300 / 317
第十三章 ヘタレ教育制度改革
第二十一話 着せ替え
しおりを挟む新商品開発のためと言いながらカルルや工作部のガキんちょ連中はきゃっきゃと魔導ミニ四駆を走らせて遊んでいる。
「ちょっと楽しそうだな」
「兄ちゃんのいた世界だと当たり前かもしれえないけど、俺たちにとっては動く玩具って少ないんだよ。特にあんなに動き回る玩具は見たこと無いし」
一号の言うことは確かにわかる。
こっちではコマとか車輪の付いた馬車なんかの玩具はあるが、動力を持って動く玩具が少ないのだ。
ゼンマイ駆動で動かすのがせいぜいだったから仕方がないんだがな。ゴムも貴重なんで、ゴム動力の玩具に至ってはほぼ皆無だし。
「一号は魔導ミニ四駆は流行ると思うか?」
「流行ると思うけど値段次第だと思うぞ兄ちゃん」
「現状だとどれくらいで市場に出せそうなんだ?」
「量産効果で銅貨五百枚くらいにはできるだろうけど、問題は魔導モーターなんだよな。魔導モーター単体で銀貨三枚ってところかな。あとは専用の魔力を込めた極小魔石も必要だけど、これはひとつ銅貨十枚くらいで半日は遊べるから安いとは思うけど」
銅貨五百枚ってそれでも日本円換算で五千円くらいか。結構高いな。
それにモーターで銀貨三枚って日本円換算で三万円だろ? 子どもの玩具にしては高すぎだな。
もはや電池みたいな扱いになってきた極小魔石に関しては、供給が安定しているから値段は抑えられているのは良かった。
「おう、今日はトーマたちもおるんじゃな。アラン、試作した量産型の魔導モーターを持ってきたぞい」
魔導ミニ四駆の値段について考えていると、大きな木箱を抱えた爺さんが現れた。
「爺ちゃん、ありがとうな」
「サイズそのままに出力向上を図ったモデルじゃ。魔石の消費魔力効率も上がっておると思うぞ」
「これ以上速くなったらもうあいつらじゃ追いつけなくなるな……。兄ちゃんの言う通りコースを作ったほうが良いのかな」
一号が爺さんから木箱を受け取って中を確認しながら、ぶつぶつ呟いている。結構色々考えてるんだな。
「爺さん、西の要塞はどうなっている?」
「順調じゃよ。とりあえず外壁は完成したんで物資や防御兵器を運び込んでおるぞ。全てが終わるのは一ヶ月はかかるじゃろうが、現状でもそこそこの防御力はあるとおもうぞい」
「助かる。それと魔導エンジンや魔導モーターの研究状況はどうだ?」
「ぼちぼちじゃのう……。魔導エンジンの研究は停滞しておるが、魔導モーターの方は少しずつじゃが魔力や魔素の変換効率なんかは良くなっているの」
「魔導ミニ四駆用の魔導モーターをやたらと量産しているようだしな」
「とにかく試作数を増やしておるところじゃからの。小型の魔導モーターを有効活用できる玩具を考案してくれたおかげで無駄にならんし」
「性能にばらつきがある試作魔導モーターを市場に流すのかよ」
魔導モーターを確認していた一号が、俺と爺さんの会話に入り込んでくる。
「兄ちゃん、ある程度性能にばらつきが出るのはしょうがないよ。それに、あえてそのばらつきを利用して、性能に応じて魔導モーターを種類分けして売ればいいわけだし」
「まるほどな。高性能なのは高値で低性能なのは安値で売るってことか。選別の手間はかかるけど、それなら性能にばらつきがあっても問題ないな」
「おう。現状だと、『ハイパーダッシュモーター』『ゴールドモーター』『ノーマルモーター』の三種類があるけど、この箱に入ってる魔導モーターの性能次第でもっと上のランクが必要かもな」
「世代を混ぜないほうが良いと思うぞ。『ライトダッシュモーター』とか『トルクチューンモーター』とかの方が受けそうだ。チューンしてるわけじゃないけど、回転数が高いモーターやトルクの出るモーターとか特性別に分けるのはありだと思うしな。平坦なコースだけじゃなく、起伏のあるコースとか作れば回転数だけじゃなくて高トルクのモーターも活かせるし」
「なるほどなー。さすが兄ちゃん。ちょっと考えてみるよ!」
一号は俺に礼を言うと、さきほどからずっと一号に抱き着いているミコトとエマの頭をひと撫でして、魔導モーターの入った木箱を持ってガキんちょどもの方へ走っていく。
早速新しい魔導モーターを試すのかな。
なんだかんだあいつも楽しそうにやってるんだな。
「閣下」
「ん? セーラか」
一号が走り去っていった方向を目で追っていると、後方からセーラに声をかけられる。
セーラも爺さんと同じように木箱を抱えているんだが、また魔導モーターか?
「わー! セーラおねえちゃんだー!」
「せーらおねーちゃん!」
「ミコトちゃんエマちゃんこんにちは」
「「こんにちわ!」」
早くもセーラに懐いたミコトとエマが、仕事に戻った一号の代わりなのか、セーラの腰に抱き着く。『セーラねー』じゃなく『セーラおねえちゃん』なのはまだ少し遠慮している証拠だが、多分そのうちに『セーラねー』になるだろう。
「「ピー! ピー!」」
そして先ほどまでミコトとエマのポケットの中でいびきをかいて寝ていたヤマトとムサシが騒ぎ出す。
まだセーラには慣れていないのか、少し威嚇をするように鳴きだすが、「ヤマトだめ!」「めっ!」とミコトとエマに怒られてまたポケットの中に入りこむ。
「ううっ。やはり陰キャな私は動物には懐かれないのでしょうか?」
「あの駄鳥はよくわからんから気にしないでいいぞ。それにしてもその箱はなんだ? 魔導モーターか?」
「いえ、魔導ミニ四駆のボディパーツですね。スライム材で作られているので軽くて頑丈ですよ」
「ボディパーツ?」
箱の中を覗き込むと、魔導ミニ四駆の外装が入っていた。
「車体というかシャーシ部分がまだ高いですからね。ボディパーツを別売することによって、ひとつのシャーシと魔導モーターがあれば、色々な魔導ミニ四駆を着せ替えて楽しめるというわけです」
「どこかで見たようなデザインだらけなんだけど、参考資料そのままパクってないか? 超龍とか火龍とか雷龍のボディパーツが入ってるけど」
「分厚い雑誌の特集から参考にしたと聞きましたが、デザインに関してはよくわからないです」
「間違いなくコ〇コロだな。もっと新しい雑誌とか無かったんかな」
ごそごそと探してみるが、俺の世代のボディパーツは見当たらない。というか他メーカーから出てたパチモンのデザインまでそのままパクってるんだな。
「今は異世界本の物を参考にしていますが、これからはオリジナルデザインのパーツも増やそうと思っています」
「それは良い心がけだな」
「いずれ魔導モーターで動くガン〇ラを!」
「俺の居た世界でもまだ部分的にしか動かせてなかったんじゃないかな? 流石に難しいと思うが」
「いえ、やります! やってみせます!」
「等身大で動かせるようになったら魔導砲ベースの携帯火器を持たせたいのう」
「良いですね!」
「ビー〇サーベルも既存の技術で何とかなると思うんじゃが」
「素晴らしいですね! 魔導士協会の技術力は大陸一ですね!」
急に饒舌になったセーラと、それにつられた爺さんがやたらと張り切っている。
等身大ロボットの機動兵器にロマンを感じてしまい、いつものツッコミができない状態だ。
作れるのか? いや、技術的に無理だよな?
―――――――――――――――――――――――――――――――――
本作は小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。
よろしければそちらでも応援いただけますと励みになります。
また、小説家になろう版は、序盤から新規に挿絵を大量に追加したうえで、一話当たりの文字数調整、加筆修正、縦読み対応の改稿版となります。
ファンアート、一部重複もありますが、総数で200枚近い挿絵を掲載し、九章以降ではほぼ毎話挿絵を掲載しております。
是非挿絵だけでもご覧くださいませ。
特に十一章の水着回と十三章の制服回は必見です!絵師様の渾身のヒロインたちの水着絵と制服絵を是非ご覧ください!
その際に、小説家になろう版やカクヨム版ヘタレ転移者の方でもブクマ、評価の方を頂けましたら幸いです。
0
お気に入りに追加
418
あなたにおすすめの小説
田舎土魔法使いの成り上がり ~俺は土属性しか使えない。孤独と無知から見出した可能性。工夫と知恵で最強に至る~
waru
ファンタジー
‐魔法-それは才能のある者にしか使えぬ古代からの御業。
田舎に生まれ幼い頃より土魔法を使える少年がいた。魔法が使える者は王の下で集められ強力な軍を作るという。16歳になり王立魔法学園で学ぶ機会を得た少年が知ったのは属性によりランクがあり自分の属性である土は使う者も少なく最弱との事。
攻撃の火・回復の水・速度の風・最強の光と闇・そして守りの土。
その中において守りや壁を作り出す事しか出来ない土は戦場において「直ぐに死ぬ壁役」となっていた。役割はただ一つ。「守りを固めて時間を稼ぐ事」であった。その為早死に繋がり、人材も育っていなかった。土魔法自体の研究も進んでおらず、大きな大戦の度に土魔法の強者や知識は使い尽くされてしまっていた。
田舎で土魔法でモンスターを狩っていた少年は学園で違和感を覚える。
この少年研究熱心だが、友達もおらず生き残る術だけを考えてきた
土魔法しか使えずに生きる少年は、工夫によって自身の安全を増やして周囲の信頼と恋慕を引き寄せていく。
期待を込めて入った学園。だがその世界での常識的な授業にもついていけず、学業の成績も非常に低い少年は人と違う事を高める事で己の価値を高めていく。
学業最低・問題児とレッテルを張られたこの少年の孤独が、世界と常識を変えて行く……
苦難を越えた先には、次々と友達を得て己を高めていく。人が羨ましがる環境を築いていくが本人は孤独解消が何よりの楽しみになっていく。…少しだけ面倒になりながらも。
友人と共に神や世界の謎を解いていく先には、大きな力の獲得と豊かな人脈を持っていくようになる。そこで彼は何を選択するのか…
小説家になろう様で投稿させて頂いている作品ですが、修正を行ってアルファポリス様に投稿し直しております。ご了承下さい。
残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)
SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。
しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。
相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。
そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。
無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
裏アカ男子
やまいし
ファンタジー
ここは男女の貞操観念が逆転、そして人類すべてが美形になった世界。
転生した主人公にとってこの世界の女性は誰でも美少女、そして女性は元の世界の男性のように性欲が強いと気付く。
そこで彼は都合の良い(体の)関係を求めて裏アカを使用することにした。
―—これはそんな彼祐樹が好き勝手に生きる物語。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる