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第六章 ヘタレ領主の領地改革

第五話 乗馬訓練

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 午後は工事現場の視察だ。
 ついでに広大な工事現場で乗馬の練習をする。
 今日は俺とシルのペア、エリナとクリスのペアだ。


「お兄様! メイド服を着てきましたよ! どうですか?」

「うるせー。 そのスカート丈だと馬に乗れないだろ、早く着替えて来い!」

「大丈夫です! ミニスカート風キュロットですから!」

「うーん、それでも見えちゃうだろ? それにお前の肌を不特定多数の人間に見せたくない」

「! すぐに着替えて参りますね!」


 ダッシュで孤児院の自室に向かうシル。
 パンツ見えるぞと思ったけどキュロットだったからめくれてない。でも生足がなー。へそも谷間も見えてるし。
 というかいつの間に作ってたんだよ。嫁同士のコミュニティーが怖いわ。

 孤児院と託児所の周辺はほぼ更地状態になっている。
 周囲には宿泊を希望する作業員の為の簡易宿舎が建てられ、炊事場、男専用の水浴び場も設けられた。
 女性作業員は少ないので、託児所の風呂を提供している。炊事なども作業内容に含むので、清潔に保つためにシャンプーや石鹸も利用できるようになっている。
 託児所に子供を預けている場合は子供と寝起きする為の個室が与えられ、子供を預けていない場合は、託児所内の部屋を複数人ごとに割り当てられて寝泊まりしている。
 
 現在はアンナの母親を筆頭に、女性陣が洗濯や繕い、晩飯の支度などをしている。
 敷地全て合わせると四ヘクタール強。大体東京ドームの敷地面積より一回り小さいくらいか。
 広大過ぎるけど、運動場とか考えたら最初から大きい箱用意した方が効率が良いしな。


「あれ? クリス、あれって城壁か?」


 大きな建物の解体が大分済んだのか、敷地外の建物が良く見えるようになったが、向こうに見えるのはファルケンブルク城か?
 あんな位置だったっけ? 直線距離では近いとは思ってたけど、王城門までの道は大通りに出るまではやたらと入り組んでたしな……。
 ちょうどエリナをエスコートして二人で馬に乗ったばかりのクリスに聞いてみる。


「ええ、そうです旦那様。ちょうど裏手にあたりますね」

「繋げちゃうのは可能か? そうすれば俺も登城しやすくなるし、アイリーンや文官なんかも気軽に来られるだろ」

「そうですね……。跳ね橋をつけて、衛兵を常駐させれば、防衛的にもなんとかというところでしょうか。早速工事部の人間に設計させますね」

「頼む。緊急の連絡とかにも便利だしな。馬を使えるようになれば城と孤児院まで数分の移動時間になるだろうし」


 跳ね橋かー。そうだよな、城の防衛を考えたら常設の橋は架けられないよな。
 こちら側にも門とか衛兵とか置くべきかな?
 と考えてると、騎乗服に着替えたシルがダッシュで帰ってきた。もう子犬だな、足速いし。


「お兄様お待たせ致しました! さあ乗りましょう! すぐ乗りましょう!」


 ふんす! ふんす! と鼻息の荒いシルに軽く引きながら、「お、おう」と馬に乗り込む。


「ではわたくしも乗りますね!」


 俺が鐙を外すと、その鐙を使って俺の後ろに乗るシル。
 すっごい柔らかいのが背中に当たって落ち着かない。
 あと後ろのシルの鼻息がめっちゃ荒い。走ってきたからだよな?

 背は俺の方が高いので、シルからは体を横にずらさないと前方が見えない。
 それでもクリスよりはシルのほうが少し背が高いので、手綱さばきなどを教えるにはこの組み合わせの方が良いと言われたのでその通りになった。が、ちょっと後悔してきた。


「じゃあクリス、とりあえずは真っ直ぐ進むか。障害物があったら曲がる方向だけ指示してくれ。エリナ、ちゃんとクリスのいうことを聞けよ? 急に手綱を引っ張ったりしたら危ないからな?」

「うん! 大丈夫だよお兄ちゃん!」

「かしこまりましたわ旦那様」

「じゃあ行くぞシル」

「はい! お兄様!」


 シルの指示通りに馬を操っていく。流石に元騎士団所属で馬の操作は上手いんだろうが、いちいち体を左右にずらして前を確認するから、そのたびに背中に色々当たるんだよ畜生。ちょっと嬉しいのが悔しい。!

 クリスとエリナのペアの後ろをゆっくりと進んで行くと、普通に歩かせたり足を止めたり、方向転換をしたりという程度はできるようになってきた。
 後ろから絶えず聞こえる鼻息はもう気にしていない。集中集中。


「では旦那様、そろそろ現場の方に向かいましょうか? 何か突発的な事があっても、わたくしやシルヴィアが馬を抑えますので、決して慌てないでくださいませ」

「はい!」

「わかった」


 カッポカッポと瓦礫を撤去している現場に向かう。
 もちろん平坦で広い道を選んで進んでいるのだが、作業員が通りかかったりして、細かな操作が必要になってくる。


「工程的にはどうなんだ?」

「順調ですよお兄様! 予定より多くの作業員が集まりましたし!」

「不満なんかがあればちゃんと聞いてやってくれよ。んでそれを纏めて報告書にあげるように」

「はい! その辺りは姉上に丸投げしてますので!」

「……お前の担当の騎士団の方は?」

「そちらも順調です。瓦礫を運んだりする基礎訓練や、瓦礫を使った陣地構築訓練などもそうですが、このような障害物や壊しても良い建物の多い場所での訓練の機会は貴重ですから」

「市街戦の戦闘訓練か。たしかに扉をぶっ壊して突入とかなかなか出来ないしな。ってなんだ?」


『流石魔王様だ! 次はあの梁も頼むな!』
『ふはは! お主ら平民には難しかろうが、火魔法だけではなく、風魔法をも操るこの魔王ならこの程度は造作もないことぞ!』
『魔王様、あの梁のあとはこっちな、あれを切ったら建材が落ちてくるから注意しろよ』


 魔王がレンガなどが取り除かれ、柱や梁だけになった建物を風刃でガツガツ切っている場面に出くわした。
 五センチ角程度の角材を風刃で十回程度あてて切っているが、斧とかのこぎりの方が効率よくないか?
 ってああ、人の手が届かない場所を切ってるのか。
 なんか斧とかのこぎりを持ったおっさん連中に煽られて、楽しそうに作業をしている。


『魔王様、そっちが終わったらこの端材に火をつけて貰って良いか? 許可は取ってあるから』
『ふはは任せよ! 余の有り余る才能が恐ろしいな!』


「旦那様」


 クリスが馬を寄せて俺に話しかけてくる。


「魔王の事か?」

「はい、最近は作業員の間で魔王殿の扱い方に慣れてきたようでして、非常に活躍してるとの報告が上がっております」

「魔法を使える奴は、普通こんなところで雇われ作業なんかしないしな」

「昇給予定者リストにも名前が上がるほどですし、作業態度も真面目とのことです」

「冒険者ギルド経由者の昇給って初じゃないのか? 冒険者ギルド経由者の日給は銅貨五十枚の上乗せがあるから、その分は差し引いて一般応募者と同じ金額にしとけよ」

「昇給ランクは中ですので、銅貨百枚上乗せの所を、銅貨五百五十枚から六百枚になりますね」

「頑張ってる人にはちゃんと報いてやるようにな」

「はい」

「ぎゅー」


 クリスと話している最中にシルが密着してくる。


「何してんの駄妹」

「いえ、わたくしとあまり関係無い話題でしたので、つい」

「あー、シルお姉ちゃんずるいー!」

「エリナか俺が乗馬上手くなったら一緒に乗ればいいだろ」

「うん! 私すぐに上手くなるから、そうしたらお兄ちゃんに教えてあげるね!」

「頼むな。その時は前に乗って貰うが」

「お兄ちゃんそれじゃぎゅー出来ないじゃん!」

「じゃあ俺がエリナより早く上手くなって、後ろからぎゅーしてやるから」

「うん! 約束ねお兄ちゃん!」

「お兄様! わたくしにも乗馬を教えてください!」

「シルヴィア、姉を差し置いて旦那様に乗馬を教わるなど看過できません。旦那様、是非エリナ様の次はわたくしに乗馬を教えてください!」

「駄姉妹は急に何を言い出してるの? 今まさにお前たちに教わってるんじゃん」


『ペッ!』


「ほら、独身のブサイクなおっさん作業員が俺達に嫉妬して、作業現場にツバ吐いてるから真面目に練習しよう」

「「「はーい!」」」


 久々に見たなブサイクなおっさん。
 王都では見なかったからな。
 あと真面目に作業してるから昇給リストに名前があがってそうだし稼いでって欲しいわ。
 作業現場にツバを吐くのはいただけないけど、俺達のせいだしその辺は査定に響かないように言い含めておくか。

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