328 / 336
328
しおりを挟む私がいつまでも眉を寄せていたせいだろうか、カークは影について教えてくれた。
影って組織が出来たのは結構古くて、まだフォルナトルの国自体が発展途上だったころ。
世の噂話を集めるのが趣味って人たちの集団が、噂話を元にゴシップ紙もどきを創り始めたのが始まりらしい。
最初は井戸端会議みたいな身近な話題だったけれど、まだ娯楽が少なかったから当然大流行。
あっという間に規模が大きくなって、どんどん過激な話を求められるようになった。
噂好きでも嘘は書きたくなかった彼らは、より刺激的な秘密を求め非合法な行動をするようになった。
ちょうどその頃のフォルナトルの王様はちょっとせっかちな人だったらしく、行動が人々の間で少し問題になっていた。
たとえば悪いことを考えただけで捜査され、災害は起こるより先に指示が出る。王様はこっちにいるのに、見てない場所の話を見て来たように語られる、とか。
王と直接契約した貴族の人たちは王が何でも見れることを知ってるけど、それ以外の人は知らないから、どうやって知っているのか分からない、はっきり言って気持ち悪い……って。
噂好きな人たちは、ここぞとばかりに王家を探り始めた。
当時の王様はあまり気にしなかったみたいだけど、周りの人たちは心配した。
王様に対する気味悪さが雑誌によって国民に広がって、国民同士が疑心暗鬼になって、王家に対する暴動が起こりそうだったから。
そんな時オンリンナの当主が、彼らの能力を利用する組織を作って、彼らが国内のことをくまなく調査しているって事にすればいいと助言したんだって。
王様は自分の力を隠すつもりもなかったけれど、あんまり見らるって普通の人は良い気分じゃないんだと注意されて、隠すことにしたらしい。
運よく王宮に突撃してきた集団を、国民に悪い影響を与えるから放置できないって理由に取り締まった。
その頃には情報を悪い方に使う人もいたから、一網打尽にした。
そして王家の監視を受ける代わりに、合法的に秘密を探ってもらうことにしたんだって。
多少反発もあったみたいだけど、オンリンナが介入するとその言葉と知識に良い人も悪い人も心酔し、影って名前で組織化されて落ち着いたそうだ。
それ以来ずっと、フォルナトル王家は影に仕事を適度に与えているんだって。
「正確には王が直接命じる。彼らは集団だが個人として王と直属の契約が結ばれる……そうすることで王が見れることを隠すんだ」
カークはとてつもなく渋い顔で話し終えると、そう虚ろな目をした。
「初めて影の話を聞いた時、私はそんなものいらないだろうと思ったよ。流石に起きていない犯罪を取り締まる必要はないし、災害だってそこまで急がなくてもいいんだから、騎士団で十分だってね。それに彼らの事が良く分からなかったんだ。魔力も十分あるし魔法も使えるのに、それよりも身体能力を高めるとか、五感を研ぎ澄ますとか、魔法を使わず存在を消すとか肉体改造だとか言って、壁を登ったり山や草原を走りまわったり火や水の中に飛び込んだり…………はっきり言って意味不明だった」
大きくため息。
「その上、彼らに仕事を依頼する時は様々な条件があるんだが、私にはそれが一番理解できない。当時のオンリンナが何を考えて彼らにそれを教えたのかも」
「……もしかしてその肉体改造ってオンリンナのせいなの?」
「そうらしい。オンリンナがイッシソウデンノシュギョウとして教えたらしい……内容までは詳しくは聞いていない。もちろん、見たくなかったから知らない」
うわ―っ。イッシソウデンって一子相伝? ちょっと意味違う気がするけど。オンリンナの助言って、きっと前世の知識だよね。
忍者とか、スパイとか……なんとなくいろいろ混じってるし中途半端な感じがするけど、多分そう。
それにどうやら影の皆さんはもともとそういった事――――諜報活動や隠密行動が好きな人たちだったんだろう。
どっちも所謂おたく……だよね。確実に意気投合しちゃったんだ。
発明家にギャンブラーに……ご先祖様たち、何してくれちゃってるんだ。
そしてどうやらカークは影の皆さんとは趣味が違うんだね。まぁ、一応王子様だし、魔法も使えるし……わざわざ噂話しなくていい御身分だけど。
想像したら乾いた笑いが出てしまった。
「キーラ?」
「……なんでもない。それで?」
「それで……あぁ、今までずっと彼らの事が苦手だったが、今回は彼らのおかげでいろいろな情報も集まったし、ジョシュアの微かな痕跡を見つけて何処に向かい何をしているかが分かった。本当に彼らはすごい……今も追ってもらっているが魔法より的確で恐ろしい」
カークの目はさらに力を失くしてる。私はそっちの方が怖いけど。
「何でそんなに苦手なの?」
「何でって……」
カークは目を見開いて、私を見た。
言いたくなさそうに顔が歪んだ。
「何でって……カッコいい仕事しかしないなんて言われても、私には彼らが何をカッコいいと思うのか分からないんだ……今回の事は嬉々として働いているのも理解できない。父は良く分かっているみたいだけどね……」
あー、多分それ、アレだ。アレだから。
「そう、なんだ。それはよく分からないね」
私は誤魔化すことにした。うん、聞かなかった事にしよう。
「それで、今ジョシュアと影の皆さんはどこにいるの?
「今は列車をもう一本走らせて、ジョシュアにはそちらを追わせてる。何でも陽動作戦、らしい。彼らはオンリンナを崇拝してるから、キーラのためならってずいぶん頑張ってるみたいだよ」
陽動作戦?
崇拝?
なんだろう、不穏な言葉があちこちにちりばめられている気がするけど……。
0
お気に入りに追加
301
あなたにおすすめの小説
どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)
水神瑠架
ファンタジー
――悪役令嬢だったようですが私は今、自由に楽しく生きています! ――
乙女ゲームに酷似した世界に転生? けど私、このゲームの本筋よりも寄り道のミニゲームにはまっていたんですけど? 基本的に攻略者達の顔もうろ覚えなんですけど?! けど転生してしまったら仕方無いですよね。攻略者を助けるなんて面倒い事するような性格でも無いし好きに生きてもいいですよね? 運が良いのか悪いのか好きな事出来そうな環境に産まれたようですしヒロイン役でも無いようですので。という事で私、顔もうろ覚えのキャラの救済よりも好きな事をして生きて行きます! ……極めろ【錬金術師】! 目指せ【錬金術マスター】!
★★
乙女ゲームの本筋の恋愛じゃない所にはまっていた女性の前世が蘇った公爵令嬢が自分がゲームの中での悪役令嬢だという事も知らず大好きな【錬金術】を極めるため邁進します。流石に途中で気づきますし、相手役も出てきますが、しばらく出てこないと思います。好きに生きた結果攻略者達の悲惨なフラグを折ったりするかも? 基本的に主人公は「攻略者の救済<自分が自由に生きる事」ですので薄情に見える事もあるかもしれません。そんな主人公が生きる世界をとくと御覧あれ!
★★
この話の中での【錬金術】は学問というよりも何かを「創作」する事の出来る手段の意味合いが大きいです。ですので本来の錬金術の学術的な論理は出てきません。この世界での独自の力が【錬金術】となります。
モブ令嬢はモブとして生きる~周回を極めた私がこっそり国を救います!~
片海 鏡
ファンタジー
――――主人公の為に世界は回っていない。私はやりたい様にエンディングを目指す
RPG顔負けのやり込み要素満載な恋愛ゲーム《アルカディアの戦姫》の世界へと転生をした男爵令嬢《ミューゼリア》
最初はヒロインの行動を先読みしてラストバトルに備えようと思ったが、私は私だと自覚して大好きな家族を守る為にも違う方法を探そうと決心する。そんなある日、屋敷の敷地にある小さな泉から精霊が現れる。
ヒーロー候補との恋愛はしない。学園生活は行事を除くの全イベントガン無視。聖なるアイテムの捜索はヒロインにおまかせ。ダンジョン攻略よりも、生態調査。ヒロインとは違う行動をしてこそ、掴める勝利がある!
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!
アキヨシ
ファンタジー
貴族学院の卒業パーティが開かれた王宮の大広間に、今、第二王子の大声が響いた。
「マリアージェ・レネ=リズボーン! 性悪なおまえとの婚約をこの場で破棄する!」
王子の傍らには小動物系の可愛らしい男爵令嬢が纏わりついていた。……なんてテンプレ。
背後に控える愚か者どもと合わせて『四馬鹿次男ズwithビッチ』が、意気揚々と筆頭公爵家令嬢たるわたしを断罪するという。
受け立ってやろうじゃない。すべては予定調和の茶番劇。断罪返しだ!
そしてこの舞台裏では、王位簒奪を企てた派閥の粛清の嵐が吹き荒れていた!
すべての真相を知ったと思ったら……えっ、お兄様、なんでそんなに近いかな!?
※設定はゆるいです。暖かい目でお読みください。
※主人公の心の声は罵詈雑言、口が悪いです。気分を害した方は申し訳ありませんがブラウザバックで。
※小説家になろう・カクヨム様にも投稿しています。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる