上 下
276 / 317
第十二章 ヘタレ情操教育

第二十五話 再生

しおりを挟む

「パパ……ヤマトとムサシはほんとうにだいじょうぶ?」

「ぱぱ……」


 ミコトとエマはぎゅっと俺にしがみついてヤマトとムサシを心配する。


「ああ、大丈夫だ心配するな」


 娘たちを安心させるように優しく頭をなでながら言葉をかけるが、正直こんな状況は俺にも未経験だ。
 冬眠するには早いし、そもそも繭に籠って越冬する鳥なんかいないし、いったいどういう状況なんだこれ。
 先ほど繭を触った時は温かかったし、微妙に動いてる感じはしてたから死んだりはしてないとの確信は持てるんだがな。

 鳥カゴの中いっぱいに張られた繭の中には、ヤマトとムサシが一緒に入っている。
 真っ白なその美しい繭は、前の世界でも見たことが無いような光沢を持ち、リビングに設置されている魔導ランプの光を受けてキラキラと輝いている。
 そんな神秘的な雰囲気の繭を、ミコトとエマが心配そうにずっと眺めていた。

 ふたりを安心させるためにと、そっともう一度、籠の中の繭に近づき、耳を寄せて様子をうかがってみる。



 <グー>

 <スピー>


 ………………。


「パパ?」

「こいつら繭の中でいびきかいてやがる……」

「やまととむさしはいつもねてるときにぐーぐーいってるよ!」

「ヤマトとムサシはたまにおなかをうえにむけてねてるよねエマちゃん!」

「おっさんじゃん」

「パパ! ヤマトとムサシはおっさんじゃないよ!」

「やまととむさしはおんなのこだもん!」


 ミコトとエマの抗議を無視した俺は、さっきよりもぞもぞ動き出した繭に興味をなくす。
 もう完全に大丈夫だろこれ。
 変態して繭の中から危険な魔物が出てきたらと警戒もしていたが、どうやらヤマトとムサシはアホっぽいし心配はないだろう。


「旦那様、バルトロ卿をお連れしましたわ」

「閣下、お待たせしてすみませんですじゃ」

「センセ! 魔物に詳しい人を連れてきましたよ!」


 リビングに続々と助っ人たちがやってくる。
 ヤマトとムサシの命の危険はもう無いが、どんな生き物なのかを判断する必要はあるからな。
 こんな繭を作って中でいびきをかくみたいな珍しい行動を取る動物や魔物なら一発でわかるだろう。


「……これはもしや」


 早速マリアが連れてきた、『ベアトリーチェ』と名乗るエルフ族の女性が、繭を見て小さな声でつぶやく。


「エルフ殿、これはひょっとして『アレ』なのかの?」

「ですね、二百年ほど前に東北地方……今の亜人国家連合が出来る前に訪れた、小さな集落で一度だけ見たことがあります」

「ほう、まさか実在したとは」

「飼い主と思われる方と随分ケンカをしてましたね」

「じゃろうのう……」

「バルトロ卿、ベアトリーチェ殿、ではやはり……」


 ケンカってなんだよ……。とツッコミを入れようとしたところ、繭が先ほどより大きく動き出した。


「パパ!」

「ぱぱ!」

「念のためだ。クリス」

「はい旦那様」


 ミコトとエマをぎゅっと抱き寄せると、クリスが防御魔法を展開する。
 警戒しながら、もう切れ目が入っていつ中からヤマトとムサシが出てきそうな繭を凝視する。


「「ピー!」」


 切れ目の入った繭から、ピンク色に羽毛の色を変えたヤマトとムサシが鳴きながら飛びだしてくる。
 もちろんトレードマークのアホ毛はそのままついてるし、色も変わっていない。


「ヤマト!」

「むさし!」


 スズメサイズからツバメサイズと微妙に大きくなったヤマトとムサシは、扉を開けたままの鳥カゴから飛び出してミコトとエマの頭に飛び移る。


「ヤマト! よかった!」

「ちょっとおおきくなったねむさし!」

「やはり、フェニックスでしたわね……」

「ですね。私が以前に見たフェニックスと似ています」

「文献では知っておったが、初めて見るのう」


 ヤマトとムサシの正体を看破していたらしい三人が、そのの生まれ変わった姿を見て、やはりと確信したようだ。
 たしかに繭化する前は、茶色のヒヨコかスズメみたいな見た目だったし、今とかなり見た目が変わってるからな。
 アホっぽい顔とアホ毛はそのままだが。


「ヤマト!」

「ピッピ!」

「むさし!」

「ピッピッ!」


 ミコトとエマが、きゃっきゃと繭から出て来たばかりのヤマトとムサシに構いまくっている。

 ベアトリーチェという名のエルフが、過去、フェニックスが飼われていたと言っていたし、そもそもあれだけミコトとエマに懐いているんだ、危険は無いだろうな。
 ヤマトとムサシを警戒する必要は無いと判断した俺は、クリスに目で合図をして防御魔法を解除させる。
 ヤマトとムサシに危険は無いが、フェニックスという魔物がどういう生き物なのかを調べる必要はあるだろうな。
 とりあえずは無事にヤマトとムサシが繭から出てきてくれてほっと一安心だ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――

本作は小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。
よろしければそちらでも応援いただけますと励みになります。

また、小説家になろう版は、序盤から新規に挿絵を大量に追加したうえで、一話当たりの文字数調整、加筆修正、縦読み対応の改稿版となります。
ファンアート、一部重複もありますが、総数で100枚を余裕で超える挿絵を掲載し、九章以降ではほぼ毎話挿絵を掲載しております。
是非挿絵だけでもご覧くださいませ。
特に十一章の水着回は必見です!絵師様の渾身のヒロインたちの水着絵を是非ご覧ください!
その際に、小説家になろう版やカクヨム版ヘタレ転移者の方でもブクマ、評価の方を頂けましたら幸いです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

田舎土魔法使いの成り上がり ~俺は土属性しか使えない。孤独と無知から見出した可能性。工夫と知恵で最強に至る~

waru
ファンタジー
‐魔法-それは才能のある者にしか使えぬ古代からの御業。 田舎に生まれ幼い頃より土魔法を使える少年がいた。魔法が使える者は王の下で集められ強力な軍を作るという。16歳になり王立魔法学園で学ぶ機会を得た少年が知ったのは属性によりランクがあり自分の属性である土は使う者も少なく最弱との事。 攻撃の火・回復の水・速度の風・最強の光と闇・そして守りの土。 その中において守りや壁を作り出す事しか出来ない土は戦場において「直ぐに死ぬ壁役」となっていた。役割はただ一つ。「守りを固めて時間を稼ぐ事」であった。その為早死に繋がり、人材も育っていなかった。土魔法自体の研究も進んでおらず、大きな大戦の度に土魔法の強者や知識は使い尽くされてしまっていた。 田舎で土魔法でモンスターを狩っていた少年は学園で違和感を覚える。 この少年研究熱心だが、友達もおらず生き残る術だけを考えてきた 土魔法しか使えずに生きる少年は、工夫によって自身の安全を増やして周囲の信頼と恋慕を引き寄せていく。 期待を込めて入った学園。だがその世界での常識的な授業にもついていけず、学業の成績も非常に低い少年は人と違う事を高める事で己の価値を高めていく。 学業最低・問題児とレッテルを張られたこの少年の孤独が、世界と常識を変えて行く…… 苦難を越えた先には、次々と友達を得て己を高めていく。人が羨ましがる環境を築いていくが本人は孤独解消が何よりの楽しみになっていく。…少しだけ面倒になりながらも。 友人と共に神や世界の謎を解いていく先には、大きな力の獲得と豊かな人脈を持っていくようになる。そこで彼は何を選択するのか… 小説家になろう様で投稿させて頂いている作品ですが、修正を行ってアルファポリス様に投稿し直しております。ご了承下さい。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

異世界では人間以外が日本語でした

みーか
ファンタジー
 前世の記憶はあるけど、全く役に立たない少年シオンが日本語の話せる獣人達に助けられながら、頑張って生きていく物語。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく
ファンタジー
 「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。  さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。  失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。  彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。  そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。  彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。  そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。    やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。  これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。  火・木・土曜日20:10、定期更新中。  この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

処理中です...