152 / 317
第八章 ヘタレパパ
第三十四話 お食い初め
しおりを挟むこの国では一月一日に全員が加齢する。登録証の年齢も一律に変わるので公式な年齢として扱われる。
貴族では誕生日をお祝いすることもあるのだが、庶民は年明けと同時にお祝いする程度だ。
俺も一応貴族ではあるのだが、俺自身捨て子だったために正しい誕生日はわからないし、孤児院のガキんちょどもも同様に誕生日が不明なのが多いので、特に誕生日というものは気にしていない。
勿論エマには誕生日は存在するが、特に祝ったりする予定はない。
現在一歳扱いのエマではあるが、生後半年を過ぎ、今日離乳食デビューをする。
「悪いなおばちゃん。わざわざ料理しに来てくれて」
「何言ってんだいお兄さん。エマちゃんの初めての離乳食だろ? うちの野菜を使いたいなんて言ってくれて光栄だよ」
「おばちゃんのところの野菜は美味いからな」
「お兄さんはお世辞が上手いんだから!」
お世辞でもなんでもなく事実なんだが、おばちゃんのテンションが高い。
学校が始まったおかげで、子どもの世話に使う時間が減ったのもあって大分楽になったと言ってたしな。
「じゃあおばちゃんクレアを頼むな」
「任せときな。しっかりクレアちゃんに離乳食の作り方を教えておくからね」
「兄さま頑張って覚えてきますね!」
「頼むぞクレア。ミコトの時はもう離乳食でも後期の方だったしな」
「任せてください!」
ふんす! と力こぶを作るクレアだが、相変わらず細い腕で全然力強くないが可愛い。
鼻歌混じりで厨房へと向かうおばちゃんとクレア。
頼もしい。
「お食い初めってこの辺りの風習にはないんだな」
「お兄ちゃん、おくいぞめってなあに?」
「赤ん坊に乳歯が生え始める生後百日あたりでやる儀式なんだけどな。生えたばかりの乳歯に石を当てたり、料理を食べる真似をするんだよ」
「もうエマちゃんは半年経つよ?」
「お食い初めの場合は、歯が石みたいに頑丈になりますようにとか、生涯食いっぱぐれないようにっていう意味の儀式だからな。今回は離乳食デビューってだけで正式なお食い初めではないんだけど」
「そっか! エマちゃんがこの先ずっとご飯が食べられますようにっていうおまじないみたいなものなんだね!」
「そうそう。俺の世界ではあちこちに似たような風習があってな。銀の匙、銀製のスプーンで初めての離乳食を与えると良いっていうのもあるんで、ガキんちょどもというか学校関係者全員分を用意した。とっくに離乳食デビューは終わってるけどな」
「名前まで彫ってあるよね」
「飾ってもいいんだけど、せっかくだし給食でバンバン使わせたいしな。銀食器は磨くのが大変だけど」
「そっか、自分専用のスプーンがあるとご飯がもっと美味しく食べられるかもね!」
「そういうことだな。卒業する時にはそのまま持たせるけど、それまでは職員で管理させたほうがいいだろうし」
毒というか砒素に反応するから暗殺防止にも役立つんだよな、などという無駄知識は披露しない。
解毒魔法があるおかげか、毒を使った殺人事件ってのはほとんど無いらしいし。
「エマちゃーん、今日は離乳食ですよー」
「きゃっきゃ」
ご機嫌なエリナがエマをあやしている。平和だなー。
ガキんちょどもは今学校に行っているし、婆さんやクリス、シルも学校だ。
今リビングには、エリナとエマ、俺とミコトの四人だけだ。
「ミコトも今日の昼飯は銀のスプーンだぞ」
「あい!」
俺の膝の上でご機嫌で絵本を読むミコトが、昼飯の話題に食いついてくる。
「今日の給食はなんだろうなー」
「みーこしちゅーたべたい!」
「シチューかー。ミコトはシチューが大好きだよな」
「あい!」
「じゃー給食にシチューが出なかったら晩御飯の時にパパがシチューを作ってやるからな!」
「ぱぱしゅき!」
シチューで簡単に釣れるミコトを少し心配するも、好きと言われてテンションが上がった俺はミコトを抱きしめて頭をわしわしと撫でてやる。
「パパもミコトが好きだぞー」
「きゃっきゃ!」
そんな父娘スキンシップを堪能していると、クレアとおばちゃんがリビングに入ってくる。
「兄さま、おばさまに教わって離乳食が出来ましたよ!」
「もう色々潰した具材を入れたポリッジでも良い頃なんだけどね。少しずつ慣らすためにまずはシンプルな米のおかゆにしたよ」
「おばちゃん米料理もできるのか」
「最近は安く手に入るようになったからね」
クレアがエリナの前に、粥の入った器の乗ったトレーを置く。
トレーにはエマの名が刻印された銀のスプーンが乗せられている。
「人参と、キャベツかこれ」
「細かく刻んで入れてあるからね。ほんのりと甘みが出て美味しいんだよ」
「じゃあ早速エマちゃんにあげてみるね!」
「冷ましてあるから大丈夫だと思いますけど一度確認してくださいね姉さま」
エリナが銀のスプーンで野菜粥を少しだけ掬うと、自ら少し口にして味と温度を確認する。
嬉しそうに大きく頷くと、ゆっくりエマの口元にスプーンを近づけていく。
「エマちゃん。はいあーん」
きょとんとスプーンを不思議そうに眺めるエマ。ニコニコとスプーンを差し出すエリナと交互に見つめている。
「味付けをほとんどしてない野菜スープは何度か与えたことはあるんだけどな。固形物は初めてだから警戒してるのかな?」
ドロドロしているとはいえやはり抵抗あるのかと眺めていると、エマが口をゆっくり開ける。
「はいエマちゃん! 美味しいよ!」
エリナに野菜粥を少し口の中に入れられてモグモグするエマ。
「おお、食べたな!」
「エマちゃん美味しい?」
「あーうー」
もっともっとと言うように、エリナに向かってアピールするエマ。
エリナも嬉しそうにどんどん食べさせていく。
「おばさま、量はどれくらいあげればいいんですか?」
「食べられるならその器全部食べても問題ないよ。少し食べ過ぎても授乳の量とか間隔で調整できるからね」
それを聞いたエリナは、嬉しそうにエマの要求するまま野菜粥を与えていく。
エマ用に盛られた小さな器に入れられた野菜粥は、結局全部エマの胃袋に収められてしまった。
食欲旺盛なのは良いけど心配になってきたな。
うちのガキんちょも大量に食うしな。
そのせいかわからんが、先日行った健康診断では、ミコトの潜在魔力は順調に増えてるらしい。
成人するまでの間は潜在魔力が増加しやすいらしいが、食事の影響とかあるのかな。
「エマちゃんいっぱい食べたね!」
「きゃっきゃ!」
……大丈夫だろう多分。
魔力が多くても便利なだけだし、扱いはクリスがきっちり教えてくれるだろうしな。
もう今後はポジティブに考えよう。
0
お気に入りに追加
418
あなたにおすすめの小説
田舎土魔法使いの成り上がり ~俺は土属性しか使えない。孤独と無知から見出した可能性。工夫と知恵で最強に至る~
waru
ファンタジー
‐魔法-それは才能のある者にしか使えぬ古代からの御業。
田舎に生まれ幼い頃より土魔法を使える少年がいた。魔法が使える者は王の下で集められ強力な軍を作るという。16歳になり王立魔法学園で学ぶ機会を得た少年が知ったのは属性によりランクがあり自分の属性である土は使う者も少なく最弱との事。
攻撃の火・回復の水・速度の風・最強の光と闇・そして守りの土。
その中において守りや壁を作り出す事しか出来ない土は戦場において「直ぐに死ぬ壁役」となっていた。役割はただ一つ。「守りを固めて時間を稼ぐ事」であった。その為早死に繋がり、人材も育っていなかった。土魔法自体の研究も進んでおらず、大きな大戦の度に土魔法の強者や知識は使い尽くされてしまっていた。
田舎で土魔法でモンスターを狩っていた少年は学園で違和感を覚える。
この少年研究熱心だが、友達もおらず生き残る術だけを考えてきた
土魔法しか使えずに生きる少年は、工夫によって自身の安全を増やして周囲の信頼と恋慕を引き寄せていく。
期待を込めて入った学園。だがその世界での常識的な授業にもついていけず、学業の成績も非常に低い少年は人と違う事を高める事で己の価値を高めていく。
学業最低・問題児とレッテルを張られたこの少年の孤独が、世界と常識を変えて行く……
苦難を越えた先には、次々と友達を得て己を高めていく。人が羨ましがる環境を築いていくが本人は孤独解消が何よりの楽しみになっていく。…少しだけ面倒になりながらも。
友人と共に神や世界の謎を解いていく先には、大きな力の獲得と豊かな人脈を持っていくようになる。そこで彼は何を選択するのか…
小説家になろう様で投稿させて頂いている作品ですが、修正を行ってアルファポリス様に投稿し直しております。ご了承下さい。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい
斑目 ごたく
ファンタジー
「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。
さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。
失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。
彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。
そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。
彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。
そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。
やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。
これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。
火・木・土曜日20:10、定期更新中。
この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる