このやってられない世界で

みなせ

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 私がいつまでも眉を寄せていたせいだろうか、カークは影について教えてくれた。


 影って組織が出来たのは結構古くて、まだフォルナトルの国自体が発展途上だったころ。
 世の噂話を集めるのが趣味って人たちの集団が、噂話を元にゴシップ紙もどきを創り始めたのが始まりらしい。
 最初は井戸端会議みたいな身近な話題だったけれど、まだ娯楽が少なかったから当然大流行。
 あっという間に規模が大きくなって、どんどん過激な話を求められるようになった。
 噂好きでも嘘は書きたくなかった彼らは、より刺激的な秘密を求め非合法な行動をするようになった。

 ちょうどその頃のフォルナトルの王様はちょっとせっかちな人だったらしく、行動が人々の間で少し問題になっていた。
 たとえば悪いことを考えただけで捜査され、災害は起こるより先に指示が出る。王様はこっちにいるのに、見てない場所の話を見て来たように語られる、とか。
 王と直接契約した貴族の人たちは王が何でも見れることを知ってるけど、それ以外の人は知らないから、どうやって知っているのか分からない、はっきり言って気持ち悪い……って。

 噂好きな人たちは、ここぞとばかりに王家を探り始めた。
 当時の王様はあまり気にしなかったみたいだけど、周りの人たちは心配した。
 王様に対する気味悪さが雑誌によって国民に広がって、国民同士が疑心暗鬼になって、王家に対する暴動が起こりそうだったから。

 そんな時オンリンナの当主が、彼らの能力を利用する組織を作って、彼らが国内のことをくまなく調査しているって事にすればいいと助言したんだって。
 王様は自分の力を隠すつもりもなかったけれど、あんまり見らるって普通の人は良い気分じゃないんだと注意されて、隠すことにしたらしい。

 運よく王宮に突撃してきた集団を、国民に悪い影響を与えるから放置できないって理由に取り締まった。
 その頃には情報を悪い方に使う人もいたから、一網打尽にした。
 そして王家の監視を受ける代わりに、合法的に秘密を探ってもらうことにしたんだって。

 多少反発もあったみたいだけど、オンリンナが介入するとその言葉と知識に良い人も悪い人も心酔し、影って名前で組織化されて落ち着いたそうだ。
 それ以来ずっと、フォルナトル王家は影に仕事を適度に与えているんだって。

「正確には王が直接命じる。彼らは集団だが個人として王と直属の契約が結ばれる……そうすることで王が見れることを隠すんだ」

 カークはとてつもなく渋い顔で話し終えると、そう虚ろな目をした。

「初めて影の話を聞いた時、私はそんなものいらないだろうと思ったよ。流石に起きていない犯罪を取り締まる必要はないし、災害だってそこまで急がなくてもいいんだから、騎士団で十分だってね。それに彼らの事が良く分からなかったんだ。魔力も十分あるし魔法も使えるのに、それよりも身体能力を高めるとか、五感を研ぎ澄ますとか、魔法を使わず存在を消すとか肉体改造だとか言って、壁を登ったり山や草原を走りまわったり火や水の中に飛び込んだり…………はっきり言って意味不明だった」

 大きくため息。

「その上、彼らに仕事を依頼する時は様々な条件があるんだが、私にはそれが一番理解できない。当時のオンリンナが何を考えて彼らにそれを教えたのかも」
「……もしかしてその肉体改造ってオンリンナのせいなの?」
「そうらしい。オンリンナがイッシソウデンノシュギョウとして教えたらしい……内容までは詳しくは聞いていない。もちろん、見たくなかったから知らない」

 うわ―っ。イッシソウデンって一子相伝? ちょっと意味違う気がするけど。オンリンナの助言って、きっと前世の知識だよね。
 忍者とか、スパイとか……なんとなくいろいろ混じってるし中途半端な感じがするけど、多分そう。
 それにどうやら影の皆さんはもともとそういった事――――諜報活動や隠密行動が好きな人たちだったんだろう。

 どっちも所謂おたく……だよね。確実に意気投合しちゃったんだ。
 発明家にギャンブラーに……ご先祖様たち、何してくれちゃってるんだ。

 そしてどうやらカークは影の皆さんとは趣味が違うんだね。まぁ、一応王子様だし、魔法も使えるし……わざわざ噂話しなくていい御身分だけど。

 想像したら乾いた笑いが出てしまった。

「キーラ?」
「……なんでもない。それで?」
「それで……あぁ、今までずっと彼らの事が苦手だったが、今回は彼らのおかげでいろいろな情報も集まったし、ジョシュアの微かな痕跡を見つけて何処に向かい何をしているかが分かった。本当に彼らはすごい……今も追ってもらっているが魔法より的確で恐ろしい」

 カークの目はさらに力を失くしてる。私はそっちの方が怖いけど。

「何でそんなに苦手なの?」
「何でって……」

 カークは目を見開いて、私を見た。
 言いたくなさそうに顔が歪んだ。

「何でって……カッコいい仕事しかしないなんて言われても、私には彼らが何をカッコいいと思うのか分からないんだ……今回の事は嬉々として働いているのも理解できない。父は良く分かっているみたいだけどね……」

 あー、多分それ、アレだ。アレだから。

「そう、なんだ。それはよく分からないね」

 私は誤魔化すことにした。うん、聞かなかった事にしよう。

「それで、今ジョシュアと影の皆さんはどこにいるの?
「今は列車をもう一本走らせて、ジョシュアにはそちらを追わせてる。何でも陽動作戦、らしい。彼らはオンリンナを崇拝してるから、キーラのためならってずいぶん頑張ってるみたいだよ」

 陽動作戦?
 崇拝?

 なんだろう、不穏な言葉があちこちにちりばめられている気がするけど……。
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