上 下
45 / 317
第四章 ヘタレ領主

第二話 縁切り

しおりを挟む
「かしこまりましたわ。お父様、いえ……エルグランデ・グライスナー」


 駄姉が親父を名で呼ぶ。
 完全に見限ったのだろう。
 交渉決裂だな。

 正直駄姉妹がここまで子供たちの為に意見してくれるとは思わなかった。
 そして正直ここまで領主が平民に対して差別意識を持っているとは思わなかった。


「クリスティアーネ? 今なんと申した?」

「トーマ様、領主エルグランデに対して何か仰りたいことはございますか?」

「待てクリスティアーネ! 父上はそこの平民に発言を許していないぞ!」

「兄上!」

「シルヴィアも控えよ!」

「私、いえ、俺が言いたいのは」

「私は発言を許してはいないぞ」

「お前の許可なんか要るかクソ領主! 臣下の顔色を窺って金貨数枚の予算すら通せない無能がここの領主とはな!」

「なんだと! この無礼者め! クリスティアーネ! シルヴィア! そこの平民を取り押さえよ!」

「お兄様! わたくしはあの二人を見限りました! ご指示を!」

「トーマ様! ご命令を! いえ、『やれ』と言って頂くだけで結構です!」

「すまんな、力を借りるぞクリス、シル。『やれ』!」

「「はい!」」 

「シルヴィアはセドリックを取り押さえなさい! <風縛>!」

「はい、姉上! <氷の棺フリーズコフィン>!」

 俺が即座に立ち上がりながら抜刀して指示を出すと駄姉、いやクリスが領主を風縛で拘束し、シルが長男セドリックの頭だけを残して氷の棺に閉じ込める。


「<極光の雷剣ライトニングソード>!」


 一期一振に仕込まれた魔法石の力を借り、サンダーブレードの上位魔法で刀身を延伸する雷魔法を行使して領主に向ける。


「クリス、風縛を解け」

「かしこまりました」


 拘束を解かれた領主は、俺が向けた日本刀の切っ先に怯え、ただ震えている。


「クリス、城内の掌握はどこまで進んでいるんだ?」

「今侍女に命じて騎士団に行動を起こすように伝えました。すぐに城内の制圧に動くはずですわ旦那様」


 旦那呼ばわりに突っ込む余裕がない。
 正直ビビりまくってるが、駄姉に作法を聞いている時に、「騎士団は既に取り込み済みです。群臣の一部にも協力の内諾を得ております」と聞かされてなかったらここまでの行動は起こせなかった。
 まさか本当にこんな事になるとはな。ヘタレな俺が革命か。


「シル! この謁見の間を封鎖しろ! 誰もここから出すなよ!」

「はいお兄様!」

「シルヴィア貴様、実の兄にこんなことをして、更に平民を兄呼ばわりとは!」

「黙れセドリック、わたくしは二度と貴様を兄とは思わん」

「ええい! お前たち何をしている! この不届き者どもを捕えよ!」


 セドリックが謁見の間にいる護衛や侍女たちに捕縛命令を出すが


「おっと動くなよ! 動けば領主の首が即座に飛ぶぞ!」


 俺が領主を人質に取り、護衛達の動きをけん制する。
 というかこいつら領主姉妹の連れてきた俺だから油断したのか、武装解除もしないどころか抜刀したうえで魔法を行使して領主を拘束しても、驚くだけで全く動けなかった無能だからな。
 多分脅さなくても何もできないだろう。


「そしてエルクランデとセドリック、今後俺の許可なく喋ることを一切禁止する」

「なっ!」

「シル、まだ状況がわかっていないようだぞ、お前の兄だった男は」

「はっ」


 シルヴィアが自身の愛刀、一期一振影打をセドリックの首にあてる。
 剃刀のような斬れ味を持つ刃をあてられ、セドリックの首から一筋の血が流れる。


「警告だ、次に喋ったら胴から首が離れるぞ」

「っ……」


 とりあえず膠着状態に持ち込んだ俺達は、まずは最初の難関を突破したと言っていいだろう。
 大きく深呼吸をすると、先程の発言で怒り心頭だった俺の頭が冷静になる。


「どうしてこうなった?」

「流石わたくしの夫ですね。とても素敵でしたわ!」


 クリスが真っ赤な顔で俺の腕に絡んでくる。
 こいつ鎧をつけていないのに胸部装甲の圧力が凄い。


「とにかくこうなった以上、もう引くに引けん。内部工作はどこまで済んでいるんだ? いつもの侍女を呼んで城内の状況を逐次知らせろ」

「かしこまりました旦那様」


 そういって顔を横に背けると、いつの間にかクリスの横にいつもの侍女が控えていて、小声でクリスに報告する。
 クリスが更に指示を与えると、その侍女は一瞬で姿を消す。
 忍者みたいなもんかと無理やり納得して深く追求することはしない。


「賛同者は予想以上に多いようです。一、二時間もすれば城内の反対勢力は全て降伏するでしょう」

「誰も殺してないよな?」

「もちろんですわ旦那様。旦那様の望まぬことを妻であるわたくしが行うわけがありません」

「なんで妻なの?」

「ファルケンブルク領を統治するために必要ですからね」

「お前が領主になればいいだろう、優秀だしな」

「あら? 革命を主導しておいて逃げるのですか? ヘタレですわね」

「主導って、『やれ』ってやつか?」

「その通りですわ。わたくしども姉妹は旦那様の命によって革命を起こしましたから」

「……正妻はエリナ、二番目はクレアというのは譲れない。あとはもうお前たちで話し合ってくれ」
 
「ふふふっ。旦那様のそういう所にもわたくし惚れたのですよ」

「チョロいなー俺って」

「姉上! 三番目はわたくしです!」

「姉を差し置いてそれは許されませんわシルヴィア」

「姉妹喧嘩は終わってからにしろ駄姉妹」

「かしこまりました旦那様」

「はい、お兄様」


 緊張感無いのなこの駄姉妹。
 一応お前らの父親と兄貴に脅しをかけてる最中なんだが。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

田舎土魔法使いの成り上がり ~俺は土属性しか使えない。孤独と無知から見出した可能性。工夫と知恵で最強に至る~

waru
ファンタジー
‐魔法-それは才能のある者にしか使えぬ古代からの御業。 田舎に生まれ幼い頃より土魔法を使える少年がいた。魔法が使える者は王の下で集められ強力な軍を作るという。16歳になり王立魔法学園で学ぶ機会を得た少年が知ったのは属性によりランクがあり自分の属性である土は使う者も少なく最弱との事。 攻撃の火・回復の水・速度の風・最強の光と闇・そして守りの土。 その中において守りや壁を作り出す事しか出来ない土は戦場において「直ぐに死ぬ壁役」となっていた。役割はただ一つ。「守りを固めて時間を稼ぐ事」であった。その為早死に繋がり、人材も育っていなかった。土魔法自体の研究も進んでおらず、大きな大戦の度に土魔法の強者や知識は使い尽くされてしまっていた。 田舎で土魔法でモンスターを狩っていた少年は学園で違和感を覚える。 この少年研究熱心だが、友達もおらず生き残る術だけを考えてきた 土魔法しか使えずに生きる少年は、工夫によって自身の安全を増やして周囲の信頼と恋慕を引き寄せていく。 期待を込めて入った学園。だがその世界での常識的な授業にもついていけず、学業の成績も非常に低い少年は人と違う事を高める事で己の価値を高めていく。 学業最低・問題児とレッテルを張られたこの少年の孤独が、世界と常識を変えて行く…… 苦難を越えた先には、次々と友達を得て己を高めていく。人が羨ましがる環境を築いていくが本人は孤独解消が何よりの楽しみになっていく。…少しだけ面倒になりながらも。 友人と共に神や世界の謎を解いていく先には、大きな力の獲得と豊かな人脈を持っていくようになる。そこで彼は何を選択するのか… 小説家になろう様で投稿させて頂いている作品ですが、修正を行ってアルファポリス様に投稿し直しております。ご了承下さい。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

異世界では人間以外が日本語でした

みーか
ファンタジー
 前世の記憶はあるけど、全く役に立たない少年シオンが日本語の話せる獣人達に助けられながら、頑張って生きていく物語。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく
ファンタジー
 「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。  さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。  失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。  彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。  そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。  彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。  そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。    やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。  これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。  火・木・土曜日20:10、定期更新中。  この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

処理中です...