上 下
88 / 317
第六章 ヘタレ領主の領地改革

第十二話 グラタン

しおりを挟む

「結局今日は狩れなかったね!」

「ま、たまにはこんな日もあるさ。これからいくらだって狩れるからな」

「うん!」


 さて帰るか、とマフラーをマジックボックスから取り出してエリナと一緒に巻き付ける。「えへへ!」と抱き着いてくるエリナの頭を撫でながら帰路につく。
 門番も慣れたもので、俺とエリナの登録証の職業欄が、それぞれ<ヘタレ領主>、<お兄ちゃんのお嫁さん(ファルケンブルク伯爵夫人)>になってても一切突っ込まれなかった。
 それどころかエリナとどんどん仲良くなっていきやがる。


「エリナちゃん、赤ちゃんはいつできるんだい?」

「昨晩、お兄ちゃんとそろそろかなってお話ししたところなんですよ!」

「ほー、やっと覚悟を決めたって訳か。ヘタレなのに」

「そうなんですよ、ほんとうちのお兄ちゃんはヘタレなので」

「ねえねえエリナ、夫婦の話は内緒にしておこうって言ったよね?」

「赤ちゃんを作るのは秘密なの? 作り方とかじゃないよ?」

「ほう、どうやって赤ちゃんを作ってるんだい? エリナちゃん」

「それは内緒です! お兄ちゃんとの約束なので!」

「それ、完全なセクハラだからな、あとあまりヘタレを追い詰めるなっていつも言ってるだろ門番のおっさん」

「エリナちゃんの尻に敷かれてるヘタレ領主さまに言われてもねー」

「よし、その喧嘩買った!」

「お兄ちゃん! おじさんも!」

「「すみません」」


 なんだよ、門番のおっさんもエリナに頭が上がらないんじゃないか。ざまあみろ。うちの嫁舐めんなよ。
 あれ? 俺かっこ悪くね?


「じゃあおじさん通りますね!」

「おう、またなエリナちゃん」

「はい!」

「今日はこのくらいで勘弁してやるからな! 門番!」

「お兄ちゃん!」

「ははっ! 領主さまもまたな」

「おうよ」


 不敬罪ってどうなってんのかなこの世界って。
 いや、この領地だけか、王都じゃこんな扱いされなかったし。


「今日はハンバーグとぐらたんだっけ?」

「グラタンもこの町のレストランで食えるんだけどな。貴族街の店にしかないからお高いけど」

「んー、あの子たちを連れてってあげたいけど、多分満足しないと思うしなー」

「味はクリス曰く、託児所で出してる飯の方が美味いって言ってたしな」

「違うよお兄ちゃん。お兄ちゃんが作った料理を、みんなでわいわいしながら食べるのが好きなんだよあの子たちは」

「そか。ま、マナーも最低限は教えてるけど町の食堂ならともかく、貴族街のレストランは怪しいしな」

「そうだねー」


 にへらっと俺を見てくるエリナの頭を抱きかかえる。「いーたーいー、お兄ちゃんごめんー」とじたばたするアホ嫁を無視して肉屋に向かう。

 ぽふっと俺の腕から脱出したエリナが「そういえば、ぐらたんっていっぱい種類あるんだよね? 今日は何にするの?」と食い意地を発揮してくる。
 こいつも大量に食うんだよな。全然太らないし、胸に栄養が回らないけど。ただ背はちょっと伸びてるし、筋肉も少しはついてるから、食べたものが脂肪にならない体質なのか。
 そういえば胃も強いな。


「マカロニは店で売ってるからマカロニグラタンか、ポテトグラタンだな。今日はハンバーグもあるから、シンプルなグラタンで行くぞ」

「楽しみ!」

「好評ならラザニアとかも良いな。あれはグラタンのカテゴリじゃなくてパスタらしいけど」

「それも食べてみたい!」

「追々な追々。米を使ったドリアなんかもお勧めだぞ」

「うわー、お兄ちゃん凄いね! レシピいっぱい知ってて!」

「グラタンはベシャメルソースを作ればそれっぽくなるからな」

「べしゃめるそーす?」

「ちょっと可愛かったからもう一回言ってくれ。俺の可愛いエリナ」

「べしゃめるそーす!」

「よし、お兄ちゃんのモチベが上がったぞ。流石俺の嫁」

「わーい!」

「でな、ベシャメルソースっていうのは、溶かしたバターに小麦粉を混ぜたものを牛乳で延ばして作るソースで、小麦粉をバターで炒めながらブイヨンと牛乳を入れて延ばして作るホワイトソースとはちょっと違うんだぞ。今日はバター多めのホワイトソースって感じで簡単に作っちゃうけどな」

「ぶいよん!」

「モチベ上がりまくったから今日はベシャメルソースを使ったクリームコロッケも作るわ」

「わあ!」

「グラタンは手間はかかるけど安く出来るし、早く作ってやればよかったな。ま、耐熱皿っていうかグラタン皿を見るまで俺も忘れてたんだけど」

「値段が安い料理ばかりだね」

「それを言ってくれるな嫁よ。先生が早くに奥さんを亡くしたんでな、最年長の俺が低予算料理ばかり作ってたんだから」

「うん、毎日の家事は大変だったけど楽しかったって言ってたよね」

「まあな。あいつらのことは心配だけど、先生がいるから安心してる。俺はこっちでエリナと頑張るよ」

「任せてお兄ちゃん!」

「頼りにしてるぞ、最愛の俺の嫁!」

「お兄ちゃん! 私も旦那様を愛してる!」


『ペッ!』


「ほら、独身のブサイクなおっさんが俺達に嫉妬して、道端にツバ吐いてるからちょっとおとなしくしような!」

「はーい!」


 あれ? 今日って工事休みだっけ? 独身のブサイクなツバ吐きおっさんっていっぱいいるの?





「「「いただきまーす!」」」


 今日はモチベ爆上がりの俺が暴走したせいで豪華料理になってしまった。
 ハンバーグにクリームコロッケ、そしてマカロニグラタン。スープは軽いものにしたが、カロリーが心配過ぎる。最近揚げ物が続いてるし。


「おにーさん、ぐらたんおいしーよ。くりーむころっけもすきー」

「お前はほんとに食い物の時にしか絡んでこないのな。俺のクリームコロッケ一個やるぞ。時間がなくて一人二個しかないからな、足りないだろミリィには」

「わー、ありがとー。おにーさんだいすきー」

「はいはい。グラタンも色んな種類があるから楽しみにしておけ」

「うんー。たのしみー」


 ひょいっと俺の皿からクリームコロッケを取ると、ぽててーと小走りで自分の席に戻る。
 なんなんだあいつ。
 ひょっとして味の感想じゃなくておかずを貰いに来てるのかな、フォーク持参してたし。


「兄ちゃん兄ちゃん! ぐらたんヤバい! すげーうめー!」


 その前に一号、お前のテンションがヤバい。ピザの時以上の反応じゃねえか。


「アランの言葉遣いってお兄ちゃんに似ちゃったよね」

「アランはなんだかんだ兄さまにべったりですからね」

「わかったから落ち着いて食え一号。クリームコロッケも食ってみろ。最初に言った通り中が滅茶苦茶熱いから気をつけろよ」

「兄ちゃん! くりーむころっけもヤバい!」

「うるせー。黙って食え。クリームコロッケはミリィに取られて残り一個しかないから、グラタンを少し分けてやる」

「兄ちゃんありがとうな!」

「グラタン皿、出来が良かったぞ。というか普通の皿じゃなくていきなり耐熱皿を作る思考が良くわからん」

「美味そうだったからな!」

「食い意地って恐ろしいなー」

「次は何作るかなー」

「一号」

「なあに兄ちゃん」

「何かやりたいことがあればなんでも言えよ。兄ちゃん協力してやるから」

「へへっ! また変な事言い出すのな兄ちゃんは!」

「最悪武器屋の親父に弟子として預けるけどな。俺なら三日と持たないくらい過酷な修行先だけど」

「武器かー、それもいいなー」

「武器製造は流石にうちじゃ無理だから、本気でやりたいなら弟子入り先を探してやるから言え」

「その時は頼むな兄ちゃん」

「お前は男子チームのキャプテンなんだから、他のガキんちょの要望も聞いておけよ」

「わかった」


 話は終わったとばかりにグラタンにフォークを突っ込む一号。
 しばらくは食い意地優先で色々探すんだろうな、この様子じゃ。
 それでもやりたいことが見つかるならいいか。
 ま、学校教育が始まれば他にも色々なことに触れられるし、それから決めても遅くないからゆっくり色々やらせてみるさ。

 まだまだ平等じゃないけれど、俺とエリナやみんなで、お前たちに出来るだけ平等にチャンスが与えられるようにしてやるからな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

田舎土魔法使いの成り上がり ~俺は土属性しか使えない。孤独と無知から見出した可能性。工夫と知恵で最強に至る~

waru
ファンタジー
‐魔法-それは才能のある者にしか使えぬ古代からの御業。 田舎に生まれ幼い頃より土魔法を使える少年がいた。魔法が使える者は王の下で集められ強力な軍を作るという。16歳になり王立魔法学園で学ぶ機会を得た少年が知ったのは属性によりランクがあり自分の属性である土は使う者も少なく最弱との事。 攻撃の火・回復の水・速度の風・最強の光と闇・そして守りの土。 その中において守りや壁を作り出す事しか出来ない土は戦場において「直ぐに死ぬ壁役」となっていた。役割はただ一つ。「守りを固めて時間を稼ぐ事」であった。その為早死に繋がり、人材も育っていなかった。土魔法自体の研究も進んでおらず、大きな大戦の度に土魔法の強者や知識は使い尽くされてしまっていた。 田舎で土魔法でモンスターを狩っていた少年は学園で違和感を覚える。 この少年研究熱心だが、友達もおらず生き残る術だけを考えてきた 土魔法しか使えずに生きる少年は、工夫によって自身の安全を増やして周囲の信頼と恋慕を引き寄せていく。 期待を込めて入った学園。だがその世界での常識的な授業にもついていけず、学業の成績も非常に低い少年は人と違う事を高める事で己の価値を高めていく。 学業最低・問題児とレッテルを張られたこの少年の孤独が、世界と常識を変えて行く…… 苦難を越えた先には、次々と友達を得て己を高めていく。人が羨ましがる環境を築いていくが本人は孤独解消が何よりの楽しみになっていく。…少しだけ面倒になりながらも。 友人と共に神や世界の謎を解いていく先には、大きな力の獲得と豊かな人脈を持っていくようになる。そこで彼は何を選択するのか… 小説家になろう様で投稿させて頂いている作品ですが、修正を行ってアルファポリス様に投稿し直しております。ご了承下さい。

底辺召喚士の俺が召喚するのは何故かSSSランクばかりなんだが〜トンビが鷹を生みまくる物語〜

ああああ
ファンタジー
召喚士学校の卒業式を歴代最低点で迎えたウィルは、卒業記念召喚の際にSSSランクの魔王を召喚してしまう。 同級生との差を一気に広げたウィルは、様々なパーティーから誘われる事になった。 そこでウィルが悩みに悩んだ結果―― 自分の召喚したモンスターだけでパーティーを作ることにしました。 この物語は、底辺召喚士がSSSランクの従僕と冒険したりスローライフを送ったりするものです。 【一話1000文字ほどで読めるようにしています】 召喚する話には、タイトルに☆が入っています。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

異世界では人間以外が日本語でした

みーか
ファンタジー
 前世の記憶はあるけど、全く役に立たない少年シオンが日本語の話せる獣人達に助けられながら、頑張って生きていく物語。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

処理中です...