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第十章 ヘタレ異文化交流

第二十六話 イージスシステム

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 天竜を回収の為に更に南に車を進めていると、木々に囲まれていた景色が急に開ける。


「おお、すごいな! 森がいきなり無くなってるぞ!」

「ですですセンセ! エルフ族総出で精霊魔法を使って更地にしました! 王様も参加したほどの一大事業なんですよ!」

「あの福々しい人がねー」


 車窓から見る視界には、地平線が見えるほどの平原が広がっている。
 凄いなこれは。国王含めて国民総出で精霊魔法を行使したとはいえ、ここまでのことが可能なのか。
 相当な魔素が集まったんだろう、そりゃ天竜も出てくるわ。


「あっ! センセ! 今ちょうどキャッサバを植えてますよ!」


 助手席で前方を指さすマリアの視線を追うと、エルフたちはまるで雨のようにキャッサバの枝を降らせていた。
 雨のように大量に地面に突き刺さるキャッサバの枝は、規則正しく並んで植えられていく。
 これも精霊魔法なのか。魔導田植え機も必要ないくらいだなこれ。
 ……って。


 <ピコーン 音声案内を開始します>
 <ピコーン 二十五キロ先 経由地です>
 <ピコーン 経由地に到着しました>
 <ピコーン 四十キロ先 目的地周辺です>
 <ピコーン 目的地に到着しました>

 ――バシュバシュッ!

 <ピコーン 音声案内を終了します>


 イージスシステムとやらが勝手に起動して、二発の改良ドラゴンキラーが発射される。
 真上に射出されたミサイルが、くるりと方向転換すると、あっという間に目標に向かって飛翔し、撃墜完了の音声案内が車内に響く。


「経由地? 二匹同時?」

「ですね! イージスシステムは同時に百の目標に対して自動迎撃しますから!」

「百て」

「無事、複数の目標に対して迎撃できましたね! いやーセンセと一緒にいると色々実験出来て楽しいです!」

「回収する素材が三体分になったなー」


 マリアをスルーしつつ、あっという間に枝が埋められたキャッサバ畑を避けて、まずは先ほど撃墜したふたつの素材まで車で向かう。
 種類を確認する前に撃墜したから天竜や空竜の竜種かワイバーンのような亜竜種かはわからん。


「あっ! センセ! エカテリーナです!」


 マリアの言葉に周囲を探してみると、豆粒のようなエカテリーナが他のエルフ族とともにこちらに向かって手を振っていた。
 エカテリーナの側には撃墜されたであろう竜種が転がっていた。

 エカテリーナの側まで車を寄せて停車し、マリア、クリス、シルとともに降車する。


「閣下! 竜種の撃退ありがとうございます! しかも空竜ですよ! 天竜ほどではないですがレア種ですね!」

「天竜ももう少し向こうに落ちてるぞ。それよりその空竜はどうだ? 生きてないよな?」

「大丈夫です! あともう少しで作業が終了しますので、引き続き警戒をお願いしたいのですが」

「わかった。クリス」

「はい旦那様。警戒しておきますわね探査サーチ


 マリアが周囲の警戒を始めたのを確認すると、俺はマジックボックスから愛刀の一期一振を取り出し、鯉口を切りながらエカテリーナの側に落ちてる空竜をこわごわと見てみる。
 天竜より一回り小さいその腹に大きな穴が開いていて、そこからモツが飛び出して血だまりが出来ているが、ほぼ竜としての原形を留めていた。
 さすがにこれはもう生きてはいないだろうな。


「センセ……ビビってるんですか?」

「ビビってないですー! 念のためですー!」


 安全を確認したのでマジックボックスに一期一振をしまう。ビビったわけじゃないからな。
 と、心の中で言い訳をしていると、魔法でも使っているのか、もの凄いスピードでこちらに向かってくる人影が視界に入る。


「あれは、ロイド卿ですわ旦那様」

「もう嗅ぎつけたのか。流石の嗅覚だな」


 爺さんは俺の目の前で魔法を解除して急停止する。


「トーマよ!」

「わかってるわかってる。今日は三体分の獲物があるから回収を頼む。魔導士協会向けに割安で素材を譲るから」

「流石トーマじゃの! 話が早い!」

「旦那様! 探査魔法に反応が――」


 ――ウィーン
 ――バシュッ!


 周囲を警戒していたクリスが、探査範囲に反応があったことを俺に伝えようとしたところで、ミサイル搭載車両に積載されたセルが真上を向き、ミサイルを発射する。
 車から降りてても自動迎撃するのかこれ。


「あ、もう一体増えたわ」

「うおー! 今日は入れ食いじゃ!!」

「分割手数料は取らないけど三年以内に払ってくれよな」

「ぐっ! わかった!」

「というか相場より安く譲ってるんだから、せめて使わない部分は市場に流せばいいのに」

「竜の素材は全部使うんじゃ! 無駄なんかないんじゃ!」

「だから金がなくなるんだぞ」

「いや! クレアの嬢ちゃんのおかげで魔導具が売れておるからな! 問題なしじゃ!」

「魔導駆動車は苦戦してるけどな」

「それも魔素との研究が進めばコストダウンが図れる予定なんじゃ」

「まあ頑張って回収してくれ。今日もこのあと何体か自動で撃墜するかもしれないからそれも頼むな」

「任せろ! 絶対他の奴らに売るんじゃないぞい! 絶対じゃぞ!」

「わかったわかった。早く回収してこい。こんな話をしている最中にも、血がだらだら地面に吸われているんだぞ」

「そうじゃった! じゃあのトーマよ! あとから他の連中が来て騒がしくすると思うが最初に謝っておくぞい」


 真上に向けて何やら信号弾のような魔法を打ち上げた爺さんは、他の撃墜した竜種の元へまさに飛ぶように消えて行った。
 元気だなあの爺さん。


「クリス、引き続き警戒を頼むな」

「はい旦那様」

「お兄様! わたくしも警戒しておきますね! いざとなったらバーン!って竜種を叩き落しますから」

「期待してるぞシル」

「はい!」


 多分シル単独の魔法じゃ竜種は無理だろうけどな。
 まあもう少しでエルフが精霊魔法を使い終わるだろうし、ミサイルも残り四発も残ってるし大丈夫だろう。


―――――――――――――――――――――――――――――――――

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