルフ姉妹はリビングの片隅で商談を再開していて、いつも以上に我が家はしっちゃかめっちゃかだ。
「お兄ちゃん! 楽しいね!」
ぽててと近寄ってきたエリナが満面の笑顔で言う。
「楽しいんじゃなくて騒がしいっていうんだぞアホ嫁」
明日からは収穫祭だ。
もっと騒がしくなるんだろうなと思っていると――
「でもお兄ちゃん顔が笑ってるよ!」
「そか」
隠し事が通じないエリナには、とっくにバレているのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
長くなりましたが、今回で十三章は終了です。
次回更新から収穫祭をメインとした十四章が始まります。
新たなキャラクターを迎えた新章を是非お楽しみに!
本作は小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。
よろしければそちらでも応援いただけますと励みになります。
また、小説家になろう版は、序盤から新規に挿絵を大量に追加したうえで、一話当たりの文字数調整、加筆修正、縦読み対応の改稿版となります。
ファンアート、一部重複もありますが、総数で200枚近い挿絵を掲載し、九章以降ではほぼ毎話挿絵を掲載しております。
是非挿絵だけでもご覧くださいませ。
特に十一章の水着回と十三章の制服回は必見です!絵師様の渾身のヒロインたちの水着絵と制服絵を是非ご覧ください!
その際に、小説家になろう版やカクヨム版ヘタレ転移者の方でもブクマ、評価の方を頂けましたら幸いです。
「義兄上、こんなに美味しくて楽しい食事は初めてでした! 特に食事中に色々なおかずを取りに席を頻繁に立ったり、席を移動して話をしたりと新鮮でした!」
「歩き食いさえしなければ食事中に歩き回るのは許しているからな。じゃないと大皿に盛った料理とか取れないし」
「給仕をしてくれる方がいないので自分で取りましたが、自分の食べたい分だけ好きなものだけを取れるっていうのは良いですね」
「あいつらは肉が好きだけど、なんだかんだ野菜もしっかり食べてるしバランス良く食ってるからな。好きにさせてる」
ジークは瞳をキラキラさせて食事が楽しかったと報告してくる。
王族だとこんな騒がしい食事はしないだろうしな。食事マナーも教えているが、家での食事は常に無礼講状態だ。
「ジーク! 風呂に行こうぜ!」
男子チームを引き連れた一号がジークを風呂に誘ってきた。誤解はしっかり解けている様で良かった。
「アラン義兄上、みんなで入れる浴場があるんですか?」
「おう!」
「へー! 城にも浴場はありますが、あまり広くないんですよね。基本的には個人が介添人と入るだけなので」
「かいぞえにん? 王族もめんどくさいんだな。頭の洗い方とか教えてやるから行こうぜ」
「一号、ジークを頼むな。シャンプーの使い方とかも知らんだろうし」
「任せとけ兄ちゃん。年下の世話は慣れてるからな」
「アラン義兄上とはひとつだけしか変わらないですけどね……」
手のかかる弟扱いが少し気に入らないのか、ぶつぶつ言いながらもジークは一号について行く。
「さて、俺も食器を片付けてさっさと風呂に入るか。クレアも風呂に行っちゃっていいぞ」
「すみません兄さま。よろしくお願いしますね」
エリナひとりでミコトとエマの入浴をサポートするのは大変なので、夕食後の片付けは俺の仕事だ。
ミコトはもう一人でも大丈夫なのだが、クレアに髪を洗ってもらうのが好きなようでいつもせがんでいるのだ。
「閣下」
食器をマジックボックスに収納しながら布巾でテーブルを拭いていると、セーラが大きな箱を抱えてリビングに入ってくる。
クレアの防御結界というかセキュリティが拒否しなかったってことはもう問題ないようだな。
今日は王族もいるから、我が家のセキリュティレベルは最高設定にしてあるとクレアが言ってたし。
「セーラか、どうした? 先日言っていた工作部の新商品か?」
セーラは講師になった日にあちこちの部活訪問をした結果、工作部の副顧問になったという経緯がある。
芸術系の講義をしてもらっている上に、工作部では新商品開発やスライム材を使ったプラモデルの改良案なんかも出してもらってるしで、かなり役立っている人材なのだ。
このままずっと講師として働いてくれればいいんだけど。
「はい。是非閣下に見て頂きたく」
ゴトンと長身のセーラですら抱えるのに一苦労なサイズの箱を置き、梱包を解いて中身を組み立てていくとミニチュアサイズの一軒家が完成する。
更に梱包されていた小さな箱から手のひらサイズの人形を取り出したセーラは、完成したばかりのミニチュアハウスの前に並べていく。
家のサイズはエマくらいはあるだろうか? かなり巨大だ。
「これってままごとの道具?」
「はい! 名付けて『ホーン☆ラビットちゃんハウス』です!」
「……」
リカちゃ〇ハウスとかシルバニ〇ファミリーみたいなものか?
養護施設には女の子もいたけど、あまりこの手の玩具は無かったから詳しくは知らないんだよな。
何より高そうだし。
「この子はアリエルちゃんと言ってですね、実は前世がお姫様で……」
ホーンラビットを模したと思われるウサギ型キャラクターの人形を手に持ってセーラが随分と熱の籠った解説を始める。
アリエルちゃんとやらは異世界転生してやがるし。
というかさ、ホーンラビットってもっと醜悪な顔をしてて怖いんだけどなんでこんなに可愛いキャラになっちゃったんだ?
今までは頸動脈を切って血抜きとかしまくってたけど、もうこのキャラ思い出して血抜きとかできないじゃん。
「なんでホーンラビットなの? 普通のウサギで良いじゃん」
「そしてアリエルちゃんのパパなんですが、日曜大工好きの素敵なパパなんです。でも昔は傭兵で、パパの角が黒いのは敵の血を吸わせたという逸話が……」
「話を聞け。というかパパ怖い」
「アリエルちゃんのママはお料理上手でとっても優しいんです! でも昔はスパイで、危うくパパに見つかりその場で処刑されそうになるのですが、そこでお互いに一目ぼれしてしまって……」
「なんで設定がそんなに深いの。子どもの玩具だよね?」
「アリエルちゃんの弟はとっても元気な子です。そして馬鹿です」
「弟が雑ぅ!」
セーラが人形を次々と取り出して、そのキャラクターの設定を語っていく。
アホすぎるだろ。そんな重い設定はいらん。
弟君くらいの浅めの設定で良いんだぞ。
ライバルキャラのマーリーンちゃんが常にアリエルちゃんの命を狙っているとか誰得だよ……。
「でですね、家具とか内装もこだわりがあって……」
セーラは早口で喋りながら、ガチャガチャとミニチュアサイズのタンスやらテーブルなどを家の中に設置していく。
「なあセーラ」
「このタンスはちゃんと引き出しも稼働するので、中にホーン☆ラビットちゃんたちの衣装をしまうことも……ってすみません閣下。なんでしょうか?」
「やっと止まった。んでこれ値段どれくらいで売るんだ?」
「これは私がフルスクラッチで作った物で、売り物としては考えてないんですよね」
「じゃあ新商品ってのは?」
「こちらです」
そう言ってセーラは、両手で抱えられるサイズの箱を取り出す。
「なるほど、ワンルームか」
5LDKはありそうなミニチュアハウスではなく、ただの箱の内側に窓や家具が描かれたものだ。
たしかにこれなら低価格で作れそうだ。
「はい。内装は絵で描かれたものが基本ですね」
「これならあとは人形を買えばおままごと遊びはできるか」
「家具もすでに内側に絵で描かれているので特に必要は無いのですが、こだわるユーザー向けに金型を使ってスライム材で作った簡易的なものも用意してます」
「なるほど」
廉価版ハウスは箱の内側に絵が描かれただけの簡易な作りな分、かなり安い値段で販売できそうだ。
「部屋同士で連結もできますので、少しずつ大きくしていくこともできます」
取り出したもうひとつの箱型ユニットを合体させる。
ドアなどは開かないが、こっちはキッチンの絵が描かれているため、これでリビングとキッチンがある家のようになる。
「おお、これは良いな」
「あとは家具を別売するので、好きな家具を買って設置してオリジナルの家を作るとかですね」
「好みの家を作り上げるっていうのはウケそうだな」
「お人形の方は一体銅貨百枚から百五十枚ほどで、簡易ハウスの方は内側の絵が色々ありますが、全て銅貨五十枚に統一してます」
「人形二体と簡易ハウスひとつで銅貨二百五十枚、日本円で二千五百円か。ちょっと高い気もするけどそんなもんかな?」
「販売当初は、お人形を二体買うたびに簡易ハウスひとつプレゼントというキャンペーンを考えています」
「それを明日から売るのか」
「はい。家具などはあまり用意できませんでしたが、まずはお人形と簡易ハウスを普及させたいですから、収穫祭というのは良いタイミングだと思います」
「売れるかな? こういうのを欲しがる層は確実にあるだろうけど、女児のいる家庭限定とかにならないか?」
ホーン☆ラビットちゃんハウスと簡易型ハウスについてセーラと話をしていると、がやがやとガキんちょどもの声がしてきた。
どうやらセーラの滅茶苦茶長い説明を聞いているうちにガキんちょどもが風呂から上がってきたようだ。
「あ、セーラさんだ! こんばんは!」
「セーラねーだ!」
「せーらねーこんばんは!」
「エリナさん、ミコトちゃんエマちゃんこんばんは」
「セーラねーそれなーに? すごくかわいい!」
「ホーン☆ラビットちゃんハウスですよ」
「せーらねーさわっていーい?」
「どうそエマちゃん。ミコトちゃんもどうぞ」
「「ありがとー!」」
風呂上りでほこほこ湯気が出ている状態のミコトとエマがホーン☆ラビットちゃんハウスに目をつける。
「すごくかわいい!」
「このこなんておなまえなの?」
「こっちがアリエルちゃんで、こっちが……」
ミコトとエマがセーラに抱き着きながら人形の名前などを聞いていく。
あの怪しいブラックな設定に言及しそうなら止めようかと思ったが、流石にセーラはそのあたりの空気は読めるようで、当たり障りのない設定しか話していない。
常に命を狙うライバルキャラとか敵の血で染め上げたパパの黒角とかを女児に説明するのはヤバいからな。
「あれー? センセ、随分おもろそうな物があるやないですか」
「本当ですね姉さん。トーマさん、これ新商品ですか?」
同じく風呂から上がってきたエルフ姉妹もホーン☆ラビットちゃんハウスに目をつける。
商売になると踏んだんだろう。
こういう細かな細工物とか工芸品なんかはエルフの得意分野だからな。飽きっぽいから量産出来ずに一品物だらけだけど。
「明日から売り出すおままごとセットみたいなもんだな」
「へー、こっちの大きいのもです?」
「こっちはセーラが作った試作品で、実際に明日から売るのはこっちの小さい簡易版のハウスの方な」
「こっちの大きいのも売れますよセンセ!」
「そうですよトーマさん。ここに置かれている小さな家具ってすべて稼働品じゃないですか。好事家はこういう細かな仕事を好むんですよ」
「セーラ、売れるそうだぞ」
ミコトとエマと一緒にお人形遊びを始めたセーラに声をかける。
いつのまにかミコトとエマ以外にも、ちわっこやハンナとニコラ、ミリィも一緒になっておままごと遊びを始めていた。
女子チームにいきなりウケてるな。
たしかに女児向けの玩具ってあまりなかったような気がする。ぬいぐるみや人形はあったけど、ミニチュアハウスを用いたおままごとセットというのはこっちの世界では見たことが無かったし。
「ですが、手間も時間もかかりますからね……。金型を使ってスライム材で作った家具ならひとつ銅貨十枚から販売しますし、子どもの玩具としてはこれくらいの価格じゃないと……」
「販売層は子ども向けだけちゃうでセーラさん!」
「そうですよ。貴族とか富豪の子ども向けでも売れると思いますが、こういう本格的なミニチュア家具を使ったミニチュアハウスならインテリアとして使えますし、高値で売れますよ!」
商魂たくましいマリアとエカテリーナが売れる売れるとアピールする。
ミコトたち女児が人形で遊んでいるのに、金の話をしている大人との対比が悲しい。
「エルフ族ならこういう細かい仕事を好きな奴もいるんじゃないか? どうせ量産品とは違って手の込んだ一点物になるんだし、すべて手作りで同じものがこの世に一つもない『ホーン☆ラビットちゃんハウスデラックス版』として売ればいいじゃないか」
「流石センセ!」
「トーマさん、私もそのように考えておりました」
「じゃああとはパテントの問題だな。セーラは制作者だけど、業務上の制作物だから学園長の婆さんとそのあたりの権利関係は話し合ってくれ」
「おおきにセンセ!」
「セーラもそれでいいか?」
「へ? パテントですか?」
セーラは聞きなれない単語に疑問のようだ。
今までは特許や著作権なんてものはあまり浸透してなかったからな。
「アイデア料とか特許料って感じだな。売り上げに応じて利益を貰うか、一括で権利関係を売るとか。といっても人形と簡易ハウスの方じゃなくて手作り家具を使ったデラックス版のみの部分になると思うけど」
「はあ、よくわかりませんが」
「婆さんに説明してもらうのが早いんだが……」
きょろきょろと婆さんを探すとちょうど風呂から上がってリビングに入ってきたので、セーラに特許料などの話をしてもらうことにする。
このあたりは学園側と折衝してもらう案件だからな。
セーラにしてもこっちで稼げた方がいいだろうし。
婆さんがセーラに説明を始めると、早速エルフ姉妹も話の輪に加わる。
もう商談に入るのか。
引きこもりニートのエルフなのに、流石に商家の生まれだ。利に聡い。
などと関心をしていると、男子チームが風呂から上がってきたようだ。
「流石ジーク! 王族ってすげーんだな!」
「やめてくださいよアラン義兄上! 普通ですよ普通!」
「でも本当にお兄さんだったんだね!」
「カルル、僕はお兄さんだって最初から言ってたじゃないか」
一号は随分とジークを気に入ったようだ。
話の内容はなんとなく察しは付くけど、きっと髪質とかの話だろう。多分。
昼に発生した太巻き事件とは無関係なはずだきっと。
あと何気にカルルも懐いている。なんか悔しい。
「……王族?」
商談をしていたセーラが一号の王族という単語に反応する。
こんなところに王族がわざわざ来るって思わないだろうな普通は。
ちわっこが前回来た時はまだセーラが赴任する前だったし。
といっても一応この家は伯爵が住んでる家なんだが。
「ジーク君は王太子だし、お姉ちゃんのシャルちゃんは王女なんやで!」
「随分と高貴なお方がいらっしゃるのですね……」
セーラがジークを気にしているようなので、婆さんたちの輪に近づいて声をかける。
「セーラ、気になるなら紹介するか?」
「い、いえ、私みたいな平民には雲の上のお方ですので……」
「そうか。まあその内紹介する機会があるかもしれないから今日はやめておくか。ジークもちわっこもなんだか盛り上がってるしな」
「はい、その時はよろしくお願いします閣下」
「ああ」
リビングの隅に移動して部屋を見渡してみる。
女子チームは髪や尻尾を乾かすのに時間がかかったサクラも加わってホーン☆ラビットちゃんハウスで遊んでいるし、男子チームは新入りのジークを中心に盛り上がっている。
そして婆さんやセーラ、エルフ姉妹はリビングの片隅で商談を再開していて、いつも以上に我が家はしっちゃかめっちゃかだ。
「お兄ちゃん! 楽しいね!」
ぽててと近寄ってきたエリナが満面の笑顔で言う。
「楽しいんじゃなくて騒がしいっていうんだぞアホ嫁」
明日からは収穫祭だ。
もっと騒がしくなるんだろうなと思っていると――
「でもお兄ちゃん顔が笑ってるよ!」
「そか」
隠し事が通じないエリナには、とっくにバレているのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
長くなりましたが、今回で十三章は終了です。
次回更新から収穫祭をメインとした十四章が始まります。
新たなキャラクターを迎えた新章を是非お楽しみに!
本作は小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。
よろしければそちらでも応援いただけますと励みになります。
また、小説家になろう版は、序盤から新規に挿絵を大量に追加したうえで、一話当たりの文字数調整、加筆修正、縦読み対応の改稿版となります。
ファンアート、一部重複もありますが、総数で200枚近い挿絵を掲載し、九章以降ではほぼ毎話挿絵を掲載しております。
是非挿絵だけでもご覧くださいませ。
特に十一章の水着回と十三章の制服回は必見です!絵師様の渾身のヒロインたちの水着絵と制服絵を是非ご覧ください!
その際に、小説家になろう版やカクヨム版ヘタレ転移者の方でもブクマ、評価の方を頂けましたら幸いです。
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高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。-俺は何度でも救うとそう決めた-
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アスフィは、愛する母を目覚めさせるため、幼馴染で剣術の使い手レイラと共に、呪いを解く冒険の旅に出る。
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完結しておりますが、続編の声があれば執筆するかもしれません……。
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