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第七章 ヘタレ学園都市への道

第五話 まめしば

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「はーい、みんなーお昼ですよー!」

「「「はーい!」」」

 ワーカーホリック状態のアイリーンの処置は後で考えるとして、クレアとシルが昼飯を運んでくる。シルはさっきまで炬燵に亀のように潜っていたんだけど、いつの間に炬燵から出たんだ?


「サクラって食べられない物はあるか?」

「たぶん無いと思いますっ!」

「ネギとかたまねぎ、ニラとかは?」

「食べられますし好きですよ?」

「チョコレートも?」

「めったに食べられませんが大好きですっ!」


 ぶんぶんと尻尾が振られ、耳がぴこぴこ動いてる。よほど好きなのか。でも犬にチョコって駄目だよな?


「そこは犬とは違うんだな」

「あまり人族と変わらないと思いますよっ」

「ならガンガン食え。大量にあるから遠慮するなよ」

「はいっ!」


 目の前に置かれた大量のクレープの皮に様々な種類の具材を見て、興味津々なサクラ。


「このクレープの皮に、いろいろな具材を乗せて巻いて食うんだぞ。スープはお代わり自由だから、無くなったらお代わり係のところへ行け。今日のお代わり係はクレアとシルだからな」

「わかりましたっ!」


 と元気よく返事をして、サクラはクレープの皮に手を伸ばそうとする。


「サクラ待て」

「わんっ!」


 ビクッとサクラの動きが止まる。躾は完璧だな。


「頂きますの挨拶が先だぞ」

「忘れてましたっ! というかこの国でもいただきますって言うんですね!」

「おっ、いただきますの謎がついに。頂きますの意味ってわかるか?」

「亜人国家連合では多神教というか、万物全てに神様が宿ってるという考え方が広まっているんです。その神様たちへのお礼の意味と、食材となった命への感謝と、作っていただいた生産者様への感謝の気持ちが込められているんですっ!」

「感動した。やっとまともな返事が返ってきた」

「よくわかりませんが、良かったですねっご主人様!」


 ぶんぶんと尻尾を振るサクラ。ベースは柴犬かな? 茶色いし。


「ではみなさんいいですかー! いただきます!」

「「「いただきまーす!」」」


 がばっと身を乗り出したサクラはクレープの皮を手に取る。きょろきょろと見まわして、テリヤキチキンを発見すると、わしわしとクレープの皮に乗せて、くるんと巻いてかぶりつく。


「がふがふっ! がふがふっ!」

「見た目はちっこい犬耳娘なのに、食べ方がワイルドだな……」

「おふゅひんはま! ほいふぃーえふ!」

「うるせー、口に物を入れてしゃべるな」

「んくっ! ご主人様! すごくおいしいですっ!」

「わかったわかった。好きなだけ食え。あと尻尾を振るな、埃が舞う」

「わかりましたっ!」


 すごくいい返事をしたサクラだが、クレープを頬張るたびにばっさばっさと尻尾を振りやがる。掃除はいつも完璧にしてあるから実際には埃は舞わないんだが、すげえ気になる。
 がふがふ背中を丸めて食べてる姿はもはや犬だな。柴犬。
 こいつちっこいからまめしばと呼ぶか。


「お兄ちゃんサクラちゃん可愛いね!」

「もはや愛玩動物だぞこいつ」


 ぽてぽてとやってきて俺の横に座るエリナ。そういやさっきまで隣に座ってたアイリーンはと探してみると、クリスと食事をしながら書類を見ていた。もう病気だな。飯の時くらい仕事はやめさせないと。


「サクラちゃんはお肉が好きなの?」


 先ほどまでサクラの横に座っていたエリナが俺を挟んでサクラに話しかける。多分「えへへ、お兄ちゃんの隣が空いたから座っちゃおう」とか思ったんだろうな。冷えないようにと用意されたどてらを着てるが、一応少しでも冷えないようにと肩を抱いてやる。「えへへ!」という反応が可愛い。さすが俺の嫁。愛らしさは世界一だな。


「お肉は好きですけど、特にここのお肉は大好きですっ! 照り焼きソースが犬人国よりおいしいとは思いませんでしたっ! マヨネーズもすごくおいしいですっ!」

「うんうん! テリヤキソースはお店で買ったソースにお兄ちゃん好みの味付けがしてあるし、マヨネーズはお兄ちゃんの手作りなんだよ!」

「手作りマヨネーズっ! すごいですご主人様! とてもおいしいです!」

「おっ! サクラ姉ちゃんもマヨネーズ好きなのか! 俺と気が合いそうだな!」

「アラン君おすすめでしたからね! 濃厚でとてもおいしいです! このままパンにつけてもおいしいと思いますっ!」

「俺なんかマヨネーズだけでも生きていけるぜ!」

「わたしもですっ!」


 マヨラー同士の会話がキモイ。俺もマヨラーだと思ってたけどこいつらと一緒にされたくないからもうマヨラー名乗るのやめよう。


「ところで兄ちゃん、サクラ姉ちゃんが家を建ててほしいってさっきこれ渡されたんだけど」

「あっ! もうお部屋をいただけることになったんで必要ないんですアラン君」


 一号が見せた紙にはまごうことなき犬小屋が描かれていた。【サクラ】の名札付きで。
 こんな物にサクラを住まわせたら虐待じゃないか……。ひょっとして犬人国では普通なのかこれ。


「そうなんだ、流石にどうかと思ったからよかったよ。ただの犬小屋だからなこれ」

「ほへ? この国の犬はこんな立派な家に住めるんですか?」

「サクラ姉ちゃん、この町じゃペットを飼ってる人は大体こんな感じだぞ。俺も何度か依頼で作ったことあるし」

「すごいですねっ! 犬人国では軒先とかですよ!」


 なんで同族っぽいのにそんな扱いがひどいんだよ……。


「ふーん。でもサクラ姉ちゃん部屋をもらえてよかったな。ここは飯も美味いし良いところだぜ!」

「はいっ! ありがとうございますアラン君!」


 マヨラー同士で意気投合したのかやたらと仲が良い二人。一号は「おう」っと返事をして、流れるような所作で自分のテリヤキチキンに大量のマヨネーズをぶっかけて自分の席へ戻っていく。
 なんかかっこいいなあいつ。口元にマヨネーズがついてなかったら完璧だったんだけど。


「まめしば」

「私のことですかっ? ご主人様」

「ちっこい柴犬みたいだからな」

「お兄ちゃん、まめしばってなんか可愛いね!」

「うちのお父さんの名前がシバなので、すごくいいと思いますっ! ありがとうございます!」


 まめしばの発言に、ガシャンと食器を落とす音がリビングに響く。と同時にクリスが速足で俺に向かって歩いてくる。


「旦那様、申し訳ございません」

「どうした?」

「亜人国家連合の代表者は、各種族からなる小国の王から代表者を選出するのですが」

「ああ、連合国家ってそんな感じするな」

「現在の亜人国家連合代表者の名が、シバと聞き及んでおります」

「……えっ」

「それお父さんですっ!」

「なんで王族の子どもを贈り物とか言っちゃってんのあいつら」

「上がってきた報告によると、サクラちゃんの情報として『若いが優秀な技術者として国王より推薦された』としか記載がありませんでした。大変申し訳ございません」

「あれか、使者の日本語が拙いから意思疎通が完璧にできなかったとかそういうことか」

「そう……ですね、申し開きのしようもございません。旦那様が<転移者>であることも、この好待遇を引き出せた要因ではあると思いますが……」

「犬小屋作らなくてよかったな……」

「旦那様。多分ですが、使者との問答やサクラちゃんの言動を鑑みると、犬小屋でもシバ王は大変優遇されたと喜ぶと思いますが」

「もうわけわからんな」

「はい、価値観の違いなどでここまで齟齬があるとは思いませんでした」

「もう知らん。普通に対応してれば問題なさそうだしその件は棚上げだ棚上げ」

「一応あちらの文化なども調査しておきます」

「頼む。このままだと交易の時とかいろいろ問題が出そうだし」

「はい」


 また厄介ごとに巻き込まれたと思いながらも、まめしばの扱いはいつも通りでいいやと開き直る。
 亜人国家連合の代表者の娘ね。これまためんどくさそうなことになりそうだ。
 だが、最恵国待遇みたいなもんだし、交易とかで通遇してもらえるかもしれん。お互いで利益を出し合えればいいんだがな。
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