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私がキーラじゃないとして、どうやって私がキーラじゃないって証明すればいいんだろう。
お父さんも、カークも、陛下も、私が“キーラ”だって言う。
けど見えるとか見えないとか、私には分からない基準で決めつけられるから、私がキーラじゃないって言ってもキーラなんだって押し切られそう。
あの人たちが反論できないくらい確実な証拠がなきゃいけない。
一番は、本物のキーラを見つけることだけど……本物のキーラが今どんな状態にあるのか全く分からない。
幽霊みたいになっているなら私は見えないし、お父さんみたいに何かにくっついていたとしても、そうじゃなくても、私にはそういう類のものは全く見えない。
大体、私がキーラを追いだしたと思われる時、カークもお父さんも見ていたのに、キーラが出て行ったことに気が付いてなかったとしたら、カークたちも見えないんだろう。
見えるのは肉体や何かにくっついているとき限定とか?
そう言えば、陛下はお父さんがピーちゃんにくっついているのは知ってた。
でもカークは気が付かなかった。その違いって何だろう。
あの時点でお父さんがフォルナトル王だって知っていて、面識があったのは、陛下とアーサー。でもアーサーは知らないことになっていて……だから。
「……お父さんを知ってるか、知らないかが基準?」
と、すれば、キーラのことは皆が知っている。でも、分からなかった。何でだろう?
――――追い出したんじゃなく、私の中にキーラがいるから?
「違う……そうじゃない」
記憶はあるけど、キーラはいない。
それはなんとなく、嫌だけど、なんとなく感じる。
じゃあ、何処にいるのか。
キーラが行きそうな場所って、何処だろう。
「キーラが行きたがってた場所は公園くらいだった。なら、学園かオンリンナの邸。後は……食堂?」
女将さんには悪いけど、食堂はなさそう……。やっぱり学園か邸。
それならフォルナトルに帰ればすぐに行けそうだ。
でも、行ったからといって、キーラが見えなきゃ駄目だよね。
陛下にも、カークにも見えない。私はもっとだ。ならどうすればいい?
そうだ、キーラがいそうな場所で、私はキーラを追いだしたと思われる時みたいにもう一度デリックに殴ってもらう、とかどうだろう。
――――デリック、絶対やってくれなさそうだけど。ダリルか、ケビン、も駄目だよね。
「本物のキーラの側に行ったら、私とキーラが勝手に入れ替わればいいのに」
そしたら、そしたらきっと
……そんな上手く行くわけないか。
思い切り息を吐いて、ベッドから這い出す。
カーテンを上げて外を見れば、朝焼けが始まっていた。
ピンクやオレンジの光が、黒と青の世界をゆっくりと切り裂いて染め上げて行く。
「綺麗……」
こっちに来てから、日の出を見るのは初めてだ。
こんなに綺麗なら、もっと早起きしておけばよかった。
そんなことを考えながら外を見続けて、日が昇りきったところで小さなノック。返事をする前にエマさんが現れた。
「姫様、起きていらしたんですか? どうしたんです、その顔!!」
窓際で振り返った私を見て、エマさんが悲鳴を上げた。
顔がカピカピなのは自分でも分かるけど、悲鳴をあげられるくらいだったとは。
「……すぐ侍医を呼びますね」
え、そんなに?
「ラーシュ様もお呼びします」
「あ、お父さんはいいよ! お父さんには言わないで」
「姫様」
エマさんが顔をしかめた。
「ちょっとホームシックになっただけだよ。だから」
「……分かりました。でもお医者さんは呼びますよ」
「うん」
パタパタとエマさんが駆け回る。
服を着替えさせられて、温かいタオルを持たせられた。
しばらくしていつかのお医者さんが来て、呆れたような顔で、瞼の腫れとかいろいろ治癒魔法をかけてくれた。
治癒魔法って、瞼の腫れにも効くんだって、笑うと、
「普通かけません、次はないです」
って言われてしまった。
エマさんは怒ってたけど、私もそんなに泣きたいわけじゃないから、一応謝っておいた。
「姫様、一人で泣かないでください。泣きたい時は呼んでください」
「泣きたかったわけじゃないよ。たまたま泣いちゃっただけ」
強い口調のエマさんに、ぶっきらぼうにそう返す。
「でも……」
「……お父さんも考えろって言ったから、ゆっくり考えたかったし、でも泣いちゃった」
「姫様……」
いつも明るいエマさんは、ずっと心配顔だ。
エマさんも敵だって思ってると、それがちょっと嫌だって思う。
それが態度に出てるのかもしれない、エマさんがふうって息を吐いて。
「姫様、お悩みなのは分かります。本当はフォルナトルに今は帰りたくないのでしょう? でもだから、フォルナトル、行きましょう」
「え、エマさん?」
「行って、帰ってくればいいんです」
「え、でも」
「その代わり、エマも付いて行きますから」
ぐん、って、エマさんが私に近付いて、タオルを持ってた手を握る。
「私、これでも結構強いんです。フォルナトルになら何度か行ってますから、移動は出来ます。姫様がここに帰りたいと思ったら、すぐにルキッシュにお連れします。だから、行きましょう、フォルナトルへ」
エマさんの真剣な目が、私を見つめる。
そんな目で見なくても、答えは決まってる。
エマさんが付いてこなくても、
「うん。私、フォルナトルに行くよ」
行かなきゃならないんだ。
無駄に長い……あと2話くらいでようやくフォルナトルに帰る……かもしれない。
お父さんも、カークも、陛下も、私が“キーラ”だって言う。
けど見えるとか見えないとか、私には分からない基準で決めつけられるから、私がキーラじゃないって言ってもキーラなんだって押し切られそう。
あの人たちが反論できないくらい確実な証拠がなきゃいけない。
一番は、本物のキーラを見つけることだけど……本物のキーラが今どんな状態にあるのか全く分からない。
幽霊みたいになっているなら私は見えないし、お父さんみたいに何かにくっついていたとしても、そうじゃなくても、私にはそういう類のものは全く見えない。
大体、私がキーラを追いだしたと思われる時、カークもお父さんも見ていたのに、キーラが出て行ったことに気が付いてなかったとしたら、カークたちも見えないんだろう。
見えるのは肉体や何かにくっついているとき限定とか?
そう言えば、陛下はお父さんがピーちゃんにくっついているのは知ってた。
でもカークは気が付かなかった。その違いって何だろう。
あの時点でお父さんがフォルナトル王だって知っていて、面識があったのは、陛下とアーサー。でもアーサーは知らないことになっていて……だから。
「……お父さんを知ってるか、知らないかが基準?」
と、すれば、キーラのことは皆が知っている。でも、分からなかった。何でだろう?
――――追い出したんじゃなく、私の中にキーラがいるから?
「違う……そうじゃない」
記憶はあるけど、キーラはいない。
それはなんとなく、嫌だけど、なんとなく感じる。
じゃあ、何処にいるのか。
キーラが行きそうな場所って、何処だろう。
「キーラが行きたがってた場所は公園くらいだった。なら、学園かオンリンナの邸。後は……食堂?」
女将さんには悪いけど、食堂はなさそう……。やっぱり学園か邸。
それならフォルナトルに帰ればすぐに行けそうだ。
でも、行ったからといって、キーラが見えなきゃ駄目だよね。
陛下にも、カークにも見えない。私はもっとだ。ならどうすればいい?
そうだ、キーラがいそうな場所で、私はキーラを追いだしたと思われる時みたいにもう一度デリックに殴ってもらう、とかどうだろう。
――――デリック、絶対やってくれなさそうだけど。ダリルか、ケビン、も駄目だよね。
「本物のキーラの側に行ったら、私とキーラが勝手に入れ替わればいいのに」
そしたら、そしたらきっと
……そんな上手く行くわけないか。
思い切り息を吐いて、ベッドから這い出す。
カーテンを上げて外を見れば、朝焼けが始まっていた。
ピンクやオレンジの光が、黒と青の世界をゆっくりと切り裂いて染め上げて行く。
「綺麗……」
こっちに来てから、日の出を見るのは初めてだ。
こんなに綺麗なら、もっと早起きしておけばよかった。
そんなことを考えながら外を見続けて、日が昇りきったところで小さなノック。返事をする前にエマさんが現れた。
「姫様、起きていらしたんですか? どうしたんです、その顔!!」
窓際で振り返った私を見て、エマさんが悲鳴を上げた。
顔がカピカピなのは自分でも分かるけど、悲鳴をあげられるくらいだったとは。
「……すぐ侍医を呼びますね」
え、そんなに?
「ラーシュ様もお呼びします」
「あ、お父さんはいいよ! お父さんには言わないで」
「姫様」
エマさんが顔をしかめた。
「ちょっとホームシックになっただけだよ。だから」
「……分かりました。でもお医者さんは呼びますよ」
「うん」
パタパタとエマさんが駆け回る。
服を着替えさせられて、温かいタオルを持たせられた。
しばらくしていつかのお医者さんが来て、呆れたような顔で、瞼の腫れとかいろいろ治癒魔法をかけてくれた。
治癒魔法って、瞼の腫れにも効くんだって、笑うと、
「普通かけません、次はないです」
って言われてしまった。
エマさんは怒ってたけど、私もそんなに泣きたいわけじゃないから、一応謝っておいた。
「姫様、一人で泣かないでください。泣きたい時は呼んでください」
「泣きたかったわけじゃないよ。たまたま泣いちゃっただけ」
強い口調のエマさんに、ぶっきらぼうにそう返す。
「でも……」
「……お父さんも考えろって言ったから、ゆっくり考えたかったし、でも泣いちゃった」
「姫様……」
いつも明るいエマさんは、ずっと心配顔だ。
エマさんも敵だって思ってると、それがちょっと嫌だって思う。
それが態度に出てるのかもしれない、エマさんがふうって息を吐いて。
「姫様、お悩みなのは分かります。本当はフォルナトルに今は帰りたくないのでしょう? でもだから、フォルナトル、行きましょう」
「え、エマさん?」
「行って、帰ってくればいいんです」
「え、でも」
「その代わり、エマも付いて行きますから」
ぐん、って、エマさんが私に近付いて、タオルを持ってた手を握る。
「私、これでも結構強いんです。フォルナトルになら何度か行ってますから、移動は出来ます。姫様がここに帰りたいと思ったら、すぐにルキッシュにお連れします。だから、行きましょう、フォルナトルへ」
エマさんの真剣な目が、私を見つめる。
そんな目で見なくても、答えは決まってる。
エマさんが付いてこなくても、
「うん。私、フォルナトルに行くよ」
行かなきゃならないんだ。
無駄に長い……あと2話くらいでようやくフォルナトルに帰る……かもしれない。
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