このやってられない世界で

みなせ

文字の大きさ
上 下
323 / 336

323

しおりを挟む

「どうした?」

 私が足を止めたから、お父さんも同じように足を止めた。

「お父さん、知ってたの?」
「何がだい?」

 眉をひそめて視線をカークに向ければ、お父さんもそちらを見て、

「おや」

 なんて言った。
 カークはあんなに目立ってるのに見えてなかったなんて思えないから、誤魔化しているのかと思って観察を続けてると、見る間に表情が硬くなった。

「なんで、いるんだろうね?」

 首を傾げるお父さんから大変不機嫌な空気が漂ってきたから、どうやら誤魔化してはいなさそう。

「えっと、お父さんも、知らなかったの?」
「障壁を調整出来る、キーラもよく知ってる者を送るとは聞いていたけれど……彼が来るとは言っていなかったよ」
「それって、誰が言ったの?」
「フォルナトル王だよ」

 いや、お父さん、それ多分すごく遠回しだけど、来るって言ってる。障壁ってフォルナトルの王様しか出来ないすごい魔法でしょ? それをいじれるのってきっと王様に準じたひとってことだよね。それで、私の知っている人なんてどう考えてもそうだよね。

 ルキッシュの王様……お父さんで本当に大丈夫なのかな。地味に心配だ。

「姫様、凄いかっこいい人が立ってます」

 諦めのため息をついていると、背後から興奮気味の声が聞こえた。
 振り向けば、エマさんが最上級にキラキラした目でカークを見てて、そのエマさんを凄い顔でカルロが凝視してた。
 もう苦笑いしか出来ないよ。

「まぁ、仕方が無い。行くよ、キーラ」

 確かにいつまでもここで立ち止まっていてもしょうがない。
 いやいやだけど、お父さんに従ってとりあえず進む。
 目が合ったら人目もはばからず飛びついてくるんじゃないかって思ってたけど、そんな心配は無用だった。
 カークはお行儀よく電車の前に立ったまま私たちを迎えた。その姿はちゃんと王子様していた。

「ルキッシュ王ですね。はじめまして、フォルナトル王より調整者として派遣された、カーク・フォルナトルです」

 余所行きのとびきりの笑顔で、カークはそう手を差し出す。

「ルキッシュの民が、フォルナトルにずいぶん迷惑をかけた。フォルナトル王の寛大な配慮に感謝を」

 お父さんもそれに応えて、握手を交わす。
 ここまでは普通だ。

「いえ、こちらこそ我が国の国民を保護していただいたこと、心から感謝しています」
「保護? あぁ、娘がずいぶん世話になったようだね。それも感謝するよ」

 ぎりぎりと音が聞こえそうな握手したまま、二人は笑顔の応酬中。
 周りの人たちまでその異様な雰囲気に気が付いて、動きを止めてこちらを見始めてる。
 ちょっと、やめてよ恥ずかしい。
 一応トップ会談って奴でしょ。体裁は整えてよ。

「姫様、もしかしなくても、こちらの方が姫様の婚約者ですか?」

 お父さんたちに呆れていると、横からエマさんが聞いてきた。
 うんとも、そうじゃないとも言いたくなくて、やっぱり苦笑いだ。

「お父さん」

 いたたまれなくなって袖を強く引っ張ると、お父さんは恨みがましく私を見てからゆっくりと手を離した。

「……出発は何時だろう?」
「準備が出来たらすぐにでも」

 お父さんの問いに、カークが答える。

「すぐ、か……」

 お父さんは深くため息をついた。そして、私の頭を撫でる。

「キーラ」
「うん」
「体にも、食べ物にも気をつけるんだよ」
「うん」
「一人での行動も止めなさい。危ないと思ったら逃げて、それから……それから……」

 お父さんは言葉に詰まって顔をしかめた。そして、私を抱きしめた。

「……お父さん」
「キーラ。一緒に行けなくてごめん。でも、いつでもルキッシュに戻って来ていいからね。それだけは忘れないで」

 涙腺ゆるんでるからこういうのやめてほしい。
 でも嬉しいんだ。

「うん、分かってる」

 だから、私もお父さんを抱きしめ返す。

「お父さん。エマさんにアーサーから貰ったブレスレット預けてあるの。お父さんなら使えるよね?」
「あぁ、使える。でもいいのかい?」
「うん。時々連絡する。その時はエマさんも呼んでね」
「分かったよ……カーク君、キーラをよろしく頼む。これからは絶対傷つけないでくれ」

 ぎゅうぎゅうと私を抱きしめながら、お父さんがそんなことを言う。
 でも、ここでカーク“君”って。

「分かってます。絶対に守って見せます」

 抱きしめられてて見れないけど、きっとカークはドヤ顔してる筈だ。

「泣かせてもいけないよ」
「はい」

 返事は良い。意気込みもあるんだろうけど。



 なんとなく、守られる気がしないのは、何故だろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~

りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。 ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。 我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。 ――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」 乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。 「はい、では平民になります」 虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。

うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?

プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。 小説家になろうでも公開している短編集です。

悪役令嬢になりましたので、自分好みのイケメン近衛騎士団を作ることにしました

葉月キツネ
ファンタジー
 目が覚めると昔やり込んだ乙女ゲーム「白銀の騎士物語」の悪役令嬢フランソワになっていた!  本来ならメインヒロインの引き立て役になるはずの私…だけどせっかくこんな乙女ゲームのキャラになれたのなら思うがままにしないと勿体ないわ!  推しを含めたイケメン近衛騎士で私を囲ってもらって第二の人生楽しみます

【完結】乙女ゲームに転生した転性者(♂→♀)は純潔を守るためバッドエンドを目指す

狸田 真 (たぬきだ まこと)
ファンタジー
 男♂だったのに、転生したら転性して性別が女♀になってしまった! しかも、乙女ゲームのヒロインだと!? 男の記憶があるのに、男と恋愛なんて出来るか!! という事で、愛(夜の営み)のない仮面夫婦バッドエンドを目指します!  主人公じゃなくて、勘違いが成長する!? 新感覚勘違いコメディファンタジー! ※現在アルファポリス限定公開作品 ※2020/9/15 完結 ※シリーズ続編有り!

悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

斯波
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。 ※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。 ※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。

乙女ゲームの世界に転生したと思ったらモブですらないちみっこですが、何故か攻略対象や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛されています

真理亜
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら...モブですらないちみっこでした。 なのに何故か攻略対象者達や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛されています。 更に更に変態銀髪美女メイドや変態数学女教師まで現れてもう大変!  変態が大変だ! いや大変な変態だ! お前ら全員ロ○か!? ロ○なんか!? ロ○やろぉ~! しかも精霊の愛し子なんて言われちゃって精霊が沢山飛んでる~! 身長130cmにも満たないちみっこヒロイン? が巻き込まれる騒動をお楽しみ下さい。 操作ミスで間違って消してしまった為、再掲しております。ブックマークをして下さっていた方々、大変申し訳ございません。

処理中です...