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第七章 ヘタレ学園都市への道

第十二話 チキン南蛮

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「ううっ、結局クリスお姉さんにたくさんもふられてしまいましたっ!」

「いい加減学習しろよ……」


 クリスはほんのり上気してツヤツヤした顔で、半べそ状態のサクラを馬から降ろしている。


「でもでもっクリスお姉さんいい匂いがして温かいし、もふり方も丁寧ですごく気持ちいいんですよっ!」

「ありがとう存じますサクラちゃん。またもふもふしてもよろしいですか?」

「もちろんですっ!」

「サクラは一体どうしたいんだ……」


 アホなまめしばにツッコんだあとは、もっとアホな駄妹を剥がして馬から降りる。
 剥がそうとするとイヤイヤをしてくる駄妹は可愛いんだけどむかつく。
 騎士団の連中の前だというのに大丈夫なのか? 部下の前だぞ?


「お兄様、馬から降ろして下さい! 抱っこで!」

「……はいはい」

「ありがとう存じますお兄様! 大好きですよ!」


 馬の上から俺に抱き着いてくる駄妹を抱えて馬から降ろすと、当然のようにそのまま抱き着いてくる。


「じゃあ買い物に行くか」

「「「はい!」」」


 馬を騎士団の連中に預けると、俺たちは南門から近い市場に向かう。
 今日は週一のハンバーグデーなので、すでに形成は頼んである。チーズなんかは入れてないプレーンなやつだから、メイン料理はソースを多めに用意すればいいだけだ。


「あとはどうすっかな。汁物はミネストローネにするとして、副菜は……。シルお前何か食べたいものあるか?」

「わたくしの好きなものはー」

「おう」

「お兄様です!」


 ……もうまともな会話が成立しない駄妹は無視だ無視。


「サクラは?」

「ちきんなんばんが一番おすすめだってアラン君から聞きましたからそれを食べてみたいですっ!」

「じゃあハンバーグの副菜だからさっぱりと鶏むね肉で作るか。いつものから揚げに甘酢あんとタルタルをかけたやつじゃなくてちゃんとしたやつを」

「わあっ! 楽しみですっ!」


 メニューは決まったとまずは野菜売りのおばちゃんのところへ向かう。


「やあお兄さん、今日は珍しいメンバーだね。っとサクラちゃん、今朝はありがとうね」

「いえいえっ! こちらこそお弁当を買っていただいてありがとうございましたっ!」


 おばちゃんは朝に子どもたちを預けたあとに、自分の分とおっちゃんの分の弁当を買っていってくれてるんだよな。自炊したほうが安く上がるのにわざわざ。


「また明日も買ってもふらせてもらうからね」

「はいっ! ありがとうございますおばさん!」


 おばちゃんももふってたのか。


「おばちゃん、今日はジャガイモ抜きのミネストローネにするから人数分と、頼んでた分を持って帰るよ。あ、あと付け合わせのインゲンとキャベツも頼む」

「あいよ」


 どさどさと注文の品を台の上にのせていくおばちゃん。
 あらかじめ注文していた工事現場や弁当用の食材も一緒に次々とマジックボックスに収納して買い物は終わりだ。

 その後は肉屋などをあちこち回っていく。
 エリナほどではないが、クリスやシルも町の人たちに声をかけられたり挨拶されることは多い。
 だが今朝の弁当販売でサクラのファンが一気に増えたのか、弁当を買ったときにもふったらしき女性客が「サクラちゃんまたもふらせてね」と声をかけまくってくる。
 そのたびに「わかりましたっ!」とアホなサクラは返しているが。

 買い物を終えて帰宅する。


「お兄ちゃん、サクラちゃん、お姉ちゃんたちお帰り!」

「エリナお姉さんただいまですっ!」

「ただいま戻りましたわエリナちゃん」


 今日の出迎えはエリナだけか。


「エリナ、シルを剥がしてくれ」

「わかった! ほらシルお姉ちゃん、そのままだとお兄ちゃんがご飯を作れないでしょ!」

「うう、わかりましたエリナちゃん」


 エリナがシルを剥がした後に部屋に行き、着替え終わったらすぐに晩飯の準備だ。


「お兄ちゃん、今日のメニューは?」

「メインはハンバーグで、副菜がチキン南蛮、スープはミネストローネ。あとはサラダとかありものだな」

「では兄さま、ミネストローネは私が作っちゃいますね」

「頼むクレア。エリナはハンバーグとサラダなんかを頼む。おれはチキン南蛮を作っちゃうから」

「「はーい」」


 早速料理にとりかかる。
 いつものシルの指定席の厨房の隅に置かれた座布団には今誰も座っていない。
 多分シルは今炬燵の中だ。首だけ出してな。

 そうこうしているうちに料理が完成したので、どんどんリビングへと運んでいく。

 料理を並べていると、メインの巨大ハンバーグに興奮したガキんちょどもから歓声が上がる。


「ガキんちょども、今日はノーマルのハンバーグだからな! 和風おろし、塩コショウ、テリヤキ、デミグラスのどれかで食えよ!」

「「「はーい!」」」

「じゃあみんなー! いただきまーす!」

「「「いただきまーす!」」」


 ガキんちょどもが一斉に食べ始める。


「サクラは白飯でいいか?」

「はいっ! ありがとうございますご主人様!」


 ちらりとサクラを見ると、箸だけではなくナイフとフォークも使えているようなので、平皿に白飯を盛って出してやる。


「白飯なら和風おろしがおすすめだぞ」

「はいっ!」


 プレーンなハンバーグに、和風おろしソースをハンバーグの端っこに少しかけて食べるサクラ。口に入れてもぐもぐと咀嚼したかと思うと「ふぉふひゅふぃんふぁま」と口に入れたまましゃべりだしたので、「うるさい黙って食え」と制止する。

 もきゅもきゅとすごく幸せそうな顔をして咀嚼していたが、ごくんと飲み込んで嬉しそうな顔を俺に向ける。


「ご主人様! すごくおいしいですっ!」

「そかそか。チキン南蛮も食ってみろ。タルタルソースは手作りだがこれもおすすめだぞ」


 たっぷりのタルタルソースが乗せられたチキン南蛮の一切れを箸でとり口に入れるサクラ。
 ごくんと飲み込んだ後に


「ご主人様っ! ちきんなんばんすごくおいしいですっ! タルタルソースがすごく合いますねっ!」

「サクラ姉ちゃん流石だな! ちきんなんばんとタルタルソースの組み合わせはマジヤバいよな!」

「ですよねっアラン君!」


 一号は「おう」っと返事をして、流れるような所作で自分のチキン南蛮に大量のタルタルソースをぶっかけて自分の席へ戻っていく。
 すげえかっこいいなあいつ。口元に甘酢あんとタルタルソースがついてなかったら完璧だったんだけど。
 というか俺の席の前に追加のマヨとかタルタルをおいておくのやめようかな。マヨラーの聖地みたいになってるぞ……。


「というかマヨラーってアホなのかな。俺はもうマヨラーじゃないけど」

「わんわんっ! なんでですかっ! ご主人様だってまよらー仲間じゃないですかっ!」

「お前らみたいなのと一緒にするな。俺は普通のマヨネーズ好きでいいよ」


 サクラという住人が増えてより騒がしくなる食事風景。
 だが、みんな楽しく食事をしている。
 あと三ヶ月足らずで開校する学校も、こんな風に楽しく過ごせる場所になればいいなと思うのだった。
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