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しおりを挟む「どうした?」
私が足を止めたから、お父さんも同じように足を止めた。
「お父さん、知ってたの?」
「何がだい?」
眉をひそめて視線をカークに向ければ、お父さんもそちらを見て、
「おや」
なんて言った。
カークはあんなに目立ってるのに見えてなかったなんて思えないから、誤魔化しているのかと思って観察を続けてると、見る間に表情が硬くなった。
「なんで、いるんだろうね?」
首を傾げるお父さんから大変不機嫌な空気が漂ってきたから、どうやら誤魔化してはいなさそう。
「えっと、お父さんも、知らなかったの?」
「障壁を調整出来る、キーラもよく知ってる者を送るとは聞いていたけれど……彼が来るとは言っていなかったよ」
「それって、誰が言ったの?」
「フォルナトル王だよ」
いや、お父さん、それ多分すごく遠回しだけど、来るって言ってる。障壁ってフォルナトルの王様しか出来ないすごい魔法でしょ? それをいじれるのってきっと王様に準じたひとってことだよね。それで、私の知っている人なんてどう考えてもそうだよね。
ルキッシュの王様……お父さんで本当に大丈夫なのかな。地味に心配だ。
「姫様、凄いかっこいい人が立ってます」
諦めのため息をついていると、背後から興奮気味の声が聞こえた。
振り向けば、エマさんが最上級にキラキラした目でカークを見てて、そのエマさんを凄い顔でカルロが凝視してた。
もう苦笑いしか出来ないよ。
「まぁ、仕方が無い。行くよ、キーラ」
確かにいつまでもここで立ち止まっていてもしょうがない。
いやいやだけど、お父さんに従ってとりあえず進む。
目が合ったら人目もはばからず飛びついてくるんじゃないかって思ってたけど、そんな心配は無用だった。
カークはお行儀よく電車の前に立ったまま私たちを迎えた。その姿はちゃんと王子様していた。
「ルキッシュ王ですね。はじめまして、フォルナトル王より調整者として派遣された、カーク・フォルナトルです」
余所行きのとびきりの笑顔で、カークはそう手を差し出す。
「ルキッシュの民が、フォルナトルにずいぶん迷惑をかけた。フォルナトル王の寛大な配慮に感謝を」
お父さんもそれに応えて、握手を交わす。
ここまでは普通だ。
「いえ、こちらこそ我が国の国民を保護していただいたこと、心から感謝しています」
「保護? あぁ、娘がずいぶん世話になったようだね。それも感謝するよ」
ぎりぎりと音が聞こえそうな握手したまま、二人は笑顔の応酬中。
周りの人たちまでその異様な雰囲気に気が付いて、動きを止めてこちらを見始めてる。
ちょっと、やめてよ恥ずかしい。
一応トップ会談って奴でしょ。体裁は整えてよ。
「姫様、もしかしなくても、こちらの方が姫様の婚約者ですか?」
お父さんたちに呆れていると、横からエマさんが聞いてきた。
うんとも、そうじゃないとも言いたくなくて、やっぱり苦笑いだ。
「お父さん」
いたたまれなくなって袖を強く引っ張ると、お父さんは恨みがましく私を見てからゆっくりと手を離した。
「……出発は何時だろう?」
「準備が出来たらすぐにでも」
お父さんの問いに、カークが答える。
「すぐ、か……」
お父さんは深くため息をついた。そして、私の頭を撫でる。
「キーラ」
「うん」
「体にも、食べ物にも気をつけるんだよ」
「うん」
「一人での行動も止めなさい。危ないと思ったら逃げて、それから……それから……」
お父さんは言葉に詰まって顔をしかめた。そして、私を抱きしめた。
「……お父さん」
「キーラ。一緒に行けなくてごめん。でも、いつでもルキッシュに戻って来ていいからね。それだけは忘れないで」
涙腺ゆるんでるからこういうのやめてほしい。
でも嬉しいんだ。
「うん、分かってる」
だから、私もお父さんを抱きしめ返す。
「お父さん。エマさんにアーサーから貰ったブレスレット預けてあるの。お父さんなら使えるよね?」
「あぁ、使える。でもいいのかい?」
「うん。時々連絡する。その時はエマさんも呼んでね」
「分かったよ……カーク君、キーラをよろしく頼む。これからは絶対傷つけないでくれ」
ぎゅうぎゅうと私を抱きしめながら、お父さんがそんなことを言う。
でも、ここでカーク“君”って。
「分かってます。絶対に守って見せます」
抱きしめられてて見れないけど、きっとカークはドヤ顔してる筈だ。
「泣かせてもいけないよ」
「はい」
返事は良い。意気込みもあるんだろうけど。
なんとなく、守られる気がしないのは、何故だろう。
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