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第六章 ヘタレ領主の領地改革

第十八話 竹取物語

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 晩飯の後、旧託児所のリビングで俺たちは秘密会議を行っている。


「なあ兄ちゃん、なんで俺までここに呼ばれたんだ? あいつらを早く風呂に入れたいんだけど」


 俺と嫁たちと婆さんに加えて一号も呼びつけた。
 クリスが一号の口の中の火傷を治してる時に声を掛けたのだ。「はいアラン君、お口を開けてくださいませ」「う、うんクリス姉ちゃん」「まあ、こんなに真っ赤になって、痛かったでしょう? すぐに治しますからね」と、一号が顔を真っ赤にして口を開けている所を冷かしつつ弄ったので、一号の機嫌がすこぶる悪い。
 でもちゃっかりクリスの横に座ってる所が面白いな。


「クリスマスと年末年始に贈るプレゼントのリストを作るんだよ。お前は男子チームのキャプテンだし、サンタの正体をすでに見破ってるだろ」

「託児所の連中も?」

「そうだ。クリスマスと年末年始の誕生日はお泊り会にするぞ。希望者だけだけどな。帰宅組にもプレゼントは渡すが忍び込むのは不味いから手渡しだけど。いや、メイドさんにお願いすれば枕元に置くくらい簡単だよな? 親に事前に説明だけしておけばいけるかな? 翌日ここに来て話が食い違っても面倒くさいし」

「兄ちゃんはなんで寝てる間にプレゼントするのにこだわってるんだよ」

「夢があるだろ。俺なんかお前より早くサンタの正体に気づいちゃったからな。夜忍び込んで来た先生と目が合った時は滅茶苦茶気まずかったぞ」

「また変な事言い出すのな兄ちゃんは」

「うっさい。とりあえずここにいるメンバーで手分けして来月のクリスマスプレゼントと年末年始の誕生日プレゼントの希望をこっそり確認しておくように」

「「「はーい」」」

「あとここにいるネタバレしたメンバーには俺がプレゼントを用意するから、あとで欲しいものを俺に教えるように」

「私赤ちゃんが欲しい!」

「ちょっと黙っててね俺の可愛いエリナ」

「はい!」

「兄さま! 私も兄さまとの赤ちゃんが欲しいです!」

「赤ちゃん以外でな!」

「兄さまのヘタレー」

「早すぎなんだよお前は、色々とな」

「ぶー」

「クレアは委員長として女子チームの欲しいものをそれとなく聞いておけ、ミコトの一番欲しいものがわかるのはお前だろ」

「任せてください!」

「あとミリィからラスク以外で欲しいものを聞いておくように」

「兄さま、それは難しいです」

「なんとか頼む。俺の可愛いクレア」

「わかりました! 頑張りますね兄さま!」


 チョロい。そして可愛い。
 頭が良くて優秀な子がチョロいってなんかジワジワくるな。


「クリスとシルは託児所メンバーの女子を中心に頼む。お泊り会の参加意思と一緒に、帰宅組の子の親にサンタの説明もあわせてな。忍び込むのがダメなら、親にこっそり渡してもらうとか考えてくれ」

「かしこまりましたわ旦那様」

「任せてくださいお兄様!」

「婆さんは送り迎えに来てくれる保護者に確認しておいてくれ」

「わかりました」

「じゃあさっさと風呂に入って託児所メンバーを家に送り届けるぞ。というかそろそろ本格的に寒くなってくるし送迎馬車でも用意した方が良いかもな」

「そうですね、シルヴィアはわたくしや旦那様と違って防御結界内に温風魔法を使えないので、この季節はそろそろ厳しいかもしれません」

「す、すみません」

「シルは暖房の魔石を使えば良いけど、雪でも降ったらカートにガキんちょを乗せて移動するのは大変だし検討しておこう」

「はい旦那様」

「じゃあ解散」

「「「はーい」」」


 話が終わり、リビングに戻ると、それぞれ思い思いに遊んでいるようだ。
 人見知りする子もほとんどいなくなり、ここで出来た友達と玩具で遊んだり絵本を読んだりしている。


「ガキんちょどもー風呂の時間だぞー。女子チームはちゃんと婆さんも仲間に入れてやれよー」

「ばあば、ばあば」


 俺が婆さんを気遣う発言をすると、ミリィに「みことちゃん、らすくおねーちゃんっていってみてー」と丁度刷り込みをされていたミコトが、婆さんの所へぽてぽてと歩いていく。
 急にミコトに振られたミリィが涙目だが諦めろ。ミコトはすぐに興味が他に移るほど好奇心旺盛なのだ。
 あと刷り込むな。ラスクお姉ちゃんなんて呼ばそうとするなよ。
 あいつ十五歳になって登録証を作ったら職業「ラスク」だろ絶対。


「まあミコトちゃん。ばあばと一緒にお風呂に入りますか?」

「あい!」


 婆さんに抱きしめられているミコトが天使だ。
 何十人もの子どもの面倒を見てきた婆さんもデレデレにしてしまうほど危険な魅力を持っている。
 将来が不安過ぎる。
 求婚者に火鼠の裘ひねずみのかわごろもを要求したりしないだろうな……。
 いや例えそれをプレゼントしても月に拉致られちゃうんじゃないか? ミコトがいなくなるなんて嫌すぎる。


「エリナーー! クリスーー!」

「お兄ちゃんまた?」

「お呼びですか旦那様。どうされたのですか? いつもの発作ですか?」


 俺に呼ばれたエリナとクリスがぽてぽてと歩いてくる。


「クリス、火鼠の裘を探してくれ、俺の個人資産を全部使って良いから。エリナ、地竜の魔石って龍の首の珠としてミコトは受け取ってくれるかな? すぐに狩りに行くぞ、俺とお前のメギドフレアなら一撃で殺れるだろうし」

「竹取物語ですわね、旦那様。ミコトちゃんがかぐや姫に思えてしまったのですか?」

「たしかにミコトちゃんはうちにある絵本のかぐや姫さまに似てるかもね! 髪の色も一緒だし!」

「そうなんだよ、ミコトって可愛すぎるだろ? ひょっとしたら将来月に帰っちゃうかもしれないからミコトの欲しいものを今の内から集めておくんだよ。一応全部集めておいた方が良いかな? 蓬莱山とかどこにあるかわからんが、ちわっこにも相談してみるか。王城に宝物庫とかあるのかな? 前領主みたいに普通はマジックボックスか? 前領主の持ち物を売っぱらっちゃったけどその中にミコトの欲しいものがあったっけ? リスト化してたはずだからあとで確認するか。というか迎えに来た月の連中をメギドフレアで焼いた方が早いか? エリナとクリス、お前ら何発打てる? そうだクリス兵を集めろ。いや、月の民相手だろ? どっかの山にホワイトドールって名前の神の像が祭られてたりしないか? それ掘りに行くぞ」


「お兄ちゃん何を言ってるか全然わからないよ、緊急事態だから魔法を使うね!<治癒キュアー!」

「いやいや病気じゃないって、違うんだって。ミコトがいなくなっちゃうんだって。ヤバいんだって」

「もうお兄ちゃんったら」


 あぐらで座って、ミコトが羽衣を着せられ、記憶喪失にさせられて拉致られる恐ろしさを必死で説明する俺の頭をエリナは優しく抱きしめてきた。


「はいはい、お兄ちゃん落ち着いて。お兄ちゃんは良い子ですねー」


 エリナに頭をなでられていると落ち着いて来た。
 一ヶ月前は毎晩こうして貰ってたっけ、夫婦の最大の秘密だから俺とエリナ以外誰も知らないけど。
 エリナもちゃんと約束は守る子だからな。
 あいまいな約束の場合は普通に言っちゃう子だけど。
 あ、なんか和んだ。


「ありがとうエリナ、お兄ちゃんちょっと危機的状況で焦ってた」

「もうお兄ちゃんしっかりして! ミコトちゃんはいなくならないから大丈夫だよ! だってお兄ちゃんのお嫁さん候補なんだよ?」

「ミコトは来月にやっと二歳になるんだぞ、無いわ」

「でも旦那様、過去の文献では産まれた瞬間に王妃となった例もございますし」

「特殊過ぎるだろ、はいはいもうやめ。一号! 風呂に行くぞ!」

「お兄ちゃん、アランたちならもうお風呂に行っちゃったよ」

「マジかよ、またかよ。婆さんがハブられる心配する前に俺がハブられてるじゃねーか、すぐに風呂に入ってくるわ」

「行ってらっしゃいお兄ちゃん! クリスお姉ちゃん私たちもお風呂に行こう!」

「ええ、エリナちゃん」

「えへへ! お姉ちゃん!」

 エリナがクリスに抱きつくと、クリスも愛おしそうにエリナの頭を撫でる。
 そういや嫁同士の呼び方が変わったのと同時に、クリスとシルは孤児院メンバーたちに『様』をつけなくなった。心境の変化かと聞いてみると、「家族になりましたので」という一言に、少し感激してしまったのは内緒だ。

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