124 / 317
第八章 ヘタレパパ
第六話 魔力コンバイン
しおりを挟む試食した日から一ヶ月と少し経過した。
エマの首も座り、エリナも多少は育児に慣れたのか、特に体調を崩すことなく日々を過ごしている。
今日は、魔導士協会に依頼していた稲刈り機と脱穀機と選別機が一体化したコンバインと精米機が完成したので、早速クリスとシル、サクラと一緒に現地へと赴いて持ち込んだのだ。
今回はまず設計図通りに作ったので、消費魔力が多すぎてクリスやシルクラスの使い手じゃないとまともに扱えないからな。
今後の改良に生かすための試験運用も兼ねているので、魔導士協会の連中も数名来ている。
途中でクリスとシルの魔力が無くなった時のコンバインへの魔力タンクとして。
「じゃあお兄様! 見ててくださいね!」
なぜか妙にノリノリなシルがコンバインに乗り込む。
日本で見たことのある形そのままのコンバインがブルブル音をまき散らしながら、田んぼを進んでいく。
なんでエンブレムやメーカー名までそのままなんだろあれ。商標権とか無いからって調子に乗り過ぎだぞ、あれ最初に作った奴。
終始こちらを見ながらぶんぶん手を振っているシルは放置しておく。
稲を刈って、稲から籾を脱穀して、更に選別までやってるからか、音がすごい。エンジンは積んでないから排気ガスはないけど、騒音としては日本にもあったやつより酷いんじゃないか?
亜人国家連合からもらった設計図には、コンバインと精米機の他に、土を耕すトラクターに田植え機まである。あと俺にはよくわからない機械もあるが、稲作には必要な機械なんだろう。
一応すべての試作と改良を依頼しておいたが、天竜と火竜の素材買取で資金不足に陥っていた魔導士協会の連中は嬉々として励んでいる。
「おにーさまーー!」
魔力を注ぐだけで自動で稲を追って選別までやるから、シルが前を向いていなくてもコンバインは作業を継続する。
「わあっ! シルお姉さんが楽しそうですっ!」
「なんて無駄な魔力の使い方してるんだこれ」
「そうですわね旦那様。魔力供給さえ続けば全自動で刈り取りから選別まで行って、所定の位置まで戻る機能がついています。しかしこれを魔石で実現するのは事実上不可能ですね」
「乗った人間がハンドルを持って操縦すれば、移動、稲刈り、脱穀、選別の機能だけで済むだろ。いや選別は別のところと分けたほうが良いのかな?」
「脱穀まではしておきたいですね。一工程以上の短縮になりますし」
うーん、用途を絞って消費魔力を軽減する方が簡単かな。
といって牛や馬に曳かせると稲を折っちゃうからな。
「おにーさまー」
コンバインがちょうど折り返して来たが、シルのぶんぶん振る手に元気がなくなってきている。
引き返してきたときに、サクラが素早くコンバインに近づくと、選別済みの籾を一部回収して、稲作担当者と品質のチェックを始める。
「なあクリス、ちょっとシルの元気が無くなってないか」
「シルヴィアはかなりの魔力を持っていますが、それでも上位貴族の中では平均レベルではあります。設計図から魔力消費を逆算すると、一割ほどは魔力を消費してると思いますよ」
「一往復で一割かよ。ここ全部刈り取るのに二十往復は必要なんだが」
「まあ倒れるまでやらせてみましょう。貴重なデータなので」
「鬼か」
「まだあの子は伸びてますからね、魔力総量を増やす良い機会です」
「成人までは伸びるんだっけ?」
「ええ、ですが少し異常ですね。わたくしもまだ伸びておりますから」
「何それ怖い。やっぱ何かあるんじゃないのあの土地」
「魔導士協会の連中も必死に原因を探っていますが、いまだ解明できておりません。支部や職員棟で暮らす分には特に影響が無いそうですから」
ちらりと見学に来ている魔力タンク、じゃなかった魔導士協会の連中を見てクリスは言う。
あいつらコンバインに夢中になっててこちらの会話を聞いてないからな。
「そういや職員棟に部屋をくれって言ってきたのはそれか。無給で魔法講師としてこき使ってるけど」
「まだ半年ほどですからね、影響が出るとしてもまだ時間がかかるのかもしれません。という体で可能な限り引き延ばして働いてもらいましょう」
「鬼だな」
でも魔法講師を雇うとなるとどうしても上位貴族になるから、給料が高額になっちゃうんだよな。
採用試験で魔法適性があった平民出身の職員だって一般職員の倍くらいの給金が発生してるし。
魔法科の維持費を考えつつ、メリーゴーラウンドに乗る幼児みたいな行動をしているシルの十往復目を見守る。
そろそろ魔力が枯渇してるんじゃないか?
「旦那様、次シルヴィアがこちらに来たら『シル愛してる』と言ってみてください」
「なんでだよ」
「単純なあの子ですから、ひょっとしたら魔力が回復するのではと」
「そういう回復力ってあるのかね。あるなら地竜討伐で瀕死になったときに回復してほしかったが」
「アホほど効果があるのですよ旦那様」
「駄姉、お前本当に酷いな」
「妹への愛が溢れてるからこその言葉ですわ」
「お前の発言からは悪気を一切感じないところが逆に怖いんだけどな」
「おにーさまー! ハァハァ。おにーゲホッ」
大丈夫かあいつ……。というか魔力は枯渇しても体力には影響しないんだから腕を振ったり俺を呼ぶのをやめればいいのに。
しかしこの状況でアレをやるのか。なんだか可哀そうになってきたな。
「旦那様、今です」
容赦ない駄姉の合図で俺は心の中でシルに謝罪する。でもあまり優しくすると調子に乗るからほどほどにするけどな。
「シル! 愛してるぞ!」
「お兄様! うれしいです! わたくしもです!」
俺の言葉を受けた瞬間、一気にシルが元気になった。
それと同時に、コンバインがギューンと加速したかと思うと、綺麗な高速ターンを決めて十一往復目へと向かう。
何あれ……。なんで加速してるんだ……。
「本当に回復しましたわね……」
コンバインを見守っていた魔導士協会の連中も「おー!」とか言ってる。やはりアホには常識が通用しないのかな。
「なんでお前がびっくりしてるんだよ駄姉」
「いえ……我が妹ながらかなり非常識だなと」
「非常識はお前もだぞ……」
その後、こちらに来る度に「ハァハァ……おにいさま……」「シル! 好きだぞ! 頑張れ!」「はい! 頑張ります!」などと繰り返して、二十往復の稲刈りが終わった。
「ハァ……ハァ……うふふおにいさま、ケホッケホッ。えへへ」
俺の膝枕で横になっている、息も絶え絶えのシルの頭を撫でてやる。
「なんで体力まで使い切ってるんだよ……」
「シルお姉さん凄かったですよっ!」
シルの大活躍で、まずは灌漑で区切られた内の百メートル×二十メートル、合計二反分くらいの稲刈りが終わった。
魔力効率悪すぎるなこれ。まだ十倍以上の面積が残ってるのに。
「じゃあ次は魔力タンクの出番かな」
ちらりと魔導士協会の連中を見ると、妙にやる気の満ちた顔で、「はいはい! 自分が乗ります!」と見学に来ていた十人が一斉に手を上げる。
妙な対抗意識でも生まれたんかな。
まあいいやと順番にコンバインに乗せて稲刈りをさせることにした。
俺とクリス、サクラ以外の魔法適性持ち全ての魔力を費やしても半分以下しか刈れなかったので、改良の余地があり過ぎる。
だけど、なんとか今年の稲刈りは終わらせる目途がついたのでよしとするか。
1
お気に入りに追加
418
あなたにおすすめの小説
田舎土魔法使いの成り上がり ~俺は土属性しか使えない。孤独と無知から見出した可能性。工夫と知恵で最強に至る~
waru
ファンタジー
‐魔法-それは才能のある者にしか使えぬ古代からの御業。
田舎に生まれ幼い頃より土魔法を使える少年がいた。魔法が使える者は王の下で集められ強力な軍を作るという。16歳になり王立魔法学園で学ぶ機会を得た少年が知ったのは属性によりランクがあり自分の属性である土は使う者も少なく最弱との事。
攻撃の火・回復の水・速度の風・最強の光と闇・そして守りの土。
その中において守りや壁を作り出す事しか出来ない土は戦場において「直ぐに死ぬ壁役」となっていた。役割はただ一つ。「守りを固めて時間を稼ぐ事」であった。その為早死に繋がり、人材も育っていなかった。土魔法自体の研究も進んでおらず、大きな大戦の度に土魔法の強者や知識は使い尽くされてしまっていた。
田舎で土魔法でモンスターを狩っていた少年は学園で違和感を覚える。
この少年研究熱心だが、友達もおらず生き残る術だけを考えてきた
土魔法しか使えずに生きる少年は、工夫によって自身の安全を増やして周囲の信頼と恋慕を引き寄せていく。
期待を込めて入った学園。だがその世界での常識的な授業にもついていけず、学業の成績も非常に低い少年は人と違う事を高める事で己の価値を高めていく。
学業最低・問題児とレッテルを張られたこの少年の孤独が、世界と常識を変えて行く……
苦難を越えた先には、次々と友達を得て己を高めていく。人が羨ましがる環境を築いていくが本人は孤独解消が何よりの楽しみになっていく。…少しだけ面倒になりながらも。
友人と共に神や世界の謎を解いていく先には、大きな力の獲得と豊かな人脈を持っていくようになる。そこで彼は何を選択するのか…
小説家になろう様で投稿させて頂いている作品ですが、修正を行ってアルファポリス様に投稿し直しております。ご了承下さい。
底辺召喚士の俺が召喚するのは何故かSSSランクばかりなんだが〜トンビが鷹を生みまくる物語〜
ああああ
ファンタジー
召喚士学校の卒業式を歴代最低点で迎えたウィルは、卒業記念召喚の際にSSSランクの魔王を召喚してしまう。
同級生との差を一気に広げたウィルは、様々なパーティーから誘われる事になった。
そこでウィルが悩みに悩んだ結果――
自分の召喚したモンスターだけでパーティーを作ることにしました。
この物語は、底辺召喚士がSSSランクの従僕と冒険したりスローライフを送ったりするものです。
【一話1000文字ほどで読めるようにしています】
召喚する話には、タイトルに☆が入っています。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる