314 / 336
314
しおりを挟むチカチカ、チカチカ。
何をするのも嫌で、テーブルの上のブレスレットが光るのただ眺める。
思い出したくないとか、考えたくないとか、どうしよう、どうしようってうじうじ考えている間に、昨日連絡した時間よりずいぶん遅くなってまった。
だけど、体中が嫌だ嫌だっていっていて、どうしてもブレスレットに触れない。
何か気分が上がって、勢いが付くようなことがあればいいけど……今日は無理そうだ。
「もう、やだ。面倒くさい」
とは言っても、そろそろ引き延ばしも限界だろう。
赤い石だけじゃなく、緑の石までちかちか点滅し始めた。
「しょうがないなぁ」
諦めと気合を込めて、大きく息を吐いて赤い石に触る。
すっと抜けていく魔力と共に、向こうの音が聞こえてくる。
こないだと同じような人のざわめきが遠ざかって、やがて静かになった。
そして聞こえるカークの声。
【……キーラ?】
「うん……遅くなってごめん。今、大丈夫?」
一応謝ったけど、答えが無い。と思ったら、
【キーラ? ……キーラだよね? 声が聞こえない】
だって。ブレスレットを見れば赤い石だけが光ってる。
「ごめん。青い石に触ってなかったみたい。聞こえる?」
【あぁ、聞こえる。よかった、今度は声も聞かせてくれなくなったのかと思った】
「……そんなことしないよ」
そんなことするくらいなら、最初から連絡しない
「今、見せたくないのは外見だから……声はただ単に忘れただけ」
【そっか。よかった……いや、良くないのか? あれ】
「それで、昨日の話だけど、何か分かった?」
【それが……よく分からなかった】
「よく分からないって、ラスボスが誰かってだけだよ?」
【そうなんだが、どの予言も闇の存在としかないんだ。リーナと私たちが協力して闇を払う、としか】
そう言えば、お母様のノートにも闇の存在ってしか書いてなかった。
私のゲームの記憶でもそうだ。
リーナが聖なる力を覚醒して、闇を払う。
この世界には、聖女も、聖なる力も、闇もないって言うのに。
闇の存在……闇を払う……闇ってなんだろう?
あの黒い煙は、デリックに、ミランダに、そしてアーサーにとりついて、ピーちゃんはちょっと違うけど……操った。
キーラはデリックに殴られそうになって、悪役になる。
デリックの腕にまとわりついていた黒い煙が、キーラにとりついてキーラが悪役になるなら、やっぱりあの煙が闇ってことなんだろうか?
「カーク、もしかして、ラスボスっていないのかも」
【キーラ? どういうことだい?】
「なんとなくキーラが悪役になるから、同じように誰かがラスボスになるんだって思ってたけど、あの黒い煙そのものが闇の存在ってことなら、ラスボスに誰の名前もなくて、リーナが聖なる力で払える、ってなるんじゃないかなって……」
あ、でも、あの黒い煙が見えるのがゲームの登場人物だけだったら、お父さんはどうしてあの煙が見えたんだろう。
【誰もラスボスにならない、か……闇の存在そのものがラスボスってことだな】
「うん」
【そうか……なら、その煙についてもっと調べればいいってことだな】
「そう言う事になるのかな? でもどうやって調べるの?」
【とりあえずミランダ嬢の持ちこんだ石を調べてみるよ】
「あ、魔法陣がでたやつ?」
【あぁ、それから……ピーちゃんか】
「え」
【ピーちゃん、あの煙を食べたんだろう?】
「そ、そうだけど」
ラスボスの話からそんなことになるとは思わなかった。
【ピーちゃんをこちらに連れて来て欲しい】
「……えっと、それはちょっと……」
【キーラだってそろそろ帰るつもりだったろう? 約束したよね。すぐ帰るって】
「そうだけど……今はまだ…・・」
帰りたくない、と続けようとしたけど、言葉に詰まる。
なんで急に約束したなんて言うんだろう。
確かに約束したけど、あの時はまだ。
【なんで?】
「今はまだ戦争してるんでしょ。怖いよ」
【……そっか、この間もそう言っていたね……でも、我慢できない】
今度は何が?
【声は聞こえるけど、顔を見せてくれないし。もっと近くで声が聞きたい。触りたい。キスしたい。もう我慢できない。それに……】
まだあるの?
【キーラが悩んでるのに、側にいられないのが辛い】
「悩んで、ないよ」
【嘘だ。だって声がいつもと違う】
「そんなの分かるわけないよ」
【分かるよ。私はいつだってキーラの事を考えてる。だから、分かるよ】
カークの声が少しずつ小さくなる。
通信が切れそうなのか、本人が小さくしてるのか。
「……少し、考えさせて」
どう言っていいか分からなくて、とりあえずそう返すとカークはすこしほっとしたように息をついた。そして言った。
【わかった。キーラ、もし帰ってこれないなら、迎えに行くよ】
って。
――――キーラ、帰れなくなったら、迎えに行く。
頭の中で、フォルナトルを出発する時のカークの言葉が重なって、顔をしかめる。
そうだ、あの時はすぐ帰るつもりだったのに。
なんだか無性に泣きたくなった。
0
お気に入りに追加
301
あなたにおすすめの小説
どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)
水神瑠架
ファンタジー
――悪役令嬢だったようですが私は今、自由に楽しく生きています! ――
乙女ゲームに酷似した世界に転生? けど私、このゲームの本筋よりも寄り道のミニゲームにはまっていたんですけど? 基本的に攻略者達の顔もうろ覚えなんですけど?! けど転生してしまったら仕方無いですよね。攻略者を助けるなんて面倒い事するような性格でも無いし好きに生きてもいいですよね? 運が良いのか悪いのか好きな事出来そうな環境に産まれたようですしヒロイン役でも無いようですので。という事で私、顔もうろ覚えのキャラの救済よりも好きな事をして生きて行きます! ……極めろ【錬金術師】! 目指せ【錬金術マスター】!
★★
乙女ゲームの本筋の恋愛じゃない所にはまっていた女性の前世が蘇った公爵令嬢が自分がゲームの中での悪役令嬢だという事も知らず大好きな【錬金術】を極めるため邁進します。流石に途中で気づきますし、相手役も出てきますが、しばらく出てこないと思います。好きに生きた結果攻略者達の悲惨なフラグを折ったりするかも? 基本的に主人公は「攻略者の救済<自分が自由に生きる事」ですので薄情に見える事もあるかもしれません。そんな主人公が生きる世界をとくと御覧あれ!
★★
この話の中での【錬金術】は学問というよりも何かを「創作」する事の出来る手段の意味合いが大きいです。ですので本来の錬金術の学術的な論理は出てきません。この世界での独自の力が【錬金術】となります。
モブ令嬢はモブとして生きる~周回を極めた私がこっそり国を救います!~
片海 鏡
ファンタジー
――――主人公の為に世界は回っていない。私はやりたい様にエンディングを目指す
RPG顔負けのやり込み要素満載な恋愛ゲーム《アルカディアの戦姫》の世界へと転生をした男爵令嬢《ミューゼリア》
最初はヒロインの行動を先読みしてラストバトルに備えようと思ったが、私は私だと自覚して大好きな家族を守る為にも違う方法を探そうと決心する。そんなある日、屋敷の敷地にある小さな泉から精霊が現れる。
ヒーロー候補との恋愛はしない。学園生活は行事を除くの全イベントガン無視。聖なるアイテムの捜索はヒロインにおまかせ。ダンジョン攻略よりも、生態調査。ヒロインとは違う行動をしてこそ、掴める勝利がある!
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!
アキヨシ
ファンタジー
貴族学院の卒業パーティが開かれた王宮の大広間に、今、第二王子の大声が響いた。
「マリアージェ・レネ=リズボーン! 性悪なおまえとの婚約をこの場で破棄する!」
王子の傍らには小動物系の可愛らしい男爵令嬢が纏わりついていた。……なんてテンプレ。
背後に控える愚か者どもと合わせて『四馬鹿次男ズwithビッチ』が、意気揚々と筆頭公爵家令嬢たるわたしを断罪するという。
受け立ってやろうじゃない。すべては予定調和の茶番劇。断罪返しだ!
そしてこの舞台裏では、王位簒奪を企てた派閥の粛清の嵐が吹き荒れていた!
すべての真相を知ったと思ったら……えっ、お兄様、なんでそんなに近いかな!?
※設定はゆるいです。暖かい目でお読みください。
※主人公の心の声は罵詈雑言、口が悪いです。気分を害した方は申し訳ありませんがブラウザバックで。
※小説家になろう・カクヨム様にも投稿しています。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる