310 / 317
第十三章 ヘタレ教育制度改革
第三十一話 ファルケンブルクの人々
しおりを挟む「うわ、凄い活気ですね義兄上!」
「相変わらずファルケンブルクの市場は盛況だよねー」
「晩飯の買い物客が多い時間帯だしな」
市場に到着すると、その人出にジークが驚きの声を上げる。
王都も最初に行った時よりはかなり活気が出てきてはいるが、ファルケンブルクのこの活気にはまだ及ばない。
公共事業などによって所得が向上したり減税やクーポン券配布などの消費喚起の政策をしてるのも一因だろうが、なにより亜人国家連合やエルフ王国の交易品加えて、王都や周辺の諸侯領の品も数多く並んでいるのが大きいと思う。
街道整備や宿場町などの設置によって輸送効率が上がった結果、ファルケンブルクに集まる亜人国家連合やエルフ王国の交易品を求めて周辺諸侯領との交易量が増えたのだ。
「義兄上、見たことも無いものがたくさん並んでいます!」
「ああ、この辺りはエルフ王国の出店が多い区域だからな。食料品だけじゃなく民芸品、衣料、楽器なんかが多いかな」
「エルフ王国と友好関係を築いているとは聞いてましたがここまでとは……」
「エルフの連中は基本的に働かないからな、店を出させるのに苦労したんだぞ」
「ジーク! お兄さんの家にはマリアお姉さんとエカテリーナお姉さんっていうエルフ族がふたりも住んでいるんだよ!」
「ええっ! 少し前まではエルフの実在を疑う研究者さえいたんですよ! 義兄上はそんなエルフの方と一緒に暮らしているんですか?」
「あいつらは百年単位で引きこもってたから、タイミングが合わないと遭遇する機会すら無かっただろうしなあ」
「そうなんですか……エルフのイメージが随分と変わりそうです」
「しかも基本的にあいつら商売しててもめんどくさがって塩対応だからな。マリアとかエカテリーナは商売人気質だからコミュニケーション能力が高いけど。ってそうか、今日のメニューはエルフ王国の食材を使った料理にするか」
「エルフ王国の料理ですか! 楽しみです!」
「私はエルフ族が出しているお店で何度か食べたことあるけど凄く美味しかったよジーク!」
「じゃあ食材を買っていくか」
◇
「……本当に塩対応でしたね義兄上」
「言ったろ? 飲食店なんかは給仕したりする必要上、割とマシなエルフが働いてるが個人店なんかは基本的に会話すらないぞ」
「何を質問しても答えてくれませんでしたしね」
「俺はあれくらいの方が買い物が早く済んで良いと思うけどな」
「あの態度でもお客さんが結構いましたね」
「ファルケンブルクの商店はサービス精神旺盛な上に過剰なほどコミュニケーションを取ってくるからな。ヘタレ弄りやクズ弄りもされるけど。領民にとってはああいう店員の態度も新鮮に映ってるのかもな」
ジークとちわっこに両手を奪われたまま、残りの食材を求めて市場を歩いていく。
買ったものは全てマジックボックスに仕舞うので、手荷物が無いのだ。
もう突っ込むのもめんどくさいのでそのまま好きなようにさせている。
「あらお兄さん。また新しい子を連れて来ちゃって! エリナちゃんたちも大変だねえ」
いつもの野菜売りのおばちゃんの店に到着すると、いきなりジークについて突っ込まれる。
「おばちゃんおばちゃん、こいつは男だぞ」
「そうなのかい? シャルちゃんは久々だねえ」
「お久しぶりですおばちゃん! この子はジーク! 私の弟なの!」
「ジークと言います、よろしくお願いいたします」
「あらまあそうなのかい? ジーク君はシャルちゃんに似てすごく綺麗な子だねえ」
「えへへ! ありがとうございます!」
「あ、ありがとうございます……」
野菜売りのおばちゃんの勢いにジークは終始押されっぱなしだ。
ちわっこは最近ちょくちょくファルケンブルクに来るようになったせいであっという間におばちゃんと仲良くなったんだよな。
「シャルちゃんは相変わらずお姫様みたいで可愛いねえ」
「私はラインブルクの王女だからお姫様みたいなもんだよ!」
「シャルちゃんは冗談も上手だねえ。でもお兄さんに嫁ぐなら伯爵夫人だし、お姫様みたいなもんだしねえ」
「えへへ!」
おばちゃんはシャルが王女なのを信じてないのか。まあ本当なら王女がこんなところにいるわけないって思ってるんだろうけど、伯爵が買い物に来るのは領内だと当たり前になってるのがな。ヘタレ弄りしてくる連中は多いしツバも吐かれるし。領主に対してどういう扱いをしてるんだよここの連中は……。
「で、お兄さん。今日は何を買ってくれるんだい?」
「エルフ王国の料理を作ろうと思うんで、そのあたりを中心にいつもの量より少し多めな感じだな」
「あいよ。最近はエルフ王国から常に新鮮な野菜が入ってくるようになったからね、うちとしては常に売り物が豊富に揃えられて大助かりさ」
エルフ王国はファルケンブルクの南にある大森林の中にあり、荷馬車が一日で一往復できるほどの近距離に存在し、普段は結界に囲まれているために外部からは隠匿され、結界内は常夏状態を維持しているのだ。
そういった理由から季節関係なく農作物が一年中収穫できる環境なんだけど、引きこもり化した原因ってこれも大きいんだろうな。
「それにしてもおばちゃんの所のエルフ国産の野菜は随分安いよな? 市場価格より二、三割は安いんじゃないのか? 利益出ないだろこれじゃ」
「アタシの所はメディシス商会からじゃなくて、エルフ王国の生産者と南の宿場町に来てもらって直接取引をしているんだよ」
メディシス商会というのはマリアとエカテリーナの実家だ。
商売人だからなのか、エルフ族なのに凄く勤勉な一家で、エルフ王国の特産品を独占して取り扱っているというやり手だ。
値段も独占状態なのに手頃なので商売人としてはまっとうな考え方をしているんじゃないだろうか? 原価を抑えるために生産者から買い叩いているという話も聞かないし。
それにしても直接取引か。
おばちゃんも商売上手だけど、よく引きこもり思考相手に商売をしようと考えたな。
「農作物は季節関係なく育つけど、育てている奴が気まぐれだから供給量が安定しないんじゃないのか?」
マリアやエカテリーナに連れて行ってもらった時はエルフ王国に入国できたが、普段はエルフ以外は入国禁止だ。
なのでメディシス商会が持ち込んだりエルフの商人が出店して売っている品物以外は、基本的にはエルフ族が国内から持ち出したものを取引するしかないのだが、そのエルフ自身が気まぐれだしな。
魔導具を買う金欲しさにエルフ族がファルケンブルクまで物を売りに来るというのはたまに聞くけど、継続的に売買するのは骨が折れそうだ。
「そのあたりはメディシス商会より高値で買うとか、少ない量でも買うとか、複数の生産者と契約するとか色々やり方があるからね」
「流石だなおばちゃん」
「良いものを少しでも安く売るのが商売人だしね。はいよお兄さん、こんな感じで揃えたよ」
「おお、ありがとうおばちゃん」
「銀貨四枚だね」
「相変わらず安すぎるぞ。本当に利益出てるんか?」
「当り前さね」
おばちゃんが会話しながら並べてくれた野菜をマジックボックスに収納して代金を支払う。
もう朝の弁当販売は官営の事業化をしたので、うちで使う分しか買わなくなったので都度清算になったのだ。
「じゃあまた来るよおばちゃん」
「あいよ! じゃあねシャルちゃん、ジーク君」
「はーい! またねおばちゃん!」
「またお邪魔しますね!」
ジークが嬉しそうにおばちゃんにまた来ると挨拶をする。
王族として扱わない相手が新鮮なのだろう。ちわっこも最初はそうだったしな。
どうやらファルケンブルクの町を気に入ってくれたようで何よりだ。
収穫祭も王族のふたりが羽目を外して楽しむことが出来るようなら良いんだけどな。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
本作は小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。
よろしければそちらでも応援いただけますと励みになります。
また、小説家になろう版は、序盤から新規に挿絵を大量に追加したうえで、一話当たりの文字数調整、加筆修正、縦読み対応の改稿版となります。
ファンアート、一部重複もありますが、総数で200枚近い挿絵を掲載し、九章以降ではほぼ毎話挿絵を掲載しております。
是非挿絵だけでもご覧くださいませ。
特に十一章の水着回と十三章の制服回は必見です!絵師様の渾身のヒロインたちの水着絵と制服絵を是非ご覧ください!
その際に、小説家になろう版やカクヨム版ヘタレ転移者の方でもブクマ、評価の方を頂けましたら幸いです。
0
お気に入りに追加
418
あなたにおすすめの小説
田舎土魔法使いの成り上がり ~俺は土属性しか使えない。孤独と無知から見出した可能性。工夫と知恵で最強に至る~
waru
ファンタジー
‐魔法-それは才能のある者にしか使えぬ古代からの御業。
田舎に生まれ幼い頃より土魔法を使える少年がいた。魔法が使える者は王の下で集められ強力な軍を作るという。16歳になり王立魔法学園で学ぶ機会を得た少年が知ったのは属性によりランクがあり自分の属性である土は使う者も少なく最弱との事。
攻撃の火・回復の水・速度の風・最強の光と闇・そして守りの土。
その中において守りや壁を作り出す事しか出来ない土は戦場において「直ぐに死ぬ壁役」となっていた。役割はただ一つ。「守りを固めて時間を稼ぐ事」であった。その為早死に繋がり、人材も育っていなかった。土魔法自体の研究も進んでおらず、大きな大戦の度に土魔法の強者や知識は使い尽くされてしまっていた。
田舎で土魔法でモンスターを狩っていた少年は学園で違和感を覚える。
この少年研究熱心だが、友達もおらず生き残る術だけを考えてきた
土魔法しか使えずに生きる少年は、工夫によって自身の安全を増やして周囲の信頼と恋慕を引き寄せていく。
期待を込めて入った学園。だがその世界での常識的な授業にもついていけず、学業の成績も非常に低い少年は人と違う事を高める事で己の価値を高めていく。
学業最低・問題児とレッテルを張られたこの少年の孤独が、世界と常識を変えて行く……
苦難を越えた先には、次々と友達を得て己を高めていく。人が羨ましがる環境を築いていくが本人は孤独解消が何よりの楽しみになっていく。…少しだけ面倒になりながらも。
友人と共に神や世界の謎を解いていく先には、大きな力の獲得と豊かな人脈を持っていくようになる。そこで彼は何を選択するのか…
小説家になろう様で投稿させて頂いている作品ですが、修正を行ってアルファポリス様に投稿し直しております。ご了承下さい。
残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)
SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。
しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。
相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。
そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。
無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
裏アカ男子
やまいし
ファンタジー
ここは男女の貞操観念が逆転、そして人類すべてが美形になった世界。
転生した主人公にとってこの世界の女性は誰でも美少女、そして女性は元の世界の男性のように性欲が強いと気付く。
そこで彼は都合の良い(体の)関係を求めて裏アカを使用することにした。
―—これはそんな彼祐樹が好き勝手に生きる物語。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる