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第六章 ヘタレ領主の領地改革

第十九話 二年目のクリスマス

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「じゃーみんなー! いただきまーす!

「「「いただきまーす!」」」


 俺がこの世界に来て二度目のクリスマスだ。
 託児所メンバーの保護者、家族も呼んだので四十人ほどが集まっている。来年にはもう校舎の講堂とかでやらないと無理な感じになってきたな。
 もちろん野菜売りのおばちゃんの家族も全員参加している。ただしおばちゃんとおっちゃんは明日の朝も仕事があるということで、帰宅組なんだけどな。


「兄ちゃん!」

「なんだよ一号」

「ハンバーグドリアってヤバいのな!」

「うるせー、お前の好きなピザも大量にあるからガンガン食え」

「おう!」

「アレン君、ちゃんと冷まして食べないと駄目ですよ」

「わ、わかったぜクリス姉ちゃん」

「怒られてやんの」

「うるせー兄ちゃん」


 席は一応決めていたのだが、何しろテーブルをいくつも並べて大量の料理を並べているので、各自思い思いに取り皿を持って移動している。
 俺とクリスはクリームシチューのおかわり係なのでこの場からは動けないけどな。


「お兄ちゃん! から揚げとぽてさら取ってきた!」

「お、ありがとなエリナ」

「から揚げにレモンを絞っちゃうね!」

「おい馬鹿やめろ」

「さっぱり食べられて美味しいのに」

「その意見もわかるんだけど、勝手にレモンを絞るのは駄目だぞ。殴り合いの喧嘩に発展してもおかしくない行為だからな」

「ふーん」

「おい聞けよアホ嫁。いいか、なんでわざわざ片栗粉で揚げたと思ってるんだ、衣のサクサク感を重要視したからだぞ。それを勝手にレモンを絞ってしなしなにして台無しにたら、もうそれこそ戦争しかないんだよ」

「お兄ちゃんそんなことよりぽてさら食べてみて!」

「いやいや、お前竜田揚げ風にこだわる俺のから揚げへの想いをだな」

「いいから! はいあーん!」


 エリナがスプーンで掬ったポテサラを俺に差し出してくる。
 仕方ない、レモンに関しては後で言い聞かせておくか、と口を開けてエリナのポテサラを食ってみる。


「お、美味いぞ。ゆで卵を粗く刻んで混ぜてるのか。一気に高級感が出て良いなコレ」

「ほんと! やったー!」

「腕を上げたなエリナ」

「えへへ! クリスお姉ちゃんもどうぞ!」


 エリナはクリス用に盛られた取り皿を渡す。


「エリナちゃん、ありがとう存じます」

「お姉ちゃんはから揚げにレモンを絞る?」

「じゃあちょっとだけ」

「うん!」

「えっ、何。レモン絞っちゃう派ってこんなにいるの?」

「旦那様、最初の何個かはそのまま頂きますよ。でもそのうち段々重くなってしまうので……。レモンを絞るとさっぱりと頂けますから」

「うーん、意外と多いのか。まあ他人のから揚げに勝手にレモンを絞らなければ良いだけだしな」





 戦場のようだった食事も終わり、片付けも終わった。
 誕生日プレゼント用に、食後に服屋がサイズを測りに来たりしたが、今回は特に泣いちゃうような子はいなかった。
 家族で来ているグループと泊まらないで帰宅する組を先に入浴させ、その後は余り物を帰宅組に持たせる為に折り詰めにもして、無駄が出ないようにした。もっと余るかと思って朝食に回すつもりだったんだが、あいつらあるだけ食うから本気で心配になってきた。
 体つきなんかは去年より良くなったんだが、太ってる奴がだれもいない。謎過ぎる。

 帰宅組を帰した後にお泊り組を入浴させたら、もう夜も遅くなってきた。


「いいかお前ら! 今日は良い子にして早く寝ないとサンタさん来ないからな!」

「「「はーい!」」」


 去年プレゼントをもらったガキんちょは目をキラキラさせて返事をしている。「ねえねえさんたさんってなにー?」「おりこうにしてると、よるぷれぜんとをおいてってくれるんだよ!」「えーすごーい、わたしにももらえるかなー」「いいこにしてればもらえるってとーまにいちゃんがいってるからだいじょうぶだよ」と託児所のガキんちょが今年初めてクリスマスを経験する託児所メンバーに説明している。微笑ましいな。


「寝たふりとかしてるとサンタさんは帰っちゃうからな! 気をつけろよ!」

「「「はーい!」」」







 帰宅組には晩飯の残り物の折り詰めと、こっそりガキんちょ用のプレゼントを渡した。
 婆さんとクリスとシルがサンタの説明をして、夜こっそり枕もとにプレゼントを置いてくれるそうだ。
 明日、ちゃんと成功したかを教わるらしい。
 お泊り組と話が合わなくなっちゃうからな。


「見つかってないか?」

「多分大丈夫だったと思うぜ兄ちゃん」

「こっちも大丈夫だよお兄ちゃん!」


 旧託児所のリビングで、嫁たちと一号、婆さんが集まって結果報告だ。
 無事バレずにプレゼントを置けたらしい。


「よし、じゃあ俺からのプレゼントな」


 婆さんには、あの中古本屋特選の赤い色が綺麗な絵本セットを、鍵付きの小さな本棚とセットで。


「トーマさん、ありがとうございます。大事に読みますね」

「いいか、絶対に普段は鍵を掛けた本棚に仕舞えよ。ガキんちょに見せるなよ」

「はい、わかりました。必ず」


 嫁たちにはお揃いのネックレスだ。
 庶民にはちょっと贅沢かなってくらいの物だから、エリナやクレアには特別な日に使えるし、クリスやシルには託児所にいる時などの普段使いに丁度良いだろう。魔法石ではなかったのでそれほど高価では無い。普通の宝石をそれぞれ色違いで買ったのだ。
 嫁たちは俺にお礼を言うと、早速お互いにネックレスを着けあって、可愛いだのに合ってるだのきゃっきゃうふふと盛り上がる。


「で、一号にはこれだ」


 親父の店で買ってきた、玉鋼ではないが、親父が鉄鉱石で打った脇差だ。
 しっかり日本刀と同じ作りで、割と自信作だと言っていた物だ。銘は無いがな。
 一号がクリスマスプレゼントで、刀が欲しいと直訴してきたのだ。
 守り刀を見て気になっていたところに、以前の会話で刀鍛冶という道もあるというのを意識したとのこと。
 この先刀鍛冶の道を選ばなかったとしても、身を守る武器として有用だからと、一号の年齢にしては高価だが購入した。


「兄ちゃん……これ」


 脇差の入った白木の箱をマジックボックスから取り出して渡す。
 マジックボックスのお陰でサプライズがしやすくなって何よりだ。


「親父が打った脇差だ。真剣だから取り扱いには十分注意しろよ。普段は鍵のついた箱に仕舞って婆さんの部屋で管理してもらうから、眺めたければ婆さんの許可を取れ」

「わかった! 兄ちゃんありがとう!」

「ま、開けてみろ」


 一号は箱を開け中から一振りの脇差を取り出す。
 箱を置き、抜刀する。


「すごい……」

「刀身一尺五寸五分。中脇差しと言われるサイズだな。取り扱いは追々教えてやるから」

「ありがとう兄ちゃん!」

「ま、将来刀鍛冶を目指さなくても護身用として使えるからな。鍵付きの箱はもう婆さんに渡してあるから、一通り眺めたら婆さんに渡しておけ」


 一号は大事に納刀して、箱に仕舞うと、婆さんに渡す。


「お兄ちゃんには私たちからこれをプレゼントするね!」


 エリナがマジックボックスから一抱えの袋を取り出して渡してきた。
 中には、セーター、ニット帽、手袋が入っている。


「お、手編みか!」

「私たち全員で作ったんだよ!」

「旦那様、わたくしとシルヴィアはエリナちゃんとクレアちゃん、お義母さまに教わりながらセーターを編みました。木製のボタンはアラン君が作ったのですよ」


 クリスとシルは婆さんを「お義母さま」と呼ぶようになったんだよな。
 実母は幼いころに亡くなったし、実父と実兄は未だ監視塔に幽閉されてるし。
 実は一番家族に飢えてるのはこの姉妹かもしれない。
 結婚の時に恩赦が出たので、もう少しして魔法での思想調査で問題がなければ幽閉から解かれるけど、本人たち次第だから何とも言えん。


「兄さま、院長先生が二ット帽、私と姉さまで手袋を編んだんですよ」

「おお、全員で作った品か! 大事に使わせてもらうよ、ありがとうな!」


 今年の冬は暖かく過ごせそうだ。
 来年は俺も何か手作りして渡すかな。
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